生活保護問題対策全国会議blog

※現在、新ブログに移転しております。
「生活保護問題対策全国会議」で再検索してください。

通院移送費問題局長通知の完全撤回を強く求める声明を出しました

2008-06-16 15:12:53 | 通院移送費問題
通院移送費問題局長通知の完全撤回を強く求める声明

「羊頭狗肉」「面従腹背」の新通知に騙されるな

 厚生労働省社会・援護局保護課長は、2008年6月10日、「医療扶助における移送の給付決定に関する留意点(周知徹底依頼)」と題する通知(以下「本件課長通知」という)を全国自治体の生活保護担当部署宛てに発出した。本件課長通知は、同年4月1日付の「生活保護法による医療扶助運営要領の一部改正について」と題する同省社会・援護局長通知(以下「局長通知」という)について説明を加えたものである。
 舛添大臣は、自民党有志議員からの局長通知撤回要請を受け、10日の記者会見で「事実上撤回と同じような効果を持つ。必要な医療が受けられなくなるのではないかという受給者の不安を解消したい」と述べ、政治的判断においては局長通知の撤回が必要であることが明確にされた。これを受けて、マスコミでも「不支給通知撤回」「従来通り支給へ」といった報道がされている。舛添大臣が、「事実上撤回」を表明せざるをえなかったのは、生活保護利用者や多くの団体が反対を表明し、自治体や国会議員の厚労省への働きかけが強まった成果ではある。

 しかし、厚生労働省から示された、本件課長通知の内容を精査すれば、局長通知を撤回する内容とはなっていない。本件課長通知は、私たち市民団体や与野党の国会議員らによる追及に対して、厚労省が繰り返してきた苦し紛れの「弁解」を書き連ねたものに過ぎないと評価する。舛添大臣の「事実上撤回」という会見での発言によって世論や与野党議員の批判を沈静化させながら、局長通知の骨格は維持するという「羊頭狗肉」「面従腹背」の姑息な対応と言わざるを得ない。
 また、今回の通知を出した理由を「自治体への徹底」としているが、生活保護利用者の権利を侵害し、福祉事務所に混乱を招いた元凶である4月1日付け通知を出した厚生労働省自身の責任を棚上げしている。
 以下、本件課長通知の問題点を列挙し、撤回を強く要求するものである。

本件課長通知は、「局長通知の撤回」ではない
 
第1に、本件課長通知には、「局長通知の撤回」という表現は一言も出てこない。「本件局長通知は、これまでの基準を変更するものではなく、給付範囲や審査等の基準を明確化しただけ」という矛盾に満ちた説明を、反省することなく繰り返している。
第2に、本件課長通知は、局長通知の「原則不支給。例外的に支給」という枠組みに何ら変更を加えていない。局長通知があるかぎり、福祉現場、実施機関では「原則不支給」がいずれ定着するのは目にみえている。
なお、本件課長通知は、「『例外的給付』とは、原則支給しないという意味ではなく、国民健康保険の例によらない生活保護制度における独自の基準であるという意味です」という意味不明の説明を加えている。しかし、局長通知は、明確に「原則として(災害現場からの緊急搬送等の)国民健康保険の例による」と記載している。そして、国民健康保険の被保険者4026万9526人中、移送費の支給実績は549件で0.0000136%に過ぎないのであるから(平成17年度国民健康保険事業年報)、局長通知が、「原則不支給」を定めたものであることは明らかである。


「基準の明確化」にはほど遠く、「局長通知の完全撤回」こそが必要である

⑴ 「原則として福祉事務所管内の医療機関に限る」
  本件課長通知は、医療扶助における医療機関の選定に関する「居住地等に比較的近距離に所在する医療機関であること」という要領を引用し、このような場合と「やむを得ない」場合には、管外であっても「受診が認められます」と記載している。これは、明らかに限定列挙であり、受診の抑制につながるとともに、移送費の支給が認められるか否かについても明示しておらず、「基準を明確化」したものとは到底評価できない。
  また、仮に、移送費支給の余地を認めたというのであれば、上記要領と矛盾し、誤解・混乱を招く余地がある。「原則管内に限る」という局長通知の定めそのものを撤回・廃止することこそ必要である。

⑵ 「身体障害等により、電車・バス等の利用が著しく困難な者であって当該者が最寄りの医療機関に受診する際の交通費が必要な場合」について
身体障害者等について、知的障害、精神障害、難病等を列記してあるが、生活保護受給者の4割をしめる傷病者、過半数をこえる高齢者などの加齢からくる移動困難等が含まれるのかどうか不明であり、障害者手帳所持者、特定疾患等に限定されない必要がある。また、恒常的に通院を必要とするとは決まっていない受給者の通院を排除するかに見える。例外的な扱いにしたうえで、列記したものだけを対象とするとした制限列挙方式による弊害であり、原則と例外を分けた通知を廃止しなければ解決しない問題である。
また、本件課長通知では傷病による場合を、「夜間の突発な傷病により電車・バス等の利用が困難な場合」と例示しており、夜間に限定される誤解を生む表現となっており、症状急変時や悪化時における受診抑制につながる恐れもある内容である。

⑶ 「へき地等により、最寄りの医療機関に電車・バス等により受診する場合であっても当該受診に係る交通費の負担が高額になる場合」について
  この要件は、「高額の場合」のみ移送費を支給するとするもので、「移送に必要な最小限度の額」であれば、例え少額でも移送費支給を認めていた従来の取り扱いをもっとも大きく変更する可能性がある要件である。しかも、厚労省が「高額」の基準を明確に示さないため、福祉事務所によってまちまちな基準で運用され混乱や不公平が生じることや、「高額」を2000円、3000円、5000円と高く設定すればするほど、不支給となる者が増えることが危惧されていたのである。
  しかるに、本件課長通知は、「高額」の要件を撤回することはもちろん、基準さえ明示していない。これは、「従来の取り扱いを明確化した」という局長通知や課長通知の説明がまやかしであることを如実に示している。
  むしろ、本件課長通知は、「慢性疾患等により医療上の必要から継続的に受診するため交通費の負担が高額になる場合も検討の対象になります」という例を書き加えることによって、高額は500円や1000円ではない、といったニュアンスを伝え、福祉事務所の現場での抑止的効果を期待しているようにも読める。また、慢性でない疾患や初めて受診する場合を除外する効果も与えるように読める。
  厚生労働省が、「高額の基準」を示すことができないのは、理論上、合理的基準を設定することができないからにほかならない。厚生労働省は、私たちとの交渉の場においては、「500円や100円でも必要なら支給できる」と繰り返し明言している。もはや「高額」という文言にも意味がないことを「自白」しているのである。そうであればなおさら、誤解を与えて支給抑制を誘発する以外に何の意味もない「高額」という文言は削除すべきである。
また、「へき地等」の解釈について、本件課長通知では、「電車代・バス代が支給されるのは『へき地』に限られるものではなく、都市部であっても一律に排除されるものではありません。」と説明している。しかし、都市部であってもへき地と解釈するのであれば、「へき地等」という例示に意味はなく、むしろ誤解を招くおそれが大であるから、この言葉そのものを削除すべである。

以上、局長通知の撤回こそが求められるゆえんである。


まとめ

  以上のとおり、本件課長通知の発出によって局長通知の問題点が解消されたものとは到底評価できない。
  私たちは、「事実上撤回と同じ効果を持つ」と言えるためには、以下のポイントが必要と考える。
  1)「4月1日局長通知を廃止し」の文言をいれる
  2)移送費が必要な場合の列挙だと、福祉事務所によっては限定列挙と解釈されるおそれがあるので、列挙はしない
  3)「高額」という言葉が一度出てしまっているので、「必要な通院において、電車・バス等の公共交通機関を利用し、適正なルートで通院している場合、金額の高下にかかわらず、今までどおり通院移送費を支給するように留意すること」など、その限定要件を払拭する文言を意識的にいれる。
  4)「タクシーの利用などで、移送費が高額になる場合には、交通手段の適正さや他の代替医療機関の受診可能性について精査すること」といった文言をいれ、適正な交通手段の精査の具体的方法については、別途問答(Q&A)で指示する。

私たちは、引き続き、関係諸団体、保護利用者、マスコミ各位、良心ある与野党議員とともに、局長通知の撤回を求めて取り組みを強化する所存であるので、ご協力をお願いしたい。


2008年6月15日

生活保護問題対策全国会議 代表幹事 尾藤廣喜
中央社会保障推進協議会 代表委員 住江憲勇
全国公的扶助研究会 会長 杉村宏
全日本民主医療機関連合会 会長 鈴木篤
NPO法人自立生活サポートセンター・もやい 理事長 稲葉剛
特定非営利活動法人DPI日本会議 議長 三澤了
全国生活と健康を守る会連合会 会長 鈴木正和
全国クレジット・サラ金問題対策協議会 代表幹事 木村達也