数ヶ月前、転校生の田中加奈が 彩のクラスに加わってからというもの、クラスの雰囲気は様変わりした。
クラスが一つにまとまっていた雰囲気は崩れ去り、政治の世界のような派閥が出来上がってしまったかのようだ。
「上園彩の隣の席が空いているな。色々と分からないこともあるだろうから、面倒を見てやってくれ」
担任は、偶然目に留まった空席の隣に居た彩を指名したが、昔から どういうわけか、転校生は彩に親しげに話しかけてくる傾向がある。
「上園さんって何となく気軽に話しかけやすいんだよね。特にね、分からない事とか、色々聞きやすい雰囲気があるっていうかさ。
ノートも見せて!っていいやすいし、こんなことも知らないの? って言われそうに無いって言うか・・・分かる?」
今、クラスで一番仲が良い 川口真紀も小学校6年生のときに仲良くなった転校生だった。
彩自身、これまでに何度か転校している。
幼い頃は転勤族だった父と離れ離れになることが堪えがたかったという母は、迷わず家族一緒に新天地へ出向いた。
幼い彩と姉の恭子にとっても、父親と離れて暮らすよりは、小学校を転校する方が良いだろう、ということだったらしい。
小学校低学年で、3回の転校を余儀なくされた彩は、当然のことながら、そわそわしながらクラス全員の前に立ち、自己紹介する気恥ずかしさと皆から注目を浴びることの落ち着かなさを誰よりも理解していた。
そんな彩だから・・・・転校生の方から彩に話しかけてくるのをいつも待っていた訳ではない。
「よろしく!」
担任に指名された席に着きながら、彩に短く挨拶した加奈に、
「こちらこそ。上園彩です。彩って、呼んでもらって・・・いいので」
着席したあとは、横を向いたままの加奈に少しばかり緊張しつつも、笑顔で話しかけた。
加奈は、どうやら話し上手らしい。
らしい・・・というのは、彩と一緒になったときの加奈は、ほとんど何も喋ってはくれなかったから。
人から聞いた話として
「ら・し・い」
という表現をせざるを得なかった。
彩自身、元々話好きという方ではない。
どちらかといえば、皆がワイワイガヤガヤ盛り上がっている最中は特に、聞き役に回る事が断然多い。
それでも一対一になると、しーんとした雰囲気に耐えられず、気が合いそうにない相手とでも、何とか話を切り出そうと努力してみる。
「今日は暑いね」
だったり、
「お腹空いたよね。お昼まで腹持ちしそうにないよぉ」
たわいもない会話から、共通の話題を発見し、親しくなることだってある。
親友の川口真紀と親しくなったのも、似たような経緯だった。
積極的な真紀は、おとなしいタイプは本来、苦手だったらしい。
小学校6年の頃、学芸会の準備をしていたときだ。
あとに残された工作のまわりに散らかったゴミを片付けようとしていた彩に、イライラした様子の真紀が、からんできたことがあった。
「ね? それ、先生が片付けなさいって言ったわけ?」
「え・・・?」
思わず、彩は顔を上げた。
「片付けろって言われた? って聞いているのよ!」
何も言われてはいない。
ただ、このままでは汚いと思ったから、片付けていただけだ。
「言われてないなら、そういうこと、しないで欲しいのよね。 だってさ、明日の朝、朝礼前にちゃんと掃除することになってるじゃない。嫌味ったらしいよ」
(嫌味・・・?)
驚いた彩は、手を止め、真紀の顔をまじまじと見た。
「そんなつもりじゃ・・・。私、工作って得意じゃないし、皆の役に立っていないみたいだから。少し残って片付けてもいいかなって・・・」
「だから、それが担任に媚びてるっていうのよ!」
中腰のままの彩に投げつけられた真紀の言葉は、鋭く彩の心に突き刺さった。
一瞬の沈黙の間、コトバは凶器となって稲妻のように彩の中の最も深いところで渦巻いている。
―このままじゃいけない―
彩は、とっさに思った。
このまま、逃げ帰りたい。
でも、ここから逃げたら、この先、真紀とは永遠に上手くやっていけない。
「私ね・・・実は・・・」
相手が話に乗ってこないとき、
或いは初対面なのに、理由が分からず相手が彩に対し、反感を持っている! と察知した場合は、自分の失敗談を披露する。
自分の心を開かなければ相手も彩に嫌悪感を持ったまま、終わるからだ。
そのことを転校続きの体験から学んできた彩は、とっさにゴミと間違えられて捨てられてしまった宝物の話をした。
「それ以来よ。 床に落ちているゴミですら気になるのは。
もしかしたら、大切な人が残してくれたメモかもしれない」
「へえ~!」
真紀は目を丸くした。
同時に物腰が やわらかくなったのだ。
「私も次女だからさぁ。
何でも、ねーちゃん優先なんだよね。
そうだよね。 最後まで片付けないと・・・落ち着かないよね。
私も手伝うよ!」
物静かな彩と活発な真紀。
二人が親しくなった最初のきっかけだった。
そんな彩が一番気になるのは転校生の田中加奈。
担任に頼まれて以来、
いや、頼まれなくとも 新しい人に声をかけるのは、孤独な転校生であった彩に出来る、唯一のことだったのだが・・・。
彩が一生懸命に話をしても、適当な所で返事をしているだけで、どうも避けられている。
避けられるだけなら、まだ、良いのだが・・・。
いっそのこと、挨拶程度にとどめて、黙っていようか。
何故、彼女から自分が反感を持たれているのか、分からないまま半年近くの歳月が流れていた頃・・・。
やっと、そんな気持ちになれたのはー
話し上手で担任の評価も高い。
クラスの人気は上々。
いつの間にかクラスの中心になっていた田中加奈。
もう、やめよう。
誰も見ていないところで加奈が彩に冷たいのは、どうして? なんて考えるだけ無駄なことだ。
加奈は違う。
口は多少悪くても、裏表がない真紀とは かなり違う。
これ以上、関わらない方がいい、多分。
彩は窓の外を見た。
黒い制服を着た下校中の高校生の姿が 三階の教室からは、アリンコのように小さく見えていた。
ちっぽけな存在なんだ。
人間なんて・・・
吹けば、飛ぶほどの・・・。
彩は小さく深呼吸をした。
それに合わせるかのように、下校のチャイムが鳴り出した・・・。
このままGOODBOOKに提出しましょう
気が合う人・合わない人って何故か出会った瞬間でわかるのよねぇ~。
続き、楽しみにしてます。
ラストまで決まっていた筈ですが、目が覚めたら忘れてしまいましたよ~!(泣)
実は、これは今、書いている中篇~長編になるかも??小説の番外編です。
中篇/長編小説では、「姉の恭子30代」が主人公ですが、ここでは妹の彩を主人公にしました。
時代も現代ではなく高校生としました。
自分でも、この先、どうなるのか全く分かりません。
ちゃんと書き終えるのかさえ・・・。
気が向いたら続きをアップします。
読んで下さってありがとうございました。
光景が目に映るようです
学生の頃を 思い出しますね~~
読んで頂けて、とっても嬉しいです。
学生時代を思い出して頂けたそうで、
これまた光栄です。
私が学生の頃と今とでは 言葉遣いから違うのかもしれませんが・・・自分の時代を背景に書いてみたいと思っています。