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新型コロナ特措法に基づく緊急事態宣言の要件

2020-04-07 09:25:00 | ノンジャンル
新型コロナ特措法と緊急事態宣言

 4月7日、安倍首相は新型コロナ特措法に基づき、緊急事態を宣言し、8日午前0時から施行する意向だという。
 そこで、特措法に基づく緊急事態宣言の内容をまとめ、知事から要請される内容について検討を加えてみよう。

 3月13日、新型コロナ特措法が、新型インフルエンザ特措法の改正として成立・公布され、よく14日施行された。新型コロナ特措法は、簡単に言えば、従来の新型インフルエンザ特措法の附則第一条に、(新型コロナウイルス感染症に関する特例)として、次の一条を加えるとするものである。

 第一条の二 新型コロナウイルス感染症(病原体がベータコロナウイルス属のコロナウイルスであるものに限る。)については、新型インフルエンザ等対策特別措置法の一部を改正する法律の施行の日から起算して二年を超えない範囲内において政令で定める日までの間は、第二条第一号に規定する新型インフルエンザ等とみなして、この法律及びこの法律に基づく命令(告示を含む。)の規定を適用する。

 つまり、附則に1条を加えるだけの改正で、「新型コロナ」を「新型インフルエンザ」とみなし、この法律のすべてを適用しよういうものである。
 さて、ここで問題となるのが、私権を制限することを可能とするといわれている「緊急事態宣言」の要件や範囲についてである。
 緊急事態宣言については、特措法32条は、(新型インフルエンザ等緊急事態宣言等)として、次のように規定している。

 政府対策本部長は、新型インフルエンザ等(国民の生命及び健康に著しく重大な被害を与えるおそれがあるものとして政令で定める要件に該当するものに限る。)が国内で発生し、その全国的かつ急速なまん延により国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼし、又はそのおそれがあるものとして政令で定める要件に該当する事態が発生したと認めるときは、新型インフルエンザ等緊急事態が発生した旨及び次に掲げる事項の公示をし、並びにその旨及び当該事項を国会に報告するものとする。
  一 新型インフルエンザ等緊急事態措置を実施すべき期間
  二 新型インフルエンザ等緊急事態措置を実施すべき区域
  三 新型インフルエンザ等緊急事態の概要」

 この特措法で定められている要件を法律要件といい、特措法を施行するための政令である特措法施行令では、その6条で、(新型インフルエンザ等緊急事態の要件)として、次のように定めている。

 第6条 法第32条第1項の新型インフルエンザ等についての政令で定める要件は、当該新型インフルエンザ等にかかった場合における肺炎、多臓器不全又は脳症その他厚生労働大臣が定める重篤である症例の発生頻度が、感染症法第6条第6項第1号に掲げるインフルエンザにかかった場合に比して相当程度高いと認められることとする。
 2 法第32条第1項の新型インフルエンザ等緊急事態についての政令で定める要件は、次に掲げる場合のいずれかに該当することとする。
 一 感染症法第15条第1項又は第2項の規定による質問又は調査の結果、新型インフルエンザ等感染症の患者(当該患者であった者を含む。)、感染症法第6条第10項に規定する疑似症患者若しくは同条第11項に規定する無症状病原体保有者(当該無症状病原体保有者であった者を含む。)、同条第9項に規定する新感染症(全国的かつ急速なまん延のおそれのあるものに限る)の所見がある者(当該所見があった者を含む。)、新型インフルエンザ等にかかっていると疑うに足りる正当な理由のある者(新型インフルエンザ等にかかっていたと疑うに足りる正当な理由のある者を含む。)又は新型インフルエンザ等により死亡した者(新型インフルエンザ等により死亡したと疑われる者を含む。)が新型インフルエンザ等に感染し、又は感染したおそれがある経路が特定できない場合
 二 前号に掲げる場合のほか、感染症法第15条第1項又は第2項の規定による質問又は調査の結果、同号に規定する者が新型インフルエンザ等を公衆にまん延させるおそれがある行動をとっていた場合その他の新型インフルエンザ等の感染が拡大していると疑うに足りる正当な理由のある場合

 これらの要件は、政令で定められているので、政令要件といわれる。
 法律要件と政令要件を合わせたものが、緊急事態宣言の要件である。これを具体的に説明すると、次のようになる。

 法律要件1は、新型コロナに関するもので、「国民の生命及び健康に著しく重大な被害を与えるおそれがあるものとして政令で定める要件」であり、それを定めた政令要件Aは、「重篤である症例(肺炎、多臓器不全又は脳症など)の発生頻度が、通常のインフルエンザと比較して、相当程度高いと認められること」である。
 法律要件2は、「全国的かつ急速なまん延により国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼし、又はそのおそれがあるものとして政令で定める要件」であり、その政令要件は、B「新型インフルエンザ等に感染し、又は感染したおそれがある経路が特定できない場合」または、C「公衆にまん延させるおそれがある行動をとっていた場合その他の新型インフルエンザ等の感染が拡大していると疑うに足りる正当な理由のある場合」であり、感染している者がさらなる感染を引き起こすような行動をとっている場合である。
 対策本部長である首相が緊急事態を宣言するためには、法律要件1と政令要件Aを満たし、同時に法律要件2と政令要件BかCを満たさなければならない。
 これらは、かなり高い水準であるが、価値判断を加えることができるので、恣意的判断が加わる可能性は否定できない。
 特に政令要件BやCは、それに該当するか否かについての判断が必要であろう。
 緊急事態宣言は、期間と区域を指定して出すことになっている。その区域を地道府県レベルで考える場合と、市町村レベルで考える場合とでは、そこに住む人たちに与える影響は非常に大きい。都心で人口が集中している地域と人口密度が非常に少ない村での状況は非常に異なっている。都道府県単位で緊急事態が宣言される場合には、それなりの説明が求められなければならない。
 ところが、都知事や首相の話からは、そのような意向は感じられず、すべてを一つの単位で考えているようだ。
 
 4月5日夜のネット配信で、小池百合子都知事は、「緊急事態宣言では、法的な裏付けを持って感染拡大防止をできるようになれば、政府には、迅速で適切な判断をしてもらえるように確信しています」と述べていた。
 ここには、大きな過ちがある。緊急事態宣言は感染拡大防止の法的根拠を与えるものではなく、単に「要請」できるだけである。政府や知事からの要請が、市民にどの程度の影響を与えるかにより、その効果は変わってくる。



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