「いらっしゃませぇ~1名様ご案内致しま~す!」
僕が入ったその店は『メール居酒屋』…
カウンターに案内されるとメニューの表紙には…『お好きな携帯機種をお選びください』と書いてある。
なんだろう?
すると先ほど案内してくれた店員さんが、「お好みの携帯機種はお決まりになりましたか?」
僕は聞いた「あのぉ…携帯って…選んでどうするんでしょう…?」
店員さんは少し慌てた感じで「申し訳ございません
![](https://blogimg.goo.ne.jp/img_emoji/ase.gif)
お客様当店は初めてでいらっしゃいますか?」
僕は申し訳なさそうに「はぁ…初めてです。」
「当店はメール居酒屋ですので、オーダーや接客はメールでご対応させて頂いております。」
なんだか解らないけども、取り敢えず店員さんの言うことに従い携帯電話を選んだ。
確かに店内を見渡すと携帯を弄っているお客さんが多い…
店員さんがオーダーを直接取ることもない店内は比較的静かだ。
初めてだから違和感はあるけど、店内の雰囲気でいえば居心地はとても良い。
「お客様お待たせ致しました、ご要望のauの機種でございます。使い方のご説明をいたしまようか?」
幸い僕が持っている携帯と同じ機種なので、説明の必要がないことを店員さんに伝えると、携帯は固定された充電器の上に置かれ、持ち帰り防止の為に細めのチェーンで繋がれた。
どうやら通話は出来ず、メールも店内でのみ使用できるらしい。
早速、僕は注文をした…
なんだか携帯で注文をするなんて違和感があるけど、よく考えるとせかされずゆっくりと注文が出来るのでなんだかゆっくりとできる。
生ビール、茶豆、マグロの頬肉ステーキ、本日のオススメのイカワタホイル焼き。
送信…
すると数十秒後に返信が来た…「本日はご来店ありがとうございます、私はオーダー担当の須賀えみりです、誠に恐縮ですが私のことは、エミリンって読んでくださいませ。」
「えっ
![](https://blogimg.goo.ne.jp/img_emoji/namida.gif)
エミリンって…」
なんだか恥ずかしくなって周囲を見渡したが、誰も恥ずかしそうにしている僕のことを気にしていない、そりゃそうだ!これはメールだから誰にも声は聞こえない。
そして注文の飲み物や料理が次々と運ばれてきた。
うん、旨い!
とても美味しい!
オススメのイカワタはかなりイケる。
値段は少し高い気がしたが、頼んで正解だ!
なんだか僕は、この得した気分を誰かに伝えたくて、目の前にある先ほど注文に使った携帯を手にした。
「あのぉ…注文じゃないんですけど…オススメのイアワタ旨いっす」
まぁこれは注文じゃないし、返信はこないだろう…
しかし数分後、返信は来た。
「お客様、タダ者じゃありませんね。その味が解るとは…瞬時にそれを注文するとは…」
僕はそのメールを見てくすりと笑った。
そしてジョッキのビールを飲みほし、追加の生ビールとモツ煮を注文した。
送信…
すると返信がまた来た。
「ご注文ありがとうございます、因みになんですけど当店のモツ煮は濃い口の味噌ベースと薄口の醤油ベースがありますが、どちらにいたしましょう?福島出身のエミリンと致しましては断然濃い口をお薦めしますが!」
僕はエミリンに言われるがままに「じゃ濃い口で!」
すると10秒もせずに「らじゃ!濃い口いきます」と返信がきた。
僕は知らず知らずの内に、店のシステムに踊らされて今じゃエミリンからの返信を楽しみにしている。
そしてエミリンに薦められた濃い口のモツ煮、本当に美味しい。
3杯目のビールを飲み干そうとした時だ、メールが来た。
「飲み足んないっす、さぁどんどん行って!今日はエミリンのおごりよ(嘘です)、エミリンお酒の強い人が好き
![](https://blogimg.goo.ne.jp/img_emoji/heart.gif)
」
僕はやれやれと思い追加のビールをたのんだ。
「じゃもう一杯だけ」…送信
「あいよー!」
その後、締めに海鮮丼を食べて会計を頼むと、メールで金額が返信されてきた。
テーブルに掛けたまま会計とはとても親切だ。
おつりを待つ間、メールが届き「本日はありがとうございました、いい夢みてね
![](https://blogimg.goo.ne.jp/img_emoji/heart.gif)
」
僕はなんだかとてもリラックスが出来た。
確かに携帯でオーダーって聞いた時は少し戸惑ったけども、声をだしてしゃべらない分、普段ならあまり話さない人でも一人でも楽しめる。
帰り道…電車に乗り車内を見回すと…
ほとんどの人が携帯と睨めっこしている。
日本人は携帯なしでは生きていけないのかな、もしかして…
でもさっきの店ではなんだか違和感もなかったし、携帯電話ももうこの国のコミュニケーションの手段の一つなのかなぁ
会社にも営業メールが沢山届く、なんだか時代が変わりゆく反面、少しさみしい気もするピンチマンであった。