day by day

癒さぬ傷口が 栄光への入口

歌の中のライオンたち

2019-08-02 | オンガク。
勢いづいて3日連続吉川と私を更新してしまった(12年半も止めてたくせに)のでひとやすみ。


前エントリで吉川晃司の「Flashback」という楽曲の歌詞についてちょっと触れたのですがこの歌では「ライオン」が吉川自身の象徴のように書かれています。
それでふと頭に浮かんだのですが、世の中には「ライオン」がモチーフとして使われている歌がものすごくたくさんあるな、と。
検索したりしなくてもぱっと歌詞まで頭に浮かぶだけであと3曲ありました。
知らない曲まで調べたらすごいことになりそうなので、今ぱっと頭に浮かんだ曲についてちょっと書いてみます。

■風に立つライオン(作詞・歌唱:さだまさし)

この歌はさだまさしの得意とする「実話を元に語られた詞」ですね。
アフリカの各地を巡る、国境なき医師団で活動するお医者さんが主人公で、彼が誰かに──おそらくかつて愛した女性に宛てて書いた手紙の文面の体裁をとっています。
豊かな風景描写の中に、もちろん様々な生き物の姿が登場します。
そんな中、終盤のクライマックスで彼はこう書いている。

僕は風に向かって立つライオンでありたい

これでもかとアフリカの風景や動物の姿を描写した最後に威風堂々としたライオンの姿が登場するのですがもちろんここだけは違います。

僕はよどみない生命を生きたい

という決意表明の言い替えなんでしょうね。
人はライオンの姿に王者の貫禄や誇り高さを投影するけれど、当のライオンは誇り高くあろう、王者でいようとなど考えているわけでは勿論ない。ただ、純粋に生命を全うしているだけ。
「よどみない生命を生きる」という純粋さをそこに仮託したかのよう。
彼がライオンに投影したのは、その生き方の難しさ厳しさそしてその尊さの方だったのかもしれません。

愛する人や故郷と決別してもただ自分の信じた道をまっすぐ行くために。

とはいってもこれ、最後のフレーズで察することが出来る仕掛けになっているのですがこの手紙の相手の人は多分他の人と結婚するんですよね。
多分くじけそうになることも投げ出してしまいたくなることも弱音を吐きたくなることだってあるはずだけど、
彼女の門出に際して彼はかつて愛した人に、めいっぱい格好をつけて見せたんじゃないかという気もしました。


■風のライオン(作詞:飛鳥涼 歌唱:CHAGE&ASKA)

ライオンには「風」がセットになっているみたいです。
たてがみが風になびくさまが絵になるからなんだろうな。

こちらはCHAGE&ASKAの楽曲です。
この主人公はだいぶ疲れているようです。
無邪気だった子供時代を遠く懐かしんだりしながら、つまらない大人になってしまった自分をちょっと自嘲しているような。

痛んだたて髪 しばらく風にあずけてから

歌詞の本文には「ライオン」というフレーズは登場しませんが「草原」「たて髪」でちゃんとライオンをイメージしていることは伝わります。といもちろんタイトルがネタばらししてますし。
さだまさしのライオンは強い向かい風もものともせず立ち向かっている凛々しさが感じられたのですがこっちは「今は傷ついた身体を休めているところ」。吹く風も草原を渡る優しい風のようです。
でもやっぱりここでライオンに準えているのはもちろんそれを「強さ」の象徴としたいわけで。

いつか走り出す
いつか走り出す
忘れた爪を想い出す時


百獣の王ライオンでも傷ついて身体を休める時もある。
けれどいつか再び立ち上がって走り出す。
今は爪があることも忘れているけれど、
自分にはまだ爪があること、戦えることを思い出す日がくる。

ちゃんと立ち上がってまた走り出すから、今は少しだけ休ませてくれ──

日々の暮らしに疲れてへたりこんでしまった人に、今は休んでいいよ、再び走り出せる時はきっとくるから、と優しく背中を(押すほどではなく)撫でさすってあげている感じの歌です。
曲もこの時期のASKAによく見られるマイナーとメジャーがくるくると絶妙に入れ替わって切ないながらも希望の光が見えるような曲になっています。


正直言うと、関ジャムでASKA(飛鳥涼)の、特に90年代ごろまでの曲を他のレジェンドのように特集して分析しまくって欲しい気持ちはずっとあるのですが、本人が出てくるのはまだ見たくないなというジレンマに陥ります。


■宇宙に行ったライオン(作詞:藤森真一(蒼坊主) 歌唱:関ジャニ∞)

蒼坊主の藤森真一が関ジャニ∞に提供した曲で、バンド曲としてよく演奏される楽曲です。
関ジャニ∞が野外ロックフェス「METLOCK」にロックバンドとして出演した時のセットリストにも入っていました。
藤森氏がこれを書く時にどの程度関ジャニ∞をイメージして書いたのかはわかりませんが、「バンドではあるけどアイドル」「アイドルだけどバンド」の関ジャニ∞にぴったりはまる歌詞のように思います。

前述の2曲に登場する「ライオン」は強さや気高さの象徴として、サバンナに雄雄しく立つ姿を連想させるものだったわけですがこの歌はもっと寓話的。

サーカス団のテントの隅 ライオンが百獣の王の檻を壊した

このライオンはサバンナで雄雄しく立ち、自由に駆け出し、時に爪を牙を剥いて戦うそんな『百獣の王』ではありません。人々がライオンに投影するそんな「百獣の王」という看板を付けられた見世物の飼いならされた動物です。そんな彼が檻を破るところから始まる物語です。
前エントリで触れた吉川晃司の「Flashback」でも
檻を破り息を潜め路地裏に
などと言っているからあのライオンも街で檻の中、サーカスか動物園かは知らないけれどとにかく人に『百獣の王』という看板で見世物にされていたのだろう。

興味深いのが、関ジャニ∞は現在進行形で・吉川晃司は出発点が「アイドル」だったことです。
さだまさしもCHAGE&ASKAもフォーク/ニューミュージックの世界でライブ活動の中プロデューサーの目にとまったりコンクールに出て発見されたりして世に出てきた人たちで、言わば彼らは最初からサバンナに立っていたわけです。それに対し、『アイドル』であった彼らはサバンナに出るためにはまず檻を破るところから始めなければならなかった。

しかし同じように檻を破っても吉川のライオンは路地裏に息を潜めたった独りで傷を癒しながら牙を剥く時を狙っているのに対し、関ジャニ∞のライオンは脱走すると「世界を見たい!」と颯爽と走りだしやがて仲間となるやはりひとりぼっちの少年と出会って一緒に旅に出るのです。
蒼坊主もバンドだし、関ジャニ∞もグループなので、あくまで孤独だった吉川ライオンと違って旅の仲間がいるというのは偶然ではないのだと思います。

そしてライオンと少年は自由になって世界を見ているつもりになっていたのに、気づけば地球を一周して元のサーカス団の場所に戻ってきてしまっていた。

世界ってこんなもんか 涙流し叫んだ

自分が思っていたよりもずっと狭かった世界に、自由になったつもりでいたのに結局もとの場所に戻ってきてしまったことに彼は失望して涙を流すのですがここで旅の仲間である少年が新たな道を指し示します。

もっと遠くが遠くがあるよと 少年は宇宙指す
もっと遠くへ遠くへ行けるよ 雲の果て 胸の奥 遠くへ!!


地球が「こんなもん」くらい狭いのなら地球を飛び出してしまおう、宇宙はもっともっと広い。そして「胸の奥」にはきっと宇宙と同じくらい、いやもっと広い世界があるはず。
ライオンは少年と共に宇宙に飛び出して行きます。
人は誰でも宇宙と同じ無限の可能性を持っているはず。
そう考えるだけで、人は自分を閉じ込めた心の檻から開放されることもあるかもしれません。


ところでライオンとは直接関係ないのですがこの歌には「こんなもん」というフレーズが3回出てきます。
1回目は檻を破って脱走したライオンが「俺はこんなもんじゃねーと涙堪え叫んだ」。
初めて世界を見たライオンは自分の小ささや無力さ、何も知らなかったことを思い知って「俺はこんなもんじゃねー」と悔しそうに虚勢を張っています。
2回目は前述の「世界ってこんなもんか」と失望したところ。
少年と世界を旅するうち、あんなに広いと思った世界が意外と小さかったことに気づいて愕然としています。
多分彼は自分が檻を破った時よりもずっと大きく成長していることにも気づいていなかったのだろうと思います。
そして3回目は大サビで、少年と宇宙へ飛び立とうとしているまさにその時。
俺はこんなもんじゃねーと 震える血が滾るんだ
1回目と同じフレーズなのに、ライオンは最初のように悔しくて虚勢を張っているのではなく自信たっぷりで「俺はまだまだ行ける!こんなもんじゃねー!待ってろ宇宙!!」とやる気と希望がひたすら漲っているのです。ニヤリとしてしまいますね。

この曲は2011年に発表されたアルバム「FIGHT」に収録されている楽曲ですが、年を経て2018年に渋谷すばるが脱退を発表した時に、この曲を歌うすばるの姿を思い浮かべながら「すばるは少年と出会ってしまったんだな」とふと思いました。
すばるはライオンであり、少年でもあった。
とは言っても「応答セヨ」(7人最後のシングル/作詞:新藤晴一)を聴いても「すばるはあの日の流星に出会ってしまったんだな」と思ってしまうので、関ジャニ∞にはそういう「今いるここからもっと大きな世界へ飛び出そう」みたいな歌が多いのかもしれません。

8/19追記
先日、すばるの独立後初アルバム「二歳」の情報が解禁となりました。
オリジナルの新曲12曲ということで、タイトルも挙げられていたのですがその中に
ライオン
というタイトルがあります。
一人で旅立ったすばるはどんなライオンを書いたのか、そして歌うのか。
とても楽しみです。
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