公 開 質 問 状
2008年3月19日
滝川市
市長 田村 弘 殿
生活保護問題対策全国会議 代表幹事 尾藤 廣喜
(連絡先)〒530-0047 大阪市北区西天満3-14-16
西天満パークビル3号館7階 あかり法律事務所
弁護士 小久保 哲郎(事務局長)
電話 06-6363-3310 FAX 06-6363-3320
当会は、弁護士・司法書士・学者・市民など約200人余りで構成する、生活保護行政の改善などに取り組む民間団体です(別添資料をご参照ください)。当会は、貴市で発生した医療移送費の不正受給事件について、生活保護制度のあり方、運用全体についての市民の信頼を根本から損ないかねず、生活保護制度利用者全体に対するする根拠のない偏見を助長しかねない重大な問題である認識しており、あってはならない事件であると考えています。同時に、生活保護の運用を法令や通知に従って適切に行えば、十分に防ぎ得た事件であると考えるものです。
しかも、当会としては、この事件を契機に、生活保護制度利用者、「水際作戦」と言われる申請の窓口規制や保護決定後も続く「保護辞退届」強要、根拠のない「就労指導」などが合理化され、最低基準の切り下げに口実として利用されかねない動きとなることを懸念しております。
以上述べた観点からすれば、貴市が2008年1月に「生活保護費詐詐欺事件に関する検証委員会報告書」(以下「報告書」といいます。)で明らかにされた事件の概要と対応には、多くの疑問があります。
よって、当会としては、何故このような事件が発生したのか、また、その再発防止のためにどのような対策がとられなければならないかにつき、市民の立場、生活保護制度利用者の立場に立って検討、提言したく、以下のとおり、質問状を提出する次第です。
本質問状について、2008年3月末日までに書面にて回答していただきたく、お願いします。
記
第1 不正受給ケースへの滝川市の対応について
そもそも、当該世帯がなぜ滝川市へ転入したのか、理由が不明確です。また、重い病気
の人間が、わざわざ滝川市に転入した上で、ストレッチャー式のタクシーで長時間、体へ
負担をかけて遠距離(50キロ)の札幌にわざわざ通院するというのも常識的には考えられ
ない選択です。滝川市としては、転入時点で、「基本的に札幌市への通院については認め
られず」(報告書18p。以下、ぺージ数のみの場合は、報告書のページを示す)というま
っとうな判断をいったんは下しておきながら、結果として札幌への通院を追認しています。
保護開始時、移送費の支給経過、手続き、判断根拠、その後の指導等ついて以下の点を明
らかにして下さい。
1 保護開始時の問題について
本件は「暴力団関係ケース」とされていますが、保護開始時にどのような調査を行ったのでしょうか。また、その結果は、どういう判断だったのでしょうか?
(理由)本件世帯は、「平成18年度まで暴力団関係ケース」であったとされている(報告書17p)ところから、滝川市での保護開始後の約1年間は、そうであったことになります。こうしたケースの場合、「手引」(2006.3.30保護課長通知)では、「暴力団を離脱しない限り、申請を行っても却下する」という扱いが示されているところです(通知Ⅰ5(3)③)。そして、警察庁も暴力団情報についての情報提供を通知しており(2000.9.14警察庁暴暴発14号)、本件において、滝川市がどの程度の情報を把握し、どのような対処を取っていたかが問題となります。報告書では、保護開始時「警察からは十分な情報提供が得られない」(41p)としていますが、なぜ警察は非協力だったのかその理由を明確にする必要がります。また、きちんと協力していれば、保護開始時点でこの詐欺事件の発生は、防止できた可能性があります。また滝川市もどのような情報を把握していたのかを明確にすべきです。「暴力団関係ケースであるにもかかわらず、査察指導員や管理職の同行訪問が十分に行われていないこと」(31p)だけが問題ではありません。訪問の形式ではなく、保護開始時に、どのような対処方針に基づいて、いかなる具体的な対処を行ったかが問題です。
2 移送費給付に至る経過について
(1) 最初に、本件の移送費の申請がなされた時期は何時のことでしたか。
(2) その際の添付資料としては、どのような資料が添付されておりましたか。できれば、申請書の写しとともに添付資料の写しをご送付下さい。
(3) 上記の申請に関して、主治医の意見書はどのような内容になっておりましたか。できれば、当該意見書の写しをご送付下さい。
(4) また、どのような理由で、本件の移送費の給付の必要があり、最小限度の実費の額として、給付した額が必要と判断したのかについて、お教え下さい。
(理由)生活保護の運用では、病院通院のためのタクシー代(移送費)の支給は、主治医の意見書等を元にして保護の実施機関が判断することになっています。また、支給の金額については、最小限度の実費の額となっています(医療扶助運営要領第三-九)。 したがって、本件の移送費給付決定の妥当性を判断するためには、その際の添付資料としてどのような資料が添付されていたのか、また、主治医の意見書が具体的にどうなっていたのかを知る必要があります。また、どのような理由で、本件の移送費の給付が最低生活の維持上必要であると判断され、給付した移送費の額が必要と判断したのかについて、明らかにされる必要があります。
3 移送費支給についての判断及び保護実施上の滝川市の対応について
(1)なぜ、検診命令を発しなかったのでしょうか。
(理由)生活保護法28条の検診命令の要件は「保護の決定または実施のため必要があるとき」であり、具体的には、局長通知第9-4-(1)-ウにあるように「医療扶助の決定をしようとする場合に、要保護者の病状に疑いがある場合」とされています。そして、福祉事務所においては、主治医からの病状把握に客観性をもたせるために、利用者に対して、公立病院等他の医療機関で検診を受けさせる扱いが行われています。報告書は、法27条2項3項を根拠に「法27条の指導及び指示を経て行われる検診命令については、当然にそのことが考慮されるべきであるとの考え方があった」から実施していない(23p)と説明していますが、上記の通り、検診命令についての理解を誤っており(検診命令は、法27条に基づく指導指示を必ず経なければならないわけではない)、かつ、移送費金額の異常さからは、第三者的な病院等複数の病院での検診を受けさせて客観性を担保すべきであったと思われます。また、報告書の別のところでは「検診命令については、嘱託医が要否意見書等の検討に際し、不審な点が見られ、指定医療機関に照会しても判然としない場合に行われる」( 37p)としていますが、上記の通り検診命令はこのような場合に限定されません。
(2)医療機関の選定は妥当であったでしょうか。滝川市もしくはその近辺の医療機関への転院を勧めるべきではなかったでしょうか。
(理由)報告書は「医療機関の選定に際しては保護の実施に支障のない限り、患者の医師に対する信頼、その他心理的作用の及ぼす諸効果をあわせ考慮すべきこととされている」(18p)ことを札幌市への病院の通院を認めた理由にあげています。しかし、報告書も引用しているように、医療機関の選定は「あくまで保護の実施機関の権限」(6p)とされており、それも「保護の実施に支障のない限り」利用者の選定を尊重することとされています。本件は、異常に高額の金額が支給されていることからいって、保護の実施に支障があったことは明らかだと考えますが、なぜ札幌市の医療機関での治療を認めたのか、明らかにされるべきです。
(3)なぜ、病状聴取が10ヶ月も行われなかったのでしょうか。
(理由)本件世帯主の病状については、主治医から「状態は非常に重く、いつ急変してもおかしくない状態」(21p)と診断され、この病状を前提に移送費が支給されています。ところが、その後10ヶ月にもわたって病状が主治医から直接把握されていなません(C病院については、2006年9月に聴取されて以降2007年8月まで聴取されていない)。報告書はこの点を問題点として挙げながら(39p)、なぜそのような結果となったか明らかにしていません。
(4)本件について、なぜ、札幌市への転居指導を行わなかったのでしょうか。
(理由)上記のように、そもそも2006年3月における札幌市から滝川市への転入理由が不明確です。仮に転入自体はやむを得ないとしても、転入後すぐに札幌への通院を開始しており、それ以降問題のストレッチャー付きの介護タクシーを利用しています。診断書上重篤な病気であれば、札幌まで何時間もかけて通院すること自体が身体上のダメージとなり療養のためによくないことは明らかです。通常であれば、札幌にとどまり通院することが療養上も妥当でしょう。また、移送費も札幌市内からの通院なら当然軽減されます。この点、報告書は、「通院に伴う体の負担を考え札幌市への転居も検討するように話しているが、主及び妻は、環境の変化に伴い世帯員が大きな影響を受ける可能性があり、それを考えると怖くて行けないと主張し、転居には至っていない」(23p)、「世帯員の環境変化に伴う悪影響への懸念から、主、妻ともに消極的であり、福祉事務所も被保護者の意に反して指導や指示を強制はできない」から実施に至っていないと説明しています(23p)。しかし、療養上の観点、経済的観点からしても、札幌市への転居指導を行うべきであったと考えます。
(5)札幌の通院先病院への通院実績の確認はされていたのでしょうか。
(理由)医療移送費の支給については、通院の事実を確認するため、医療機関から通院実績を確認します(「通院証明書」)。本件では、月によっては毎日通院に近い通院頻度となっている。このような頻回の医療機関に対する通院実績の確認はなされていたのでしょうか。
第2 医療移送費支給実績について
(1)当該不正受給ケース以外の、滝川市における医療移送費の支給実績(2003年~2007年度の過去5年分)を明らかにして下さい。
第3 実施体制について
(1)当該不正受給ケースが滝川市に転入した直後の2006年4月の人事異動で、貴市生活保護担当職員9人のうち6人が異動しています。このうち生活保護ケースワーカーの異動は何人なのでしょうか。なぜこのように3分の2が入れ替わる人事異動を行ったのかを明らかにされたい。
(理由)業務の継続性が保障されなくなる危惧があるこのような異常な人事異動を行った理由が理解できないため。
(2)貴市における生活保護ケースワーカーの資格取得状況及び経験年数、異動の場合の在職年数の目安等について明らかにされたい。
(理由)生活保護ケースワーカーの経験年数が少なければ、生活保護ケースワーカーが「素人」化し、本件ケースのように、制度をよく知っている者が悪用するような場合に、悪用を見抜きにくくなるなど、適切な業務運営に支障を来たすことになり、その具体的状況を知る必要があるため。
第4 その他
(1)「保護の種類、程度、方法等について被保護者の希望がある程度考慮されるべき」ことが不正受給の要因となるかのような認識の根拠を示されたい。
(理由)報告書は「被保護者の権利ともいうべきこれらのこと(保護の種類、程度、方法等について被保護者の希望がある程度考慮されるべきこと)は、仮に悪意をもって利用しようとすれば、犯罪に利用され得る可能性を持ち、また、場合によっては、福祉事務所の前に「法律の壁」として立ちはだかるものともなりうるものである。昨今の生活保護費の不正受給の増加についても、これらのことに起因する部分が多分にあるのではないかと推察する」(39p)と記していますが、本件に関連して、「被保護者の権利」を重視することが、不正受給の防止にどのような「法律の壁」となるというのか、全く不明です。そのような判断に至った具体的根拠を明らかにされたい。
(2)警察への相談の根拠は不適切ではないでしょうか。
(理由)本件について、報告書では、警察へ依頼した理由について「所としての調査では限界を感じ、打ち切る方法や理屈に思い至らず、警察に相談した」「犯罪性がなくても、法への違反事実等があればそれを一つのきっかとして支給打ち切りにつなげたい」という理由を書いています(43p以下の囲み)。しかし、このような処理は法的根拠無き警察への依頼ではないでしょうか?犯罪性がなくても保護を打ち切る理由ほしさに被保護者の情報等を警察と共有することを認めると、保護打ち切りのためには根拠がなくても警察へ依頼してもいいことになります。「生活保護法による保護を廃止する必要があれば、法に基づく廃止手続きを取ればよい」のであって、「生活保護を切りたくて困ったら警察に協議する」というようなことは、法の予定している内容とは全く背反しており、決して許されません。
(3)再発防止策について「町内会の協力」をあげていますが、このような指摘は、不適切ではないでしょうか。
(理由)本件のような事態の再発防止策について「町内会の協力を得て、被保護世帯の生活状況のいっそうの把握に努める」(46p)とありますが、民生委員の協力を求めることは当然としても、町内会にそのようなことを依頼する根拠はありません。このような方針は、被保護世帯の個人情報を民間人に漏洩することになり、保護利用者への偏見を助長し、地域での「監視体制」を敷くことによる保護利用者の孤立化という深刻な違法状態を招くことにもなりかねません。
以 上
公 開 質 問 状
2008年3月19日
北海道
知事 高橋はるみ 殿
生活保護問題対策全国会議 代表幹事 尾藤 廣喜
当会は、弁護士・司法書士・学者・市民など約200人余りで構成する、生活保護行政の改善などに取り組む民間団体です(別添資料をご参照ください)。当会は、滝川市で発生した医療移送費の不正受給事件について、生活保護制度のあり方、運用全体についての市民の信頼を根本から損ないかねず、生活保護制度利用者全体に対するする根拠のない偏見を助長しかねない重大な問題である認識しており、あってはならない事件であると考えています。同時に、生活保護の運用を法令や通知に従って適切に行えば、十分に防ぎ得た事件であると考えるものです。
しかも、当会としては、この事件を契機に、生活保護制度利用者、「水際作戦」と言われる申請の窓口規制や保護決定後も続く「保護辞退届」強要、根拠のない「就労指導」などが合理化され、最低基準の切り下げに口実として利用されかねない動きとなることを懸念しております。
以上述べた観点からすれば、この事件について、滝川市を指導監督する責任がある北海道庁の対応には疑問があります。
よって、当会としては、何故このような事件が発生したのか、また、その再発防止のためにどのような対策がとられなければならないかにつき、市民の立場、生活保護制度利用者の立場に立って検討、提言したく、以下のとおり、質問状を提出する次第です。
本質問状について、2008年3月末日までに書面にて回答していただきたく、お願いします。
記
1 本件についての滝川市への指導と監査について
滝川市は本件について北海道の監査でも問題なしとされたことを再三にわたり適正執行の理由に挙げており〔2008年1月「生活保護費詐詐欺事件に関する検証委員会報告書」(以下「報告書」といいます。以下、ぺージ数のみを表示した場合は、報告書のページを示す。p18、p27、p37〕、本件不正受給発生の要因として、「医師の診断や北海道の監査結果が非常に重く」(p39)とまで述べています。しかし、貴庁はそれに真っ向から反する見解を示しておられます(p 44)。そこで、滝川市への事務監査について以下の点を明らかにしていただきたい。
(1)2006年度の滝川市への生活保護法施行事務監査(2007年1月15日~16日実施)において本件ケースを監査したのでしょうか。監査したならば、どのような指摘を行ったのでしょうか。監査していないならばその理由はどういう理由によるものでしょうか。
(参考 2006年度生活保護法施行事務監査着眼点)
「3 移送給付等の状況
(1)移送給付
ア 移送給付は申請に基づき行われているか。また、通院証明書、レセプト等により事実確認は行われているか。
イ 移送手段は、最も経済的な方法で行われているか、なお、タクシーを利用する場合は、医師の診断に基づき、歩行困難と認められた者等、真に止むを得ない者に限って行われているか。
ウ 移送給付は、現物給付を原則として行われているか。」
2 別紙、当会から滝川市への質問状の各項目について、貴庁の見解を示していただきたい。
以 上
公 開 質 問 状
2008年3月19日
厚生労働大臣
舛添要一 殿
生活保護問題対策全国会議 代表幹事 尾藤 廣喜
当会は、弁護士・司法書士・学者・市民など約200人余りで構成する、生活保護行政の改善などに取り組む民間団体です(別添資料をご参照ください)。当会は、北海道滝川市で発生した医療移送費の不正受給事件について、生活保護制度のあり方、運用全体についての市民の信頼を根本から損ないかねず、生活保護制度利用者全体に対するする根拠のない偏見を助長しかねない重大な問題である認識しており、あってはならない事件であると考えています。同時に、生活保護の運用を法令や通知に従って適切に行えば、十分に防ぎ得た事件であると考えるものです。
しかも、当会としては、この事件を契機に、生活保護制度利用者、「水際作戦」と言われる申請の窓口規制や保護決定後も続く「保護辞退届」強要、根拠のない「就労指導」などが合理化され、最低基準の切り下げに口実として利用されかねない動きとなることを懸念しております。
以上述べた観点からすれば、この事件について、滝川市を指導監督する責任がある北海道庁及び貴省の対応には疑問があります。
よって、当会としては、何故このような事件が発生したのか、また、その再発防止のためにどのような対策がとられなければならないかにつき、市民の立場、生活保護制度利用者の立場に立って検討、提言したく、以下のとおり、質問状を提出する次第です。
本質問状について、2008年3月末日までに書面にて回答していただきたく、お願いします。
記
1 本件について
(1)2007年1月の北海道庁による滝川市への施行事務監査によって、北海道庁は本件について把握しており、本件の異常さから、北海道庁は貴省へその内容と問題点を報告していたと考えますが、貴省は何時の時点で本件を把握していたのでしょうか。
この事件を従来から把握していた場合、どのような指導を行ったのでしょうか。また、2007年1月直後に把握していなかったとすれば、なぜ把握できなかったのでしょうか。
(2)本件が発生した原因についてどう考えておられますか。
(3)別紙、当会議からの滝川市への質問状の各項目についての貴省の見解を示されたい。
2 医療移送費の制限について
貴省は、本年3月3日に開催された社会・援護局関係主管課長会議において、本件の発生を口実に「通院移送費等の適正化対策」を打ち出されました。その内容は、移送費の給付範囲については、原則として、国民健康保険の例により、災害現場等からの救急搬送、離島等で対応できる最寄の医療機関に搬送する場合、移動困難な患者であって、医師の指示により転院する場合、移植手術を行うための臓器等の搬出を行う医師等の派遣、臓器等の搬送を行う場合とする。この範囲で対応困難な場合については、①身体障害等により電車・バス等の利用が著しく困難な場合と認められる場合、②へき地等で最寄の医療機関であっても交通費が高額になる場合、③検診命令による検診、④往診による交通費の場合に支給を限定するとともに、受診する医療機関は原則として福祉事務所管内の医療機関に限るとするものです。
しかし、このような対策は以下の点において、重大な問題と疑問があるので、下記質問にお答えいただきたい。
(1)医療移送費を制限する理由はないのではないか。
本件については、現在滝川市において設置された第3者委員会において、原因究明および再発防止策等についての作業が行われているところであります。また移送費について貴省の全国調査結果も未だ示されていません。本件の発生原因を究明することなく、移送費支給自体を制限することは、バス、電車代等の通院移送費の支給により通院している多くの善良な保護利用者の権利を、理由なく奪うものであります。この点についての貴省の見解を示されたい。
(2)医療移送費を制限は、傷病保護利用者の医療を受ける権利を侵害し、自立から遠ざけるものではないか。
傷病を理由に貧困に陥る人は多く(保護開始理由中、「世帯主の傷病」「世帯員の傷
病」を合わせると42.8%[平成17年度])、したがって生活保護利用者には療養を要する人が多いのが現状です(医療扶助受給者[通院]は、1,076,710人(73%)[平成17年度])。こうした実績から、「医療扶助運営方針」では、「疾病が貧困の主たる原因の一つとなっている現状」という認識を示しています。通院移送費は、そのような傷病者の医療を受ける権利を保障し、病気を治して、一日でも早く自立する為には不可欠の制度であります。この制度の制限は、生活保護利用者の医療を受ける権利を侵害することになると考えますが、貴省の見解を示されたい。
(3)医療移送費を制限は、最低生活を侵害するものではないか。
本来、生活扶助には通院移送費は含まれていません。生活扶助における移送関係の
費用は、断酒会交通費などが限定列挙されているに過ぎません。医療扶助に於ける通院移送費が制限されると、通院しようとすれば、生活扶助から出さざるをえず、最低生活費の切り下げとなると考えます。この点の貴省の見解を示されたい。
(4)あまりに拙速な実施ではないか。
3月3日の全国課長会議で提起され、4月から実施というのは、移送費を利用して通院
している保護利用者の生活を無視した、余りに拙速な実施ではないでしょうか。この点について、貴省の見解を示されたい。
(5)以上の点からして、移送費支給自体を制限するという今回の方針を撤回する考えはありませんか。
以 上
2008年3月19日
滝川市
市長 田村 弘 殿
生活保護問題対策全国会議 代表幹事 尾藤 廣喜
(連絡先)〒530-0047 大阪市北区西天満3-14-16
西天満パークビル3号館7階 あかり法律事務所
弁護士 小久保 哲郎(事務局長)
電話 06-6363-3310 FAX 06-6363-3320
当会は、弁護士・司法書士・学者・市民など約200人余りで構成する、生活保護行政の改善などに取り組む民間団体です(別添資料をご参照ください)。当会は、貴市で発生した医療移送費の不正受給事件について、生活保護制度のあり方、運用全体についての市民の信頼を根本から損ないかねず、生活保護制度利用者全体に対するする根拠のない偏見を助長しかねない重大な問題である認識しており、あってはならない事件であると考えています。同時に、生活保護の運用を法令や通知に従って適切に行えば、十分に防ぎ得た事件であると考えるものです。
しかも、当会としては、この事件を契機に、生活保護制度利用者、「水際作戦」と言われる申請の窓口規制や保護決定後も続く「保護辞退届」強要、根拠のない「就労指導」などが合理化され、最低基準の切り下げに口実として利用されかねない動きとなることを懸念しております。
以上述べた観点からすれば、貴市が2008年1月に「生活保護費詐詐欺事件に関する検証委員会報告書」(以下「報告書」といいます。)で明らかにされた事件の概要と対応には、多くの疑問があります。
よって、当会としては、何故このような事件が発生したのか、また、その再発防止のためにどのような対策がとられなければならないかにつき、市民の立場、生活保護制度利用者の立場に立って検討、提言したく、以下のとおり、質問状を提出する次第です。
本質問状について、2008年3月末日までに書面にて回答していただきたく、お願いします。
記
第1 不正受給ケースへの滝川市の対応について
そもそも、当該世帯がなぜ滝川市へ転入したのか、理由が不明確です。また、重い病気
の人間が、わざわざ滝川市に転入した上で、ストレッチャー式のタクシーで長時間、体へ
負担をかけて遠距離(50キロ)の札幌にわざわざ通院するというのも常識的には考えられ
ない選択です。滝川市としては、転入時点で、「基本的に札幌市への通院については認め
られず」(報告書18p。以下、ぺージ数のみの場合は、報告書のページを示す)というま
っとうな判断をいったんは下しておきながら、結果として札幌への通院を追認しています。
保護開始時、移送費の支給経過、手続き、判断根拠、その後の指導等ついて以下の点を明
らかにして下さい。
1 保護開始時の問題について
本件は「暴力団関係ケース」とされていますが、保護開始時にどのような調査を行ったのでしょうか。また、その結果は、どういう判断だったのでしょうか?
(理由)本件世帯は、「平成18年度まで暴力団関係ケース」であったとされている(報告書17p)ところから、滝川市での保護開始後の約1年間は、そうであったことになります。こうしたケースの場合、「手引」(2006.3.30保護課長通知)では、「暴力団を離脱しない限り、申請を行っても却下する」という扱いが示されているところです(通知Ⅰ5(3)③)。そして、警察庁も暴力団情報についての情報提供を通知しており(2000.9.14警察庁暴暴発14号)、本件において、滝川市がどの程度の情報を把握し、どのような対処を取っていたかが問題となります。報告書では、保護開始時「警察からは十分な情報提供が得られない」(41p)としていますが、なぜ警察は非協力だったのかその理由を明確にする必要がります。また、きちんと協力していれば、保護開始時点でこの詐欺事件の発生は、防止できた可能性があります。また滝川市もどのような情報を把握していたのかを明確にすべきです。「暴力団関係ケースであるにもかかわらず、査察指導員や管理職の同行訪問が十分に行われていないこと」(31p)だけが問題ではありません。訪問の形式ではなく、保護開始時に、どのような対処方針に基づいて、いかなる具体的な対処を行ったかが問題です。
2 移送費給付に至る経過について
(1) 最初に、本件の移送費の申請がなされた時期は何時のことでしたか。
(2) その際の添付資料としては、どのような資料が添付されておりましたか。できれば、申請書の写しとともに添付資料の写しをご送付下さい。
(3) 上記の申請に関して、主治医の意見書はどのような内容になっておりましたか。できれば、当該意見書の写しをご送付下さい。
(4) また、どのような理由で、本件の移送費の給付の必要があり、最小限度の実費の額として、給付した額が必要と判断したのかについて、お教え下さい。
(理由)生活保護の運用では、病院通院のためのタクシー代(移送費)の支給は、主治医の意見書等を元にして保護の実施機関が判断することになっています。また、支給の金額については、最小限度の実費の額となっています(医療扶助運営要領第三-九)。 したがって、本件の移送費給付決定の妥当性を判断するためには、その際の添付資料としてどのような資料が添付されていたのか、また、主治医の意見書が具体的にどうなっていたのかを知る必要があります。また、どのような理由で、本件の移送費の給付が最低生活の維持上必要であると判断され、給付した移送費の額が必要と判断したのかについて、明らかにされる必要があります。
3 移送費支給についての判断及び保護実施上の滝川市の対応について
(1)なぜ、検診命令を発しなかったのでしょうか。
(理由)生活保護法28条の検診命令の要件は「保護の決定または実施のため必要があるとき」であり、具体的には、局長通知第9-4-(1)-ウにあるように「医療扶助の決定をしようとする場合に、要保護者の病状に疑いがある場合」とされています。そして、福祉事務所においては、主治医からの病状把握に客観性をもたせるために、利用者に対して、公立病院等他の医療機関で検診を受けさせる扱いが行われています。報告書は、法27条2項3項を根拠に「法27条の指導及び指示を経て行われる検診命令については、当然にそのことが考慮されるべきであるとの考え方があった」から実施していない(23p)と説明していますが、上記の通り、検診命令についての理解を誤っており(検診命令は、法27条に基づく指導指示を必ず経なければならないわけではない)、かつ、移送費金額の異常さからは、第三者的な病院等複数の病院での検診を受けさせて客観性を担保すべきであったと思われます。また、報告書の別のところでは「検診命令については、嘱託医が要否意見書等の検討に際し、不審な点が見られ、指定医療機関に照会しても判然としない場合に行われる」( 37p)としていますが、上記の通り検診命令はこのような場合に限定されません。
(2)医療機関の選定は妥当であったでしょうか。滝川市もしくはその近辺の医療機関への転院を勧めるべきではなかったでしょうか。
(理由)報告書は「医療機関の選定に際しては保護の実施に支障のない限り、患者の医師に対する信頼、その他心理的作用の及ぼす諸効果をあわせ考慮すべきこととされている」(18p)ことを札幌市への病院の通院を認めた理由にあげています。しかし、報告書も引用しているように、医療機関の選定は「あくまで保護の実施機関の権限」(6p)とされており、それも「保護の実施に支障のない限り」利用者の選定を尊重することとされています。本件は、異常に高額の金額が支給されていることからいって、保護の実施に支障があったことは明らかだと考えますが、なぜ札幌市の医療機関での治療を認めたのか、明らかにされるべきです。
(3)なぜ、病状聴取が10ヶ月も行われなかったのでしょうか。
(理由)本件世帯主の病状については、主治医から「状態は非常に重く、いつ急変してもおかしくない状態」(21p)と診断され、この病状を前提に移送費が支給されています。ところが、その後10ヶ月にもわたって病状が主治医から直接把握されていなません(C病院については、2006年9月に聴取されて以降2007年8月まで聴取されていない)。報告書はこの点を問題点として挙げながら(39p)、なぜそのような結果となったか明らかにしていません。
(4)本件について、なぜ、札幌市への転居指導を行わなかったのでしょうか。
(理由)上記のように、そもそも2006年3月における札幌市から滝川市への転入理由が不明確です。仮に転入自体はやむを得ないとしても、転入後すぐに札幌への通院を開始しており、それ以降問題のストレッチャー付きの介護タクシーを利用しています。診断書上重篤な病気であれば、札幌まで何時間もかけて通院すること自体が身体上のダメージとなり療養のためによくないことは明らかです。通常であれば、札幌にとどまり通院することが療養上も妥当でしょう。また、移送費も札幌市内からの通院なら当然軽減されます。この点、報告書は、「通院に伴う体の負担を考え札幌市への転居も検討するように話しているが、主及び妻は、環境の変化に伴い世帯員が大きな影響を受ける可能性があり、それを考えると怖くて行けないと主張し、転居には至っていない」(23p)、「世帯員の環境変化に伴う悪影響への懸念から、主、妻ともに消極的であり、福祉事務所も被保護者の意に反して指導や指示を強制はできない」から実施に至っていないと説明しています(23p)。しかし、療養上の観点、経済的観点からしても、札幌市への転居指導を行うべきであったと考えます。
(5)札幌の通院先病院への通院実績の確認はされていたのでしょうか。
(理由)医療移送費の支給については、通院の事実を確認するため、医療機関から通院実績を確認します(「通院証明書」)。本件では、月によっては毎日通院に近い通院頻度となっている。このような頻回の医療機関に対する通院実績の確認はなされていたのでしょうか。
第2 医療移送費支給実績について
(1)当該不正受給ケース以外の、滝川市における医療移送費の支給実績(2003年~2007年度の過去5年分)を明らかにして下さい。
第3 実施体制について
(1)当該不正受給ケースが滝川市に転入した直後の2006年4月の人事異動で、貴市生活保護担当職員9人のうち6人が異動しています。このうち生活保護ケースワーカーの異動は何人なのでしょうか。なぜこのように3分の2が入れ替わる人事異動を行ったのかを明らかにされたい。
(理由)業務の継続性が保障されなくなる危惧があるこのような異常な人事異動を行った理由が理解できないため。
(2)貴市における生活保護ケースワーカーの資格取得状況及び経験年数、異動の場合の在職年数の目安等について明らかにされたい。
(理由)生活保護ケースワーカーの経験年数が少なければ、生活保護ケースワーカーが「素人」化し、本件ケースのように、制度をよく知っている者が悪用するような場合に、悪用を見抜きにくくなるなど、適切な業務運営に支障を来たすことになり、その具体的状況を知る必要があるため。
第4 その他
(1)「保護の種類、程度、方法等について被保護者の希望がある程度考慮されるべき」ことが不正受給の要因となるかのような認識の根拠を示されたい。
(理由)報告書は「被保護者の権利ともいうべきこれらのこと(保護の種類、程度、方法等について被保護者の希望がある程度考慮されるべきこと)は、仮に悪意をもって利用しようとすれば、犯罪に利用され得る可能性を持ち、また、場合によっては、福祉事務所の前に「法律の壁」として立ちはだかるものともなりうるものである。昨今の生活保護費の不正受給の増加についても、これらのことに起因する部分が多分にあるのではないかと推察する」(39p)と記していますが、本件に関連して、「被保護者の権利」を重視することが、不正受給の防止にどのような「法律の壁」となるというのか、全く不明です。そのような判断に至った具体的根拠を明らかにされたい。
(2)警察への相談の根拠は不適切ではないでしょうか。
(理由)本件について、報告書では、警察へ依頼した理由について「所としての調査では限界を感じ、打ち切る方法や理屈に思い至らず、警察に相談した」「犯罪性がなくても、法への違反事実等があればそれを一つのきっかとして支給打ち切りにつなげたい」という理由を書いています(43p以下の囲み)。しかし、このような処理は法的根拠無き警察への依頼ではないでしょうか?犯罪性がなくても保護を打ち切る理由ほしさに被保護者の情報等を警察と共有することを認めると、保護打ち切りのためには根拠がなくても警察へ依頼してもいいことになります。「生活保護法による保護を廃止する必要があれば、法に基づく廃止手続きを取ればよい」のであって、「生活保護を切りたくて困ったら警察に協議する」というようなことは、法の予定している内容とは全く背反しており、決して許されません。
(3)再発防止策について「町内会の協力」をあげていますが、このような指摘は、不適切ではないでしょうか。
(理由)本件のような事態の再発防止策について「町内会の協力を得て、被保護世帯の生活状況のいっそうの把握に努める」(46p)とありますが、民生委員の協力を求めることは当然としても、町内会にそのようなことを依頼する根拠はありません。このような方針は、被保護世帯の個人情報を民間人に漏洩することになり、保護利用者への偏見を助長し、地域での「監視体制」を敷くことによる保護利用者の孤立化という深刻な違法状態を招くことにもなりかねません。
以 上
公 開 質 問 状
2008年3月19日
北海道
知事 高橋はるみ 殿
生活保護問題対策全国会議 代表幹事 尾藤 廣喜
当会は、弁護士・司法書士・学者・市民など約200人余りで構成する、生活保護行政の改善などに取り組む民間団体です(別添資料をご参照ください)。当会は、滝川市で発生した医療移送費の不正受給事件について、生活保護制度のあり方、運用全体についての市民の信頼を根本から損ないかねず、生活保護制度利用者全体に対するする根拠のない偏見を助長しかねない重大な問題である認識しており、あってはならない事件であると考えています。同時に、生活保護の運用を法令や通知に従って適切に行えば、十分に防ぎ得た事件であると考えるものです。
しかも、当会としては、この事件を契機に、生活保護制度利用者、「水際作戦」と言われる申請の窓口規制や保護決定後も続く「保護辞退届」強要、根拠のない「就労指導」などが合理化され、最低基準の切り下げに口実として利用されかねない動きとなることを懸念しております。
以上述べた観点からすれば、この事件について、滝川市を指導監督する責任がある北海道庁の対応には疑問があります。
よって、当会としては、何故このような事件が発生したのか、また、その再発防止のためにどのような対策がとられなければならないかにつき、市民の立場、生活保護制度利用者の立場に立って検討、提言したく、以下のとおり、質問状を提出する次第です。
本質問状について、2008年3月末日までに書面にて回答していただきたく、お願いします。
記
1 本件についての滝川市への指導と監査について
滝川市は本件について北海道の監査でも問題なしとされたことを再三にわたり適正執行の理由に挙げており〔2008年1月「生活保護費詐詐欺事件に関する検証委員会報告書」(以下「報告書」といいます。以下、ぺージ数のみを表示した場合は、報告書のページを示す。p18、p27、p37〕、本件不正受給発生の要因として、「医師の診断や北海道の監査結果が非常に重く」(p39)とまで述べています。しかし、貴庁はそれに真っ向から反する見解を示しておられます(p 44)。そこで、滝川市への事務監査について以下の点を明らかにしていただきたい。
(1)2006年度の滝川市への生活保護法施行事務監査(2007年1月15日~16日実施)において本件ケースを監査したのでしょうか。監査したならば、どのような指摘を行ったのでしょうか。監査していないならばその理由はどういう理由によるものでしょうか。
(参考 2006年度生活保護法施行事務監査着眼点)
「3 移送給付等の状況
(1)移送給付
ア 移送給付は申請に基づき行われているか。また、通院証明書、レセプト等により事実確認は行われているか。
イ 移送手段は、最も経済的な方法で行われているか、なお、タクシーを利用する場合は、医師の診断に基づき、歩行困難と認められた者等、真に止むを得ない者に限って行われているか。
ウ 移送給付は、現物給付を原則として行われているか。」
2 別紙、当会から滝川市への質問状の各項目について、貴庁の見解を示していただきたい。
以 上
公 開 質 問 状
2008年3月19日
厚生労働大臣
舛添要一 殿
生活保護問題対策全国会議 代表幹事 尾藤 廣喜
当会は、弁護士・司法書士・学者・市民など約200人余りで構成する、生活保護行政の改善などに取り組む民間団体です(別添資料をご参照ください)。当会は、北海道滝川市で発生した医療移送費の不正受給事件について、生活保護制度のあり方、運用全体についての市民の信頼を根本から損ないかねず、生活保護制度利用者全体に対するする根拠のない偏見を助長しかねない重大な問題である認識しており、あってはならない事件であると考えています。同時に、生活保護の運用を法令や通知に従って適切に行えば、十分に防ぎ得た事件であると考えるものです。
しかも、当会としては、この事件を契機に、生活保護制度利用者、「水際作戦」と言われる申請の窓口規制や保護決定後も続く「保護辞退届」強要、根拠のない「就労指導」などが合理化され、最低基準の切り下げに口実として利用されかねない動きとなることを懸念しております。
以上述べた観点からすれば、この事件について、滝川市を指導監督する責任がある北海道庁及び貴省の対応には疑問があります。
よって、当会としては、何故このような事件が発生したのか、また、その再発防止のためにどのような対策がとられなければならないかにつき、市民の立場、生活保護制度利用者の立場に立って検討、提言したく、以下のとおり、質問状を提出する次第です。
本質問状について、2008年3月末日までに書面にて回答していただきたく、お願いします。
記
1 本件について
(1)2007年1月の北海道庁による滝川市への施行事務監査によって、北海道庁は本件について把握しており、本件の異常さから、北海道庁は貴省へその内容と問題点を報告していたと考えますが、貴省は何時の時点で本件を把握していたのでしょうか。
この事件を従来から把握していた場合、どのような指導を行ったのでしょうか。また、2007年1月直後に把握していなかったとすれば、なぜ把握できなかったのでしょうか。
(2)本件が発生した原因についてどう考えておられますか。
(3)別紙、当会議からの滝川市への質問状の各項目についての貴省の見解を示されたい。
2 医療移送費の制限について
貴省は、本年3月3日に開催された社会・援護局関係主管課長会議において、本件の発生を口実に「通院移送費等の適正化対策」を打ち出されました。その内容は、移送費の給付範囲については、原則として、国民健康保険の例により、災害現場等からの救急搬送、離島等で対応できる最寄の医療機関に搬送する場合、移動困難な患者であって、医師の指示により転院する場合、移植手術を行うための臓器等の搬出を行う医師等の派遣、臓器等の搬送を行う場合とする。この範囲で対応困難な場合については、①身体障害等により電車・バス等の利用が著しく困難な場合と認められる場合、②へき地等で最寄の医療機関であっても交通費が高額になる場合、③検診命令による検診、④往診による交通費の場合に支給を限定するとともに、受診する医療機関は原則として福祉事務所管内の医療機関に限るとするものです。
しかし、このような対策は以下の点において、重大な問題と疑問があるので、下記質問にお答えいただきたい。
(1)医療移送費を制限する理由はないのではないか。
本件については、現在滝川市において設置された第3者委員会において、原因究明および再発防止策等についての作業が行われているところであります。また移送費について貴省の全国調査結果も未だ示されていません。本件の発生原因を究明することなく、移送費支給自体を制限することは、バス、電車代等の通院移送費の支給により通院している多くの善良な保護利用者の権利を、理由なく奪うものであります。この点についての貴省の見解を示されたい。
(2)医療移送費を制限は、傷病保護利用者の医療を受ける権利を侵害し、自立から遠ざけるものではないか。
傷病を理由に貧困に陥る人は多く(保護開始理由中、「世帯主の傷病」「世帯員の傷
病」を合わせると42.8%[平成17年度])、したがって生活保護利用者には療養を要する人が多いのが現状です(医療扶助受給者[通院]は、1,076,710人(73%)[平成17年度])。こうした実績から、「医療扶助運営方針」では、「疾病が貧困の主たる原因の一つとなっている現状」という認識を示しています。通院移送費は、そのような傷病者の医療を受ける権利を保障し、病気を治して、一日でも早く自立する為には不可欠の制度であります。この制度の制限は、生活保護利用者の医療を受ける権利を侵害することになると考えますが、貴省の見解を示されたい。
(3)医療移送費を制限は、最低生活を侵害するものではないか。
本来、生活扶助には通院移送費は含まれていません。生活扶助における移送関係の
費用は、断酒会交通費などが限定列挙されているに過ぎません。医療扶助に於ける通院移送費が制限されると、通院しようとすれば、生活扶助から出さざるをえず、最低生活費の切り下げとなると考えます。この点の貴省の見解を示されたい。
(4)あまりに拙速な実施ではないか。
3月3日の全国課長会議で提起され、4月から実施というのは、移送費を利用して通院
している保護利用者の生活を無視した、余りに拙速な実施ではないでしょうか。この点について、貴省の見解を示されたい。
(5)以上の点からして、移送費支給自体を制限するという今回の方針を撤回する考えはありませんか。
以 上