飯山水害「なぜ皿川堤防は決壊したのか」の2

2021-06-25 13:13:10 | 日記

飯山市の対策本部の状況

その様な「大変な事態が皿川で起こっている」という事を当日はまるで認識できていなかった飯山市の対策本部の本当に残念なコメントは以下の通りです。

『◎皿川 4時15分頃 左岸堤内地の水位が低下、右岸堤内地の水位が上昇したため、この時に、決壊したと思われる。
(但し、13日の当日は、越水か決壊か不明であった。)』(注1)

市役所の議会でのやり取りを聞いていても「左岸越水は職員が確認した」という話で止まっており、実際に自分の目で右岸の越水場所、そうして決壊場所を確認したという職員の話はでてこない。つまり「右岸堤防で何が起こっているのか」を対策本部はまったくつかまずに市内に対する避難勧告を出していた事になる。

これは全く初歩的なあやまり、飯山市の対策本部は基本が出来ていないという事を示すものである。

「皿川上流に降った雨が皿川決壊の原因である」という市長の主張について

この主張が妥当なものであるのかどうか、気象庁の報告では「皿川堤防決壊は異常なものである」と言うのが結論になっています。

・元資料 気象庁 : 台風第19号の事例における雨量等の予測と実際の状況等について(速報): 特に10ページの表が重要https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/jirei/sokuhou/R011012.pdf

これについては横丁大家さんが以下の様に報告されています。(一部加筆あり)

『・・・気象庁が、令和元年台風19号で、決壊した危険度分布対象河川66河川の予報と実際についてのまとめの「洪水警報の危険度分布の状況について」では、
➊極めて危険(濃い紫)は66河川中56河川(約85%)
➋非常に危険(うす紫)は66河川中9河川(約14%)
➌警戒(赤)は1河川(約2%)
だと発表しました。
気象庁の予報=➌警戒(赤)で決壊したのはたった2%の1河川でした。(引用注日本全国の中でたった一つ、皿川の右岸堤防だけでした。
ということで、1河川(2%)で警戒(赤)が出現と注記があるほどでした。

ということは、皿川流域での「土壌雨量指数」「表面雨量指数」「流域雨量指数」は、他の65河川よりも低く、警戒は必要であったけれども、➊極めて危険でも、➋非常に危険でもなかったことになります。

10月12日午前11時から13日午前11時までの24時間降水量は
斑尾観測所(市)288㎜
富倉観測所(市)207㎜
飯山市観測所(市)129㎜
飯山(アメダス)122.5㎜
だったと、飯山市の令和元年台風第19号関連災害経過報告【第4報】にあります。・・・』:  https://archive.fo/YbNOq 

・上記記事の全文 : https://archive.fo/QIVsQ

前のページで述べた様に、皿川堤防は「セミバック堤」として計画されたものではありましたが、完成にはいたっておらず、未完成のままで放置されていたのでした。それと「排水ポンプで皿川の水を千曲川に排出しなかった」->「皿川ダム湖を満水にさせた」と言うのが理由で、「たかだか警戒状態でしかないのに皿川堤防は決壊した」と気象庁が驚く事になったのでした。

そして以下もまた横丁大家さんの記事から引用となります。 : https://archive.fo/k1xPH

『セミバック堤は、
合流点に逆流防止施設(水門が多い)を設けて本川の背水が支川に及ぶのを遮断できる機能を有した堤防形態のことである。支川の計画堤防高は本川の背水位を考慮するが、支川の自己流量をもとに天端形状を設定できる。
※ 自己流堤方式
合流点に逆流防止水門と排水施設(ポンプ)を設け、本川水位が支川へ及ぶのを遮断できる場合で、かつ支川の計画堤防高を本川の背水位とは無関係に支川の計画高水位に対応する高さとする場合、この支川の堤防を自己流堤と称している。
と河川用語集にあります。』

つまり「皿川堤防は皿川樋門によって千曲川がいかに増水しようとも、樋門のゲートを降ろす事で千曲川からの泥水の皿川への逆流を防ぐことができる。そうして樋門の前にたまりこんだ皿川の水は排水ポンプで千曲川に放出する事を前提とした堤防である」という事です。

しかしながら実際の皿川堤防は公称318.0mの標高高さとなっていましたが、JR線路との接続部がそれよりも70センチほど低くなっており、その部分から皿川ダム湖が満水になった時に越水をし始めました。

まあ本来は皿川ダム湖は満水にしてはならず、その前に排水ポンプ車で排水するのが基本的な手順ですが、飯山市と河川事務所は「今回も皿川樋門は開けっ放しで行く」でという計画で合意していましたから、排水ポンプ車の事前配置はもちろんありませんでした。

さてそう言う訳で、その低い部分から満水状態の皿川ダム湖は越水し始めました。越水し始めたその部分の堤防の法面は耐水化されておらず、土を固めただけでありましたから、流れ出る水によって簡単に削り取られ、満水状態を2時間しか保持できずに決壊したのでした。(注2

これが気象庁が「警戒レベルでしかないのに皿川堤防が決壊した(のは異常である。)」と報告する事になったいきさつであります。

それでこうした人的なミスを「雨が多く降ったから、、、」と言うように「自然現象のせい」にしていたのでは、反省と言うものがなく従って進歩と言うものもそこには無いのです。

 

注1:・令和元年台風19号関連災害経過報告【第2報】
https://www.city.iiyama.nagano.jp/assets/files/senryaku/press/1028iiyama.pdf :この資料の最後に時系列表があり、そこに記載されている飯山市のコメント参照の事。

注2:今回の堤防決壊を受けて長野県が行った決壊場所の修復完了の姿を示す。:・現状完成形 <--2020年3月25日現在

今回の災害が発生する前までにこの姿まで堤防の完成度を上げていなかったのは、長野県の怠慢、落ち度である。(=北信建設事務所の怠慢) 

決壊場所にコンクリートブロックを投入した状況を示す: https://archive.md/93ysb :

この画像から分かる様に、決壊場所の左側までは堤防の法面がコンクリートで耐水化されていた

だが決壊場所は単に土を入れて固めただけで、法面の耐水化は行われてはいなかった。

北信建設事務所はそのような状態で皿川堤防を放置していたのである。

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