olatissimo

この島で生まれた息子はなんと中学生。ほぼ育児日記です。

『成功する子 失敗する子』(2)幼少期の親子関係

2019-02-05 | 読書メモ
のつづきです。


第一章。
幼少期の大切さを訴える内容です。

ここに登場する重要な研究をたどれば
著者の言わんとすることが分かるのですが、
その前に要点をざっくりまとめると・・・


幼少時に親からの適切な愛情を受けられないと、
その子は過度のストレス反応(アロスタシック負荷)
引き起こすことになる。
それが生涯にわたり身体的、精神的悪影響を及ぼす

逆に、ストレスフルな環境であっても、
親がきちんと子どもとの愛着関係を築いていれば
 そのストレスは「なかったこと」になる

幼少期における親の影響は大きく、
その恩恵を受けられなかった子のダメージは大きい。
だから、幼い子を持つ親へのアプローチが大切。

幼少期の愛着問題は、その人の人生に
驚くほど強い影響を及ぼし続けるが、
ある程度成長した後であっても
全く修復不可能な訳ではない
思春期は変化の時であり、
この時期に親以外の大人が
子どもに適切な指導し、良い関係を築くことで
人生を良い方向へと転換させることは可能である。


**


私は、ミーニーの実験とそれに続く
ブレアの調査、ミネソタ大の調査が
印象に残っています。



たとえ乳児を
やむを得ず騒がしいスーパーや駅などに
連れて行ったとしても、
人の出入りの激しい落ち着かない家で
育てざるを得なかったとしても、
子どもを肌身離さず抱っこしたり、
常に気にかけ、話しかけたり撫でたり頬ずりしたりしていると、
 子どものストレスは無くなる
と書いてあるのです。

これは朗報!

悪いことが「ほぼなかったことになる」って、すごいと思う。


しかも、特別なことが必要なのではない。
ほとんどの親が、無意識のうちに
日々自然とやっている程度の
ちょっとした愛情表現を頻繁に与え続けることで、
たとえストレスフルな環境であっても
子どもは安定する。


・・・逆を言えば、
当たり前程度の愛情表現ができず
子どもとの愛着が育めない親の状態って、
かなり「普通ではない」ということです。

親のケアの大切さと難しさが浮かび上がります。



それにしても、発達の問題、教育の問題って、
どんな問題であっても
結局、いつも幼少期の親子の愛着問題
戻ってくるね。

挽回の可能性があるとしても、
適切な時期に得られなかったものを
取り戻すには、
ものすごい苦労と努力と時間が必要になる。


どんなことでもそうだけどね・・・。






---以下、本に登場する研究について、覚え書き---



【ACE(子ども時代の逆境)の研究】
ヴィンセント・フェリッティによる。1995年から研究開始。

ACEを数値化。

子ども時代の逆境(暴力、性的虐待、
身体的・感情的ネグレクト、両親の離婚・別居、
家族に刑務所収監者・精神病・アルコールやドラッグの依存症がいたなど)と、
成人してからのネガティブな結果(肥満、鬱、
性行為開始年齢、喫煙、ドラッグ、アルコール依存症、
がん、心臓量、肝臓病、慢性気管支炎、自殺)は、
直接的な相関関係があった
なお、中流及び上位中流家庭の人々にも高ACEは多い。

注目すべきは、過度の飲食、喫煙、ドラッグといった
自滅型の行動をしなくとも、ACEの数値が高い人々は、
 成人後の健康に深刻な影響が出ている
ということ。

子どもの頃に逆境を経験すると、
本人の行動とは関係のない経路で
心疾患などの病気がもたらされる確立が跳ね上がる。
後に解明されるように、
それにはアロスタシック負荷が大きく関与している。



【HPA軸によるストレスへの対応】
神経科学者ロバート・M・サポルスキーによる。1998年。

人間はストレスを感じたら、
HPA(視床下部、下垂体、副腎系)により対応する。
その一連の反応をアロスタシスと命名。
 アロスタティック負荷は数値化される。

人間のストレス対応システムは、
急性のストレス(ライオンに食われそう!など)
に反応できるよう進化してきた。
こんにちのストレスは長期的に続く心理ストレスがほとんどなのに、
HPA軸は急性の時と同じ対応しかしない。

幼少期にHPA軸へ負荷がかかりすぎると、
長期にわたる深刻な悪影響が、身体、精神、神経・・・さまざまに出てくる。
ストレスそのものではなく、ストレス反応が問題になってくる。

ストレスから最も強く影響を受けるのは
前頭前皮質(感情、認知における自己調整機能を司る)。

前頭前皮質に過重な負荷がかかると、
感情を制御することが困難になる。
(おもちゃを取られたら叩くといった
 本能的な反応を抑えることができない)
あるいは思考(実行機能)を制御する能力が弱められる

(実行機能:混乱し、予測がつきにきにくい状況や情報に対処する能力)



【ワーキングメモリの実験】
コーネル大学のエヴァンスとシャンベルクによる実験。2009年。
(ワーキングメモリ:実行機能スキルの一つ。
 いくつかの物事を同時に記憶する能力。短期記憶。)

貧困とワーキングメモリの低さには相関関係があるが、
実は、貧困そのものではなく、
アロスタティック負荷とワーキングメモリの低さに
 相関関係がある
ことが判明。

アロスタティック負荷が高いということは、
幼少期、ストレスに1人で耐えねばならなかった
ということだが、
そういう子にとっての朗報は、
前頭前皮質は、脳の他の部位よりも外からの刺激に敏感で、
 思春期、成人前期になっても柔軟性を保っている
ということ。

つまり、環境を改善して実行機能を高めることができれば、
将来が劇的に改善される可能性があることを意味する。



【ミーニーの実験:毛繕いする母ラット】
マギル大学マイケル・ミーニーによる。

母ラットが子どもをなめ、毛繕いすると、
子ラットが成体になった後の行動(好奇心が強く、
 社会性が有り、頭が良く、攻撃性が低く、自制がきく
)や
身体(より健康で長生き)に影響を及ぼした。
子ラットを取り替えても同じ。=遺伝は関係ない

生まれて間もない頃の子ラットへの毛繕いにより、
子ラットのゲノムのストレスホルモン処理関係に
「スイッチが入る」こと突き止めた。
ストレスに対処する脳の部位の大きさや形、複雑さが
毛繕いの有無で大きく異なっていた。



【ブレアの追跡調査:人間の親子関係】
NY大クランシー・ブレアによる大規模な追跡実験。
乳幼児にとってストレスのある状況
(家庭内の騒乱、人の出入りなど)のリスクが、
子どものコルチゾールレベルをどれだけ上げるかを調べる。

(コルチゾールレベルにより、アロスタティック負荷がわかる)

母親の子どもに対する反応の感度(愛着、アタッチメント)
が高ければ、環境上のリスクが子どもに与える衝撃は
 ほぼ消えて無くなることが判明。



【アタッチメントの有益性】
ミネソタ大(愛着理論研究の中心)による。1972年

多くのケースでは、満1歳時点での愛着関係が、
 その後の人生を広範囲にわたって予測できる指標となっていた。
アタッチメントの安定した子は、
人生のどの段階においても社会生活を送る上でより有能だった。
好奇心、自立心、自制心をもち、人生で普通に起こり得る困難に
うまく対処することができる。

どの生徒がきちんと卒業するかを予測するには、
学力テストの得点よりも、
幼少期の親のケアに関するデータの方が精度が高かった。
子どもが4歳になる前に、誰が高校中退するかを
 8割近い確率で予測できるということだ。



【リーバーマンの「心的外傷を受けた子どもへの支援プログラム」(CTRP)】

過去の心的外傷やアタッチメントの不全は克服できる。
安定した親子関係を育むことは問題を抱えた親にも可能
ただし、親が変化するためには、助け(親子セラピー)が必要。

里親と幼い子どものための介入プログラムでは、
親だけが治療を受け、子どもには何もしない。
しかし、10回ほどの家庭訪問で子どものコルチゾールレベルは
一般家庭の子と変わらなくなり、
子どものHPA軸に大きな効果を及ぼしたことが分かった。


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