阪神間で暮らす-2

テレビを持たず、ラジオを聞きながら新聞を読んでます

「石破を叩きのめす」安倍首相の執念と、菅官房長官の「ある野望」

2018-08-07 | いろいろ
より

*****
  

「石破を叩きのめす」安倍首相の執念と、菅官房長官の「ある野望」

自民党総裁選・暗闘の全内幕
戸坂 弘毅


豪雨、台風そして酷暑…天災が夏の日本を次々と襲うのもどこ吹く風、自民党内は来たる9月の総裁選一色となった。「有終の美」に向けて必死の票固めを進める安倍首相、一騎打ちを演じる見込みの石破元幹事長、土壇場で出馬を断念した岸田政調会長、そしてゲームを裏から眺め、密かに野望を抱く菅官房長官…水面下で繰り広げられる、大物たちの「暗闘」のすべてをレポートする。


  豪雨災害の中、かけた電話 

 西日本各地を襲った豪雨災害の対策に政府が追われていた7月中旬、首相・安倍晋三は、会議や打ち合わせが続くタイトな日程の合間に、首相執務室から竹下派所属の議員に電話を入れていた。自民党総裁選をめぐる竹下派内の現状報告を聞くためだ。

 安倍は国政選挙どころか地方選挙でも、移動時間や会議の合間に、寸暇を惜しんで知り合いの会社経営者や地方議員に携帯から直接電話を入れて、支持を依頼する執念をみせる。総裁選ともなれば、自ら票固めの先頭に立つのは当然だ。

 「名もない若手議員たちと何度も飯を食ってきたし、すでに議員票の3分の2は固めたよ」。7月上旬には、安倍は旧知の民間人に強い自信を示していた。

 票が読めない党員投票に不安を残す中、安倍はまず議員票で大差を付けることに拘ってきた。当選すれば自民党総裁として最後の3期目に入る。たとえ勝てたとしても「辛勝」では、その日からレイムダック化しかねない。

 安倍の出身派閥の細田派に加えて麻生・二階両派が安倍支持を鮮明にする中、目下、安倍の最大のターゲットは55人が所属する党内第三派閥の竹下派だ。

 竹下派会長の竹下亘は、「安倍さんが引き続き総理になるか。『はい、その通り』とは即答しかねる」と繰り返してきた。だが、今春、派閥会長に就任したばかりの竹下に派内を統率する力はない。

 とりわけ、同派の参院側は今も、亘の兄・竹下登の秘書から参院議員に転出し、かつて参院自民党の「ドン」と言われた男の強い影響下にある。元自民党参院議員会長・青木幹雄である。

 そもそも亘が派閥会長に就任できたのも、青木が前会長の額賀福四郎に対し、「会長を竹下に譲るように」と通告したからだ。額賀は抵抗したが、最後は青木が、竹下派会長代行で自民党参院幹事長である吉田博美を通してねじ伏せた。

 現在、参院竹下派21人を束ねる吉田は、今なお引退した青木を「親父」と呼んでその指示を仰ぐ。それゆえ、「竹下派対策の要は、この青木ー吉田ラインにある」と見た安倍は、昨年から再三、吉田を夜の会合に誘い出して懐柔に努めてきた。

 だが、その吉田は「私自身は安倍さんの再選で構わないと思っているが、仮に青木さんから『石破で行け』と言われれば、石破を全力でやらざるを得ない」と安倍に伝えていた。

 青木は、自らの長男で後継者の参院議員・青木一彦の選挙で世話になった石破と、ここ数年は近い関係にあり、今回の総裁選で「石破支持」を打ち出す可能性を以前から仄めかしていた。

  

 安倍はこの動きを察知していた。この総裁選で、もはや石破を「ポスト安倍候補」に名前が挙がらないほどに叩きのめす。そのためには、竹下派を味方に付けることが必須だ――そう考えた安倍は、竹下派内の個別工作にも余念がない。

 「青木さんが『石破をやれ』と言い出せないくらい、竹下派内を安倍支持で固めてしまえばいい」。安倍は、気脈を通じる竹下派幹部からこうアドバイスされていた。

 たとえ会長の竹下が「石破支持」を打ち出しても、派内が「安倍支持」と真っ二つに割れる状況であれば、さすがの青木も、会長として初めて総裁選に臨む竹下を慮って「石破をやれ」とは言い出せないだろうというわけだ。

 それゆえ安倍は、経済再生相で竹下派会長代行の茂木敏充、事務総長の山口泰明、元総務相の新藤義孝ら、竹下派内にあって「安倍支持」を鮮明にしている議員たちに「石破に圧勝しなければならない。一人でも多くの仲間に安倍支持と言わせて欲しい」と頼みこんできた。

 中でも安倍は、「能力は高いが人望がない」との評価が党内外で定着している茂木を頼みとしている。茂木も茂木で、若手議員を食事に誘い出しては選挙対策を指南し、政治資金も配っているという。この総裁選を機に、竹下派のプリンセス・小渕優子を抑えて、派閥の総裁候補に躍り出ようと必死なのだ。

 「すでに竹下派の7割以上は安倍支持」(竹下派幹部)との見方もある中、青木は7月下旬、ついに吉田に対して「石破をやれ」と最終的な指示を出した。これを受けて、吉田は竹下派の参院側21人を石破支持でまとめる方向だ。

 青木はかつての小泉純一郎政権下で、野中広務ら派内の大半が反小泉の独自候補を立てる方針に傾く中、「参院側は小泉再選支持」を打ち出し、派閥を分裂させた「前科」がある。青木にとっては、派閥の結束よりも参院が独自性を保つことのほうが大事なのだ。

 今回も竹下派は分裂が確実で、安倍は竹下派内の安倍支持を増やす工作を、一段と加速させる構えだ。


  表面化する「安倍と菅のすれ違い」 

 安倍が石破をどれだけ引き離せるか――今回の総裁選は、安倍の「勝ち方」だけが焦点になっているといわれる。だが、この総裁選をめぐって浮き彫りになった重要な事象がある。

 「ポスト安倍」をめぐる、安倍本人と、この5年半、安倍を官房長官として支え続けてきた菅義偉の思惑の違いだ。

 2人のすれ違いは、安倍が信頼する盟友で、党内第4派閥を率いる党政調会長・岸田文雄の立候補をめぐって表面化した。

 今からちょうど1年前、昨年7月のこと。安倍は当時外相だった岸田と、EUとの首脳会談のために共に訪問したブリュッセル、そして帰国後の東京で、二度にわたり2人だけで長時間、酒を酌み交わした。

 その会談で岸田は、「外相を外れて党三役に就きたい」との考えを安倍に伝えたうえで、「どのような立場になっても(安倍)総理が続けるという限りは全力で支えます」と明言した。翌年(今年)の自民党総裁選に安倍が立候補するのであれば、自らは手をあげず、安倍支持に回ることを示唆したのだ。

 安倍は喜び、自分が首相を辞めた際には岸田に譲りたいとの考えを仄めかした。この時期、安倍は親しい政界関係者に「私が辞める時の総裁選では、清和研(=清和政策研究会、安倍の出身派閥である細田派)として岸田さんを推すことは、極めて有力な選択肢だ」とたびたび漏らしていた。

 ところが、それからほぼ1年が経った今年6月18日、岸田は赤坂の日本料理店で、ビールと日本酒を酌み交わしながら2時間以上も安倍と向き合ったものの、総裁選への対応を最後まで明らかにしなかった。派内の全員から総裁選への対応について意見を聴いた結果、主戦論が多かったためだ。

 岸田は安倍に「私は未だに派閥を掌握できておらず、皆の意見を無視できない」と弁明。「私が『総裁選で負けて我が派が干されたら、皆が困るだろう』と言っても『構わないから出ろ』という声が多いのですよ」と言い訳を繰り返し、安倍を呆れさせた。

 安倍は、「もしあなたが立候補したら、他派の手前、岸田派は処遇できない」「私が今あるのは、小泉内閣で幹事長や官房長官など政権中枢を経験してきたからだ」と立候補を止めるよう促したが、岸田は最後まで言を左右にした。

 安倍は今年に入ってからも岸田と会合を繰り返してきたが、流石に6月ともなれば、優柔不断な岸田も対応をはっきりさせるだろうと考えていた。それだけに会談後、周辺に「岸田さんも、皆から意見を聴いたりしちゃダメだよな」と吐き捨てた。

  

 岸田派内部の実情はどうだったか。事務総長の望月義夫らベテラン議員には慎重論が強いとされたが、ベテランでも文科相の林芳正や元経産相の宮沢洋一らは「総裁選に出れば、負けても知名度は一気に高まるし、政治家として成長できる」とか、「仮に安倍首相の退陣後、細田派の支援を受けて総理になったとしても、賞味期限が切れた安倍さんからの『禅譲』と見透かされ、国民の支持は得られない」などとして、主戦論を主張していた。

 だが、岸田はかつて宏池会(=現在の岸田派)の会長だった加藤紘一が、総裁選で現職の小渕恵三に挑んで敗れた結果、宏池会が徹底的に冷遇され、加藤が失脚に追い込まれた経緯を間近で見ていたため、決断できなかったのだ。


  「出てもらったほうがいいじゃないですか」 

 「岸田さんには出てもらったほうがいいじゃないですか」。6月の安倍・岸田会談の様子を安倍から伝え聞いて突然言い出したのが、官房長官の菅義偉だ。

 すでに細田・麻生・二階の主流3派は押さえた。ここに、いまや「菅派」と言われる無派閥議員を加えれば、勝利は揺るがない。無理に岸田を押し止める必要はない、というのだ。

 「そうは言ってもなあ…」。その時はなお岸田の支持を得たいとの考えを示した安倍だが、確かに石破との一騎打ちになれば、安倍を嫌う票はすべて石破に集まり、石破が有力な総裁候補として生き残る可能性が高まる。

 安倍サイドにあえて立候補を期待する向きもあった野田聖子には、支持の広がりが見られず、20人の推薦人の確保は絶望的だと見られている。安倍に近い細田派の議員は「数人(の推薦人)を野田に貸せば出られるという状況ではない。それに昔の派閥とは異なり、今や派閥領袖といえども所属議員に『野田の推薦人になってやれ』と無理強いできる時代ではない」と解説する。

 そのため、安倍も7月に入る頃には、「岸田さんが立候補して反安倍票が分散することは、私にとって悪い話ではない。菅ちゃんの言う通りだ」と漏らすようになっていた。


  菅にとって「政治家人生で一度のチャンス」 

 ただ、岸田の立候補を望んだ菅には、単に「安倍を助けたい」という意図とは異なる思惑があったことは間違いない。「岸田の立候補が、自らの将来にとってプラスになる」との冷徹な計算があったのだ。

 菅はかねてから安倍が岸田を重用し、禅譲を仄めかしてきたことを快く思っていなかった節がある。

 安倍と岸田は同じ二世議員の当選同期で、若手議員の頃から気の置けない遊び仲間でもある。そこに菅が入り込む余地はない。

 一方、菅は当然のことながら、安倍政権終了後も影響力を発揮できる体制の構築を狙っている。そのため、第2次安倍政権発足後もしばらくは、安倍が嫌う石破とも裏で気脈を通じてきた。自らの息のかかった総裁候補を育てようと、麻生派出身の現外相・河野太郎に早くから目をかけ、本人が望んでいた外相への起用を安倍に進言し、実現させてもいる。

 第2派閥の麻生派を上回る、約70人にのぼる無派閥議員の人事の面倒などをこまめに見て、囲い込んでもきた。今や約30人の若手無派閥議員が、事実上の「菅派」だと言われる。

  

 さらに菅は、ここにきて幹事長の二階俊博に急接近している。

 二階は「安倍首相に不測の事態が起きても、菅さんがいるじゃないか」と以前から繰り返していたが、最近とみに菅と水面下で連携を深める。6月10日に行われた新潟県知事選でも二階主導で擁立した候補を菅が全面的に支援し、激戦を制した。

 安倍総理の退陣後、総裁候補のいない二階派と、無派閥の「菅派」約30人が組んで、菅を総裁候補に担ぎ出す展開も皆無とはいえない。仮にそのとき石破、岸田、菅の3人が立候補した場合、カギを握るのは最大派閥の細田派だ。そこで事実上、すでに細田派の領袖である安倍が菅支持を打ち出せば、「菅首相」も現実味を帯びる。

 この5年半、政権の大黒柱を務めてきた菅が立候補しようという時に、「否」という選択肢が安倍にあるかどうか。「派閥を持たず、間もなく70歳になる菅が宰相の座を狙えるのは、安倍が退陣する時の一度限り」というのが党内の一致した見方だ。菅からすれば、安倍と岸田に楔を打ち込み、距離を広げておくことは大きな意味があるのだ。

 一方の安倍は、親しい永田町関係者にたびたび「首相を辞めたら、清和研(=現細田派)の会長として残りの政治家人生を気楽に楽しみたい」と漏らしてきた。当面、清和研には総裁候補がいない。最大派閥の長として、他派の総裁候補を担いで当選させ、恩を売って「院政」を敷きたいと考えているのだ。

 その最有力候補が岸田だ。気心が知れていて、寝技が苦手な岸田であれば操縦しやすい――そう考えた上でのことなのは言うまでもない。

 果たして岸田はどう出るのか。安倍や菅が固唾を飲んで見守っていた中、岸田は7月24日、立候補見送りと安倍支持を表明した。ぎりぎりで安倍陣営に駆け参じた形だ。安倍をイライラさせた末の参陣で、岸田が希望通りに党3役などの重要ポストに留まれるかどうかは微妙である。


  さて、「大差」で勝てるのか? 

 現在、安倍の最大の懸念は、今度の総裁選から重みを増す党員票の行方だ。

 内閣支持率は回復傾向にあり、各マスコミの世論調査では、自民党支持者における安倍の支持率は石破を大きく引き離してトップだ。とはいえ、森友学園や加計学園の問題への対処の仕方に国民の視線はなお厳しく、長期政権による「飽き」もある。

 安倍は、数か月前まで「前回は党員票で石破にかなり負けたが、今度は負けることはない」と自信を示していた。石破に党員票で負けた12年総裁選には、安倍が所属する清和研から当時会長だった故・町村信孝も立候補したため、派閥が持っていた各種団体票はほとんどが町村に流れた。しかし現職総裁として臨む今度は構図が根本的に異なるから、大丈夫だと高をくくっていたのだ。

 だが、ここに来て「地方党員の間に、安倍に厳しい声が多い」との情報が数多く寄せられるようになり、安倍は細田派の議員らに対して党員票獲得でハッパをかけている。

 その地方の党員票獲得に関しても、菅は、官房長官という激務にありながら手を打っている。当選4回以下の菅に近い無派閥議員らで作る「ガネーシャの会」の会長で、総務副大臣の坂井学らに対し、「首相か私が出向くから」とそれぞれの地元で安倍支持を広げるため会合をセットするよう要請しているのだ。

  

 安倍圧勝に向けて邁進する菅の姿に、自民党内では「今回、安倍が大差で勝つことは、その後を安倍政権を支えた菅が引き継ぐ環境を整備することにもなる。それで菅は必死なのだ」と見る向きもある。

 石破、岸田、野田…「ポスト安倍」候補たちが戦闘力不足を露呈した今回の総裁選。小泉進次郎ら次世代へのつなぎ役として、菅が次期首相候補に躍り出るのか。それに向けて菅は、総裁選で安倍三選が決まるであろう今年9月以降も官房長官に留まるのか、それとも幹事長への転出を強く望むのか。

 安倍政権が「最後の3年」に突入するこの9月以降は、安倍と菅の関係こそが政界の流れを読む鍵となるだろう。(戸坂弘毅 ・ジャーナリスト、文中敬称略)
*****




コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。