生活保護問題対策全国会議blog

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TBSテレビ番組の放送内容に関する質問状

2010-06-18 10:00:00 | Weblog
平成22年6月15日
〒107-8006 東京都港区赤坂5丁目3番6号
株式会社TBSテレビ 御中
〒160-0021 東京都新宿区歌舞伎町1丁目4−1
新宿区福祉事務所 御中
ホームレス総合相談ネットワーク
代表 弁護士森川文人
                    生活保護問題対策全国会議
                       代表幹事 弁護士尾藤廣喜
                    ホームレス法的支援者交流会
                       代表 司法書士後閑一博
【連絡担当】
〒101-0041東京都千代田区神田須田町1丁目4番地8
芙蓉神田須田町ビル8階 お茶の水合同法律事務所
弁護士 渡邉恭子 
電話 03-5298-2601

TBSテレビ番組の放送内容に関する質問状

ホームレス総合相談ネットワーク(以下、「当ネットワーク」と言います。)は、主に東京都内において、ホームレス状態にある方々への法的支援を行っている団体、生活保護問題対策全国会議は、生活保護の運用と制度の充実と改善を求めて活動している団体、ホームレス法的支援者交流会は、ホームレス状態にある方への支援にあたる法律家及び支援者が法的な観点からの支援について情報交換と交流を行う団体です。
この度、TBSテレビ(以下、「貴局」と言います。)の制作著作に係る、平成22年3月29日23時59分放映の番組「ニッポン国民の皆さん 田村淳でございます」(以下、「本番組」といいます。)を視聴したところ、ホームレス状態にある方々の生活保護申請に関して、視聴者の誤解を招き、偏見を助長する内容が含まれており、看過し難い問題点があったことから、以下の通り要望致します。
なお、ご多忙中に御手数をおかけして恐縮ですが、回答は、本書面到達後2週間以内に書面でいただきますよう、よろしくお願い申し上げます。

第1 放送内容の概要と質問及び要望事項
1 放送内容の概要
本番組においては、政治家を目指す田村淳氏が社会問題にアプローチするという設定で、田村氏とジャーナリストの鳥越氏が、ホームレス問題に対する行政の対応を調査すべく新宿区福祉事務所唐沢邦子職員にインタビューを行う場面があります。
その中で、唐沢職員は、
① ホームレスの人が生活保護費を「だまして」「持ち逃げ」する問題があり、「持ち逃げ」した人を罰する法律がないことを制度上の問題として指摘し
② 「持ち逃げ」したホームレスでも、再度、生活保護申請できることを問題視し
③ ホームレスの生活保護申請を支援している弁護士、司法書士らが「何度でもいいじゃないか」と「怒鳴り込んでくる」ことがけっこうある
という趣旨の発言をし、田村氏、鳥越氏もそれに同調する形で番組がまとめられています。
 2 質問及び要望事項
 (1) 上記①ないし③の事実があったとされる時期や件数の詳細と、いかなる調査と根拠に基づき、上記の事実認定をされたのかをご回答ください。
  特に、「だまして」「持ち逃げ」をしたとされる「ホームレス」の人や、「怒鳴り込んできた」という弁護士の言い分をどのようにして調査確認したのかを明らかにしてください。仮に、こうした調査確認をしていないとすれば、批判・非難の対象とされる相手方の言い分を確認しないまま、なぜ上記のように断定的に発言し、報道することができたのかについて明らかにしてください。
(2) 仮に十分な根拠や調査確認を行うことなく上記の発言、報道に至ったというのであれば、TBSテレビは、訂正放送を行うとともに、TBSテレビ及び新宿区福祉事務所は、今後同様の過ちを犯すことのないよう再発防止策を策定し公表してください。

第2 放送内容の問題点
 1 ホームレスの人が生活保護費を「だまして」「持ち逃げ」するという発言・報道の問題点
    唐沢職員は、ホームレスの人達が、生活保護費を持ち逃げすることがあることを当然の前提とし、「持ち逃げ」とはいかなる行為を指すのか、「持ち逃げ」するホームレスの人達がどの程度の割合でいるのかなど、具体的な数値、根拠を示すことなく発言しています。
    唐沢職員は、「まあそんな頻繁ではありませんけれども。」と言っておきながら、「でも、けっこうあることなんですね。」などと言っており、結局のところ、何らの根拠に基づかない自己の主観的印象を述べているにすぎず、行政の責任ある立場の職員の発言としては軽率であるといわざるを得ません。
  2 再度申請することを問題視する発言・報道の問題点
    本放送では、「持ち逃げ」したホームレスが何度でも生活保護申請をすることを問題視しています。
しかし、生活保護は、「日本国憲法第二十五条に規定する理念に基き、国が生活の困窮するすべての国民に対し、その困窮の程度に応じ、必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長することを目的とする」(生活保護法1条)ものです。
また、生活保護は、すべての国民が「無差別平等に」受けることができるとされており(無差別平等原理、同2条)、過去にいかなる事情があったとしても生活に困窮しているのであれば、何度でも、保障されなければならないのです。
    このことは、憲法上の要請であり、憲法を尊重し擁護する義務を負っている行政の立場にある者の発言として許されないものです。
  3 ホームレスを支援する弁護士、司法書士をクレーマー視する発言の問題点
    唐沢職員は、ホームレスの生活保護申請支援をしている弁護士、司法書士らが「何度でもいいじゃないか」と「怒鳴り込んでくる」などと発言し、あたかも、弁護士、司法書士らが理不尽なクレーマー的存在であるかのように発言しています。しかし、こうした発言が、いかなる具体的事実をいかなる根拠と調査確認に基づいてなされたかという点が極めてあいまいである点は、1で述べたのと同様です。
    そもそも、弁護士、司法書士は、法律専門家としての職責に則って、生活保護行政が法律を遵守した形で実施されるように生活保護申請に同行するなどの支援をしているのであって、法律に反した主張などをしているわけではありません。少なくとも当ネットワークに所属している法律家、支援者らは「怒鳴り込んでくる」と評価されるような言動は一切行っていません。
    住居がなく路上生活を余儀なくされ、毎日の食事にも満足にありつくことができない「ホームレス」は、究極の貧困状態として憲法25条で保障された「健康で文化的な最低限度の生活」以下の生活をしていることは明らかです。
    したがって、生活保護法上、ホームレス状態にある人々に対して生活保護制度を適用して、アパート等での生活を保障することは当然のことです。
    しかし、現実には、「住所がないからだめ」「まだ若いからだめ」「病気でないからだめ」「施設に入らなければ保護は受けられない」などといった違法な理由により、福祉事務所の窓口で追い返される「ホームレス」の人が後を絶ちません。当ネットワークでは、毎日のように、生活保護を受けることができず困窮した「ホームレス」から相談を受け対応しているところです。
    このような「ホームレス」の置かれた現状をふまえれば、ホームレスと生活保護についてテレビ番組で取り上げるのであれば、むしろ、生活保護を利用する資格があるのに福祉事務所の違法な対応により利用できないホームレスの存在こそが報道されるべきであると考えます。
    生活保護法に則った保護の実施を求めて、福祉事務所の窓口で交渉をする弁護士、司法書士、支援者らのことを一方的に「怒鳴り込んでくる」クレーマーのように扱う唐沢職員の発言には悪意すら感じ、ホームレスの法的支援に携わる者としては誠に心外です。

第3 行政機関・報道機関としての姿勢の問題点
 1 行政機関としての新宿区福祉事務所の問題点
 厚生労働省が定めている生活保護の実施要領の冒頭には、「生活保護実施の態度」として、「被保護者の立場を理解し、そのよき相談相手となるようにつとめること」、「被保護者の個々についてその性格や環境を把握理解し、それに応じた積極的な援助をたゆまず行うようつとめること」、「実態を把握し、事実に基づいて必要な保護を行うこと」、「被保護者の協力を得られるように常に配意すること」といった、保護の実施機関(職員)としての基本的心構えが記されています。福祉事務所のケースワーカーは、さまざまな困難を抱えている生活困窮者に寄り添い、その信頼を得て、細やかな支援を行うことが求められているのです。
しかし、先に述べたとおり、本放送での唐沢職員は、本来支援の対象であるはずのホームレスの人について、生活保護費をだまして持ち逃げするなどと敵視し、批判する発言を、何らの根拠や資料に基づかず、あくまで主観的印象として行っています。こうした発言は、視聴者に対して、ホームレスは生活保護制度を悪用しているという誤解や偏見を強く印象づけるものであり、生存権保障の担い手となるべき福祉事務所の職員が、公の電波において、堂々とこのような発言をすることの責任は重大です。
2 報道機関としてのTBSテレビの問題点
   日本民間放送連盟の「放送倫理基本綱領」は、「報道は、事実を客観的かつ正確、公平に伝え、真実に迫るために最善の努力を傾けなければならない」と規定しています。また、同連盟の「報道指針」は、「報道姿勢」として、「誠実で公正な報道活動こそが、市民の知る権利に答える道である。われわれは取材、報道における正確さ、公正さを追求する」、「未確認の情報は未確認であることを明示する」、「公平な報道は、報道活動に従事する放送人が常に公平を意識し、努力することによってしか達成できない。取材、報道対象の選択から伝え方まで、できるだけ多様な意見を考慮し、多角的な報道を心掛ける」と規定し、「報道表現」として、「報道における表現は、節度と品位をもって行われなければならない。過度の演出、センセーショナリズムは、報道活動の公正さに疑念を抱かせ、市民の信頼を失う」と規定しています。
   しかしながら、本放送の内容からすると、ホームレスの人や弁護士、司法書士に悪感情を抱いているとうかがわれる唐沢職員の一方的な批判的発言を特段の根拠や資料も示さずに垂れ流し、批判の対象となっているホームレスの人や弁護士、司法書士に対する取材が行われた形跡はうかがわれません。
   しかも、本放送では、唐沢職員の発言に合わせて、「(保護費の持ち逃げを)何度やってもいいじゃないかと弁護士が怒鳴り込んでくることも」、「(持ち逃げした人が)2度と来ちゃったりするんです」、「(裏切った人は2度と支援をしないように)有権者の声 国会議員になって法改正を!」という文字テロップを画面に表示し、唐沢職員の発言に対して、ことさらに肩入れして強調する演出が行われています。
このように、本放送は、公共の電波で唐沢職員の一方的な発言をそのまま放送することにより、あたかもそれが事実であるかのような印象を視聴者に与えたものであり、放送倫理上大きな問題があると言わざるを得ません。

第4 まとめ
   この国では、ホームレス状態にあるということは、身分証明の手段を奪われ、選挙権や就労の機会を奪われ、一人前の市民であるとはみなされず、差別と偏見の下社会生活から排除されてきました。
今般の番組企画における、従来見過ごされてきたホームレス問題を政治につなげようとする視点や、実際に現場を見るという構成そのものについては、私たちも異存はなく、大いに評価したいと考えます。
それだけに、ホームレス状態にある人に対する偏見を助長する内容には、敏感であっていただきたいと切に願います。
双方当事者に取材にあたることは、報道の基本です。とりわけ、社会的強者と弱者が当事者である場合には、強者の論理が一方的にまかり通ることにならないよう、配慮を求めるものです。
また、ホームレス状態にある者に対する援助を第一線で行う福祉事務所にあっては、ホームレス問題の特殊性をよく理解され、生活保護法及び各関連法規の趣旨にもとることのないよう対応を強く求めるものです。

以上