
きたさんが、スキーウェアを着て、ニット帽まで被っているのは、ただ、寒いからだよ。
普通の人はそれほど寒くないのに、きたさんはスキーウェアを着て寝て、スキーウェア着て起きている。
分解の話である。
きたさんは僕に言う。
「しんぐさん、ビニールテープ持ってない?」
あるよ、と僕はビニールテープを差し出す。
ビニールテープをガスの吹き出し口の周りに巻いている。
それを見ている、僕とコデラーマン。
ビニールテープを巻き終わったその部品を、きたさんはジッと眺めている。
そして言う。
「こでらー、これ、口で吹いてや」
僕は、吹き出した。自分で吹けばいいやんか!
さすがのコデラーマンも驚く。自分で吹けばええやんか!
奴隷の反乱である。
さすがに、他人の泥だらけのガスバーナーの吹き出し口を拭くのは嫌みたいだ。そもそも、コデラーマンは潔癖気味である。
「きたさんが吹けばいいじゃないですか」
とコデラーマンは言う。
もっともである。至極もっともである。
仕方なくきたさんは吹く。ほっぺたを膨らませて思い切り吹く。
僕はカメラを構えて、
「きたさん!もう一回!吹いて!」
「きたさん!もう一回!違うよ!今!そう!今!」と、ゲラゲラ笑っている。
そもそも、ガスの噴出口というのは、ナノレベル小さな穴なので、人が思い切り息を入れようが、シューっと抜けるものではない。
だから、面白い。
「抜けへんな。全然ダメや」