時刻は夕暮れ近く。

カラスはナナカマドの実を食べるんだなあと初めて知った。

私が社会人になった時には既にこの看板はあった。
目の前を流れる川は、豊平川だ。夏場はもっと川幅も広く、流れの勢いも良い。都心方向へ流れて行く。
川の浅瀬に雪が積もっていて、美しい。
橋を渡ってそのまま真っ直ぐ進むと右手にすぐ藻岩下公園がある。通称パンダ公園。単純にパンダの大型の置物があるからだ。
子供達と昔良く来た公園だ。
小さな山があり、今の時期は幼い子達がそり滑りに興じている。
広いグランドもある。
一時期、知り合いから「ソフトボールのメンバーが不足しているので」と声がかかり、あるチームに所属していた事がある。ここで練習した日々が懐かしい。
公園の雪景色をちらりとのぞいて、引き返す途中ナナカマドの木の上にカラスが舞い降りた。何をするのか見ていると、ナナカマドの実を食べた。

カラスはナナカマドの実を食べるんだなあと初めて知った。
残飯ばかりをごみ捨て場から漁っているわけではなかった。失敬、失敬。
美味しそうに赤い実を丸呑みにして食べていた。
別の日に、ミュンヘン大橋を渡り都心方向へ舵を切り、次の橋まで歩いてみようと思った。
右手に豊平川を臨みながら、川沿いをどんどん歩く。歩道上には誰もいない雪降る道。誰もいないので、少し歌いながら歩く。
途中に特徴的な看板があるはずだ。
久しく見ていないので、まだあるだろうかと思いながら歩いていたら、ちゃんとあった。
運送会社の社屋に掲げられているものだ。

私が社会人になった時には既にこの看板はあった。
何年かごとに掛け替えられているようで、看板はきれいな状態だ。
さかのぼる事40年ほど前、車で初めてこの看板に差し掛かった時、記憶では当時勤めていた会社の上司が解説してくれたような気がする。
見て字のごとく
「人は大きく上にして、心は丸く、気は長く、腹は立てずに横にして、己は小さく下にあれ」
内容は昔から一貫して変わらない。
右下の数字は創業年数を表すものか。もう、70周年続いている様だ。
看板は、この運送会社の社訓という事だ。こうした事を基本としているからこそ70年も続いているのだなあと思う。きっと働きやすくて、良い職場なんだろうな。
この道路は豊平川沿いの、南から北へと向かう一方通行で交通量も多い道だ。
通勤の時間帯には渋滞する事もあるかも知れない。そんなイライラがつのった時、この看板を見て、ちょっと気持ちを落ち着けられるのじゃないだろうか。
札幌の南区に住んでいる人なら大抵の人は知っている、名物看板の一つだと思う。
ここを過ぎると右手に「南22条大橋」がかかっているので、橋を渡りUターンして自宅を目指す。
こうして好きな時間に好きな所を歩いていると、つくづく人間の足はどこにでも移動出来る便利なものだと思う。時間さえ気にせず体力があれば、どんな長距離も歩いていける。ふと、伊能忠敬もこうして測量しながら、黙々と歩いたのだろうかと先人の偉業に思いを馳せた。
勤めていた時は常に会社という目的地があり、到着時間も決められているので、徒歩で長距離をブラブラ歩く機会はなかった。
リタイアした今、こうして歩いていると、これまでとは全く違った視点で景色を見ている自分に気づく。
尖っていた石の欠片が、長い年月をかけて豊平川の水のうねりに身を任せ、転がる内にすっかり角が取れて、まん丸になった。そうして更にゆっくり転がり続け、しまいには姿が消えてゆくのだなあ。
♪あーあー、川の流れのよーにー♪
豊平川を見ながら、我が身のこれ迄とこれからを思った。
帰宅して歩数を確認したら、7,000歩弱。
ウォーキングというよりは楽しい散歩だった。