Set me free!!!

storytellerです。本当に短い物語を書いたり、思い出話や日常の諸々について綴ります。

十人の男友達

2024-05-31 09:45:02 | 物語

友人に「あなたって恋愛体質ね」と言われた。そうなんだろうか。わたしはただ男の人にときめいて、一緒に濃密な時間を過ごしたいだけ。

若い頃から彼女はたくさん恋をした。傷つけたり傷つけられたり、危ない橋を渡ったり、沼に落ちそうになったり、つきまとわれる恐怖を味わったり。

それでも懲りずに恋をし続け、結婚後も夫に気づかれないように道ならぬ恋を楽しんだ。そして、離婚。

子ども達もそれぞれに自立し、一人暮らしになった彼女は、離婚後も恋をした。

でもある日、ふっと気持ちが冷めた。「わたしって何やってるのかしら、ばかみたい。」

男なしでは生きていけない女みたいに思えて、自分が情けなくなった。そして決心する。

もう恋愛は終わり。十分すぎるくらい堪能したから。でも、染色体の異なる生き物の面白さは知っているから、これからも男性とは関わっていきたい。

そして、SNSにこんな記事を投稿した。

「男友達を募集します。恋愛感情抜きで、性的な関係も持たず、純粋に異性との友情を築きたいと思う人のみを求めています。既婚者でも、奥様に誤解されない自信のある方ならOKです。ご連絡お待ちしています。」

投稿した日に早速数人の男性から連絡がきた。翌日もまた数人、その次の日もまた数人、というように、1週間もたたないうちに10人以上の男性が彼女の記事に興味を示してくれた。

そこで、彼女は面接を実施する。直接会って本人の意思を確認するためだ。

実際会ってみると、友達といってもセフレのつもりで応募してきた人や、友達から恋人へ発展することを願っている人もいて、半数以上の人が彼女の条件に合わず、断ることになった。

そうやって一か月くらい面接を続け、この人なら安心して友情を築ける、と思える10人が確定した。そこで彼女は自分の記事を削除する。これ以上は探す必要がないから。

それから彼女の人生は大きく変わった。女友達との時間はもちろん大切、でもそれと同じくらい、男友達と一緒に過ごす時間も貴重だ。なにしろ、経歴、価値観、思考パターン、趣味嗜好がそれぞれに異なり、会うたびに彼女は刺激を受けてわくわくする。それは性的なときめきではなく、人間として魅力的な人と話をするときに得られる気分の高揚。

彼女の友人はみんな口をそろえて、「いいわねえ、あなたすごく楽しそう。若返って見えるわ。」と言う。

そりゃそうだ。料理の得意な男友達は、彼女の食べたいものをさらっと作ってくれる。ドライブ好きな男友達は、彼女の行きたいところへどこへでもつれていってくれる。山歩きの好きな男友達とは、時々山登りを楽しむ。読書の好きな男友達とは、読後感を話し合ったり、おすすめの本を紹介し合う。

本当に、それだけ。決して体の関係を求められることはない。プラトニックラブもない。大切な友達だから、お互いの意思を尊重し、信頼関係を損なわないよう気を付ける。

自分が変われたことがとても嬉しい。自信もついたし、以前のように感情の嵐に翻弄されることが少なくなった。残り少ない人生だもの、良い思い出を作って最期を飾りたい。

彼女は、10人の男友達に毎日感謝しながら眠りにつく。


ハプニングのおかげで絶景に出会えた!!

2024-05-27 18:09:26 | 思い出

gooブロガーの今日のひとこと。テーマは「一週間お休みがあったら何をする?」

わたしは「一人旅に出る」とつぶやいたが、そういえばはるかむかし、一週間の旅(二人旅だったが)で今でも忘れられない経験をしたなあ、と思い出し、この記事を書いている。

大学時代パッケージツアーに参加して、つくづく自分は団体旅行に向いていないと悟って以来(よく言えば一人で何でも決めてどんどん行動できる、悪く言えば身勝手で協調性に欠ける)、基本的には国内外どこへでも一人で出かけるようになった。

それが何を血迷ったのか、20代前半の一時期に付き合っていた人と四国・九州の旅に出かけたことがあった。

彼は留学生で、彼が在籍している某大学院は履修科目の講義が英語で行われているという。だから、彼の日本語はいつまでたっても上達せず、わたしが通訳の役割を果たすことが多かった。

当然、旅の具体的な計画も手配も、日本語の分からない彼には無理。彼は、母国で購入した英語のガイドブックをもとに、四国のここと九州のここを訪れたい、とリクエストするだけ。後は全てわたしが準備をするはめになった。

彼の大学院の夏休みに合わせてわたしも有給休暇を取った。飛行機は使わず、ひたすら電車とフェリーで移動した。

さて、とんだハプニングが起きたのは旅の3日目。

初日は新幹線とフェリーで四国へ渡り1泊し、2日目は岡山をさらっと観光して博多泊。3日目は博多市内および近郊を観光した後、その日のうちに長崎まで行ってそこで2泊する予定になっていた(40年近く前のことなので詳細は思い出せない)。ホテルはすでに予約済み、ただ九州内の列車は予約はせず、乗れるものに乗って行こう、ということにしていた。

彼はもちろん、わたしにとっても初めての九州。それでも、バックパッカーとして自分で全て手配する一人旅を何度も経験して、知らない土地への旅にもまったく不安はなかったし、ましてここは日本。言葉が通じるではないか!

博多から長崎への直通電車は無いので、乗り換える必要があった。そのこともちゃんと事前に調べ、駅構内の放送も聞いて、乗るべき電車に乗ったつもりだったのだが。

四国と博多での彼の言動から、いかに自己中で要求の多い面倒な奴ということが分かり、観光ガイド兼通訳を務めたわたしはくたくたになっていた。この旅が終わったら別れてやる!いや、なんなら博多で置き去りにしてやろうか!とさえ思ったほど、わたしはうんざりしていた。そして、電車に乗ったとたん、溜まった疲れがどっと出て目を開けていられなくなった。

彼に「終点みたいだよ」とそっと体を揺すられ、慌てて目を開けたら、そこは長崎ではない!!ではないか!!えええええ!?いったい、何が起きちゃったの!?!?

駅員さんに尋ねたところ、乗り換える電車を間違えてしまったと分かり、彼もわたしもおおいに不機嫌になる。が、お互い疲れすぎて相手を罵るエネルギーすら残っていない。

そこで、まずその日泊まる予約をしている長崎のホテルに電話をして事情を説明し、翌日朝にチェックインするので予約を取り消さないでほしい、と頼み込んだ。そして、次に駅の近くで泊まれるところがあるか探して、なんとか民宿のようなところに無理を言って泊めてもらったのを覚えている。駅名は忘れたが、大分県のどこかの小さい町だった。

翌朝、始発の電車で長崎に向かう。今度こそ、間違っていない。この電車で大丈夫、と指先確認をして乗り込む。

そして、このハプニングが、実はわたしにとって九州旅のクライマックスになったのだった!!!ドジを踏まずに真っすぐ長崎に向かっていたら、決して目にすることのなかった絶景に、出会えたのだから!!!

電車(九大本線)に揺られてまもなく、車窓の風景がわたしの目をくぎ付けにした。

雲の隙間から薄日が差して山並みをやさしく包み、陰影を浮き彫りにしている。それはとても幻想的で美しい水彩画のような、現実とは信じがたいほど神々しい風景だった。

言葉もなく、ただずっとその風景を眺めていた。夢の中を漂っているような不思議な気分だった。車窓から写真を撮るのを忘れたことに気づき、後悔したけれど。

これこそが旅の醍醐味なのだ。強がりでも開き直りでもなく、乗り換える電車を間違えて本当に良かった、と思った。

九州は博多と長崎を旅したが、わたしにとって一番印象に残っているのは、一度も下車しなかった九大本線の車窓の風景である。


そして彼女は

2024-05-24 11:46:54 | 物語

★この物語は、それは一枚の名刺から始まった (5/17/2024) の続編である。★

彼女が入社後最初に関わったのは、遥か遠くにある国の諜報機関から依頼を受けた業務であった。

その国のある作家の小説が何者かによって日本語に翻訳され、その翻訳本に暗号が隠されているという情報を、かの国の諜報部員が入手した。その内容が国家機密に関係する可能性が高いため、表向きは探偵事務所だが裏では諜報活動を行っている名刺の主に暗号解読を依頼してきた、というわけだ。

彼女は公式には日本語訳の出ていない海外の小説が読める上に、諜報活動にも関われると知り、血が騒ぐ。こんなスリリングな経験は一生に一度あるかないかであろう。

その小説は700ページもの大長編なので、彼女のほかに2人のスタッフがいて、3人で手分けをして読み進めていくことになった。暗号らしきものが見つかったらどんどんノートに書きだしていく。そして3人のノートを付け合わせ、完成した暗号文を解読する、という作業だ。

ここで彼女は思わぬ才能を発揮することになる。

もともと速読・多読が得意なうえ、映像記憶能力も備わっているので、他の2人がまだ半分も終えないうちに、彼女の担当ページを読破、暗号も見つけた。彼女の類まれな才能に名刺の主である社長も目を見張る。

彼女はこの業務に多大な貢献をし、社長からは特別手当(能力給)をたっぷり上乗せされた高額の報酬を受け取った。当の作家は身の危険を感じてどこかの国に亡命し、翻訳者は行方知れずという。それほど危険な業務だったのに、彼女は怖気づくどころか、暗号解読の魅力に取りつかれてしまった。

その後もこの会社は次々と依頼を受け、常に中心的役割を任されるようになった彼女は、非常勤の仕事を辞め、この仕事に専念するようになった。かつて節約生活を強いられていたことが嘘のように、彼女の暮らしは大変豊かになった。

もちろん、豊かさと引き換えに、彼女は自由を失うことになった。自分が関わっている業務については一切、誰にも明かしてはならないからだ。家族はもちろん、友人や知人に対しても、本当のことを言えないもどかしさはある。

それでも、彼女はこの仕事を天職だと感じていたし、社長の彼女への評価もどんどん上がっていく。自分の能力が非常に高い価値のあるものだと気づいた時、彼女はある野望を抱くようになった。それは、社長にも同僚にも悟られてはいけないものであった。

彼女は毎晩遅くまでパソコンに向かう。本業に支障が出ないよう気をつけながらも、睡眠時間を削って小説を書く。小説といってもただの読み物ではなく、随所に暗号を潜ませてある。自分は暗号解読のみでなく暗号作成においても秀でていると気づいた悦びは、格別であった。

数か月後、彼女は小説を完成させ、自費出版にこぎつける。小説が書店に並ぶ頃、彼女は日本を離れ、海の向こうの国に移住しているはずだ。そこでは、彼女が最初に暗号解読を手掛けた小説の翻訳者が待っている。

暗号の作成と解読において並外れた才能を発揮する2人が手を取り合い、史上最強のパートナーとして新しいビジネスに着手する。2人は自分たちのこれからの人生が前途洋々であると、信じて疑わない。


多肉の気持ち

2024-05-21 07:41:12 | 日記

多肉寄せ植え鉢にいくつか花が咲いた。どれも直径1センチ~1.5センチの、とても小さくて可憐な花々。

今日は爽やかな日ね。一日快適に過ごせそうよ。蕾のままのあなた達も、早く顔をお出しなさいな。

見て、わたしのドレス。白地に赤いぽつぽつ模様が可愛いでしょ。これからの季節にぴったりよね。

あ~ん、わたし達のことも忘れないで~。黄色さんや白に赤ぽつさんのように花芽がびよ~んと伸びないので、大きな多肉さん達の間に埋もれちゃった。でもこの奥ゆかしさがわたし達の魅力なのよ。

でもわたし達は花芽が1本ずつで本当に助かったわね。だって、もっとたくさんあったら多肉さん達の体力が消耗しちゃうからといって、ちょきんと切られちゃうものね。多肉さんが主役だからわたし達の犠牲は仕方ないのかしら。でもやっぱりちょっと悲しいわ・・・。

多肉さん達の美しさはわたし達の憧れ。葉っぱなのにお花のような可愛い姿やきれいな姿。色も様々だし、こんなふうにいろいろな多肉さん達が集まると、お互いの魅力を引き立て合って最高にゴージャスになるんだもの!

そうそう、多肉さん達ってぽろっと落ちた葉っぱから赤ちゃんが生まれたりするのよね。それも凄いなって思う。生命力たくましいって!でも、だからといって多肉さんは恋をしない、というわけでもないようよ。深く愛し合い、寄り添い合って生きる多肉姉さんと兄さんのカップル、知ってるもの。素敵だわ。わたしも恋がしたいわ。


それは一枚の名刺から始まった

2024-05-17 16:41:38 | 物語

読書が趣味の彼女は、週に一度近所の公共図書館に足を運ぶ。たいてい一度に数冊借りて、面白いと思えば最後まで読み、合わないと思った本は途中で止める。なにより無料というのが、節約を心がける彼女にとってありがたい。

唯一の難点は、すべての本には大勢の人の手垢がついている、というところ。コーヒーや紅茶の染みならまだいいが、ひどく汚らしい、ぎょっとするような染みもある。そういうときはそこのページを触るのが嫌で、本を閉じてしまう。せっかくの面白い話も染みのせいで台無しだ。

それから、本の間には栞紐以外にもいろいろなものが挟まっている。食べ物のかすや人の髪の毛、スーパーのレシート、走り書きのあるメモ用紙。小さい虫の死骸なんていうのもあった。どうせ挟むなら、一万円札にしてほしいと彼女は思う。

ある週末のこと。その日は何も予定がなかったので午前中図書館へ行き、3冊借りてその中の一冊を読み始めた。半分ほど読み進めたところで、一枚の名刺が挟まっているのに気づく。その名刺に印刷されているのは氏名と電話番号のみで、所属機関の名前も所在地も無い。

別に汚いものでもないし、捨てるのは気が引けるので、名刺は本に挟んだままにして読み進めていくことにした。

その日の夕方までには最初の一冊を読み終え、夕食後、二冊目にとりかかる。そして数ページ読んだところで、また同じ名刺が挟まっていることに気づく。

いったい何なの、これ。さすがに彼女は気になった。もしかして、と思い、最後の一冊をぱらぱらっとめくると、果たしてその本にも同じ名刺が挟まっているではないか!!!まるで、彼女からの連絡を待っているかのように。

好奇心の強い彼女は名刺の主の正体を知りたい衝動を抑えらえず、そこに記された番号に電話をかけてみた。

すると、「お電話ありがとうございます。」という魅惑的なバリトンボイスで始まる自動応答メッセージが流れてきた。

「今から3つの質問をいたしますので、お答えください。1.あなたは文書を読むことが好きですか。はいは1、いいえは2を押してください。」

彼女は迷わず1を押す。

「2.あなたは口が堅く、秘密を守れる方ですか。はいは1、いいえは2を押してください。」

これはほんの少し迷ったが、1を押す。

「3.空いた時間でできる報酬の良い副業をお探しですか。はいは1、いいえは2を押してください。」

現在は非常勤で働いている彼女、収入を増やすために副業を探しているところだったので、1を押した。

「ご協力ありがとうございました。お答えいただいた内容について折り返しお電話いたしますので、最後にお電話番号をご入力ください。」

これには躊躇してしまった。この人を信用してもいいのだろうか。詐欺か何かだったら、自分の電話番号を悪用されてしまうかもしれない。とはいえ、3つの質問に答えたことが何に繋がるのか、知りたい気持ちもある。彼女は迷いを振り切って自分の電話番号を入力し、通話を終了した。

30分後。

彼女の携帯電話に電話がかかってくる。見ると、名刺の主の電話番号だ。

「おめでとうございます。あなたは我が社の採用試験に見事合格しました。つきましては、業務内容をご説明しますので、〇月〇日の〇時に、これから申し上げる場所までお越しください。なお、今回の採用については一切他言しないようくれぐれもお願いいたします。」

ここまで来てしまったら後戻りという選択肢はない。危険な匂いに包まれた、彼女の人生の新たな一章が始まる。