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愉しむ漢詩

漢詩をあるテーマ、例えば、”お酒”で切って読んでいく。又は作るのに挑戦する。”愉しむ漢詩”を目指します。

閑話休題 461 歌と漢詩で綴る 西行物語-14  

2025-03-27 17:23:43 | 漢詩を読む

 

 『山家集』中、義清(ノリキヨ、西行)が、“出家”の志を初めて仲間たちに吐露した歌 ( “空になる心は春の”:閑話休題449)に続いて載せられてある歌2首です。並べて読みます。

  これまでに迷い、葛藤も随分と語られてきて、“出家することこそ 身を助ける手立てなのだ”と詠っていました(前回)が、第2首で、「きっぱりと出家を果たしましたよ」と宣言しています。第一首では、少々未練が残っているように読めます。「せめて“世を厭(イト)い憂き世を捨てた人だったよ”と名だけでも残したいものである」と。

 

<和歌-1>

世を厭(イト)ふ 名をだにもさは とどめ置きて 

  数ならぬ身の 思い出にせん [山家集724] 

 

<和歌-2>

世の中を そむき果てぬと 言ひおかむ 

  思いしるべき 人はなくとも   [山家集726] 

 

和歌と漢詩 

ooooooooooooo  

 <和歌-1>

  [詞書] “空になる心は春の” の詞書と同じく、[世にあらじと思い立ちける             こころ、東山にて人々、寄霞述懐と云(イフ)事をよめる]

世を厭ふ 名をだにもさは とどめ置きて

  数ならぬ身の 思い出にせん [山家集724],  新古今集十八 

 [註] 〇いとふ=厭ふ:出家する; 〇名:名声、評判; 〇さは留めおき           て:そのように後の世に留めておいて; 〇思い出:人に思い出しても           ら おう、又は自分の思い出にしよう。ここでは前者の意をとった。

 (大意) あの人は世を厭(イト)い浮き世(憂き世)を捨てた人だったよと、名前だ          けでもこの世にとどめおいて、ものの数にも入らないこの我が身(名)を            人々に思い出してもらうようにしよう。

  <漢詩>

 依恋現世                 現世への依恋     [上平声六魚韻]

志願捨身草茅廬, 身を捨て、草茅(クサ)の廬(イオリ)に住むを志願(ノゾ)み、  

留下至少此嘉誉。 至少(セメテ) 此の嘉(ヨ)き誉(ヒョウバン)を留下(トドメオ)くようにしよ                                う。

雖是我身微不算, 我身は微不算(モノノカズ)でないと雖是(イエド)も,

作為憑借懷起余。 余を懷起(オモイオコ)す憑借(ヨスガ)と作為(ナ)さん。

 [註] 〇留下:留めおく; 〇至少:せめて、少なくとも; 〇嘉誉:“身を         捨てた”という喜ばしい評判、“誉”は両韻語; 〇微不算:小さく物の数         でない; 〇作為:~として; 〇憑借:よすが、手がかり;

<現代語訳>

 現世への未練

出家して草庵に棲むことを望む、

せめて此の“出家を願う人であった”という評判は、留め置こう。

我が身は物の数ではないにしても、

私を思い起こす手がかりとなるように。

<簡体字およびピンイン>

 依恋现世       Yīliàn xiànshì 

志愿舍身草茅庐, Zhìyuàn shě shēn cǎo máo ,       

留下至少此嘉誉。 liú xià zhìshǎo cǐ jiā.      

虽是我身微不算, Suī shì wǒ shēn wéi bù suàn,  

作为凭借怀起余。 zuòwéi píngjiè huái qǐ . 

 

<和歌-2>

   [詞書] 世を遁れけるをり、ゆかりありける人の許へ言ひおく    

 世の中を そむき果てぬと 言ひおかむ 

  思いしるべき 人はなくとも  [山家集726] 新後拾遺十七 

 [註]〇ゆかりありける人の許へ:俗縁のあった人の許へ。どのような人か           未詳。

 (大意) 世を背き切ったと言い残そう、自分の振舞いをわかってくれる人は            無いにしても。

<漢詩>

  给関係人留下         関係人に留下(トドメオク)    [上平声十一真韻] 

果断最近從世遁, 果断(カダン)に、最近 世 從(ヨ)り遁(カクレ)る,

欲留言給関係人。 関係のある人に留言(カキオキヲノコ)そうと欲(オモ)う。

誰能理解我胸臆, 誰か我が胸臆(ムネノウチ)を理解し能(ウ)るであろうか,

比喻無人領会臣。 比喻(タトイ) 臣(ワタシ)を領会(リカイ)する人が無(ナ)くとも。

 [註]〇関係人:所縁のある人; 〇果断:きっぱりと; 〇留言:書置き           を残す; 〇胸臆:胸の内; 〇比喻:たとえ; 〇領会:理解する。

<現代語訳>

  所縁ある人に書き置く

最近 きっぱりと出家を果たした、

この旨 所縁ある人に書き遺したく思う。

誰か私の胸の内を分かってくれる人がいるであろうか、

たとえ、解ってくれる人はいなくとも。

<簡体字およびピンイン>

  给关系人留下        Gěi guānxì rén liú xià 

果断最近从世遁,Guǒduàn zuìjìn cóng shì dùn,  

欲留言给关系人。yù liúyán gěi guānxì rén.    

谁能理解我胸臆,Shuí néng lǐjiě wǒ xiōngyì,  

比喻无人领会臣。bǐyù wúrén lǐnghuì chén.

ooooooooooooo 

 義清は、保延六(1140)年十月十五日(23歳)に出家、法名は円位、西行・大宝房と号する。なお“円位”という名は、心に月輪(ガチリン)、すなわち“満月” を想う真言密教の用語であるという。

 

井中蛙の雑録

〇西行の活動・活躍について、陸奥行きなど長旅に先立つ時期は、“出家前後”として論じられているようである。出家の時点を挟んで、この時期の歌には、義清から西行へと成長する、多岐に亘る面からみた西行の人間像に接することができ、興味を惹く歌が多く、“漢詩化”にも力が入ります。

 

 


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