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愉しむ漢詩

漢詩をあるテーマ、例えば、”お酒”で切って読んでいく。又は作るのに挑戦する。”愉しむ漢詩”を目指します。

閑話休題 463歌と漢詩で綴る 西行物語-15

2025-04-07 10:05:14 | 漢詩を読む

2025-04- 漢詩を読む

     今回対象とする歌は、『山家集』中、“空になる心は…”(閑休449)および前回(閑休461)に読んだ2首と並んで載っている歌である。出家直前の作と思われる。詞書にあるように、自ら出家することを胸に秘めつゝ、阿弥陀房という出家者の“柴の庵”を訪ねた折の印象を詠ったものである。

 

柴の庵と 聞くは悔(クヤ)しき 名なれども 

  世に好もしき 住居(スマイ)なりけり 

 

  俗世に身を置く都人の感覚と言えようか、“柴の庵”と 聞くと粗末に思えて、その名がちょっと悔しいが、訪ねてみると、好ましい住まいだよ と、先行き・出家の意を確認し、自らに言い聞かせて、納得しているように思える。

 

和歌と漢詩 

ooooooooo 

<和歌>

  [詞書] いにしへの頃、東山に阿弥陀房と申しける上人の庵室にまかりて        見けるに、何となくあはれにおぼえて詠める 

柴の庵と 聞くは悔(クヤ)しき 名なれども 

  世に好もしき 住居(スマイ)なりけり   [山家集725]

 [註]〇いにしへの頃:ずっと以前; 〇阿弥陀房と申しける上人:未詳; 〇悔しき:あまりに粗末すぎるように思えて悔しい。

 (大意) 柴で造られた庵と聞けば、聞くに忍びない粗末な名称であるが、この世の中では素晴らしい住まいなのだ。

<漢詩> 

 柴廬     柴(シバ)の廬(イオリ)          [上平声六魚 韻]  

曾訪前輩舍, 曾って 前輩の舍(スマイ)を訪ぬに, 

聞言叫柴廬。 聞言(キク)は 柴の廬(イオリ)と叫(イ)う。 

聴斯覚簡陋, 斯(カ)く聴けば 簡陋(ソマツ)なるを覚(オボ)ゆ, 

但是絕佳居。 但是(サニアラズ) 絕佳(スバラシ)き居(スマイ)ならん。 

 [註] 〇前辈:先達、先輩; 〇简陋:(建物や設備が)貧弱である; 〇绝佳:すぐれている。

<現代語訳> 

 柴の庵

曽て先達の住まいを訪ねるに、 

柴の庵であると言うのを聞いた。 

その名を聞くと、みすぼらしい感じを受けるが、

素晴らしい住まいなのだよ。

<簡体字およびピンイン> 

 柴廬    Chái lú 

曾访前辈舍,Céng fǎng qiánbèi shě,   

闻言叫柴庐。 wén yán jiào chái .    

听斯觉简陋,Tīng sī jué jiǎnlòu,    

但是绝佳居。 dànshì jué jiā .   

ooooooooo 

 『山家集』に従って、これまで読んできた歌を並べてみると:「そらになる心…(723)」、「世を厭ふ…(724)」、そして今回の「柴の庵と…(725)」は出家前の3連首のようです。次いで「世の中を…(726)」と続きます[()内数字は山家集中の付番]。東山の歌会で、出家の意向を仲間に打ち明けて以来、出家を実行するまでの、義清(西行)の微妙な心の内の動きが読み取れます。 

  

≪呉竹の節々-7≫ ―世情― 

 後鳥羽院崩御(1156)を機に起こった内乱・保元の乱では、後白河天皇勢が勝利を収めた。その際、実際に戦ったのは平清盛や源義朝らの武士であり、その指揮を執ったのは近臣の少納言入道信西(1106~1160)であった。

  少納言入道信西は、平清盛の軍事力を背景に、戦後の諸策を取り仕切った。まず戦後処理は、敵味方に分かれて戦った武士に身内同士で処刑を行わせるという過酷なものであった と。また反対勢力であった摂関家や大寺社の弱体化、排除を図り、荘園整理を行う。

 仕上げは、内裏の再建事業であった。桓武天皇が開いた平安京は、約170年後大火に遭い焼失します(960)が、1年ほどで再建された。以後、火事が絶えず、内裏は廃れてきて、貴族、多くは外戚の摂関家の邸宅が内裏 -“里内裏”- として充てられてきていた。その再建を推進したのである。費用は、寺社、貴族、源平の有力武士からも取り立てゝ賄い、2年で完成させた。その間、後白河天皇は、今様に没頭していたとされる。保元2(1157)年10月8日、後白河天皇は高松殿を出て、新造内裏に移った。 

 

井中蛙の雑録】 

〇後白河法皇は、今様など雑芸の歌謡を分類・集成した『梁塵秘抄』を著している。なお、“梁塵”とは、歌声が優れていることの譬え。中国、春秋時代、魯国の虞公という声のよい人がいて、その人が歌を歌うと、梁(ハリ)の上の塵までが動いたという故事 “梁塵を動かす” に拠る。

 


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