
my first tree
アメリカでは、
クリスマスツリーは本物のもみの木が多かった。
根元から切った木を使うので、
毎年、もみの木を調達することになる。
それが、
「ツリーハンティング」や「クリスマスツリーハント」と
呼ばれる家族のイベント。
小さな「町のお花屋さん」にも
大手チェーンの園芸センターにも
ショッピングモールにも、
カットされたもみの木がずらーっと並んで
それだけでもう壮観。
そしてこの時期、
もみの木のとてもいい香りが
街中に満ちるのです。
青々とした針葉樹の香り。
空気を浄めるような清々しい香り。
家のなかも、
通りも、
モールも、公舎も、どこもかしこも
もみの木の香り。

近所のお花屋さん(の一角)

園芸センター(の一角)
結婚して最初の12月。
はじめてのクリスマスなんだから
と言ってアレックス(夫)が、
本物のツリーハンティングに連れて行ってくれた。
お店で、伐採されたもみの木を選ぶのではなく
もみの木を育てている山の農園へ行って、
植わっているもみの木から
自分で選んだお気に入りの木を
自分の手で切ってくるのです。


みかん狩りのイメージで、
みかんの木がもみの木になった感じ。
ゆるい傾斜一面にもみの木。
木の年輪ごとに区画があって、
大きいのから小さいのまでお行儀よく並んでいた。
気に入ったもみの木を求めて
迷路のような木のあいだを半日以上うろうろする。
さわったり、くんくんしたり、抱きしめたり。
アレックスは斧を片手についてくる。
色や大きさ、
葉っぱの太さ・細さ、量。
こんもりしたのやスリムなの。
枝の広がり具合…
個性があって、
どれもステキでなかなか決められなかった。
リスや鳥たちに出会ったり
水筒のコーヒーを飲んで一休みしたり
ウサギに出会ったり。

そのうちに
陽ざしが傾いて、
もみの枝がきらきらしはじめて
とても、とても美しかった。
迷いまくっていたけど、
不思議と、選んだもみの木は一目惚れでした。
アレックスが斧で切り倒して、
先端をわたしが、幹の方を彼が抱えて、
ときには二人でずるずる引きずって
キャビンまで戻って、
お金を払い、
枝が折れないように包装してもらい、
車の屋根に積んで帰った。
ずっとわくわくしていた。
あの胸の高鳴り。
髪にも服にも、体中についたもみの木の香り。
飾りあげたツリーでも
美しいイルミネーションでも
たくさんのプレゼントでもディナーでも
花束でもなく、
クリスマスというと
いちばんに思い出すのはあの日のこと。
そして、もみの木の香りです。

ツリーの役目を終えたもみの木は
薪用にカットされて
乾くまで室内にいていい香りを放ちつづけ、
乾いたら暖炉で美しく燃えて
灰になった。
ゆらめく炎、
火の粉、
もみの木が爆ぜる音、
香り。
みんな覚えています。
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