ブリッジを渡り、走って乱れた髪を手櫛で梳きながら、カールトン・ホテルに入る。
フロントでキーをもらい、エレベーターに乗り3階へ着く。 “ 2度ある事は3度ある”
と言いますが、まさに其の通りで、時同じくして3回目の出逢いが・・・
よくこれだけ偶然って続くものだと思った。 エレベーター前には、朝、私の部屋の
鍵を開けて下さったあの男性がいました。 私はその時のお礼を申し上げると、その男性は
「 朝、急ぎの用事があったので、慌てて、出て行ったのです。 どうも失礼しました。」
「 そんな、失礼だなんて・・・ 」5、6分、廊下で、立ち話をしていた。
彼は、一人で、ラウンジに飲みに行こうと思っていたらしく、私に
「 ご一緒しませんか? 」 と、朝、期待していた言葉が、やっと聞けたのです。
先程の興奮も覚めない内に、又、違う男性と飲みに行こうとしている。 というより
本当は飲み足りなかったのかも・・・ その方は、ラウンジでリザーブして私を待つと
言い張り、そのまま下りて行かれました。
私は、着替えてから下りようと、部屋へ戻る。 軽くシャワーを浴び、薄化粧して
長い髪をアップにまとめ、持って来た2着のワンピースを身体に当てて、鏡に映す。
地味な方のワンピースを選ぶ。 紺地のジョーゼットで、小さな赤い水玉がプリント
されているドレッシーなデザインのもの。 長いパールのネックレスを一結びして
首からかける。
パールのイヤリングをつけ、ミツコを脈打つところに少しつけ、部屋を後にする。
所要時間30分。 ラウンジへ着く。 男性は、大人っぽく変身した私に、少し
驚いていた様でした。 「 お待ちしてました。 こちらへどうぞ。 」 窓側の席に案内
された。 白い捻りロウソクの炎が揺れる中で、その方とお酒を飲み交わす。
お互い、自己紹介を始める。 彼の名前はエディ・ビンセント28才、職業は雑誌記者
ダブリン生まれ、両親も共にアイリッシュ。 エディンバラは元よりイギリス各地
大陸の方にも出張で、時々行くらしい。 今回は、北海油田の取材で来たそうな・・・
明日、取材の為、ホテルを出るらしい。 結婚経験あり。
大学時代、街で知り合った女性と、しかし2年後離婚。 原因は、妻の不貞。
つまり浮気で駆け落ちしたそうだ。 あまり、聞くのはよくないと思って、話を
変えようとしたが、エディは、彼女の気持ちが信じられないと何回も言っていた。
結局、金銭が原因で、ひびができたようです。 学生故、生活が苦しいのは、当然
だが、それでも2人の生活の為に、アルバイトで明け暮れ、夫婦生活も満足にできずに
エディは疲れ果て、妻はそんな生活が我慢ならず、パブを経営している男と再婚して
しまったという、世間でよくある話なのです。 エディはエディなりに説得し続けたらしい。
“ 1年待ってくれれば、きっと、今の苦労が嘘の様になる。 ”
でも、現実には受けとらえてもらえず、虚しい結果に・・・ありふれたといえば
其れまでだが、実際にこんな経験をしてしまえば、女性観が変わってしまうのは当然
なのかもしれない。 タバコを吸っているあの仕草が、いつか見たカサブランカのボギーを
思わせる。 私なんか、大人っぽい格好だけで、ガキっぽく見られているのでしょうね。
やはり、年上はいいなあ。 落着いているし、何となく安心感がある。
ホールの方では、カップルがダンスを楽しんでいた。 私達もホールに立ってダンスを
始める。 エデイは、どう見ても30過ぎに見える。 別れた妻のせいで苦労したのが
ふと見せるエディの哀愁を秘めた横顔で伺える。 何故かしら、その時、ふとマイケルの
姿がエディにだぶって映り、その時の私の思いが、よく自分自身で知らされる訳なのだが・・・
相変わらずエディは、優しく私の手を取りダンスをリードしてくれて、とても素敵な
大人の時間を過ごしていた。 ただ私自身、もう少しダンスができれば、もっと最高の夜に
なっていたに違いないと思うのであるが・・・
周りのカップルは、殆どがチークダンスで、キスを何度もしていた。 恋人同士って
いいなあなんて考えながら、エディも額ではあるが、キスをしてくれる。
立派な口髭が額に触れると、くすぐったい。
エディは、上辺だけでも恋人同士らしく振る舞ってくれました。
しかし、そんな時でも、私の心中は先程の出来事ばかり、走馬灯の様に回想している。
きっと私が、何故急に、立ち去ったのであろう、訳不明で怒っているだろうとか
何も、逃げなくても、一言、言って帰れば良かったとか、明日の約束をしておけば
良かったのに・・・ 私のとった意味不明な行動に自分自身、腹が立つやらで
後悔のし通しです。