たどり着けない

発車間際の電車に飛び乗った。その車両には乗客は彼女一人だけ。いくら平日の昼間だといっても、少なすぎやしないだろうか。いぶかしく思い、次の車両へと移る。ところが、その車両にも乗客は誰一人いない。その次の車両も、またその次の車両も、誰一人乗っていないのだ。不安になった彼女は車掌室へと向かう。ところが、そこにいるはずの車掌も、いない。

必死に走ってなんとか間に合った。汗をぬぐいながら窓の外を見ると、見慣れない風景が広がっている。どうやら乗るべき電車を間違えたらしい。仕方がない、次の駅で降りて引き返そう。そう思うのだが、電車はなかなか停車しない。駅をどんどん飛ばしていく。特急にしても通過する駅が多すぎやしないか。彼女は不安でいっぱいになる。

電車に乗り、座れる場所を見つけてほっとする。少しうとうとして顔を上げると、電車が目指す駅と反対方向に向かっていることに気づく。しまった、またやってしまった。不注意な自分を罵りながら、次の駅で逆方向の電車に乗ることにする。が、身体が金縛りにあったかのように動かない。乗り換えなければいけないのに、立ち上がることができない。

彼女が頻繁に見る悪夢は、すべて電車と関係している。夢の中では一度も目的地にたどり着いたことがない。

これが現実になったら。そう思うと、彼女は電車に乗るのが怖くなってしまった。