2008年3月19日
滝川市事件を口実とした通院移送費全般の削減案撤回を求める要望書
厚生労働大臣 舛添 要一 殿
生活保護問題対策全国会議 代表幹事 尾藤 廣喜
(連絡先)〒530-0047 大阪市北区西天満3-14-16
西天満パークビル3号館7階あかり法律事務所
弁護士 小久保 哲郎(事務局長)
電話 06-6363-3310 FAX 06-6363-3320
貴省は、2008年3月3日、社会・援護局関係主管課長会議において、同年4月から生活保護医療扶助の移送費の取り扱いを変更する運営要領案(以下「改定案」という)を提示した。改定案によれば、これまで生活保護利用者に対し支給されてきた通常の通院にかかる移送費が原則支給対象外となる。
今般の貴省の突然の提示に対しては、生活保護利用者だけでなく、地方自治体における生活保護行政の現場からも強い批判の声が上がっている。当会議としても、今回の改定案については、以下の諸点から到底容認できるものではなく、貴省に対し、厳重に抗議するとともに、直ちに改定案を撤回するよう強く求めるものである。
1 保護基準の実質的切り下げ、医療を受ける権利の侵害による「棄民政策」
改定案によれば、これまで生活保護利用者に対して支給されてきた通常の通院にかかる移送費が原則支給対象外となる。例外的に支給を認める場合も「原則として福祉事務所管内の医療機関とする」としており、一般的な通院実態に照らせば、例外が認められる余地は事実上極めて限定的となることが明らかである。
通院移送費の支給がなくなれば、保護利用者としては、生活扶助費等の中から通院費を捻出せざるを得ない。これは実質的には「保護基準の切り下げ」である。
また、頻回に通院を要する病状重篤な者ほど、通院を抑制あるいは断念しなければならないことは容易に想像できる。これは、保護利用者の「適切な医療を受ける権利(国際人権規約社会権規約12条2項(d))」を侵害し、その生命や健康を直接危険にさらすことを意味する。
生活保護費の削減を至上命題として追求している昨今の貴省の姿勢からすれば、貴省は、通院移送費の不支給を手段として保護利用者の医療へのアクセスを阻害し、医療扶助費を削減することを究極の目的としていると考えざるを得ない。
私たちは、保護利用者の生命や健康を犠牲にすることによって医療扶助費の削減を図ろうとする、意図的な「棄民政策」を決して許さない。
2 放置した「巨悪(滝川市事件)」の責任を保護利用者全般に転嫁
上記のとおり、今般の改定案は、保護基準の実質的な切り下げであり、保護利用者の適切な医療を受ける権利を侵害するものであって、保護利用者にとっては重大な不利益変更である。こうした不利益変更を行うには、「正当な理由」(生活保護法56条)が必要であるが、貴省があげる理由は到底正当なものとはいえない。
すなわち、通院移送費を原則不支給とする理由として、貴省は、「濫給防止」を掲げ、「1世帯に対して、約2年間で総額2億3千万円を超える額が給付されていた事例」、すなわち滝川市における不正受給事案を持ち出している(重点事項4頁)。
しかし、滝川市事件のような異常な少数事例があるからといって、通院移送費全般が不正受給の温床となっているわけではない。貴省の主張には、明らかに論理の飛躍、すり替えがある。貴省は、先般行った通院移送費に関する全国調査については、「内容について集計等を行っているところ」としている(同前5頁)。わざわざ行った全国調査の結果発表を待たずに敢えてこうした改定を行うのは、滝川市事件に対する世論の強い批判が冷めないうちにこれを利用して、通院移送費(ひいては医療扶助費)の削減を図ろうとしているからではないかとの疑いを抱かざるを得ない。
いずれにせよ、濫給防止のために通院移送費全般を削減しなければならないことを裏付ける調査結果も統計資料もまったく存在せず、今般の改定案にはまったく正当性がないことは明らかである。
生活保護世帯の43.5%は高齢世帯であり、37.5%は障害・傷病世帯である。こうした世帯の多くが、何らかの疾病を抱え、日常的に通院をしていることは容易に想像できる。「滝川事件」を「口実」にした改定案によって不利益を受けるのは、多くの一般の保護利用者である。もっとも弱い立場にあり声を出せない人々から、広く薄くその権利をむしりとっていくやり方を、私たちは決して許さない。
3 例によって利用者・民意不在の「奇襲攻撃」
既に述べたとおり、今般の改定案のような、保護利用者にとって重大な不利益変更を行うには、「正当な理由」(生活保護法56条)が必要である。「正当な理由」があるといえるためには、実質的に正当な理由があるだけでなく、手続的にも、正確な実態調査をしたうえで、利用者や市民の声を聞き、慎重な検討をしなければならない。
しかるに、今回の改定案は、3月3日に突然発表し、4月からの実施を求めるもので余りに拙速過ぎる。厚生労働省は、2007年末にも拙速な審議で生活扶助基準の切り下げを図ろうとし、市民各層からの強い批判を受けて見送りを余儀なくされたばかりである。今回の改定案は、こりもせず、利用者・民意不在のままの「奇襲攻撃」によって正当性のない政策を達成しようとするものである。
私たちは、その姑息なやり方を決して許さない。
滝川市事件を口実とした通院移送費全般の削減案撤回を求める要望書
厚生労働大臣 舛添 要一 殿
生活保護問題対策全国会議 代表幹事 尾藤 廣喜
(連絡先)〒530-0047 大阪市北区西天満3-14-16
西天満パークビル3号館7階あかり法律事務所
弁護士 小久保 哲郎(事務局長)
電話 06-6363-3310 FAX 06-6363-3320
貴省は、2008年3月3日、社会・援護局関係主管課長会議において、同年4月から生活保護医療扶助の移送費の取り扱いを変更する運営要領案(以下「改定案」という)を提示した。改定案によれば、これまで生活保護利用者に対し支給されてきた通常の通院にかかる移送費が原則支給対象外となる。
今般の貴省の突然の提示に対しては、生活保護利用者だけでなく、地方自治体における生活保護行政の現場からも強い批判の声が上がっている。当会議としても、今回の改定案については、以下の諸点から到底容認できるものではなく、貴省に対し、厳重に抗議するとともに、直ちに改定案を撤回するよう強く求めるものである。
1 保護基準の実質的切り下げ、医療を受ける権利の侵害による「棄民政策」
改定案によれば、これまで生活保護利用者に対して支給されてきた通常の通院にかかる移送費が原則支給対象外となる。例外的に支給を認める場合も「原則として福祉事務所管内の医療機関とする」としており、一般的な通院実態に照らせば、例外が認められる余地は事実上極めて限定的となることが明らかである。
通院移送費の支給がなくなれば、保護利用者としては、生活扶助費等の中から通院費を捻出せざるを得ない。これは実質的には「保護基準の切り下げ」である。
また、頻回に通院を要する病状重篤な者ほど、通院を抑制あるいは断念しなければならないことは容易に想像できる。これは、保護利用者の「適切な医療を受ける権利(国際人権規約社会権規約12条2項(d))」を侵害し、その生命や健康を直接危険にさらすことを意味する。
生活保護費の削減を至上命題として追求している昨今の貴省の姿勢からすれば、貴省は、通院移送費の不支給を手段として保護利用者の医療へのアクセスを阻害し、医療扶助費を削減することを究極の目的としていると考えざるを得ない。
私たちは、保護利用者の生命や健康を犠牲にすることによって医療扶助費の削減を図ろうとする、意図的な「棄民政策」を決して許さない。
2 放置した「巨悪(滝川市事件)」の責任を保護利用者全般に転嫁
上記のとおり、今般の改定案は、保護基準の実質的な切り下げであり、保護利用者の適切な医療を受ける権利を侵害するものであって、保護利用者にとっては重大な不利益変更である。こうした不利益変更を行うには、「正当な理由」(生活保護法56条)が必要であるが、貴省があげる理由は到底正当なものとはいえない。
すなわち、通院移送費を原則不支給とする理由として、貴省は、「濫給防止」を掲げ、「1世帯に対して、約2年間で総額2億3千万円を超える額が給付されていた事例」、すなわち滝川市における不正受給事案を持ち出している(重点事項4頁)。
しかし、滝川市事件のような異常な少数事例があるからといって、通院移送費全般が不正受給の温床となっているわけではない。貴省の主張には、明らかに論理の飛躍、すり替えがある。貴省は、先般行った通院移送費に関する全国調査については、「内容について集計等を行っているところ」としている(同前5頁)。わざわざ行った全国調査の結果発表を待たずに敢えてこうした改定を行うのは、滝川市事件に対する世論の強い批判が冷めないうちにこれを利用して、通院移送費(ひいては医療扶助費)の削減を図ろうとしているからではないかとの疑いを抱かざるを得ない。
いずれにせよ、濫給防止のために通院移送費全般を削減しなければならないことを裏付ける調査結果も統計資料もまったく存在せず、今般の改定案にはまったく正当性がないことは明らかである。
生活保護世帯の43.5%は高齢世帯であり、37.5%は障害・傷病世帯である。こうした世帯の多くが、何らかの疾病を抱え、日常的に通院をしていることは容易に想像できる。「滝川事件」を「口実」にした改定案によって不利益を受けるのは、多くの一般の保護利用者である。もっとも弱い立場にあり声を出せない人々から、広く薄くその権利をむしりとっていくやり方を、私たちは決して許さない。
3 例によって利用者・民意不在の「奇襲攻撃」
既に述べたとおり、今般の改定案のような、保護利用者にとって重大な不利益変更を行うには、「正当な理由」(生活保護法56条)が必要である。「正当な理由」があるといえるためには、実質的に正当な理由があるだけでなく、手続的にも、正確な実態調査をしたうえで、利用者や市民の声を聞き、慎重な検討をしなければならない。
しかるに、今回の改定案は、3月3日に突然発表し、4月からの実施を求めるもので余りに拙速過ぎる。厚生労働省は、2007年末にも拙速な審議で生活扶助基準の切り下げを図ろうとし、市民各層からの強い批判を受けて見送りを余儀なくされたばかりである。今回の改定案は、こりもせず、利用者・民意不在のままの「奇襲攻撃」によって正当性のない政策を達成しようとするものである。
私たちは、その姑息なやり方を決して許さない。