北九州市に対する生活保護法施行事務監査についての申入書
2007年10月24日
厚生労働大臣 舛添要一 殿
厚生労働省社会・援護局長 中村秀一 殿
(関連部署:同局保護課、同局総務課指導監査室)
生活保護問題対策全国会議
代表幹事 尾藤 廣喜
事務局長 猪股 正
(連絡先)〒530-0047 大阪市北区西天満3-14-16
西天満パークビル3号館7階あかり法律事務所
弁護士 小久保 哲郎(事務局長)
電話 06-6363-3310 FAX 06-6363-3320
本年10月29日から11月2日に予定されている標記の件については、
本年8月24日付の抗議申入書兼再質問状で貴省に対し要求したところですが、記載を落としていた点やその後新たに発覚した問題点などについて、改めて以下の通り申し入れるものです。8月24日付抗議申入書兼再質問状で指摘した点と合わせて、北九州市本庁及び小倉北福祉事務所の抱える問題点について徹底的に検討し、是正を指示することを強く求めます。
第1 生活保護申請取下げについて
1 小倉北福祉事務所に対する監査において、保護申請を行ったものの決定前に取下げたケースについて、面接相談記録等の検討を相当の時間をかけて徹底的に行い、取下げに至る経緯について十分調査してください。職員が取下げを強要している事例や、保護の受給要件等について虚偽の説明をして取下げを誘導している事例については、直ちに当該申請者に連絡し、相談日を申請日として保護の要否についての調査を開始するよう指導してください。また、受給要件を満たしている可能性があるにもかかわらず取下げている場合において、職員がその旨を教示していない事例については、担当職員に対してなぜ取下げないように助言しなかったのか徹底して事情聴取を行うとともに、直ちに当該相談者に連絡して再申請を助言するよう指導してください。
2 8月24日付抗議申入書兼再質問状で指摘したように、北九州市の福祉事務所では、面接相談記録等に記載を懈怠、または虚偽の記載をしていることを疑わざるを得ないことから、表面的な記述にとらわれることなく、担当職員に対して十分な事情聴取を行ってください。
第2 生活保護申請却下決定処分について
1 小倉北福祉事務所に対する監査において、保護申請(始原的開始申請および一時扶助申請)を却下したケースの記録を徹底的に検証し、違法な却下処分が行われた事例については、直ちに当該却下処分を取消すよう指導してください。その際、特に以下の点に留意してケース検討を行ってください。
(1)稼働能力不活用を理由に却下している場合、申請者の具体的な稼働能力を前提として、申請者の具体的な生活環境の中でその稼働能力を活用できる場が実際にあるかどうか正しく検討しているか
(2)資産不活用を理由に却下している場合、現実には利用できない資産の保有を理由に却下していないか、また、保有を容認すべき資産の保有を理由に却下していないか
(3)知人宅等に一時的に居候している場合などについて、同一居住であることのみをもって機械的に同一世帯と認定していないか
2 前記の面接相談記録と同様に、ケース記録に記載の懈怠ないしは虚偽の記載が行われているおそれがあることから、地区担当員、査察指導員、保護課長、福祉事務所長等の関係職員に対して十分な事情聴取を行ってください。
第3 路上生活者・住所不定者への保護の適用について
1 北九州市では、路上生活者・住所不定者など住居を持たない要保護者に対して、住所がなければ保護の適用ができないと虚偽の説明をし、保護申請を拒否することが常態的に行われています(資料1 読売新聞9月7日朝刊)。また、路上生活者・住所不定者への保護の適用は事実上救急搬送により入院した場合に限られ、しかも退院すると保護が廃止されています。こうした対応はいうまでもなく違法なものであり、直ちに改めるように指導してください。なお、この問題については、同市でホームレス支援に取り組んでいるNPO法人北九州ホームレス支援機構が、10月4日に北橋健治市長あてに提出した提言でも言及されています(資料2)。
第4 北九州市職員の職務意識について
1 北九州市は、8月8日の行われた第7回北九州市生活保護行政検証委員会において、「相談段階で十分な聞き取りができず申請に至ったことにより、家族関係が悪化するなど、却って申請が良くなかったケース」と称する事例を資料として提出しています(資料3)。このような事例では、長男を局1-2-(7)により世帯分離することが適切であり、福祉事務所には両親だけ保護受給して長男は保護から外すことができるという説明をする義務がありますが、そうした教示が行われた形跡はありません。また、長男が出て行った後、夫妻の二人世帯で要保護状態であることは明白です。二人分の最低生活費を超えない限り要保護であるということを説明しなければならないにもかかわらず、申請取下げを受け付けています。こうした対応は極めて不適切であるにもかかわらず、申請権の行使がマイナスであるかのような印象を委員に与える意図でこのような資料を提出する北九州市の姿勢は、生活保護行政に携わる公務員としての資質に欠けるものです。なお、これについては検証委員会において委員から批判されています(資料4)。
また、北九州市の三崎利彦・保健福祉局地域福祉部保護課長は、北九州市の生活保護費が増加傾向にあることについて、「相談に来る人が増えたうえ、権利意識が高まり、窓口で初めから申請権を主張する人が増えた結果ではないか」とコメントしています(資料5 朝日新聞9月19日朝刊)。本来、生活保護制度について市民に周知徹底し、保護の受給要件を満たしている人に対しては進んで申請するように促すのが国や自治体など行政の役割であります。にもかかわらず、逆に市民の保護請求権行使を露骨に敵視するかのような発言をするということは、三崎保護課長は市民の生存権を保障することが責務である生活保護行政の責任者としての適格性を著しく欠いていると評価せざるを得ません。これまでの市の対応を批判した北九州市生活保護行政検証委員会の中間報告について、三崎保護課長は「現場は驚愕しており、私も忸怩たる思い」としており(資料6 西日本新聞10月3日朝刊)、ある担当職員は「法に基づいてやっていると信じていたことが不適切と批判されるとは」と当惑しているとコメントしています(資料7 西日本新聞10月2日朝刊)。このことは、北九州市の生活保護担当の職員の多くが、自分たちがやってきた違法行為を自覚しておらず、生活保護法についての基本的な理解を根本的に誤っていることを示唆しています。北九州市本庁および小倉北福祉事務所の職員に対して、憲法・生活保護法の理念に基づき、市民の生存権を守るという職責を果たすよう指導してください。
第5 その他
1 北九州市保健福祉局総務部監査指導課が貴省の社会・援護局総務課指導監査室に提出した「平成18年度生活保護法施行事務監査実施結果報告」において、法63条による返還が決定された遡及受給した年金を費消したことをもって法78条を適用していることが報告されています(P20)。返還の対象となった資力を費消したからといって、63条による債務自体が消えるわけではなく、このような場合は「不正受給」には当たらず、78条を適用するのは違法であります。このような78条による費用徴収額決定処分は直ちに取消すよう指導してください。
(添付資料)
1 新聞記事(読売新聞9月7日朝刊)
2 ホームレス支援の現場から見た北九州における不適正な保護行政に関する抗議と保護適正実施に向けた提言(北九州ホームレス支援機構)
3 第7回北九州市生活保護行政検証委員会に市が提出した資料
4 第7回北九州市生活保護行政検証委員会議事録(抜粋)
5 新聞記事(朝日新聞9月19日朝刊)
6 新聞記事(西日本新聞10月3日朝刊)
7 新聞記事(西日本新聞10月2日朝刊)