拈華微笑 ネンゲ・ミショウ

我が琴線に触れる 森羅万象を
写・文で日記す。

  西加奈子著『くもをさがして』を読んで

2023年07月28日 | 色読是空

  本屋さんのない国(日本書籍がない)に住んで、はや30数年・・・、本との出会い方と購入方法の、昔とあまりの違いに不思議・・・。

 

  このへんの事情というのは、海外在住日本人ならではでありインターネット有無前後で、天と地の差というのか、たったのワンクリックで

  私のアイパッドやスマートフォンに『本』が瞬時に乗り移ってくる様は、まさに現代の呪術の如く、嬉しくもあり恐ろしくもある・・・。

 

  今回の本『くもをさがして』西加奈子著は、 朝日新聞デジタルでたまたま見かけた本人の顔写真と記事の見出しが

  『西加奈子さん 遺伝性乳がん+コロナ 「もう許して、私おごってた」』・・・というもので、ふだん『馬骨』などと自称し『驕って』

  いやしないかと心のどこかで気にしているせいもあり、この見出しだけでこの人の本を読んでみようと思ったのだ。

 

  西加奈子さんは直木賞受賞作家。 

  今回のこの著書『くもをさがして』は初のノンフィクション作品で、2019年にご主人と2歳の子と三人でバンクーバーに語学留学のために移住後、

  2021年5月にカナダで自身に『乳がん』が見つかり、寛解するまでの8カ月を中心に、治療体験とその周辺の事情、心情を綴ったものであった。

 

  カナダとスイスの違いはあれ、私と同じ海外在住者の立場で発揮される作家の観察力と言語化能力は『さすが!』の一言。

  ふだんスイス生活で、頭で思いながらも言葉や文章にできずにいた様々な事柄を代弁してくれていた。

  医療システムがスイスと似通っていることや、日本と比べた場合、西洋の医療従事者の責任感の薄い様子などには同感した。

 

  しかし、何よりもこの本が私に感銘を与えるのはこの本の題名『くもをさがして』で、言わば禅の公案(禅問答)そのものであったことだ。

 

  最初読み終えた時、このタイトルの『蜘蛛』とは一体何であったか?ピンとこなくて、そこに焦点をあててざっと読み返すと

  カナダのアパートの蜘蛛〜祖母〜弘法大師〜癌の発覚〜『もう一人の自分』(著者自身の言葉)の発見・・・という『赤い糸』の如く、

  癌患者になることで、『くもをさがす』事態となり『蜘蛛の吐き出す』糸を探り出すことで、彼女の『死生観』境涯の深まりを観るのだ。

 

  『癌の治療中、『自分』の乖離があったと書いた。私はニシカナコを一定の距離から見ている誰か、という感覚があった。(中略)

   「もう一人の自分」と呼ぶほかない存在が自分にはいて、今ではその自分が、何より、誰より私の味方をしている。』218ページ

 

  『・・・そしてその日常は、以前と同じではあり得ない。私は未知の恐怖を孕んだ、『新しい日常』を送ることになるのだ。』216ページ

 

  馬骨がこれまで何度か言ってきた『自分』公案〜『自ずと分かれ、自ずと分かる』が、この著書に見事に表されていることに私は驚いた。

  この本は、海外で住んでみることで、そして癌患者になることで、二重三重の意味で『郷里・サトリ』を振返る機会を得、

  ついに『もう一人の自分』というものを観つめた体験を綴ったものではなかったかと思う・・・。

 

      

      週3回はこの公園そばのグランドを6周し、帰りにこの風景(レマン湖にモンブラン)に癒やされる馬骨

  

  

  

  

 

  

  



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