S&W M10 ミリタリー＆ポリス（タナカ）

中性的で妖艶なニッケルフィニッシュのＭ１０。
たおやかさとしたたかさの共存するその佇まい。
このモデルを銃火器として意識するようなことは、
私に限っては皆無といってよい。
美しい銃は須らく去勢されねばならぬ。
ウイスキーのキャッチコピーではないけれども、
なにも足さずなにも引かず、完成されたフォルム。
緩やかに滑らかに先端部へと窄まりゆくバレルは、
水を掛けるや否や、するすると伸びてゆきそうな
錯覚を覚えさせる。あのビノッキオの鼻のように。
一切の無駄を削ぎ落としたこの４インチバレルが
時おり気紛れに６インチ程度の長さに伸びたなら、
その驚き、悦びは如何ばかりであろう？
確か旧コクサイの往年の名品に６インチバレルの
ミリタリー＆ポリスがあって、当時小学生の私は
その姿をガラス越しに遠巻きに嘆賞するばかりで
遂に入手すること能わなかった。
チェーンの掛からぬランヤードリングのように、
円やかな半月形のフロントサイトのように、
謂わば片想に終わった昔日の戀。
歳月を隔て、その戀慕の情の依り代となったのが、
このニッケルフィニッシュのＭ１０なのであった。
それは今や言葉の真の意味に於いて
ＪＥＷＥＬＲＹの範疇に属している。
それも生体に近い温柔さを湛えしオブジェとして。