辞書引く日々

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折りたたみ傘

2010年08月25日 | 言葉
何ができたときに大人になったと感じたかという質問をされたら、こう答える。折りたたみ傘がきれいにたためるようになったとき、と。

折りたたみ傘というのは、あまりいい加減にたたむとバンドが留まらない。傘を回すようにして、小間(布の部分)を同じ方向に折っていかなくてはだめである。もっとも、ここまでは長い傘でも同じこと。

折りたたみの場合は、それだけでは不十分だ。小間が袋状にたたまれるので、そのままぐるぐると巻きつけるようにまとめても、バンドは辛うじて留まるだけで、あまり美しく仕上がらない。きれいにやっつけるためには、袋状に折られた小間の中に指を入れて、引き出してそろえるような動作が必要となる。

これは、たいがいの大人が実行するもので、傘のつくりというものを見れば自然と想像ができる作業である。

だが、私は子供の頃、それがどうてもできなかった。小間を同じ方向にそろえるというところまではわかったのだが、袋状になったところに指を入れて引き出すという技がどうしてもわからなかったのである。

思えば、傘を畳む、と言う。畳むためには、伸ばす必要がある。シャツでもパンツでもみなそうである。ところが、傘の場合、畳むの反対は「さす」である。このへんに陥穽があったのではないかと推測する。

「さす」←→「畳む」という軸で抽象的に考える限り、袋状になった小間の間に指をはさんで「伸ばす」という発想が出てこない。

目の前にある具体的な傘を本当に観察できるようになるのは、まさに大人ならではのことだと思うのである。

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