紫苑の部屋      

観劇・絵画と音楽・源氏物語      
について語ります        

源氏物語の背景ー唐代文学の受容

2010-12-12 12:21:12 | 源氏物語
源氏物語はながく、本居宣長の「もののあはれ」
という視点で読まれてきました。
それは同時に中世の古注釈書を軽視する、という結果となっていました。
ところが昨今、古注釈書には典拠となった引き歌はもちろん漢籍、仏典、
あるいは桐壺帝-朱雀帝-冷泉帝を醍醐-村上-宇多に比定というように、
史実を準拠とする解釈など、
興味深い掘り下げがなされています。

今回は唐代伝奇の受容の痕跡を
注釈書からだけでなく、
直接源氏をはじめ中古文学に認めていこうとする試み、です。
新鮮な視点であり、
また源氏物語が尽きることの無い広がりと奥深さを示すものとして、
注目に値します。
とはいえ、源氏の研究者も人のやらないことを研究してこそ、ポストが保障されるわけですから、しかたがないのですが、
ちょっと研究者のための研究、という感があります。
紫式部はどのような素養をもっていたのか、
源氏物語に残された痕跡から時代の素養を再現してみせる、
それは、源氏をいかに深く読み込むか、という視点に集約してみせてほしかったと思います。

いずれにしろ、伝奇ものと分類できる遊仙窟や鶯鶯伝が
源氏物語の素地になっている、ということは確かなようです。
しかしこのシンポジウムで、すごいと思ったのは、このことではなく、
古事記の構想そのものに唐代の伝奇が影響しているという点です。
木花佐久夜昆売物語にその痕跡がある、ということです。
よく考えると、先行するものが一切ないなかで、
記紀のような体系的な書が出てくるわけはないですね。
(2010/12/11 明治大学)


最新の画像もっと見る

コメントを投稿