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マーサの昔話

デジカメでの景色や花、動物などの写真
海外体験談、今日の一品、糖分控えめ?なおやつ等‥‥‥

立派な口髭の紳士 SR7

2009年03月21日 | Scottish Romance
 
 ブリッジを渡り、走って乱れた髪を手櫛で梳きながら、カールトン・ホテルに入る。
 フロントでキーをもらい、エレベーターに乗り3階へ着く。 “ 2度ある事は3度ある”
と言いますが、まさに其の通りで、時同じくして3回目の出逢いが・・・

 よくこれだけ偶然って続くものだと思った。 エレベーター前には、朝、私の部屋の
鍵を開けて下さったあの男性がいました。 私はその時のお礼を申し上げると、その男性は

「 朝、急ぎの用事があったので、慌てて、出て行ったのです。 どうも失礼しました。」

「 そんな、失礼だなんて・・・ 」5、6分、廊下で、立ち話をしていた。
 彼は、一人で、ラウンジに飲みに行こうと思っていたらしく、私に

「 ご一緒しませんか? 」 と、朝、期待していた言葉が、やっと聞けたのです。

 先程の興奮も覚めない内に、又、違う男性と飲みに行こうとしている。 というより
本当は飲み足りなかったのかも・・・ その方は、ラウンジでリザーブして私を待つと
言い張り、そのまま下りて行かれました。

 私は、着替えてから下りようと、部屋へ戻る。 軽くシャワーを浴び、薄化粧して
長い髪をアップにまとめ、持って来た2着のワンピースを身体に当てて、鏡に映す。
 地味な方のワンピースを選ぶ。 紺地のジョーゼットで、小さな赤い水玉がプリント
されているドレッシーなデザインのもの。 長いパールのネックレスを一結びして
首からかける。
 パールのイヤリングをつけ、ミツコを脈打つところに少しつけ、部屋を後にする。

 所要時間30分。 ラウンジへ着く。 男性は、大人っぽく変身した私に、少し
驚いていた様でした。 「 お待ちしてました。 こちらへどうぞ。 」 窓側の席に案内
された。 白い捻りロウソクの炎が揺れる中で、その方とお酒を飲み交わす。

 お互い、自己紹介を始める。 彼の名前はエディ・ビンセント28才、職業は雑誌記者
ダブリン生まれ、両親も共にアイリッシュ。 エディンバラは元よりイギリス各地
大陸の方にも出張で、時々行くらしい。 今回は、北海油田の取材で来たそうな・・・
 明日、取材の為、ホテルを出るらしい。 結婚経験あり。

 大学時代、街で知り合った女性と、しかし2年後離婚。 原因は、妻の不貞。 
 つまり浮気で駆け落ちしたそうだ。 あまり、聞くのはよくないと思って、話を
変えようとしたが、エディは、彼女の気持ちが信じられないと何回も言っていた。

 結局、金銭が原因で、ひびができたようです。 学生故、生活が苦しいのは、当然
だが、それでも2人の生活の為に、アルバイトで明け暮れ、夫婦生活も満足にできずに
エディは疲れ果て、妻はそんな生活が我慢ならず、パブを経営している男と再婚して
しまったという、世間でよくある話なのです。 エディはエディなりに説得し続けたらしい。
 “ 1年待ってくれれば、きっと、今の苦労が嘘の様になる。 ”

 でも、現実には受けとらえてもらえず、虚しい結果に・・・ありふれたといえば
其れまでだが、実際にこんな経験をしてしまえば、女性観が変わってしまうのは当然
なのかもしれない。 タバコを吸っているあの仕草が、いつか見たカサブランカのボギーを
思わせる。 私なんか、大人っぽい格好だけで、ガキっぽく見られているのでしょうね。
 やはり、年上はいいなあ。 落着いているし、何となく安心感がある。

 ホールの方では、カップルがダンスを楽しんでいた。 私達もホールに立ってダンスを
始める。 エデイは、どう見ても30過ぎに見える。 別れた妻のせいで苦労したのが
ふと見せるエディの哀愁を秘めた横顔で伺える。 何故かしら、その時、ふとマイケルの
姿がエディにだぶって映り、その時の私の思いが、よく自分自身で知らされる訳なのだが・・・
 相変わらずエディは、優しく私の手を取りダンスをリードしてくれて、とても素敵な
大人の時間を過ごしていた。 ただ私自身、もう少しダンスができれば、もっと最高の夜に
なっていたに違いないと思うのであるが・・・

 周りのカップルは、殆どがチークダンスで、キスを何度もしていた。 恋人同士って
いいなあなんて考えながら、エディも額ではあるが、キスをしてくれる。 
 立派な口髭が額に触れると、くすぐったい。 
 エディは、上辺だけでも恋人同士らしく振る舞ってくれました。

 しかし、そんな時でも、私の心中は先程の出来事ばかり、走馬灯の様に回想している。
 きっと私が、何故急に、立ち去ったのであろう、訳不明で怒っているだろうとか
何も、逃げなくても、一言、言って帰れば良かったとか、明日の約束をしておけば
良かったのに・・・ 私のとった意味不明な行動に自分自身、腹が立つやらで
後悔のし通しです。

夏の日の恋 3 SR6

2009年03月15日 | Scottish Romance
           

 少しの間、お互い黙ったまま、歩いておりましたが、不気味な静寂を破って
マイケルは、背後からいきなり、私の両肩に手を置き 「 今から、ウォルター・
スコット氏の塔を見に行こう。 」 と言い出した。
 未だ暗い気分の私は 「 ホテルへ帰る。 」 の一点張り。 
 マイケルは私の機嫌を取ろうと、おどけてみたり、ドラキュラ伯爵になって
襲い掛かって来たり、様々なアクションを繰り返しやっている。

 マイケルを見ていた・・・ずっと見ていた・・・妙にすねている私が子供っぽく思えて
そして、自分の態度に腹立ちを覚えて、又バカバカしく感じて、何も今の私にとって
貴重なひとときを、壊すこともないんだと思い直し、マイケルに当たることを止めて
気を取り直して、照れくさそうに微笑みを返した。

 そして尋ねた。 「 ウォルター・スコットって < 湖上の美人 > を書いた人? 」

 「 そうだよよく知ってるね。 エディンバラ出身の偉大な詩人、小説家だよ。
作家の記念物としては、世界最大のモニュメントで、高さは60mもあるんだ。 」

 「そんなに高いの? じゃ、登れる? 」 

 「だから、今から登りに行くんだよ。 287段の階段があるけど、君、大丈夫? 」 
 
 「 上がると何かいいことあるの? 」

 「 勿論、エディンバラの絶景が見られるよ。 」

 「 でも、時間が遅すぎない? 」
 
 「 ちょっと心配だな。 」

 と言うことで二人は、小走りでウェバリー駅の近くまで行き
スコッツ・モニュメント前に到着した。 だが、すでに閉まっていて、外観だけを見ることになる。

 エディンバラの絶景が見られると思ったのに・・・ 私は、溜息ついて、そして
エディンバラ城を見ながら、歌いだした。 <Auld Lang Syne > を

 Should auld acquaintance be forget,  懐かしい友を忘れるだろうか
 And never brought to mind ?       二度と思い出さなくなるだろうか
 Should auld acquaintance be forget,   懐かしい友を忘れるだろうか
 And auld lang syne !              遠いあの日の事までも

 For auld lang syne,             友よ遠いあの日の為に
 For auld lang syne,             遠いあの日の為に
 We'll take a cup of kindness yet,     変わらぬ友情に杯をあげよう
 For auld lang syne!             遠いあの日の為に




 私が、どうしてこの歌を、知っているのか聞いてきた。「 日本人なら、誰でも
知っているわよ。 日本語だけど、この歌は学校の卒業式とか、お店が閉店する時に
このメロディーがかかるのよ。 記念塔が閉まっているから、思わずね。フフ。 」

 そして、この歌のレピートのところから、マイケルも歌いだして、いつしか
マイケルの鍛えあげられた、たくましい胸が、私の背中に触れていた。

 二人で、静かにハモッていた。 何度も、何度も。日本を離れて1ヶ月
ホームシックとやらには、未だ一度もかかったことのない私が、二人で何度も
ハモっている間に、涙が浮かんできたのです。 そして、微かに震えている私が
解ったのでしょう。

 マイケルは私の前に来て、涙をそっと拭いて、抱き寄せました。
 そして、慰めようとしたのかキスをしてくれました。 とてもナチュラルに素敵でした。
 私が、マイケルを見上げると「 元気出せよ! 」と言う言葉と同時に再びキスを・・・
 顎に軽く指を当て、唇をそっと重ねた。 じっくりと味わうようなキス。
 何秒かのキスは、終わりましたが、私は、そのままマイケルを払いのけて
去って行ったのです。

 きっと年甲斐も無く、照れていたのかも知れません。 まるで、映画のワンシーンに
出てくる様な事を、たった今、経験したものですから、興奮しても無理ないの
かもしれませんが、それから、一度も後ろを振り返ることもなく、小走りで
カールトンホテルへ向っていました。


 




夏の日の恋 2 SR5

2009年03月14日 | Scottish Romance
 これが舞いですか? 藤間流の日舞? 少しかじっただけの盆踊りに近い、低レベルな
踊りを、平気で踊っている自分が信じられなかった。 旅の恥はかき捨てか・・・
私の行為は日本の恥だ。 日舞を全く理解していない客人達は、アンコールなんて
言っている。 助け舟を出してくれる筈のマイケルでさえも、皆と同じ事を言って
いるのには、私もほとほと疲れました。

 皆でワイワイ言っている時に、先程オーダーした料理が運ばれてきました。
ラムステーキ、フライドポテト、クリームビーンズとイギリス風のメニューでしたが
最後に、ライスサラダ ? ・・・ ライスサラダが出てきたときは、いささか
驚きました。 マイケルの優しい気配りなのです。 私が、そろそろ、日本食に飢えて
いるだろうという配慮なのです。

 勿論、ライスサラダは、日本食とはほど遠い物でしたが、ライス=アジアという
概念が彼の中にあったのかもしれませんね。 嬉しいじゃないですか、つい4時間
前に、出逢ったばかりの人に思えますか。 こんなに気がつく人って、日本人でも
あまりいないでしょう。 しかも、こんな美しい青年が、異国人に対して・・・
 感慨無量でした。

 下心だって、あってもいいじゃないですか。 マイケルなら許せる。
 なんて、妄想しております。 でも彼は、そんな事考えてないと思います。
 マイケルは、ただ、私にエディンバラの良さを解って欲しいだけだと、私に
いい思い出を作ってくれているだけだと思う。 私も心で彼に感謝して、“ せいいっぱい
楽しませてくれて有り難う。 ” ・・・

 そんな事考えてたら、又、質問攻めにあってしまって、日本の経済の事
イギリスの経済の事、今この時、ヨーロッパは大変な不況で、ケンブリッジでも駅前に
酔っ払いのホームレスが何人かいましたけれど。 飲まねば、おられないわね。 
 ここエディンバラでも失業者がかなり多くて、私達の周りに集まってきた人の半数は
失業保険で生活しているとつぶやいておられました。
 2台のテーブルが4台になり、15人のグループができちょっとしたおやじコンパの様
でした。 半数は中年以上だったので、戦争の話も出てきました。 お酒もかなりすすんで
いたのでおじさんたちは、結構、勝手な事を言い始めたのです。

 その中に、1人老人がいて何やら顔が険しくなってきて、急に大声を出し始めたのです。
 そして、ドイツ人の悪口を憎しみを込めた表情で言い始めたので、嫌な雰囲気が漂って
きたと思った矢先、案の定、日本人の事も批判してきて、酔いに任せて「 ジャップ! 」
って何度も言い出した。 最初は私も、おじいさんの昔話を聞いて、うなづいていた
のだけれど、何故だかよく解らないが、メラメラと愛国心が芽生え燃えてきて
「 じゃあ、最初にオイル切ったの、どこの国よ。 同盟国のアメリカじゃないの。 
第2次世界大戦を起こさせたのはアメリカじゃない。 」 と戦争経験者でもないけれど
皆の前で言い始め、ウイスキーをグイグイ飲み始めたのです。

 お酒飲まなければいられなくなり、おじさん達もボトルを何本か開けていた様で
周りの人もやれやれという感じ、あきらめ顔で老人を外へ連れ出そうとしていました。
 老人は、アメリカ人ではないですが、同じような意図として、 ” Remember pearl Harbor! ”
は哀しいかな、ここにも健在していたようです。
 これが、ロンドンのパブだったら、どうでしょう。 やられているかも・・・

 私は、何だか遣る瀬無くなってきて、又、ウイスキーをグラスに注ごうとした時
マイケルが私の手を、テーブルの下に引き寄せ、掌に 「 Let's go out !  」 と
書いたのです。

 周りの人達も、私にとても気を使ってくれて、握手を求めてきたり、肩をポンポンと
たたいてくれたり、一言一言、私に元気付けの言葉を言ったりして、私を慰めて
くれました。 「 君もじいさんも悪くないんだ。 全て、戦争が生んだ悲劇なんだ。 」
と日本へ来たことのあるおじさんが言い、こう付け加えた。
 「 戦争中、あのじいさんの一人息子はドイツ兵に撃ち殺されたんだよ。
そして、そのショックが今でも忘れられなくて、毎晩飲まなければ眠れないんだよ。 」
と話してくれた。

 そんな訳で、相当、白けた場になってしまったが、これも、一種の社会勉強だと思い
マイケルと店を後にする。 マイケルは、私に連れて行きたい所があると言い
機嫌の悪くなった私は、もう遅いのでホテルへ帰ると言い、しばらく沈黙の状態が続く。

 月明かりの下、石畳のゆるい坂道に二人の靴音だけが響いていた。




夏の日の恋 1 SR4

2009年03月08日 | Scottish Romance
                                 写真はイメージです


 そして、いつの間にか、大変入れ込んでしまい、二人でああでもない、こうでもないと
意見を交わしながら完成したり、互いの顔を模写したりして、夏の日の爽やかなひとときを
楽しむ2人は、まるで、昔からの友人であるかのように親しくはしゃぎ、初対面とは
全く思えない程のフィーリングの良さでした。
 この時2人の心の中は、きっと同じ事を考えていたのかも知れません。 

 この時期、スコットランドのサンセットは、緯度が上の方にある為、大変遅く
9時頃迄明るくて、夏は人々にとって、束の間のパラダイス。 少し眠くなってきたのか
マイケルは、弱い陽を身体全体に浴びながら、うたたねをしだした。 私も同じように
芝の上に横になった。 赤ちゃんの泣き声が、遠くの方で聞こえる他は、あまり雑音は
無く気分爽快でした。 日本なら、宣伝カーが通ったり、公園でカラオケやっている人も
いる位で、騒音だらけの世界。 ここは、静かでいいわ・・・等と考えているうちに
うとうとしていたようです。 気がついた時は、5時10分を過ぎたところで約1時間弱
うたたねしていたようです。

 陽はまだまだ高いが、多少、気温が下がる位で周りの人は、相変わらずのんびりしていた。
 マイケルは、私の横で、未だ気持ちよさそうに眠り続けているので、私のカーディガンを
そっとかける。 短い夏の日差しをたっぷり浴びて、すやすやと起きる気配なし。
 寝顔見るなんて悪いかしらと思いながらもマイケルの寝顔にうっとりしている。

 魅入られる。 起きている時も眠っている時でさえも、どうしてこんなに美しい
のだろうと、だんだん、顔の真上まで、近づいていました。 美しすぎて、何だか怖い。
 ふと、そうつぶやく。 気配を感じたのでしょう。 マイケルの目が開き、コバルト
ブルーの瞳が現われ、キラキラと涙が落ち、輝いていました。

 そして、ゆっくり起き上がって、手を上に上げて背伸びをしながら言った。
 「 エディンバラは本当に素晴らしい。これ以上の所は、きっと他にはないだろう。
君もそう思うだろう。 」 と言い張ったのです。 その時、結構、海外旅行の経験豊富な
私は、随分世間知らずな青年なのかしらと思ったが、この後、イギリス留学が終わって
ヨーロッパ大陸に渡ることになるのだが、先に話す事にしましょう。

 ヨーロッパの国、数カ国を回り、この目で、この感性で、この話術で、各国の
文化や芸術、歴史、伝統、遺跡、建築様式、人間性、ナショナリズム等を勉強、体験して
言える事は、それは、確かにエディンバラと同様に、或いは、それ以上に、感嘆の
声を挙げるほど、感動した場所も、実に何十ヶ所もあったし、大切な出逢いもありました。
 しかし、私が思うにはそれらの都市には、数多くの観光客が行きすぎた為に、それらの
本来持っている輝かしい過去の遺産の価値が下がってきている。

 それらの景観を崩してしまうビル店等が増えすぎて、旅行者にとっては便利な事だが
本当に歴史を愛する者にとっては、とても醜悪で、我慢ならないものなのである。
 その点、スコットランド地方は、それらの都市ほど、まだまだ観光客も多くないし
景観も変わっていない。 もし、観光客が増えたとしても、スコッティシュの気質が
受け継がれてゆく限りは、街の景観が殆ど変わらないと思うし、私自身スコッツマンに
期待し、いつまでも今の姿を留めて欲しいと祈るだけであります。

 だから私は、中世の街並が、息づいているこのエディンバラ、自然の美しさ
景観の良さ、のどかなそして素朴なスコットランド地方を於いて、一番は考えられません。
 私の意見です。 マイケルが言った時は、ピンときませんでしたが、後日思った事は
マイケルの自信に満ちた言動が、とてもうらやましかった。 哀しいかな、私には
決して言えない事なのです。 マイケルは、私のカーディガンについた芝を、丁寧に
取り除き、たたんで返してくれました。

 そして、一緒に飲みに行く事になり、マイケルが友人とよく行くパブレストランへ
案内してもらう。 公園から歩いて15分、入店直後すでに店内にいた地元の人達の
視線は避けられず、集中砲火の如く、私に突き刺さっております。 何故ってこの店で
アジア人の客が来たのは珍しいという事で、ハトが豆鉄砲をくらったかの様に
キョトンとした眼差しで、見つめられました。 しかし、10分もいると、皆、私達の
周りに集まってきて、色々と日本の話をさせられてしまった。

 その中で一人、20年前日本に来た事があるという中年の男性がいて、各地を
観光したことやら、その時、学生運動のストライキにあって困った事、京都で
芸者さんの踊りを見た事等を話され、私の手をとり、日本舞踊を踊らせようとした
のには、私も弱ってしまって少しばかりの経験がある舞を披露すると、その男性は
元より、店中のお客さんからも拍手喝采。

マイケル・スコットとの出逢い SR3

2009年03月07日 | Scottish Romance
 
 私も一角に座りアガサ・クリスティーの小説を読み始める。 その場所で又、思わぬ
ものとの出逢いがあった。 私の足元に、やってきたリスでした。 よく見れば、私の
靴の横に果実の種らしいものが落ちている。 それを拾って、しかも其の場所で
カリカリと音をたてて食べている。 ア然と口が開いたまま、塞がらなかった。
 日本では、ペットショップに行かなければ、まず見れないし、第一こんなに慣れて
いない。 日本人は、動物を見かけたら、触ってみたり、捕らえたり、心無い人は
虐待したりするので、人に慣れないし逃げるのです。 地元の人達は、その様な事を
せず、極自然に慈しみ、暖かく見守っている。 自然も同様に、だから、こんなに
芝生も青々として美しいのです。 そう言えば、ケンブリッジで聞いた事がある。

 イギリスの芝生は、どうして日本に比べて、緑も鮮やかだし、こんなに美しく
保たれているのでしょうと・・・ 老人が 「 雨が多いのと、自然を愛する度合いの
差と手入れの歴史が違う。 イギリスの芝生は何百年も前から、大事に育てられて
きたものだからね。 日本とは、比べられない。 」 と言っていたのを、ふと思い出し
ました。 改めて、心根の優しい地元の人達を尊敬する次第でした。 恐怖心のない
リスは、私がじっと見つめている間も、一向に逃げようとしないのです。

 アガサの小説を横に置き、バッグからスケッチブックを取り出し、早速そのリスを
写生し始める。 ウォルト・ディズニーが子供の時、よく悪戯をして親に叱られ
物置に閉じ込められた時、ディズニーは、半泣き状態になった。そこへ、現われた
一匹のネズミと仲良しになり、その姿を漫画にしたのが、ミッキーマウスである
ことはよく知られています。 私も、このリスと仲良くなって漫画にでもしようかしらと
コンテを走らせていた。 本当に信じがたい事でした。こんなに近くで、のびのび
動き回っているリスを見ていると、何だかとても、ほのぼのとした気分になって
きた。 荒んだ私の心が癒された気がした。 それに、このリス、何故かしら、今の
私自身そのものの様にも感じてきて仕方なかった。

 そんな感動的な出逢いは、このリスだけではなかった。 私が写生している姿を
後方から見ていた青年がいたのです。 このリスに夢中だった私は、全くその青年の
存在には、気がつく余裕が無かったのです。 その青年は、私の方に近づいてきて
そして、言ったのです。

 「 Are you Singapole ?  」
 
 私「・・・」

 ケンブリッジで、授業をずる休みしてパンティングに行った時の日に焼けた顔を見て
言っているのかしら。 さほど、腹も立ちませんでしたが、一応、日本人である事を
伝える。 他国の人と間違えられるのは、私自身あまり好まない。 むろん、私だけでは
ないだろうが、尋ねる時点で 「 Where are you come from ?  」 と聞けばいい。
 推測で問うのは、良くないと思います。
 1ヵ月前に、ヒースロー空港に着いた時、色の浅黒いツアーの添乗員さんが、ベトナム人に
間違えられて、憤慨されていたことがあった。 アジアとの差別を言っているのでは
ありません。 自分の国に、誇りを持っているからです。

 でも、この青年と目が合った時、そんな事はどうでもよくなってしまいました。
 瞳があまりに美しすぎて、この世のものだと思えない位でした。
 表現がオーバーだなんて思う人は、きっと、真の美を目前にしたとしても
ただの通りすがりで終ってしまうでしょう。 感受性の問題です。

 イギリスへ来た時から、青い瞳にはかなり見慣れた気でおりましたが
しかしながら、この青年の目は、アドリア海の海の色を思わせる様なコバルト・ブルーの
魅力的な目をしておりました。
 じっと見つめられると、子供の頃、海で溺れかけた時の様に海の中へ引きずり
込まれそうな位、私をグイグイと引き寄せる魅惑の目の持ち主でした。

 “ 目は口ほどにものを言う ” ということわざがありますが、この青年の場合
実にこの言葉がしっくりときます。 私は、悪魔にでも魅入られた様な気がして、どうも
動きがとれず、慌てました。 それに、とても端正な顔立ちで、栗色の髪を
しているのです。

 高すぎない鼻、引き締まった唇、ハンサム等という言葉では、あまりにもノーマル
すぎて、使いたく無い位、品格のあるマスクでした。
 日本にくれば、スター間違いなしだと確信出来る程です。 私がその道のスカウトマンなら
きっと彼を口説いて、日本へ連れて帰るでしょう。 名はマイケル・スコット。

 エディンバラ大学の学生でスポーツ万能、特に今、柔道に興味を持っているという。
 一度、武道館に行ってみたいとの事。 マイケルが私の横に座り、持っていた新聞を
広げ出し、クロスパズルのページを開き、私に質問するのであった。


女友達との再会 SR2

2009年03月03日 | Scottish Romance
 仕方なく部屋へ戻り、スーツケースから財布を取り出し、部屋を後にしました。
 何も言わないで立ち去るなんて、随分せっかちな男性だわなんて、独り言を言って
おります。 でも、よくよく考えてみますと、当然のことなのかもしれません。

 私は一対、何を期待し、何を考えているのかしらと薄笑いさえ浮かべておりました。
 女性一人の部屋に男性を入れること自体、不謹慎そのもの。 勿論、相手がどこの
誰だかということも分からないのに、用事が済めば、いなくなるのは当然と言えば
当然なのです。 しかし、私の心の中では、そんな小さな出逢いでも、何かのつながりを
持とうとして、或いは 「 今から、お茶でもご一緒しませんか? 」 という様な言葉を
期待していたのかもしれません。 軽率だとか、そんな深い意味ではなくて、地元の人達
又は、私と同じ様な旅行者、他国の人達と友人関係になる為には、あらゆる場面で
自分という存在を解ってもらわなければならないのです。

 ただ観光気分で名所地を見て、ウットリしお土産を買い、予約されたレストランで
皆と食事をして、帰って行かれる旅行者も沢山いらっしゃいますが、私は、そのような
中身の無い安っぽい旅行にはしたくないと、前々から考えておりました。
 勿論、安っぽいというのは、その旅行に対する価値観の問題であって、人によっては
それがベストだと思われる人々もいらっしゃる訳でして、ただ、私くし個人の
意見として、添乗員任せのパック旅行程、つまらない年寄りツアーだと思って
います。 それでも、おばあさんになったら、お世話になるかも知れませんが。

 若いうちは、一人及び二、三人と、常に少人数で行動し、できれば知名度の低い
地方を選んで、旅する事に重点を置くと、意義深い旅行として、終わることもあります。
 地元の人達しか入らないパブで、お酒を飲んだり、名も知らない通りを歩いて
地図案内にも載っていなかった小さな博物館を発見したり、又その場所で始まる
様々な出逢いを大切にしたいと、意を新たにしました。

 それから、私はホテルを出て、プリンセスストリートに向っていました。
 花時計のある通りの前を横断し< ロイヤル・スコッツマン >に入りました。
 ヨークシャープディングセットなるものを注文し、しばらくして、ウェイトレスが
“ Tea with milk  ” を持って来てくれた時、ケンブリッジで知り合った日本人の
女友達が、偶然、店に入ってきたのです。 お互い目が合うなり、驚嘆の声を発しました。
 何故ならばケンブリッジで別れた日、彼女は 「 明日、ドーバーを渡ってフランスへ
行く。 」 と言っていたのです。

 でも私が、ケンブリッジ在学中、放課後のパブで、彼女としばし語り合った時に
スコットランドへは、ぜひ行くべきであると話していた事が、頭から、離れなかったそうで
急遽、1週間の予定を組んで、訪れてみる事にしたそうなのです。
 そして、経過した一週間の様子を話し出したのです。

 彼女は、スコットランド地方へ入るやいなや、風邪をひいてしまい、39度近い
熱を出したまま、B&B ( Bed and Breakfast=一泊朝食付きの民宿 ) へ転がり込む
ように宿泊させてもらった時、そこのランド・レディが、心根の優しい女性だった
そうで、身内の如く、看病してくれたという事でした。

 旅での病は、とても辛いものです。 一人で絶えなければなりませんし、親切に
してもらう事が一番の薬なのです。 ホームメイドのマフィン、絞りたてのミルク
心のこもった料理、メルヘンティックなカーテンに、ふかふかのカーペット
スプリングの効いたセミダブルベッド、牧歌的な風景がそのまま絵の様に映って
いる大きな窓、そんな部屋に泊めてもらうだけでも幸せなのに、ここまで、面倒を
見て下さったなんて、感激の一言だそうだ。 それで彼女は、一度にスコットランド人の
気質が好きになり、自然も同様に彼女にとっては、忘れがたい思い出となったのです。

 スコットランドに来なかったら、きっと味わえなかったかもしれないと迄
彼女は言っていた。 素晴らしい体験ができ、満足している様でした。
 一時間程話した後、いよいよ彼女が汽車に乗る時刻がせまってきて、店を出る
ことになり、谷底にあるウエィバリー駅に向かい、そして、彼女との日本での再会を
約束して別れる。

 彼女を見送った後、私は改札口を出て、再びプリンセス・ストリートに戻り
公園へと歩いて行った。 その公園は、エディンバラ城が岩山の上にそびえ立ち
その下はなだらかな岩肌の斜面があり、谷底に当たる所が、芝生で埋った広い公園
なのである。 大勢の人達が、そこで日光浴をしながら、アイスクリームを食べたり
本や新聞を読んだり、恋人達が愛を語り合ったり、それぞれの夏の日を送っている。

ジョージ・ペパードに似た男性 SR1

2009年03月02日 | Scottish Romance
 その日は朝から、カールトンヒルに赴き、旧市街のスケッチをしておりました。
 絵は、幼い頃から大好きで、中でも人物画を好んで、よく描いたものでしたが
成長するにつれ、風景画へ転向していったということもあって、北のアテネと
呼ばれている、この場所を選び、下手ながらもスケッチブックにコンテを
すべらせていました。

 人が少ないという事も幸いだったのですが、何せ異国の地、伸び伸びして描ける
ようです。 中世の香りが漂うこの街の空気を吸っていると、ロマンティックに
ならない方が、どうかしていると思いました。 しかし、空腹という生理的現象は
こんな気分の時でさえ、必ずやってくるものなのです。

 2時間前にホテルで朝食をとったばかりなのに、あの時ちょうど私の斜め向かいに
座っていた、若き日のジョージ・ペパードに似ていた男性を、変に意識しすぎて
遠慮気味に食べたものだから、足らなかったようです。 少し早めのランチだけれど
プリンセス・ストリートにある、< ロイヤル・スコッツマン >というヨークシャー
プディングのおいしい店へ行くことにする。 
 ところが、肝心の財布がバッグの中に見当たらず、宿泊先のカールトンホテルに
引き返すことになったのです。

 このホテルは、イギリス映画 「 炎のランナー 」 にも出ていましたが
素晴らしい位置に立っているのである。 東にカールトンヒル、西にエディンバラ城
ホテル前の道はオールドタウンとニュータウンを結ぶブリッジに続いている。
 ホテルのずっと下は谷底にあたり、国鉄が通っていて、ホテルの周辺もロイヤル
マイルに続く道があったり、中世の建物が建ち並び、とてもいい目の保養になると共に
散策するのに何かと便利なホテルでした。

 15分程歩いてホテルに着きフロントで鍵をもらい、エレベーターに乗り、まさに
ドアが閉まろうとする時、1人の男性がサッと風を切るように乗ってきました。
 私は咄嗟に、「 Look out! 」 と言ったが、聞こえなかったのか、それとも聞いて
聞かぬ振りをしていたのか、知る由もないが、随分と澄まされていた。
 私は、3Fにボタンを押し、ただ白けた雰囲気の中でたまりませんでした。

 エレベーターはゆっくりした速度で3Fに着くと、同乗の男性は、私の後ろに下がって
「 After you please! 」 と言ったのです。 
 私は軽く一礼をしながら降り、続いてその男性も降りると、私とは逆方向の廊下へと
歩いて行きました。 深紅の絨緞を敷き詰めてあるこのホテルの廊下はとても広く
所々に、大理石の彫刻像が置かれてあり、優雅さの中にも開放感を感じさせる趣きのある
ホテルでした。 飾り気の無い、空っぽのマッチ箱を積んで建てた様などこかのホテルとは
比べものにもならないほどでした。

 もし比較するならば、京都の古い料理旅館と比べた方が、ずっと価値があると、日本の
二流ホテルの悪さを思い出しながら、一番奥の突き当りを右へ曲がり、部屋の前へ着く。
 鍵を挿し開けようとしたが、どうもうまく開かない。 数分間試すが、指先が痛くなる
ばかり、ほとほと疲れてフロントに申し出ようとエレベーター前に戻って行った。
 するとそこに、先程の男性が、今度は先に、エレベーターを待っていたのです。

 私の溜息が聞こえたのでしょうか、その方は、私の様子を伺う様に、小さな声で
「 What is the trouble with you? 」 と、親切にも尋ねて下さったのです。
 それで私は、鍵の開け方に不慣れな事を説明しました。 その方はそれを聞くなり
すぐ 「 君の部屋へ案内して下さい。 私が試してみましょう。 」 と言うことで
私の部屋へ案内することになりました。 その方は、鍵を挿して2、3回ガチャガチャと
試しますとすぐにカチンという音が聞こえ、同時にドアは開きました。

 淡いブルーで統一された部屋が目の前に広がり、安堵した私は中へ入りました。
 「 Thank you so much! 」 と言い振り返りますと、もうその方の姿はありませんでした。
 厚みのある絨緞のせいだったのでしょうか、足音も無く立ち去られていましたので
少し驚きましたが、私はお礼を言うべく、小走りで、エレベーター前へと追いかけて
行きました。

 ところが、エレベーターのドアは閉まった直後で、行き先は階下へ向かっていました。
 まあ、なんてせっかちな人なんでしょう。 そんなに早く逃げなくても・・・ 
 せっかく、お礼を言おうかと思っていたのに、がっかりだわ。 
 きっとデートのお約束でも・・・だからお急ぎになっていたんだわ。