Dark matter, Hawking radiation, black holes,

Approaching the Identity of Dark Matter

その7・素粒子物理学の展望:日本の4

2024-05-25 | 日記

『CMB実験の現状と今後の展望¶
宇宙マイクロ波背景放射(CMB)の精密観測による物理成果は、宇宙物理学のみならず素粒子物理学においても歴史的に大きなインパクトを与えてきた。観測装置の向上や実験の大型化によって、CMBの偏光観測による宇宙のインフレーションやニュートリノの絶対質量等の重要な課題に大きな進展を迎えつつある。本講演では、現行のCMB実験の現状と将来計画の進展を紹介しつつ、それらの物理成果がもたらす宇宙・素粒子物理学の新展開に関して議論する。

Speaker: 櫻井 雄基 (岡山大): https://conference-indico.kek.jp/event/236/contributions/4351/attachments/3267/4464/IPNS_WS_CMB_Sakurai.pdf :』

『素粒子物理の今と未来:
CMB実験の現状と今後の展望

初期宇宙と素粒子の関係性
「CMB実験から何がわかるのか?」

● 初期宇宙䛿クリーンかつ超高エネルギーな天然の実験場
● その痕跡をたどる最も高感度なプローブがCMB
● CMB 温度 → SM(ΛCDM)の確立
● CMB 偏光 → BSM !?
○ Inflation, Light relic, Dark matter …

CMB Polarization = Science treasure trove

インフレーションの検証

インフレーション由来の原始重力波を捉える → CMB Bモード偏光が最も高感度なプローブ

インフレーション探索の今

測定量 r: テンソル・スカラー比
○ インフレーションエネルギースケールの指標
○ 理論的に興味ある領域 :0.005 < r <0.1

インフレーションモデル
● シンプルなモデル (Large-field inflation) はすでにほとんど棄却済
● 有力候補:Starobinsky R^2  inflation (1980)
○ 修正重力論 f(R)のR^2項からインフレーションを導出

10-15年後のCMB Bモード探索

LiteBIRD (衛星) Forecast ℓ < 200

CMB S4 (地上) Forecast 30 < ℓ < 5000

原始重力波を新たな目とした
量子重力時代䛾幕開けとなるか!?


CMB実験から多くの素粒子物理学に関連する重要な科学成果がもたらされる
● 原始重力波検出によるインフレーション
○ 前人未踏の σ(r) < 0.001
○ Discovery or exclusion of large/intermediate inflation models
ex) Starobinsky R^2
 Inflation, Higgs inflation, etc
○ 詳細なモデル選定 → 量子重力検証へ
● Light relics: σ(N eff) ~ 0.03, fermion or vector boson type
● ニュートリノ質量和: σ(Σmν) ~ 25 meV, 階層性の決定感度
● 現行実験䛾データが続々と出始めている → 数年以内に乞うご期待!
● 将来計画も着々と進行中、今後10-15年䛾結果で大きな変革を迎える。』

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『観測的宇宙論: 大規模銀河サーベイの現状と将来(zoom)¶
宇宙マイクロ波背景放射の精密測定を始めとする天文学観測技術の飛躍的な発展によって、宇宙のエネルギー密度のうち、既知の物質はたった約5%しかなく、残りの約26%は未知の物質である暗黒物質、約69%は加速膨張を引き起こす未知のエネルギーである暗黒エネルギーであることがわかった。宇宙の暗黒成分の正体を探るため、世界中で多くのサーベイ観測が実行・計画中である。宇宙の大規模構造は暗黒物質による引力と、暗黒エネルギーによる加速膨張とのせめぎ合いの下で形成される。よって、大規模構造の時間発展を測定することで、暗黒成分の性質を調べることができる。本講演では、すばる望遠鏡超広視野主焦点カメラHyper Suprime-Camによる広視野深宇宙サーベイデータの弱重力レンズ効果精密測定による最新の結果を中心に、他の競合するサーベイの成果や将来計画について解説する。

Speaker: 宮武 広直 (名古屋大): https://conference-indico.kek.jp/event/236/contributions/4355/attachments/3276/4474/galaxy_survey_miyatake.pdf :』

『観測的宇宙論
大規模銀河サーベイの現状と将来

H0テンション
• Ia型超新星: 距離梯子に何を用いるかによって結果が変わる。
• 距離梯子に依存しない測定(time delay, 重力波)の結果が待たれる。

大規模構造の進化による標準宇宙論の検証
ΛCDM標準宇宙論における5つのパラメータ:
Ωm• : 現在の物質のエネルギー密度
σ8• : 現在の宇宙構造の凸凹度合い

S8=σ8*sqrt(Ωm/0.3)

S8テンション
Abdalla et al. (2022), SNOWMASS
後期宇宙
初期宇宙 CMBの揺らぎ
弱重力レンズ
(cosmic shear)
弱重力レンズ+
銀河クラスタリング
銀河クラスタリング
銀河団個数カウント
赤方偏移歪み
CMB 大規模構造
• 大規模構造の測定には理論・測定の系統誤差あり。
• 異なる測定は異なる系統誤差を持つにも関わらず小さいS8 をprefer(「好む」や「選ぶ」)しているように見える。<--凸凹度合いが小さい??

チャットGPT

S8の値が大きい場合、密度ゆらぎの振幅が大きくなります。これにより、以下のような効果が生じる可能性があります:

・大規模構造の形成の促進: S8が大きいと、密度ゆらぎの振幅が大きくなります。これは、銀河や銀河クラスターなどの大規模構造がより速く形成される可能性があります。密度の高い領域がより速く重力によって集まり、宇宙の不均一性が増加することが予想されます。

・宇宙マイクロ波背景放射の異方性の増加: S8の増加は、宇宙の大規模構造の形成によって宇宙マイクロ波背景放射の異方性が増加する可能性があります。これは、宇宙マイクロ波背景放射に含まれる温度のゆらぎが増加し、それによって宇宙の構造がより複雑になることを意味します。

・重力レンズ効果の増加: 密度ゆらぎの振幅が増加すると、重力レンズ効果も増加する可能性があります。これは、光が密度の高い領域を通過する際に曲がる効果であり、宇宙の不均一性を観測する手段の1つです。

これらの効果は、S8の値が大きい場合に生じる可能性がありますが、具体的な効果は宇宙論的モデルや他のパラメータにも依存するため、一般的な効果を正確に予測することは困難です。』

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『重力波と天体と新物理¶
連星ブラックホールや連星中性子星が合体する際の重力波はLIGOを筆頭に地上重力波検出器によって多数検出されており、近年ではパルサータイミングアレイが低振動数での重力波背景放射の兆候を報告している。特に連星が関与する天体物理は不定性が大きく、いずれの重力波信号も標準的な物理で想定される天体物理のシナリオと整合的だと理解されている。今後は天体物理の理解自体が重力波の観測結果を参照する形で進み、整合性はより顕著なものとなり、翻って新物理が許される余地も限定的となることは一つのありうる未来であろう。本講演では、精密観測が得意とは言い難い宇宙観測の一つである重力波観測から、将来的にどうすれば新物理に迫ることができるか議論する。

Speaker: 久徳 浩太郎 (京都大): https://conference-indico.kek.jp/event/236/contributions/4349/attachments/3269/4466/kyutoku_KEK231222.pdf :』

『理論的に:
超大質量ブラックホールの連星合体を見ることで環境効果から暗黒物質の性質に迫れるかも?

実験的に:
新しい検出原理に基づく検出器を開発することでまだ狙えていない振動数領域を開拓できれば?

今では>30太陽質量も可能という研究も複数ある
観測に合わせて理論が更新されるのは健全ではある

パルサータイミングアレイ (PTA)

重力波の速度
GW170817は40Mpc=1.2億光年の遠方で合体したが
ガンマ線は重力波の1.7秒後にやってきた
1.7秒/1.2億年=0.0000000000000004
重力波は電磁波とほとんど同じ速度で飛んできている

重力波による宇宙論

宇宙の膨張速度、Hubble定数が新たに測定された

𝐻0 = 70^−8+12 <--中間に落ちている!!

Hubble定数問題
初期宇宙観測で得た値と近傍宇宙での値とが有意に違う(とされている)
未知の物理?
宇宙モデルの変更?
観測の系統誤差?
重力波で独立に検証!』

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現代物理学の展望 記事一覧

https://archive.md/h62sQ

 


その6・素粒子物理学の展望:日本の3

2024-05-19 | 日記

『ニュートリノ振動・陽子崩壊実験の展望+α¶
現在運転中のスーパーカミオカンデはニュートリノ振動実験、陽子探索実験において世界を先導してきた。

それを更に大型化,高性能化したハイパーカミオカンデではより高感度での実験が可能となり、ニュートリノ振動におけるCP対称性の破れの確認陽子崩壊の初観測等の成果が期待される。

本講演ではスーパーカミオカンデにおけるニュートリノ、陽子崩壊研究の現状とハイパーカミオカンデで期待される展望等について述べる。

Speaker: 田代 拓也 (ICRR): https://conference-indico.kek.jp/event/236/contributions/4343/attachments/3261/4459/Tashiro_neutrino_v1.pdf :』

『ニュートリノ振動・陽子崩壊実験の展望+α

大統一理論の重要な予言の1つ: 陽子が有限の寿命で崩壊する(陽子崩壊)。陽子はSMでは崩壊しない。
陽子崩壊の発見は大統一理論の証拠となる

‣ 宇宙背景ニュートリノ(CνB): < 1eV 
‣ 太陽の熱ニュートリノ(1eV ~ 10keV) 
‣ 地上の高温(O(1000)K )の物体(溶鉱炉など) からの放射
-> ニュートリノの工学的利用
‣ 非相対論的ニュートリノの可能性
-> ニュートリノの粒子としての性質の理解

‣ ちなみに”super low energy neutrino”で検索するとSK関連ばっかりhitする(“Super”-Kamiolandeのため) 
‣ “Ultra low energy neutrino” で検索することをおすすめする

‣ 宇宙誕生初期はニュートリノの対生成/対消滅が繰り返す状態
‣ 宇宙の温度が1MeV程度まで下がると対消滅が起きなくなり(freeze-out), その時点のニュートリノは現在でも宇宙背景ニュートリノ(CνB)として残っている
‣ CνBのfreeze-outは宇宙誕生後約1秒で起きたと考えられている
CMBの宇宙の晴れ上がりが約40万年後なので、CνBで遥かに過去の宇宙を調べられる

‣ 現在の宇宙ではCνBはフレーバーあたり56/cm3程度のCνBが存在していると考えられている。』

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『一立方キロメートルニュートリノ望遠鏡の成果と次世代望遠鏡に向けた展望¶
高エネルギー宇宙ニュートリノは、宇宙のどこかで加速されている超高エネルギー宇宙線が天体内外の光や物質と相互作用することで生成される荷電パイオンの崩壊によって作られる。

同時につくられる中性パイオンの崩壊からはガンマ線が出るので、ニュートリノ天文学と言う時は常に光を使った観測と組み合わせ、マルチメッセンジャー天文学として統合的に宇宙を理解するということを目指す。

このような高エネルギー宇宙ニュートリノの観測目指し南極点に建設されたのが世界初となる一立方キロメートルの容量を持つIceCubeニュートリノ望遠鏡である。北半球の地中海やバイカル湖でも同規模の望遠鏡の建設が進められている。本講演ではIceCubeの完成から約10年で得られた成果を紹介し、その成果を踏まえた将来展望について議論する。

Speaker: 石原 安野 (千葉大): https://conference-indico.kek.jp/event/236/contributions/4350/attachments/3268/4465/KEK_FutureOfParticlePhysics_Ishihara.pdf :』

『• 素粒子実験的な観測手法から宇宙物理学(天文学)へアプローチ
• 高エネルギー(GeV-EeV)ニュートリノが持つ情報が有用な物理全て
• 宇宙と素粒子をまたがる多目的実験
• PeVまでは自然に存在する媒体を利用することで確立。EeVエネルギー領域は新しいテクニックを試す余地あり

まとめと展望
• 世界初の㌔立方ニュートリノ検出器としてIceCubeが稼働し、>12年。較正など苦労しつつも手法は確立。 宇宙ニュートリノ総量も100TeV領域では確立
• 宇宙ニュートリノは宇宙から今も届いている高エネルギー素粒子ビームであり、物理 の標準理論の確認や、標準理論を超える物理のヒントを探すのに有益なツールである
• IceCubeは2025年にアップグレード(系統誤差減少・低エネルギー領域拡張)を計画(建設用ドリルが整備された)
• 次世代ニュートリノ検出器計画 IceCube-Gen2(ジェンツー)は、2028年からの建設を 目指す
• EeV領域はニュートリノシャワーの撮像をいかにするかのデモンストレーター乱立
• GZK球より遠方の超高エネルギー宇宙をEeVニュートリノで観測
• デモンストレーターから本計画に移行するには、相当いい結果がデモンストレーターが出るか
• 乱立している計画が一つにまとまって、チームとして予算獲得を働きかけるか』

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現代物理学の展望 記事一覧

https://archive.md/3Sqzt

 


その5・素粒子物理学の展望:日本の2

2024-05-09 | 日記

『Dark Matter in the Universe¶
宇宙のエネルギー密度の約25%を占める暗黒物質の正体は未だ不明である。Weakly Interacting Massive Particle(WIMP)と呼ばれる粒子が長年有力と目されてきたが、加速器実験直接探査実験・間接探査実験のいずれでもその証拠となる事象はまだ得られていない

WIMPに許されるパラメータ領域が確実に狭められていく中で、WIMP以外の暗黒物質探査の動きも活発化しつつあるが、そのモデル空間は広大である。

本講演では宇宙での暗黒物質の姿とその位置付けに焦点を当て、特に今後包括的な描像を確立していくための鍵となりうる暗黒物質ハローの物理とその周辺について説明する。関連研究の動向についても紹介予定である。

Speaker: 広島 渚 (富山大): https://conference-indico.kek.jp/event/236/contributions/4342/attachments/3260/4454/IPNS-WS_20231221-nhirosima.pdf :』

『Candidates
- Weakly Interacting Massive Particle (WIMP)
- Strongly/self- interacting massive particle (SIMP)
- sterile neutrinos
- axion and/or axion-like particle (ALP)
- primordial black hole (PBH)…
mass range: 10−22 eV ≲ m ≲ 105M⊙』

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『暗黒物質直接探索の現状と展望¶
暗黒物質の存在は、宇宙の進化や天体の観測により疑いがなく、宇宙背景放射の観測結果によると宇宙の物質の80%以上を占めることが判明しているが、その性質は現在も未知のままである。

暗黒物質の有力な候補としてこれまで精力的に探索されてきたのが、WIMPと呼ばれる質量が重く、非常に弱い相互作用を持つ素粒子である。このWIMPの有力な探索手法として、WIMPが検出器中の原子核を跳ね飛ばす現象を探索する直接探索と呼ばれる方法があり、2021年より液体キセノンを約10トン用いたXENONnT/LZの二つの実験が稼働を始め、太陽・大気ニュ ートリノのコヒーレント散乱の観測に遂に手が届く感度に迫ろうとしている。

本講演では暗黒物質直接探索の今と未来について紹介するとともに、液体キセノン検出器が今後開拓する様々な物理について議論を行う。

Speaker: 風間 慎吾 (名古屋大): https://conference-indico.kek.jp/event/236/contributions/4345/attachments/3263/4460/Direct_DM_Detection_Kazama.pdf :』

『候補: 10-55 gから1040 gと100桁近くの幅広い領域が許されている
• 個人的な興味: Thermal Dark Matter with Weak Charge (Weak-Charged WIMP)

・暗黒物質の”直接探索”と言った場合は、GeV - TeV質量のWIMPをターゲットにしている場合がほとんど (今回も)

• 弾性散乱により反跳された原子核の痕跡を捉える: ただし反応は極稀
• 反跳エネルギー: < O(10) keV
• ガンマ線・ベータ線・中性子などの放射線が背景事象
→ “低閾値” + ”大質量” + “低BG” が重要

液体キセノン検出器ー-> 電離 光

•重いWIMP探索( > 5 GeV)で独壇場
•現在三つのG2実験(XENONnT, LZ, PandaX-4T)が観測中
•XENONnT/LZ共に1トン・年の初期データを用いた解析結果を最近報告
•軽いWIMP (0.1 - 5 GeV)もミグダル効果を用いることで世界最高感度を達成
•大型化・低BG化が感度向上の伴

極低温検出器ー->熱(フォノン)

•低質量(0.1 - 10 GeV)で強い
•ターゲット質量は少ない(O(1-100)g)が、閾値が低い (< O(1) eV)
•CRESST(CaWO4), (Super)CDMS(Ge, Si), CDEX(Ge)など
•量子センサー開発と相性が良い

2020年代後半には

• XENONnT・LZ共に統計20倍近く貯め、感度を10倍弱向上
• Minimal DMモデルは完全に棄却できる
• ウィーノDMは1 TeVまで棄却可能

将来計画: DARWIN & XLZD 

• XLZD: XENONnT, LZ & DARWIN実験からなる新たなコンソーシアム
• 検出器: 二相式液体キセノンTPC (直径・高さ: 3m)
• 検出器サイズ: キセノンガスの入手状況に応じて段階的にスケールアップ
(例: 40→60 or 80トン)
• 統計量: まず200トン・年 → 究極的には1000トン・年
• 実験開始: 2030年前半
• 場所の候補: 未定
• 既存の穴が使える: Kamioka(日), LNGS(伊), SNOLAB(加)
• 新しく穴を掘る必要あり: Boulby(英), SURF(米)

XLZD実験の目標感度(WIMP)

• 3 TeV ウィーノは完全に棄却可能
•電弱相互作用を行う暗黒物質に対して、ほとんどのパターンでカバーできる
•ヒグシーノに対する感度は低い (次のページ)
• O(0.1 - 1) TeVスケールの重い暗黒物質の場合、断面積と質量の決定精度は悪い。最終的にはコライダーが必要(反跳エネルギースペクトルの形が高質量ではほとんど変わらないことに起因)

•TeVスケール暗黒物質の発見感度は最終的には大気ニュートリノのフラックスの精度で決まる(現在20%程度)
•20 → 2%程度に低減できれば、いわゆるNeutrino Floorはおよそ10倍弱変わる(SK/HKなどでの測定に期待)
•感度は打ち止めではなく、統計が貯まればまた緩やかに改善していく (Neutrino Floor → “Neutrino Fog”)
•それでもヒグシーノは厳しい

まとめ:現在

•10トン級の液体キセノンを用いたG2実験(XENONnT, LZ, PandaX-4T)が稼働開始
•今後4-5年程度で統計量を10倍以上向上
•Minimal DMモデルは完全に棄却可能。ウィーノDMモデルは1TeVまで棄却可能

未来:

•G3実験の成功には、より低放射な能検出器の開発と同時に”安定"な電極の実現が伴
•P5は少なくとも1つのG3実験をサポート(2030年前半開始目標)。キセノン実験は最終的に80トン級の検出器の実現を目指す。
•ウィーノDMモデルは3TeVまで棄却可能。その他の電弱相互作用を行う暗黒物質も多くをカバー
•ニュートリノを伴わない二重ベータ崩壊においても世界最高感度を狙う
•発見後はその性質の詳細解明に向けて新たなコライダーが必要。密度分布や速度分布の精度向上も不可欠』

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『波動的な性質を持つ軽いダークマターの探索実験の現状と展望¶
今まで、素粒子実験におけるダークマターといえば、粒子的な描像を持つ Weakly Interacting Massive Particle (WIMP) が活発に探索されてきたが、まだその証拠が得られていないことから、様々なモデルのダークマター候補が探索されるようになってきている。

その中でも、特に活発に探索されているのが、アクシオンやダークフォトンといった波動的な性質を持つ eV 以下の軽いダークマターである。本講演では、わたしが行なっている DOSUE-RR (Dark-photon dark-matter Observing System for Un-Explored Radio-Range) の話をベースに、昨今行われているアンテナを利用したダークマター探索の現状と展望を話す。

Speaker: 安達 俊介 (京都大): https://conference-indico.kek.jp/event/236/contributions/4356/attachments/3275/4473/2023.12.23_%E7%B4%A0%E7%B2%92%E5%AD%90%E7%89%A9%E7%90%86%E5%AD%A6%E3%81%AE%E4%BB%8A%E3%81%A8%E6%9C%AA%E6%9D%A5_%E5%AE%89%E9%81%94.pdf :』

『波動的な性質を持つ軽いダークマターの探索実験の現状と展望

1.波動的ダークマター
2. ダークマターの光への転換方法
3. Dish antenna 探索方法
4. 実験の紹介
5. DOSUE-RR の展望

我々はダークマターの中を通過している

• エネルギー密度 ρDM ∼ 0.4 GeV/cm3
• 速さ vDM ∼ 220 km/s

どうにか検出してその性質を知りたい
• 質量
• 標準理論粒子との結合定数

超軽量ダークマター (DM)

WIMP“粒子的“ DM
~30年探索されてきた最有力候補
現在もこれといった兆候なし
→ より広い範囲に目をむける風潮 !?

“超軽量” DM  ドブロイ波長 λ ≳ 1 m λ  (“粒子的“ DM WIMP  λ de Broglie≲ 10−12m
 • 長いコヒーレンス性
• 波としての特徴を持つ
“波動的“ DM   対応周波数 で0.24—240 GHz

• 素粒子実験的には馴染みのないミリ波の領域
• 回折する
• 機器の入手性

もし光に転換できれば分光 (FFT) して周波数スペクトルとして測定すれば
広い周波数領域[=質量領域] を一気に探索可能

超軽量ダークマター候補
ダークフォトン
: SMの電磁場
: ダークフォトン場
•新しい U(1) 対称性の導入
•光との kinematic mixing:
• High-scale inflation model や超弦理論のモデルで予言

アクシオン or Axion-like particle (ALP)
• 電場と磁場との3点結合:
• アクシオン: 強いCP問題を解決 →
• ALP: 超弦理論のモデルで予言

光との相互作用項: gaγγ

ダークフォトンの光への転換

アクシオンの場合』

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PS:速報:1兆分の1ミリの世界を観察、米国の大型加速器「EIC」建設に日本参加へ

『最新鋭の加速器「EIC」は円形(全周約3・8キロ・メートル)の実験装置で、ニューヨーク州にある米エネルギー省傘下のブルックヘブン国立研究所(BNL)が新設する。研究所地下にある既存の加速器を入れ替え、26年の着工、32年の稼働を目指す。

 EICは、電子と原子核を高速で衝突させる。それにより、原子核内部の陽子が複数の粒子に分解する様子を観察。1兆分の1ミリしかない極微の世界の挙動を超高精度な顕微鏡のように分析できる。粒子の振る舞いから物質とエネルギーの関係性も把握できる。

 EICがあれば、いかに宇宙で物質が誕生したのかの解明など、基礎科学の飛躍的な発展につながる可能性がある。極微の世界を支配する物理法則「量子力学」の研究が深まれば、量子コンピューターの開発や、核融合エネルギーを生む仕組みの解明なども進み、先端技術の実用化に貢献できる。

 理化学研究所は1997年からBNLに研究拠点を設けるなど、長年の協力関係にある。

米エネルギー省は今年2月、日本側に協力を要請した。

文科省は、15日の有識者会議で、計画に参加する方針を表明する見通しだ。


 EICの建設費は推定17億~28億ドル(約2700億~約4400億円)で、日本は実験データの測定に使う検出器などの開発を担当。

関係者によると、開発費は少なくとも45億円程度かかる見込みだ。

文科省はまず、来年度当初予算の概算要求に数億円を計上する。』5/15(水) 

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現代物理学の展望 記事一覧

https://archive.md/xj9ds

 

 


その4・素粒子物理学の展望:日本の1

2024-05-04 | 日記

[IPNS workshop]素粒子物理の今と未来:Dec 21, 2023, 1:00 PM → Dec 23, 2023, 5:00 PM Asia/Tokyo

https://conference-indico.kek.jp/event/236/timetable/?view=standard_numbered_inline_minutes

『素粒子実験や宇宙の観測によってまとめられた素粒子標準模型や標準的な宇宙の歴史には、多くの綻びが存在します。

理論的に指摘されている真空の不安定性や、暗黒物質の性質、物質の起源などの根本的な問題に挑戦するために、多くの素粒子実験が並行して進められています。

国内では、Belle II 実験、ニュートリノ実験、Kaon、muon, neutronなど素粒子のフレーバーを手がかり新しい物理を探索する実験が進行中であり、国際的には最高エネルギー衝突実験であるLHC実験がヒッグス粒子の性質の測定や、新物理の探索を行なっています。

暗黒物質の探索は、従来からの巨大な測定器を使った探索実験に加えて、軽い暗黒物質を想定したダークセクターの探索が活性化しています。またミューオンg-2のアノマリーのように現在の標準模型では理解できない現象もあります。

本研究会をきっかけに、素粒子物理の現在・未来をあらためて俯瞰し、これからの素粒子・宇宙研究が進むべき方向を見出すことを目指します。

 会場は研究本館・小林ホール(定員248名)です。』

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『誰がためのエネルギーフロンティア¶
このような特別な催しに際して「好きなことを勝手に話す」機会を頂いたということで,お題の「LHC」を少しだけ逸脱して,通常の場ではほとんど扱わないテーマを問いとして掲げてみたい.それはこの方向性の「学問」が存立できる根拠(存立理由)を考えるということである.

この分野の数十年の発展が,一回きりの資源(例:新粒子の発見)を燃焼することで,幸運にも自己再帰的に次の爆発のdriving forceを生み出してきた構造(≒急激に増大するエントロピー)にあったことは否定しにくい.

それが今後も起こる「保証」がもはや失われた現在,問うべきは「内在的な情熱の熱源」をどこに求めるか,ではないかと思う.その熱源の熱量と,物理的に消費するエネルギー+労力のバランスが,フロンティアの到達点を定めると思われるからである.これから何かの戦略を立てる前に,われわれには,この分析・研究が不足していると思っているのだが,それを考えるための正しい方法論を,果たしてわれわれは持ち合わせているのだろうか?

Speaker: 生出 秀行 (KEK): https://conference-indico.kek.jp/event/236/contributions/4340/attachments/3262/4456/IPNS_WS_Future_EF_Oide.pdf :』

『誰がためのエネルギーフロンティア

• ハドロンコライダーで新物理の直接探索をやるにおいて,各論はいろいろあるが「原則としてできる探索は全部やる」という観点から,あまり大きな論点はない.
• ハドロンコライダーは背景事象が多いので,初期は全方位,ルミノシティが溜まったら,極力背景事象の少ないsignatureに注力する.
• 将来の実験計画で十分尽くされてない議論は,いわゆるorthodoxなCMS-like detectorを今後もやっていくのか,もう少しBSM-specificな測定器を設計するのか.
• 例:ATLAS HL-LHC UpgradeはWino/Higgsino探索を十分に優先しなかった
(最終的には高輝度の恩恵を受けるが,ヒッグスが最優先)
• 2個測定器を作るなら,1個はExotic signatureを視野に入れ,見つけにくいものを補完的に探すような測定器があっても良いと思う.

国民の信託を受けて研究を行っている
「きれいごと」では済まない

時代に取り残されるのではなく,スピリットとして時代を先取りするマインドが必要.
いわゆる「成果」なるものだけではなく,将来世代が生まれた時代を生きる希望を与える事業であることは「必要条件」

• ある計画のゴール(学問的価値)は「内側」の論理
• ある計画が成立するかどうか(社会的価値)は,「外側」の論理

30年後にプロジェクトをつなぐ

20世紀の通奏低音:国家,国際競争,ブーム
• 素粒子物理の発展は国際的にも戦後復興の経済成長と軌を一にしてきたが,1990年代にその流れはすでに終わった.
• 新しい言葉の登場:sustainability, resilience, inclusion
• 短期的な勝ち負けではなく,long-termへの指向:混迷の時代,悩み多き時代.
• 「弱みを見せれば負けてしまう」という時代もあったが,一方弱みのない人はいない.
課題に粘り強く向き合う姿は人々の共感を得る.
• サイエンスはLong-termの人類的な伝統文化であり,知性的な所業である.
• 時代の価値観にalignmentしないことはできない(さもなくば反社会的である)

エネルギーフロンティア次世代の「基幹」

宇宙開闢の先へ! 素粒子物理100年の計
真にグローバルレベルのコライダー計画の実現へ

次の10年の技術開発の動向が未来の選択を左右する 大いなる準備期間=基幹の「根」の醸成が最重要

• 遠い将来から見れば,現代も古代!!
• 首を傾げるようなこともあれば,驚嘆することもある.
• 「当時において技術 or 資源がないことは彼らにとって不幸であった」と評価されても,
「愚かであった」という評価は避けたい.
• 物理は不変なので,未来人にもこの時代の考えや議論は伝えることができる.
• 「弾丸列車」が「新幹線」に生まれ変わったように,時代状況が実現を許さないことがあっても,
世代を継いで夢が実現することはある.より先進の技術でプロジェクトを塗り替えることもある.

力の統一 、真空の安定性 、ヒッグス場とは?、物質反物質 、標準模型を超える新粒子、暗黒物質の解明』

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『LHCビーム軸方向でのニュートリノ研究および新粒子探索¶
LHCでは陽子・陽子衝突点の周囲に大規模検出器を配置した実験が行われているが、それらの実験ではカバーされないビーム軸方向での研究は進んでいなかった。我々はビーム軸方向での新粒子探索や3世代ニュートリノの研究による新物理発見の可能性に着目し、衝突点から480m地点に小型検出器を配置するFASER実験を立ち上げた。LHC第3期 (2022-2025) に実施しているFASER実験の初期成果、および並行して取り組んでいる高輝度LHCに向けた新たな大規模施設 Forward Physics Facility (FPF) 建設計画について議論する。

Speaker: 有賀 智子 (九州大):https://conference-indico.kek.jp/event/236/contributions/4341/attachments/3259/4453/20231221_%E6%9C%89%E8%B3%80_FASER_FPF.pdf 』

『LHCにて現在の加速器による最高エネルギーのニュートリノが生成される。
• 1980年代から検討されていたが実現されてこなかった。e.g.,
– A. De Rujula, R. Ruckl, Neutrino and muon physics in the collider
mode of future accelerators (1984)
• 我々はその研究がBSMのヒントになる可能性に着目し、3世代ニュートリノを測定するプロジェクトを立ち上げた。

• タウニュートリノ
– 直接検出例が限られ、詳細な測定がされていない粒子
– 反応断面積に大きな不定性
• 𝜈𝜈𝜏𝜏 ビーム実験: DONUT (Fermilab E872) にて9例
• 振動実験: OPERA, Super-K, IceCube

2018年に小型のニュートリノ検出器を設置してデータを取得 (パイロットラン)
• 膨大な背景事象を処理するために高飛跡密度での飛跡再構成アルゴリズム等の技術開発を行い、ニュートリノ反応候補を探索
• 主要なバックグラウンドである中性ハドロン反応と分離するため、反応点の検出においてtan𝜃𝜃 ≤0.1の飛跡が5本以上あることを要求
• 中性の反応 18事象を検出
– 期待されるシグナル 3.3−0.9
+1.7事象、バックグラウンド 11.0事象
– 幾何学的パラメータを用いた多変数解析により背景事象を分別し、ニュートリノシグナルによるexcessを確認
– null hypothesisを 2.7𝜎で却下
• LHCにおけるニュートリノ反応候補の検出を実現
• これによって、コライダーを用いた高エネルギーニュートリノ実験への道を拓いた

• 国際共同実験FASERは、LHCの陽子衝突点の超前方に検出器を設置して軽い長寿命の新粒子を探索することを目的として提案された。
– FASER (新粒子探索) は2019年3月にCERNの承認を受けた。
• その後、未開拓の高エネルギー領域での3世代ニュートリノの研究について、LHCでのニュートリノ研究を提案する論文およびプロポーザルを執筆 (日本人若手研究者らが牽引)
– FASER𝜈𝜈 (ニュートリノ研究) は2019年12月にCERNの承認を受けた。

FASER新粒子探索
• LHC陽子・陽子衝突起因の MeV-GeV 程度の質量を持った長寿命の新粒子を探索
• たとえば、ダークフォトン (A′)
– 標準模型粒子とダークマターとの相互作用を媒介する新粒子。フォトンと 𝜖′で混合。
– 中間子の崩壊 𝜋0, 𝜂 → A′𝛾 や dark bremsstrahlung 𝑝𝑝 → 𝑝𝑝A′ で生成。
– 480 m 進んで、A′ → 𝑒+𝑒− のように崩壊するものを探索。

FASER実験、FASER𝜈𝜈プロジェクトを立ち上げ、LHCビーム軸方向でのニュートリノ測定・新粒子探索を開拓してきた。現在、データ取得、データ解析中。初期結果を公表し始めた。』

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現代物理学の展望 記事一覧

https://archive.md/L5KrC

 


その3・素粒子物理学の展望:セルンの3

2024-04-29 | 日記

・「CERNの大型ハドロン衝突型加速器の第3期運転は予定通り開始され、東京ではヒッグス粒子発見10周年の記者懇談会を開催」2022.07.06: https://archive.md/MU8FP :

『7月5日午後4時47分(中央ヨーロッパ標準時)、大型ハドロン衝突型加速器(LHC)上に設置された各検出器が世界初13.6TeVでの高エネルギー陽子陽子衝突事象を記録し始め、CERNコントロールセンターで拍手喝さいが沸き起こりました。

ATLAS検出器をはじめ、LHC加速器上に設置された各検出器はすべてのサブシステムの電源を入れ、世界初 13.6TeVでの高エネルギー陽子陽子衝突事象を記録し始め、新しい物理の季節がやってきました。これは、4月のLHCの再稼働以来、ビーム衝突を円滑に開始できるように24時間体制で準備に取り組んできたオペレーターによって達成された偉業です。

3年以上にわたるアップグレードとメンテナンス作業の後、LHCは現在、13.6TeVの記録的なエネルギーで4年近く稼働する予定であり、より高い精度での測定や新物理発見の可能性を実験グループにもたらします。衝突輝度や衝突エネルギーの向上、データ読み出しとイベント選択システム(トリガー)のアップグレード、新しい検出器システム、計算機資源など、これらすべての要素は、多様なLHC物理プログラムをさらに確実に拡張していくことを約束しています。』(2022年から2026年まで稼働予定

『「ATLAS実験は、この新しいデータを“収穫”する準備ができています。」と、スポークスパーソンのAndreas Hoecker氏は述べています。我々は、この第3期実験で過去に蓄積したデータの3倍以上のデータ量を手にすることが約束されています。性能が向上した測定器を使って、我々は幅広い多様な物理プログラムを進めていきます。』

 

『東京で記者懇談会「ヒッグス粒子発見からの10年と、これからの10年」を開催

2012年7月4日のヒッグス粒子の発見から10年の節目を記念して、東京大学で記者懇談会を開催しました。懇談会ではヒッグス粒子の発見がもたらした「これまでの10年間にわたる研究成果」の総括と、今年始まったRun3実験から将来的な高輝度化(HL-LHC)実験までを見据えた「これからの10年間で期待される新しい発見」を中心テーマに、ATLAS日本共同代表者の2名が報道関係者にプレゼンテーションを行ないました。

「これまでの10年間にわたる研究成果」を総括した、高エネルギー加速器研究機構の花垣教授は、「物質を構成するクォーク・レプトンの質量がヒッグス機構によって動的に生成される描像を確立したことが主要な成果である。

次は“素粒子の世代構造”にヒッグス機構が関与している可能性や、ヒッグス場そのものの性質を追求したい。」と強調しました。

 

一方、「これからの10年間で期待される新しい発見」の展望を語った東京大学素粒子物理国際研究センターの石野教授は、「現在までに手に入れたデータは(高輝度)LHCプロジェクト全体のほんの5%でしかない。今後、現有の20倍に相当するデータを獲得し、

ヒッグスポテンシャルの形の決定をはじめ、この宇宙の真空の安定性についての理解超対称性粒子の発見の可能性など、多様な物理成果を得ていく。」というメッセージを発しました。

記者との質疑応答では、今後の高エネルギーフロンティア物理で得られる科学成果の展望、特にヒッグス粒子を介して標準理論を超える物理世界にどのようにアクセスしていくかの議論をはじめ、

他の素粒子実験プログラムとLHC実験の関係性・相補性、プロジェクト成功に向けた日本の研究機関の寄与の具体的な内容について、やりとりが交わされました。』

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参考資料

・東京大学 素粒子物理国際研究センター:2021年: https://www.icepp.s.u-tokyo.ac.jp/download/icepp_graduate21.pdf :

『田中純一:ATLAS実験に参加し、新物理を探索しています。研究テーマは大きく3つです。
 まずデータ解析です。標準理論を超えた物理の直接的な手掛かりを求め、2つ目のヒッグス粒子や超対称性粒子の探索など、新しいアイデアで取り組んでいます。』

『澤田 龍:CERNのATLAS実験で、新粒子、特に超対称性理論から予想される暗黒物質候補の発見を目指しています。新粒子探索では、新粒子の寿命が長くなるようなモデルに着目しています。』

『齋藤智之:超対称性粒子や暗黒物質の発見により、素粒子物理学の新たな展開や宇宙創成の謎の解明を目指す。より高いエネルギースケールの物理を探索するため、検出器やトリガーエレクトロニクスのアップグレードに取り組む。』

『寺師弘二:ATLAS実験に参加し、超対称性粒子や余剰次元の探索など物理解析を主導してきました。2027年に開始されるHLLHCでは、現在のデータ量の数十倍に匹敵するデータを取得し、予想もしてい
ない大発見が起こるかもしれません。その発見を確実にするには、新しいコンピューティングパラダイムが必要です。』

『田中碧人:CERNのLHC-ATLAS実験に参加し、2027年から開始予定の「高輝度LHC」に向けた実験装置開発に携わっています。2021年1月時点で、CERNのLHCでは第3期実験(2022年開始予定)の準備が進んでおり、高輝度LHCはその先の第4期実験となります。高輝度LHCでは、現行LHCの設計値に対して5倍の輝度(ビーム中の粒子同士が衝突する頻度を表す値)を実現、標準理論を超える新物理が予言する新粒子を探索します。・・・LHCでは陽子同士を衝突させ、そこで生成された新粒子の崩壊によって生じるミューオンなどの粒子を検出することで、未知の粒子を探します。』

 

『新理論の手掛かりを掴め:ス イスのPSI(ポールシェラー研究所)を舞台に行なわれるMEG実験の目的は、標準理論を超える新理論「超対称大統一理論」の検証にある。本センターの研究グループが設計・提案し、趣旨に賛同したイタリア・スイス・アメリカ・ロシアの研究者たちと2008年から取り組む
国際共同実験だ。
 目指すのは、電子の仲間「μミュー粒子」がγガンマ線を出しながら電子に崩壊する、「μ → eγ崩壊事象の観測だ。これは標準理論では起こりえないが、「超対称大統一理論」では数千億~数十兆回に1回程度起こると予言される。事象が観測されてもされなくとも、MEG実験の結果は、その理論の正否を問うことになる。μ粒子の振る舞いが、新理論の方向性を左右する。
 2013年夏に第1期実験を終え、観測感度を 期実験を終え、観測感度を1桁高めた第2期実験(MEG II)を、2022年から開始する予定だ。MEG II実験でも先の基本戦略を継承・発展し、日本の研究チームが主要部分を担当するとともに、研究グループ全体を統括する。』

『森 俊 則:スイス・PSI(ポールシェラー研究所)を拠点に国際共同実験MEGを推進しています。宇宙初期に実現していたとされる素粒子と力の大統一(超対称大統一理論)を検証するべく、標準理論では起こりえないμ粒子の崩壊を探索しています。MEG実験は、大統一理論やニュートリノのシーソー理論など、超高エネルギーの物理から期待される崩壊分岐比に到達した唯一の実験として世界的な注目を集めています。』

 

『新物理を探索する次代の切り札 ILC:ヒッグス粒子の詳細研究を筆頭に、新物理探索の切り札と期待される素粒子物理学の次世代基幹プロジェクト。ILCは「International Linear Collider(国際リニアコライダー)」の略称で、LHCとは異なるタイプの線形加速器の建設を目指す現在進行形の計画だ。
 電子と陽電子を衝突させるエネルギーは、線形加速器で世界最大のTeV(テラ電子ボルト)スケールを目指す。単体の素粒子どうしの衝突は高精度の実験を可能とし、CERNのLHCでもとらえきれない事象を明らかにすると期待される。世界中の素粒子物理学者たちが実現を長く夢見てきたプロジェクトで、日本でも約30年にわたって検討・準備が進められてきた。
 ILCの有力候補地として、日本の北上山地が挙がる。本学・本センターの研究者が計画検討組織の要職に就き、日本誘致と2030年代後半の稼働を目指して精力的に活動している。日本でILC建設が決まれば、世界の人材と企業が集結する一大グローバル科学都市が日本に誕生することになる 。 』

『森 俊 則:ILCの衝突エネルギーは250 GeVから始め、ヒッグス粒子を大量生産し詳細に調べるヒッグスファクトリーとして、ILCは優れた性能を示します。ILCは拡張性も高く、新粒子・新現象を発見するために効率的にエネルギーを増強させることもできます。こうした性能は広く認められ、JAHEPでILC250の提案がなされ、続いてICFAはILCの早期実現を奨励する声明を発表しました。ILCは、ヒッグス粒子がどのように宇宙の相転移を引き起こし、現在の複雑で豊かな宇宙を作り上げたのか、その謎を解くために必須の加速器です。』

『田 俊平 :ILCの物理および測定器最適化に携わる。ILCの物理的意義を高めるため、電弱対称性の破れの謎に迫るヒッグス自己結合について研究している。また、ILD測定器の物理研究能力を高めるため、最適化にも取り組んでいる。』

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参考資料の2

・素粒子物理学のミライ:素粒子物理学はいま大きな転換点を迎えている。:2019.07: https://archive.md/MRsyW :

『「物理学は激動の時代に入った。これからますます面白くなる」(浅井センター長)

「たとえば、私たちの身の回りにある“物質”は、宇宙の5 %ほどしか占めていません。残りの約95 %は、私たちがまだその正体を知らない暗黒物質』と『暗黒エネルギー』です。また、標準理論では重力を説明することもできません。これらを説明可能な、標準理論を包含する上位の新物理が存在するはずです。その証拠を、実験を通じてつかむこと。新物理の探索が、これからの素粒子物理学の大きなテーマです」と浅井センター長は語る。・・・

新物理の候補としては複数のモデルが提唱され、それぞれが未知の新粒子の存在を予言する。いずれの粒子も、これまで見つかった粒子よりも重い。・・・

エネルギーから粒子を生み出すのが加速器だ。粒子を加速させて高いエネルギーで衝突させると、その衝突エネルギーから重い粒子が生成される。新物理の証拠となる新粒子の探索には、高エネルギー加速器が必要になるのだ。

新物理探索に向けては、ヒッグス粒子発見の舞台となったCERN(欧州合同原子核研究機構)が今後も大きな役割を担っていく。ここに、世界最高の衝突エネルギーを誇る円形加速器LHC(大型ハドロン衝突型加速器)があるからだ。LHCは全周約27 km。新粒子探索には高いエネルギーが必要で、そのため加速器も巨大になる。

「ヒッグス粒子発見後も、LHCでの実験は続いています。2015年から2018年末までは、衝突エネルギーを増強させて第2期実験(Run2)を行ないました。2019年現在は、Run2の衝突データの解析とともに、2021年からの第3期実験(Run3)に向けてアップグレード作業が進んでいます」

CERNでは、「その先」を見据えた計画も進行中だ。まず2026年を目標に、LHCはHL-LHC(高輝度LHC)へと生まれ変わる。輝度(ルミノシティ)とは、粒子どうしの衝突の起こりやすさを示す加速器の性能指標だ。これをLHCの当初設計値の5倍に高め、得られる衝突データの総量をRun3までの総量の10倍にまで増大させる。それにより、新粒子探索が進むと期待される。HL-LHCは、2040年ごろまで断続的に運転が予定されている。

さらに、HL-LHCの次を見据えた動きもある。LHCの約4倍、全長100 kmの円形加速器FCC(未来型円形衝突型加速器)だ。衝突エネルギーLHCの10倍近くを目指す。2040年ごろの運転開始を目標に、国際的な議論が進んでいる。

「FCCの目的は大きく2つあります。ひとつは暗黒物質の正体をつかむこと。もうひとつは、その過程で“超対称性”をとらえることです。暗黒物質は、超対称性粒子のうち、電荷を持たない軽い粒子がその有力候補と考えられています」

“超対称性”とは、標準理論で提唱された17の粒子に、それぞれパートナー粒子の存在を予言する理論だ。いくつかのモデルが提唱され、粒子の予想質量に幅はあるが、新粒子はまだ発見されていない。

「超対称性が理論として正しければ、FCCで必ず超対称性粒子が見つかるはずです。

別の言い方をすれば、FCCで超対称性粒子が見つからなければ、超対称性は理論として誤っていたということ。それはそれで大きな“発見”です。

実験が既存の理論を覆し、新たな理論を考える根拠になる。それは物理学の歴史そのものです。20世紀の物理学の最大の成果である相対性理論や量子力学は、20世紀前半の10年、20年というわずかな期間で確立されました。それと同じように、素粒子物理学はこれから激動の時代を進むことになるでしょう」

HL-LHCとFCCのほかにも、高エネルギー加速器の構想はある。全長20 kmもの線形加速器ILC(国際リニアコライダー)がそれだ。2030年ごろの稼働を目指して国際的な議論が進み、日本が有力候補地となっている。

「ILCの一番の狙いは、ヒッグス粒子の詳細な性質を調べることです。ILCは、素粒子である電子とその反粒子である陽電子を衝突させる線形(リニア)の加速器です。それが、複合粒子の陽子どうしを衝突させる円形加速器との大きな違いです。素粒子どうしを衝突させ、見たい事象をクリアに見る。それによりヒッグスの詳細な性質を明らかにして、新物理の手掛かりをつかむ。ILCは、HL-LHCとFCCの間をつなぐとともに、加速器の特性からも両者を補完する関係にあるのです」

新物理探索に向けて、高エネルギー実験とは別のアプローチの実験も進行中だ。センターの研究者が主導するMEG実験は、標準理論で起こりえない事象の観測を目指す。電荷を持つ単体粒子であるμ粒子は、新物理の理論モデルにおいて、ごく稀に電子とγ線に崩壊すると予測される。2013年に第1期実験を終え、観測感度を高めた第2期実験が2020年に始まる計画だ。

新物理探索の王道は高エネルギー加速器実験だが、研究者たちは総力戦で新物理の開拓に挑んでいる。』

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現代物理学の展望 記事一覧

https://archive.md/prbFt