落とす女と捕まえる男

自分が不器用でよくドジを踏むことは自覚しているが、２０代の一時期に交際していた外国人男性にこう言われたことがある。

"You have butterfingers!"

「きみはよく物を落とすね。」

という意味だ。

バターのついた指で物を持てば、つるつるっと滑って落としてしまう。なるほど、言い得て妙だ、と感心しながらも、自分の不器用さを思い知らされてちょっと悲しくなった。

その男性と別れた後も何人かと恋に落ちた。誰もが最初は彼女の不器用さを微笑ましいと思うが、次第によくドジを踏む女だな、と呆れるようになり、最後は愛想を尽かされる、というパターン。

男運が悪いんだと思うようにして、彼女はしばらく恋愛から遠ざかっていた。

ところが。

数か月前に仕事を通じて出会った男性は、今までの人達とは全く違っていた。最初から彼女の不器用さをずばり指摘し、「まったく本当にドジなんだから」と呆れながらも、彼は彼女の手から滑り落ちていく物をことごとく受け止め、落下を防いでくれる。まるでメジャーリーグの最優秀キャッチャーのような正確さで。

ボールペンも、紙も、時計も、携帯も、小銭も、卵も、箸も、スプーンも、ナイフも、ワイングラスも。全て、彼はそういった物が床に落ちる前に、見事な腕前で捕まえる。その姿は惚れ惚れするほどだ。

彼女はようやく確信を持てた。ついに、自分にふさわしい男性が現れたのだ、と。この人と一緒になれば、わたしは幸運を逃すこともない。不注意で手放しそうになった大切なものも、しっかりと捕まえてくれる。

落とす女は捕まえる男にプロポーズすることに決めた。