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ライオンの詩 ~sing's word & diary 2

~永遠に生きるつもりで僕は生きる~by sing 1.26.2012

羅臼の日記。7

2016-09-28 09:20:52 | Weblog


きたさんが、スキーウェアを着て、ニット帽まで被っているのは、ただ、寒いからだよ。

普通の人はそれほど寒くないのに、きたさんはスキーウェアを着て寝て、スキーウェア着て起きている。

分解の話である。

きたさんは僕に言う。

「しんぐさん、ビニールテープ持ってない?」

あるよ、と僕はビニールテープを差し出す。

ビニールテープをガスの吹き出し口の周りに巻いている。
それを見ている、僕とコデラーマン。

ビニールテープを巻き終わったその部品を、きたさんはジッと眺めている。
そして言う。

「こでらー、これ、口で吹いてや」

僕は、吹き出した。自分で吹けばいいやんか!

さすがのコデラーマンも驚く。自分で吹けばええやんか!

奴隷の反乱である。
さすがに、他人の泥だらけのガスバーナーの吹き出し口を拭くのは嫌みたいだ。そもそも、コデラーマンは潔癖気味である。

「きたさんが吹けばいいじゃないですか」

とコデラーマンは言う。
もっともである。至極もっともである。

仕方なくきたさんは吹く。ほっぺたを膨らませて思い切り吹く。

僕はカメラを構えて、
「きたさん!もう一回!吹いて!」
「きたさん!もう一回!違うよ!今!そう!今!」と、ゲラゲラ笑っている。

そもそも、ガスの噴出口というのは、ナノレベル小さな穴なので、人が思い切り息を入れようが、シューっと抜けるものではない。
だから、面白い。

「抜けへんな。全然ダメや」

羅臼の日記。6

2016-09-28 09:08:33 | Weblog


バーナーの分解をし始めたきたさん。

コデラーマンはそれを制止している。

「そんなことしたら保証が効かなくなりますよ!」

きたさんは分解を続ける。

「しんぐさん、ペンチ持ってない?」

あるよ。と、僕はレザーマンのペンチを差し出す。

「しんぐさん、8ミリのスパナ持ってない?」

あるよ。と僕は工具袋を開けてスパナを差し出す。

コデラーマンは言う。

「やめた方がいいですよぉ〜」

分解は続く。

きたさんは、バーナーとスパナをコデラーマンに差し出しながら言う。

「こでらー、これ、外してや」

コデラーマンはきたさんの奴隷なので、仕方なくボルトを外す。
外し終わってきたさんに返す。

きたさんは言う。

「こでらー、こっちのボルトも外してや」

コデラーマンはなぜかきたさんの奴隷なので、嫌々ながらボルトを外す。

ほぼ分解は終わった。

どこかで目詰まりをしているせいでガスが出ない。

次は、どこが詰まっているかを確かめる。


羅臼の日記。5

2016-09-28 08:38:36 | Weblog


羅臼の朝。

一人早起きの僕である。

一人でこっそりと珈琲を淹れようと思う。

自分のバーナーを出すのが面倒なので、きたさんのバーナーを勝手に借りる。

がしかし、火がつかない。何かコツでもあるのだろうか?何度やっても点かない、というよりはガスが出ない。
あまり強引にやって壊しても大変なので、あきらめて自分のバーナーでお湯を沸かした。

珈琲を飲み終わる頃、きたさんとコデラーマンが起きてきた。

きたさんがお湯を沸かそうとしている。

「そのバーナー、どうやって点けるの?さっきやったけど、点かなかったよ」

きたさんは言う。

「雨に濡れて、調子が悪いねん。弱火にしかならへんねん」

いやぁ、弱火にさえならなかったけどなぁ。

きたさんが、何かやっている。

やはり、弱火にさえならないみたいだ。

おもむろに、きたさんはバーナーを分解し始めた。

グッドモーニング斜里岳。

2016-09-28 07:26:06 | Weblog


登山をしてみたい。というよりは、斜里岳に登ってみたいとか、羅臼岳に登ってみたいだとか、知床に来るたびに思う。

だが、だが、実際に登る想定をして斜里岳を眺めてみると、「斜里岳・・・でかい・・・無理だ」と、普通に軟弱な精神で思うのである。

でも、夢は捨てない。

いつか登ってみせる。

待ってろよ、斜里岳。

いや、待ってなくても良い。

グッドモーニング斜里岳。

ホントに、待ってなくても良いよ。

グッドイブニングくりおね。

2016-09-28 00:19:09 | Weblog


クリオネに泊まっている大阪のおじちゃんが言っていた。

「ここは飯場やないねんからな」

クリオネは飯場化している。

今日の宿泊客の八割がジャガイモの仕事をしている。

つまり、ここはほぼほぼ飯場や。

夕方にドカドカと帰ってきて、飯食って喋って寝る!的な。

ライダーが少ない。
いや、みんなライダーなのだが、元はライダーなのだが、労働者化しているので、ここは飯場や。

みんな寝るのが早い。

つまんねぇの。と思っていたら、マスターが来て僕に言う。

「おい、英語喋れんのか?」

まぁまぁ喋れるかもね。と答えると、「ダベリ部屋だ!」と歩き出す。

クリオネにはダベリ部屋というものがある。

50歳以上の人はライダーハウスに入ってはいけないという賛否両論の厳格な決まりがあるクリオネ。

おじさんが来ると閉じ込める部屋がダベリ部屋だったりする。

そこでは飲み会が開かれていた。

イギリス人の女の子とフランス人の女の子。それを囲む会、みたいな。

よくわかんないけど、そこに放り込まれ、時を過ごす。

僕がクリオネに来ると、よくこういうことが起こる。

焼肉パーティだったり、誰かの誕生日の焼肉パーティだったり、なんかよくわからないけど焼肉パーティだったり。

いつもタダ飯を食わせてくれる。食わせてくれるというよりは、巡り合わせで食わせてもらっている。

マスターを嫌いな人がたくさんいる。なんか、すごく変わった人だから。

僕は、マスターが大好きである。だって、なんだか、すごく面白い人だから。

グッドイブニングくりおね。

久しぶりに日付が変わっても起きている。
外に出て、満天の星を見上げたら、スーッと星が流れて、少し得をした気分になった。

羅臼日記。4

2016-09-27 20:03:39 | Weblog


コデラーマンがヤカンを持ってきて、筋子が入った器へトポトポと入れる。

ナガイさんが言う。

「すごく取れやすくなりました」

元来、ナガイさんは丁寧な性格なのかもしれない。
筋子の筋を、一生懸命に取っている。

「ある程度でいいですから。適当でいいんですから」

と伝え、僕は捌いた魚を持ってきたさんの所へ。

しばらくして、ナガイさんが帰ってきた。

ほぐしたイクラは、きたさんのそばにあるテーブルの上へ。

しばらくして、きたさんが言う。

「これ、全部ほぐしてくれたん?」

ナガイさんは言う。

「はい、出来る限りほぐしました」

きたさんは言う。

「そうですか。ありがとう」

そして、衝撃の一言。

「ところで、お名前は?」

「ナガイです」

「僕はキタガワといいます、よろしく」


僕は絶句しているのである。

だって、自己紹介は、ずっと前に済んでいるのである。

僕はきたさんに言う。

「おい、おまえ、そういう昭和的なやつは止めなさい。イクラをほぐしたから、名前を聞いてやるみたいなの、止めなさい、バカ」

きたさんは、そういう面白い人なのである。

そして、ナガイさんは、そういう人なのである。

そして、イクラを漬け込んで、出来上がるのは明日の朝以降なので、ほぐしたナガイさんは、絶対にイクラを食べられないのである。

すごく可哀想なナガイさんなのである。ほんとに。

次の日の朝、出来あがったイクラを、ご飯なしで、スプーンで掬って、食べた。

めっちゃ美味しかったのである。

羅臼日記。3

2016-09-27 19:56:46 | Weblog


鮭を一匹捌けることなんて、そうそうない。
嬉しいのである。切れる包丁でスパパパっと切るのである。
なかなか上手なのである。

それはいいとして。

流しの横にきたさんとナガイさんがいる。

「これにこれをほぐしたのをいれてーや。頼むで」

ん?

ナガイさんに筋子ほぐしを頼むんだね。大変だなぁ、ナガイさん。

僕はきたさんに言う。

「お湯でやらないと、大変だよ。お湯、入れてあげなよ」

きたさんはピシッと一言。

「水でもいけるやん!」

まぁ、水でもいけそうだけど、大変じゃないか。

僕は鮭を三枚に卸す。卸し終わる。横を見る。ナガイさんを見る。

5分くらいで、イクラが5粒くらい取れていた。

嘘だろ?と思った。

コデラーマンに言う。

「お湯を持ってきなさい」

羅臼日記。2

2016-09-27 19:46:48 | Weblog


イクラ丼を食べ終えて、きたさんが買っておいてくれたホタテが焼けて食べている頃、きたさんのところは来客。
杉本さんという旅人。

「鮭、釣れたんだけど、きたさん、1匹もらってくれますか?」

僕らの食材は結構ある。なんたって、きたさんが羅臼の道の駅まで行って、しこたま買ってきてくれているから。
きたさんは言う。

「1匹貰うわぁ」

鮭が1匹、今夜のオカズに加わった。

杉本さんと一緒に、ナガイさんというおじさんがいた。
杉本さんが鮭を釣っている間ずっと、そばにいて見ていた人だという。

杉本さんは鮭を取りに行ってしまい、ナガイさんはその場に残り、色々と話をしていた。

そして、杉本さんが鮭を持ってやって来た。

「両方メスでした。筋子付きです」

きたさんは、その鮭を僕に渡すように言う。

「しんぐーさん、捌いて来てや」

全然いいよ。捌くよ。魚捌くの大好き。

僕はコデラーマンを連れて、炊事棟へ、包丁と鮭を持って行くのである。

羅臼日記。

2016-09-27 19:37:36 | Weblog


羅臼の話。きたさんの話。

きたさんは9月の初めからずーっと、羅臼のキャンプ場で過ごしていた。
9月の24.25日に行われる予定だった羅臼のお祭り、漁火祭りを楽しみにして過ごしていた。
漁火祭りを楽しみにしているというよりは、漁火祭りを目指してやって来る、大勢の友達たちを楽しみにしていたのだと思う。

みんながきたさんの所へ集まって、ワイワイ騒げるように、新しいタープを注文していた。漁火祭りに間に合うように注文していた。

なのに、今年の羅臼のお祭りは中止になった。

現金なものである。お祭りが無ければ、羅臼に人は来ない。きたさんが待っていようが、人は来ないのである。

僕らは行くのである。お祭りがなくても、きたさんに会いに行くのである。

しかも、お祭りで振る舞われるはずだったイクラ丼を一緒に食べようと、イクラを買って、羅臼に向かうのである。

僕とコデラーマンは偉いのである。

ヘイ、マスター!

2016-09-27 17:19:22 | Weblog


マスターはイチゴ畑をやっている。
無料で摘み取り食べ放題と書いてある。
うけた。

すごい量のイチゴだ。
26列のイチゴの畝を、耕運機を使わずに作ったらしい。
一列の畝を作るのに、堆肥や肥料を7000円分入れたという。かけることの、26列である。

途中で嫌になったと言っていた。

そして、花が咲き、実がなる頃に、イチゴは病気にかかってしまったそうだ。

もう本気で嫌になったそうだ。

受粉を促すために、蜂を数千匹買ったという。
草刈りをしながらふと見ると、蜂が、イチゴの受粉をせずに、雑草の花の受粉をしていたとか。

頭にきて蜂を殺したくなったとか。

病気を乗り越えて、見事なイチゴがたくさん成った。今もたくさん成っている。

マスターは言う。

「イチゴをよ、誰も食わねぇんだよ」

イチゴは失敗だったそうだ。

「ミニトマトの方がいいな。来年はミニトマトだ」

今年25個のミニトマトの空中栽培を、来年は倍に増やすそうだ。

「でもよ、空中にした鉢が高すぎたな。子供がよ、全然届かないんだよ」

マスターは、相変わらず、面白い。
マスターは.今年も、面白い。

止まった時間。

2016-09-27 16:33:24 | Weblog


もしかしたら、ここがこの旅のラストピースなのかもしれない。

僕のミッシングピースは、この場所なのかもしれない。

斜里町、クリオネキャンプ場。

2年前、このキャンプ場を目指して旅に出た。

出発してからわずか2時間で事故に遭ったので、なんのことかわからないのだがね。

とにかく僕は、このキャンプ場を目指して旅に出た。

そして、時間は止まった。

なぜここを目指したのか?ということだ。

ここでジャガイモの収穫のアルバイトをして、お金を貯めようと思っていたのである。
元々持っていた旅の資金とジャガイモのアルバイトで貯めたお金を持って、世界を旅しようと思っていたのである。

でも、時間は止まった。

そして、今。

ジャガイモのアルバイトはもうしないが、今、クリオネキャンプ場にいる。

面白いマスターがいる。

そのマスターに会いに来た。

マスターに会った。

マスターと話せた。

別に、だから何というわけでもない。

なんとなく、ラストピースが埋まって。
なんとなく、止まっていた時間が動き始めるんじゃないかと。

そんな気がしなくもない。

僕の旅はもうすぐ終わる。

僕の旅はもうすぐ終わるが、ここが最後の場所ではない。

もう少しだけ、行きたい場所がある。