僕の診る多くは、口唇口蓋裂という先天異常の患者さんです。生後10日くらいより成人するまでを長期に渡って患者さんとともに歩んでいきます。
上の写真は口唇口蓋裂の赤ちゃんの上顎の模型です。軟口蓋から口唇にかけて裂があります。お母さんのお腹の中でくっつかなければならなかったところが、なにかの原因でくっつかなかったわけです。これではミルクが飲めませんので、手術までは上の写真の右側にあるホッツ床で裂をふさいでミルクを飲みます。
口唇口蓋裂については、現在も原因ははっきりしていません。もちろん家系にでる遺伝性ではありませんので、誰にでも口唇口蓋裂になる可能性はあります。
20年くらい前まで、三ツ口(兎唇)などと言われ、差別された時代もありました。僕らの教科書でさえ、口唇口蓋裂ではなく、兎唇口蓋裂と記載されていた時代です。
現在では口唇口蓋裂という疾患は多くの人に理解されるようになりました。また、現在の医療では縫合した傷がまったく消せるわけではないですが、ちゃんと治療を受ければきれいに改善されます。もちろん治療中も日常生活で他のお子さんと生活が別になるということもありません。
これは余談ですが、口唇口蓋裂のお子さんが生まれて、初めて病院にくるときは御家族全員でみえることが多いです。その時におじいちゃん、おばあちゃんの耳にはよく聞いた『三ツ口』という単語をつい言ってしまい、お子さんのお母さんが激怒するといった光景があります。
実は『三ツ口』という単語は差別でも使われましたが、悪意はなく俗名としてご年配の方々は使用します。したがって、おじいちゃん、おばあちゃんにはお母さんがなんで怒っているのかわからないわけです。
そんなとき、僕は『口裂け女』の話をします。今の30代くらいの人には懐かしいでしょう。
小学校の帰りなんか怖がったもんです。
お母さんに『怖くなかったですか?』って聞くと
突然なんの話かと不思議な顔をしながらも
『怖かったんで、よくみんなで一緒に帰りました』なんて答えが返ってきます。
そこで言います。
『「口裂け女」の題材に使われたのは、口唇口蓋裂と同じで「横顔裂」や「斜顔裂」という先天異常のお子さんの話です。僕が診ているお子さんにも多く、今までいた待合にもおられましたが、怖くなかったですか?』
そこで多くのお母さんは我に返ります。
それでおじいちゃん、おばあちゃんと仲直りです(^^)
『三ツ口』も『口裂け女』も、実は無知が生んだものです。無知というのは時として、人にすごい差別を生んでしまうんです。
治療にあたる僕たち医療人が無知な発言をすることは決してあってはいけません。
そのような間違いを正していける医療人でありたいと思います。
下の写真は臨床研究のため、口唇口蓋裂治療のデータを6時間くらいかけて集めていたので、目が疲れた僕です(^^)
その勢いで、少しまじめな話を書きました。では研究を続けます(^O^)