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野田聖子氏に聞いた 官僚セクハラ問題から総裁選出馬まで
辞職にまで発展した前財務次官のセクハラ発言問題は、霞が関や永田町の女性に対する感覚の古さや世間とのズレを浮き彫りにした。甘い対応の財務省に対し及び腰の政権内で唯一気を吐いたのが、総務大臣の野田聖子氏(57)だ。いまだ「政治分野に女性はいらない」という空気が漂う自民党にも公然と異を唱える。9月の総裁選に出馬し、自民党に多様性を取り戻したい、ということだが、さて、どうなるか。
■ 今後はセクハラ対応が官僚の出世を左右する
――まず最初に、野田大臣の事務所が仮想通貨交換業者を伴って金融庁に説明を求めた件についてお聞きしたい。朝日新聞が行った情報公開請求について、事前に金融庁が大臣に知らせていたこと、情報公開法を所管する大臣がその情報を漏らしたことが問題になっています。
記者会見での発言が全てです。第三者に対して、事前に情報を提供して内容の確認を行うことは、情報公開法上あり得るものです。しかしながら、開示請求者に関する情報まで伝えることは、開示請求の萎縮や公開制度の信頼低下につながる恐れがあり、法の趣旨に照らして好ましくないと言わざるを得ません。今振り返れば、総務省の担当者から開示請求者に関する情報を聞かされた時に、情報公開法の趣旨に沿ったものか確認をして、適当でないならば金融庁に対して注意喚起をするなどの対応をとるべきであったと反省しています。記者との懇親会で、特段の問題意識を持つことなく、開示請求者に関する情報を含めて話題にしてしまったことは、慎重さを欠いたと反省しています。
――前財務次官のセクハラ問題では麻生財務相が「セクハラ罪はない」などとかばう中、積極的に踏み込んで発言しました。官僚や政治家の女性に対する感覚の古さに危機感を覚えたからですか?
週刊誌で女性記者と次官のやりとりを読んで、その日すぐ総理と官房長官に、この文面の通りならばセクハラで「アウト」だとメールで申し上げておいたのです。財務大臣は最初、「これが事実ならアウトだ」とそのまま言ってくれていたので安心していたら、その後やっぱり麻生大臣はセクハラを知らないことが分かり、財務省も同様だった。被害者がセクハラだと思ったものは原則セクハラです。財務省は、被害者の救済や2次被害を防ぐという基本的なことも分かっていませんでした。
――民間企業はもっとシビアに対応している。
男女雇用機会均等法ができてもう30年強。海外との取引の多い企業などは、セクハラで訴えられれば企業イメージが悪くなるし、お金もかかるということを学んでいる。ところが、そうした経験をしない霞が関や永田町、マスコミがいまだ30年前と変わらず、グローバルスタンダードが分かってない。財務省は当初、次官こそが冤罪の被害者だというストーリーを立て、セクハラ被害を訴えた女性を呼び出して事情を聴こうとした。あり得ないですよ。そんなことを平気でやってしまっていることに、ある種の恐怖を感じて、違和感と申し上げたんです。要は、ほぼ男性社会だからそうなる。知識も勉強も足りていない。
――メディア業界の古い体質も浮き彫りになりました。
私の発言を機に、メディアの女性から問い合わせが来て、次官の一件は氷山の一角だと分かった。想像以上にメディアに対する官僚のセクハラが蔓延していることに愕然としました。役所とメディアの関係は、企業でいうところの親会社と下請けのよう。親会社に嫌われると下請けはいい記事(ネタ)がもらえないといういびつな関係。奇麗な女性はいけにえで、供物として取材源を喜ばせる。そしてキャップ(上司)の男性が情報を取る。それが当たり前だと聞かされ、いつの時代なのかと思いました。
――大臣中心にセクハラ対応の強化策をまとめました。研修を受けさせる、通報窓口を設ける、2次被害にならないようにするなどとなっていますが、法規制には至らなかった。
今回の強化策には、法律を作るよりも効果的な仕掛けがある。研修を受けるだけでなく、内閣人事局がチェックするのです。つまり、セクハラにきちんと対応できているかどうかが査定のひとつになり、出世を左右する。これはかなり実効性があると思いますよ。官僚は、セクハラやパワハラ、人権教育を学んでいないと思うんです。何も知らなかった人たちにいきなり罰則というのもいかがかと。まずは学ぶチャンスを与えたい。
■女性を分かっていない男性がすべての政策わ決めるのはおかしい
――政治の場に女性が少ないことが関係しているのではないですか。女性議員比率を高める「政治分野の女性参画推進法」も今年ようやく成立した。
それでも、自民党内では女性議員からも(成立に)反対されましたよ。自民党はまだそういう時代感覚なの。支持団体の影響もあるんでしょうね。やはりいまだ自民党の応援団の中には、女性は働くべきではない、女性が社会進出をしたから少子化になったという考えの人がいる。そうした応援団の声を代弁せざるを得ず、現実の日本とかけ離れた発言をするので、結果、政治分野に女性はいらない、ということになってしまう。
――本来、自民党は幅の広い国民政党だったはずなんですがね。
その通り。だから私が騒いでいるんじゃない。気持ち悪いよね。みんなが黙りこくってしまうのは。
――女性政策って、何が必要だと思いますか?
違う。女性政策ってないんですよ。男性が勝手に女性政策と名付けたけれど、私は「日本の構造改革」と言っています。この国の最大の課題は人口減少です。消費者が減るから当然、経済が縮小する。税収も減る。あまり知らされていませんが、安全保障面でも自衛隊員が不足する。人口減少の原因は少子化だということで、そこだけに焦点を当てると女性が主体だから、女性政策って言って逃げているのが実態。女性の社会進出が少子化の原因だとか、ついこの間まで当たり前に議論されてきたけれど、そうではなくて、日本全体の問題だと捉える必要がある。この世に女性政策なんて存在しないということを浸透させるのが私のミッションなのかなと、思っています。
■ 意見の言える開かれた総裁選にしたい
――そういう意味で、女性総理が誕生したら、日本の政策も大きく変わると思うのですが。
経験上、女性大臣の役所は女性に対してフラットな感覚の人が多い。財務省などとの空気の違いを感じます。女性総理だったら全閣僚が女性になるとかね。とにかく男性が慣れる必要がある。男性は女性のこと全く分からないんだから。それが9割の政策を決めていることがおかしいんですよ。現場が分かっている女性たちを増やした方が、今の日本を脅かしている問題の解決が早くなるんじゃないでしょうか。
――総裁選に出て、そうしたことを訴える?
総裁選には推薦人が20人揃わないと出られないので、コツコツと歩んでいるというのが現状。謙虚な気持ちで言うと、出る気持ちはあるけれども、今は、そういう私を理解して受け止めてくれる仲間づくりをしているところです。
――総裁選というのは政策論争の場。いろいろな考えの人が出て、意見を戦わせるべきだと思います。
人口減少で将来の展望が見えなくなる中で、今まで通りではダメだという不都合な真実を、老若男女がみな共有し、まだ半分も力を出し切っていない女性たちが社会の中心に行けるようにしたい。高齢者、非正規労働者、障害者についてもそう。ダイバーシティー(多様性)って、本来、自民党の取りえだった。それを取り戻すことが、閉塞感の漂う今の日本には必要で、景気さえよければいいというのは時代遅れ。成熟国家としては、一人一人の満足度が重要です。そういう男前な議論をしたいなと思っています。
――確かに、今の自民党には多様性が欠けている。
だから、私を応援してくれている仲間たちは、「野田が総裁選に出られなかったら、自民党はこの先ダメだ」と思っているんです。今の自民党は国民の意識と乖離しているとも。安倍1強がいいと思っているのは自民党の人で、そう思っている国民は少ないんじゃないかって。国民に寄り添う政党でいるためには、ひとりでも多く、いろいろな意見が言える開かれた総裁選をしたい。それが私の願いです。
(聞き手=本紙・小塚かおる)
▽のだ・せいこ 自民党衆議院議員(岐阜1区・9期)。1960年福岡県生まれ。83年上智大学外国語学部比較文化学科卒業。帝国ホテル勤務を経て、87年岐阜県議。93年衆院議員に初当選。郵政大臣、消費者担当大臣、党総務会長などを歴任。17年8月から現職。女性活躍担当大臣なども兼任。
野田聖子氏【インタビュー動画】へ 約25分
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