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フランス語読解教室 II

 多様なフランス語の文章を通して、フランス語を読む楽しさを味わってみて下さい。

ミッシェル・トゥルニエ『イデアの鏡』(2)

2009年10月07日 | Weblog
 [注釈]

* un puissant levier, le souvenir affectif : 「強力な梃子、すなわち情感的な記憶」梃子と記憶、ここは、同格のように読むべきでしょう。『失われた時を求めて』の主人公が、家族の愛情と密接に関係した記憶とともに、過去を全的に想起することはよく知られています。
* le propre de l’esprit : 「精神に固有なもの」過去全体を蘇らせる精神 / 現在に密接に関係するかぎりの過去を保存する脳、といった対立を踏まえての表現です。
* leur singularite’ : すべてのレッスンそれぞれの独自性。たとえば、バックハンドがうまく使えるようになったレッスンのその朝、ささいなことで妻と口喧嘩して家を出て来たのだった、というような記憶です。

 参考までに 詩句<< le vert paradis des amours enfantines >> を含むボードレールの詩編、Mœsta et Errabunda の一部を紹介しておきます。

 - Mais le vert paradis, plein de plaisirs furtifs.

 L’innocent paradis, plein de plaisirs furtifs,
 Est-il déjà plus loin que l’Inde et que la Chine ?
 Peut-on le rappeler avec des cris plaintifs,
 Et l’animer encor d’une voix argentine,
 L’innocent paradis plein de plaisirs furtifs ?

 [試訳]

 ボードレールが「幼い恋の緑の楽園」と呼んだ、若き日に形作られた過去は、それへの郷愁から私たちの胸を締めつけたり、あの無邪気な時代をもう一度とり戻したい、生き直したいという強い願いをかき立てることもあります。これが、真の個人的な考古学でもある、マルセル・プルーストの作品『失われた時を求めて』の持つ全般的な意味合いです。マルセル・プルーストは、ささいな感覚をきっかけとして湧き上がる情感的な記憶を、強力な梃子として利用し、- たとえば、一杯のお茶に浸したマドレーヌの味など - 、そして、時を揺るがすほどに生々しく、ひとつの過去を丸ごと蘇らせるのです。
 アンリ・ベルグソンによると、記憶のこうした働きは精神特有のものです。けれども過去はまた、運動に関する、有益な要素しか留めない肉体にも書き込まれることがあります。脳の役割はまさしく、現在の生活の必要に応じて過去を練り上げておくことです。脳は習得した行為しか保存せず、習得にまつわる日付や状況は削除してしまいます。たとえば私がテニスをしている時には、それまでに習ったテニスにまつわるすべてのレッスンを活用してはいますが、精神のなかで、それぞれのレッスンを別々に思い起こしているわけではありません。
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 ところで、拙宅では BSが視聴できません。テレビフランス語放送 TV 5 を見るために、NTT系列の「ひかりTV」に加入していますが、これは BS とはまた別系列のテレビチャンネルなのですね。新聞のBSの番組欄を眺めながら、これは観ておきたいな、と時々ため息をついています。
 それでは、次回は「記憶と習慣」を最後まで読むことにしましょう。
 Smarcel