愉しむ漢詩

漢詩をあるテーマ、例えば、”お酒”で切って読んでいく。又は作るのに挑戦する。”愉しむ漢詩”を目指します。

閑話休題25 漢詩を読む ドラマの中の漢詩―12(『ホ・ジュン』-雑感)

2016-12-28 10:28:11 | 漢詩を読む

韓国ドラマ『「ホ・ジュン」―伝説の心医―』について、ドラマに現れた漢詩を取り上げてきました。前報を以て一応完結しましたが、どうも語り尽せなかった点が胸の隅に“凝り”として残っていて、すっきりしません。

以下にドラマ『ホ・ジュン』中の漢詩を読んでいく中で諸々感じたことを追記して、『ホ・ジュン』に関わる、また2016年の締めとします。

“凝り”の事柄とは:
1) 登場人物への漢詩の割り振りの巧みさ、
2) ‘語り部’としてのイエジン
3) 韓国ドラマに漢詩が? 他

1) 登場人物と漢詩。このドラマの主役は勿論ホ・ジュン(卑賎の出で、医者ユ・ウイテの下で医術の修業)ですが、準主役として、ユ・ドジ(ユ・ウイテの息子、ホ・ジュンに対して強い敵愾心を持つ)、イエジン(ユ・ウイテ家の養女)、ダヒ(ホ・ジュンの妻)が登場しました。

先ず、男性二人、ホ・ジュンとユ・ドジについて、杜甫の詩「客至る」を話題としながら彼らの立場、心意気または学識の幅が披瀝されます。次いで、役人イ・ジョンミョンの口を通して、李延年の詩「佳人の曲」の一部を語らせて、絶世にして並ぶもののいない傾城・傾国の佳人としてイエジンが客観的に紹介されます。

ダヒは、仕事に追われるあまり家を疎かにしているのでは?と問いかけるように、李白の詩「玉階怨」を布に刺繍してホ・ジュンに届けます。最後に、イエジンが、慕い、尊敬して止まないホ・ジュンの前から自ら身を引くに当たって、自らの来し方を回想するように、李商隠の詩「無題―八歳偸照鏡」を詠みます。

昔、我が国でTPO(時、場所、場合または状況)という言葉が流行した時期がありました。上記のように、まさにTPOに叶った形で重要な登場人物にそれぞれ適格な漢詩が割り当てられて現れ、節目をなしてドラマが展開していきます。その巧みさは見事!と感嘆させられます。

2) ドラマの主題は、ホ・ジュンの‘心医’への道を描くことです。しかし‘貧者では医療費は免ずる’、あるいは‘四六時中庶民の診療に従事する’等々、映像としていかに多くの場面で、またいかに巧みに演じたとしても、映像のみで‘心医’とは?を視聴者に納得させることは至難の技でしょう。

やはり‘語り部’の助けが要るでしょう。イエジンは、ユ・ウイテ家の養女という境遇にある。また‘今度こそ幸せを掴むのでは’と視聴者が期待に胸を膨らませると、周りの状況の変化で、掴みかけた‘幸せの芽’はいとも簡単にイエジンの前から消えていく。

イエジンは、傾城・傾国の佳人でありながら、必ずしも幸せな状況にはないお人だ、何で?と視聴者は心の葛藤を覚えていきます。このように強くイメージ付けされたイエジンが ‘語る’と、ドラマを視聴するに際してビンビンと心に響いてきます。

イエジンが、「‘心医’とは、“患者を慈しむ心を持ち”、“貴賤・貧富に関わりなく患者に接し”、“出世、金銭に拘らない”等々」と‘語る’と、映像と相俟って、視聴者の納得に繋がっていきます。

イエジンの‘語り’は、ドラマの随所で出てきます。が、ホ・ジュンの墓所で、また浜辺を行きながら、連れの女の子と交わす問答(前回の最後の部分を参照)は、まさにイエジンの‘語り部’としての極め付きの場面であり、そこでドラマは"完"となります。

以上のように、漢詩の割り振りとそのTPO、‘語り部’の設定など、ドラマ製作スタッフの技量の冴えは見事と言わざるを得ません。

3) その他、このドラマを視聴して感じたことを何点か。

○ 当時、絶対身分制度下にあったとは言え、卑賎の出身であれ、能力さえあれば、身分の昇進が許されるという柔軟性があったこと。驚きの一事であった。

○ 韓国ドラマで、漢詩が自在に活用されていたこと、意外であった。当時、官民ともに目線の向きが明(中国)一辺倒の時代であったことから、時代の雰囲気を表現するねらいもあったろうか。ただ、複数の漢詩が用いられ、それらがドラマの展開に溶け込んでいた。単なる時代背景を示す‘お飾り’であったとは思えない。

ドラマを視聴し、鑑賞してもらいたい対象は庶民である。かつて漢文化の影響を受けていたとは言え、今日庶民はハングル語表記の世界にあると想像しています。庶民は劇中漢詩をどのように受け取っているか、興味深い点の一つである。

『ホ・ジュン』は、これまでに筆者が視聴した唯一の韓国ドラマでした。果たして他の多くの、いわゆる、‘韓流ドラマ’でも同様に漢詩の活用があるのか、興味があります。

○ 筆者の悩み:本シリーズは、ドラマの既視聴者・未視聴者を含む幅広い読者を対象に書いています。いずれの方々が読んでも、ドラマの展開と漢詩の関係が理解できるようにと 書くのに苦心してはいるが、結果は‘帯に短し、襷に長し’か。

また本シリーズは、筆者にとっては、本質的にドラマを視聴し、内容を熟知の上初めて書き起こせる性質のものです。一方、未視聴の読者にとっては、再放送による視聴の機会が約束されているわけでもなく、ドラマの内容については‘空’のまゝと言えるでしょう。この筆者と読者との間の距離感は、埋めようのない悩ましい現実です。

登場人物や漢詩が現れた場面のステイル写真が本文中に添付できると、少しは内容の理解がより容易になり、距離感を埋めるのになにがしかの役に立つであろうことは想像されますが。難題のようです。

悩みは尽きませんが、「漢詩を読む」楽しみを優先して先に進むことにします。続いて中国ドラマ『宮廷女官 若曦(ruòxī、ルオシー)』に挑戦するつもりにしています。

読者の皆さん、良いお年を!
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閑話休題24 漢詩を読む ドラマの中の漢詩―11(『ホ・ジュン』-7完)

2016-12-20 11:07:57 | 漢詩を読む
実のホ・ジュンの生涯についての概略及びその業績については、すでに述べました(閑話休題18、『ホ・ジュン』-1;2016.10.10投稿)。ドラマ中彼の“心医への道”についてもう少し触れます。

ホ・ジュンの生きざまは、対照人物としてユ・ドジを登場させ、より鮮明に描き出されています。ユ・ドジは、ホ・ジュンとは同年配、師匠ユ・ウイテの息子で、周りも認める医者として優秀な才能の持ち主です。

ユ・ドジの性質(たち)は、母親譲りで、名声、出世、金銭へのこだわりが強い。この点、周りから‘心医’と崇められており、貧乏人に対しては‘診療代は不要’とする父親とは相入れないところがある。

ユ・ドジは、初回の科挙で優秀な成績を上げた。しかし父親の科挙試験に絡む過去の一事件のため落第の憂き目を見ている。そのため父親に対して胸に一物を持っている:“御医となって、町医者の父親を見返すのだ”と。

ユ・ドジの再度の科挙受験に際して、ホ・ジュンも受験するべくともに家を出た。しかし受験のための上洛途中、医者を求める危急な患者に遭遇して、ホ・ジュンは見過ごすことができず、その治療に向かった。結果、受験場到着が遅れて受験の機会を逸した。

ユ・ドジは見事合格、凱旋将軍よろしく、さっそうと馬に跨って、帰宅した。見知らぬ患者の治療ゆえに受験を逸したホ・ジュンに対して、ユ・ドジは、「大事の前に小事にこだわってはならない」と助言した。両人の性質の違いが明確になった一駒であった。

ユ・ドジは、父親から縁を切られ、母親ともどもハニヤンに移り住み、内医院に通う。ホ・ジュンは、ユ・ウイテの友人で、山中でハンセン患者の医療に携わるサムジョクや学問を修めるアン・グアンイクらと繋がり、医療の修行を積む。ユ・ウイテの信頼は厚くなっていく。

やがてホ・ジュンも、素晴らしい成績で科挙に合格、ハニヤンに移り、内医院に入った。しかし事の成り行きで、先輩ユ・ドジの指示で内医院の中のヘミンソ(恵民署)という庶民の治療に当たる部署に配属される。出世からはほど遠い職場で、誰しも行きたがらない部署である。

ホ・ジュンは、“多くの患者、雑多な病気に接することができ、経験を積むことができる”とむしろヘミンソ勤務を喜んでいた。ヘミンソでの診療経験で腕を磨き、その実力が認められて王族の診療に携わるようになる。

王族の診療に当たっても、ユ・ウイテ師匠の教えに頑ななほどに忠実に、身分や周りの状況に関わらず、ひたすら患者の治療に専念する。高貴な患者とは言え、「治りたいなら患者は医者に従え!」と力づくで、嫌がる治療を施す具合である。

一方、内医院では、皇帝の病を機に皇位継承の問題、さらに側室の勢力争いが絡んで、トップの権力争いが激しくなってきた。穏健な与党派に対して、権力奪取をもくろむ悪党派の動きである。

王室でのホ・ジュンの評判が上がると、悪党側から誘いが掛かるが、ホ・ジュンは乗らない。ユ・ドジは、‘ホ・ジュンを負かしたい’との下心があり、消極的ながら誘いに乗る。トップの権力争いのトバッチリを受けつつ、ホ・ジュンとユ・ドジは御医の地位を交互に分担する羽目になる。

皇帝や皇子、側室などが難病に罹ると、ヘミンソでの多くの経験を積んだホ・ジュンの治療が功を奏し、彼の名声はますます高くなり、信頼を得ていった。結果、御医として2代の皇帝に仕えることにつながる。

その間、悪党側は、誘いに乗らないホ・ジュンを除けようと、ホ・ジュンとイエジンが従来親しい関係にあることをスキャンダルに仕立てあげたのです。これを機にイエジンは、‘ホ・ジュンに迷惑を掛けてはならない’と医女職を辞し、かつて育った山陰の地サムジョクのもとに向かいます。

内医院を去るに当たって、イエジンは、親しい一人の仲間に漢詩に託して胸の内の一端を吐露します:”「十五の時にこの詩を読んで涙したことを覚えています」と。ホ・ジュンへ想いを直に訴えること叶わず、遠くへ去ることの心痛を述べているのでしょう。

その漢詩“八歳偸照鏡”は、唐代の恋愛詩人と言われる李商隠の作です。ませた女の子が年を経て成長していく様子を詠っています。その全文を末尾に挙げました。ご参照ください。

ホ・ジュンは『東医宝鑑』の完成を見て、「多くの民が病に苦しんでいます。彼らを救うためにこれまでの経験を活かしたい」と皇帝の許しを得て御医を辞し、第2の故郷山陰での庶民の診療に余生を捧げます。

実のホ・ジュンは行年76歳で亡くなっています。ドラマでは、山陰の山上、イエジンが腰を落とし、手をかざしてホ・ジュンが眠る盛り土を撫でている。連れの女の子がイエジンに問います:「誰の墓ですか?何をしていた方ですか?イエジン:「私がずっとお慕いし尊敬していた方、お医者さま。」 

白い砂浜の渚を行きながら、女の子とイエジンの問答は続きます:「あの方は、まるで地中を流れる水のような方だった。太陽の下で名を馳せることはたやすいわ。難しいのは人知れず地中を流れ、人々の心を潤すことよ。それができる方だった。心から患者を慈しむ心医でしたの。」

「イエジンさま、あの方はあなたを愛していたんですか?」「それは分からないわ。私が死んで地に返って、水になって再会したら、その時にぜひ尋ねてみたいわ。」
<完>

[蛇足]
イエジンの生きざまは、’16年NHK大河ドラマ『真田丸』中での“きり”に重なって見えます。慕い、尊敬する人の傍にずっと居ながら、想いを伝えられない。なお、すでに述べたが、ホ・ジュン(1539-1615)と真田信繁(雪村)(1567-1615)が活躍した時代は一時期重なります。

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無題 李商隠

八歳偸照鏡  八歳 偸(ヌス)みて鏡に照らし
長眉已能畫  長眉(チョウビ) 已(スデ)に能(ヨ)く畫(カ)く
十歳去踏青  十歳 去りて青(セイ)を踏(フ)み
芙蓉作裙衩  芙蓉 裙衩(クンシャ)と作(ナ)す
十二學弾筝  十二 筝(ソウ)を弾(ヒ)くを學(マナ)び
銀甲不曾卸  銀甲(ギンコウ) 曾(カツ)て卸(オロ)さず
十四藏六親  十四 六親(リクシン)に藏(カク)る
懸知猶未嫁  懸(カ)けて知る 猶(ナオ)未(イマ)だ嫁がざるを
十五泣春風  十五 春風に泣き
背面鞦韆下  面(カオ)を背(ソム) ける鞦韆(シュウセン)の下
[註] 畫=画;學=学;
  芙蓉:ハスの花の古名;裙衩:スカート;鞦韆:ブランコ

<現代訳>
八歳 こっそり鏡をのぞき 長めの眉がよく描けたわ
十歳 春の野原に出かけ ハスの花で飾られたスカートはいてた
十二 お琴のけいこに夢中で ついぞ銀の爪を外すことがなかった
十四 まだ嫁いでいないことが気にかかり いつも親族たちから身を隠した
十五 春風に泣けてきて ブランコに乗って顔を背けていた
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閑話休題23 漢詩を読む ドラマの中の漢詩―10(『ホ・ジュン』-6)

2016-12-07 11:00:18 | 漢詩を読む
ドラマ『ホ・ジュン~伝説の心医~』の話に戻り、ドラマ中、今一人重要な存在であるホ・ジュンの妻、イ・ダヒに触れます。

ダヒは、一言で表現するなら、心に「濁り」あるいは「曇り」がなく、「澄んだ」心の持主で、いかなる事態にあっても夫に的確な助言ができる、まさに“良妻”といって良い人と言えるでしょうか。

ダヒは、本来、ヤンパン(両班)の身分の人であった。父親が官界での権力闘争に巻き込まれ、罪を着せられ流刑の身となる。父娘ともに卑賎の身に落ちて、山奥の一軒家(チョクソ:罪人の住む所)で生活を送っていた。

ジュンは、明との生薬の密貿易に関わっていた頃、病に倒れた父親の治療に必要な明生薬を求めて山中を彷徨っていたダヒに逢う。介護の効なく病死したダヒの父親の埋葬にジュンは力を貸す。ジュンは、ダヒに「とりあえず弥勒寺に身を隠す」よう指示する。

ジュンは、密貿易の罪で、龍川には居られず、母親と仲間のヤンテを伴ってハニヤン(現ソウル)を経て、山陰(サヌム)に旅立つ。その際、ダヒを山から連れて来て、行動をともにする。ジュンは、“何とかダヒの力になりたい、助けたい”と強く思っているのである。

この思いは、子供の頃の記憶が脳裏に焼き付いているからである。その頃、ジュンは、よく嫡男の義兄とその仲間たちのいじめに遭っていたが、ある日、雪の積もる原っぱで、裸にされたまま置き去りにされ、意識を失ったことがある。

ジュンが、意識を取り戻すと、見知らぬ医者が脈をとり「もう大丈夫だ」と言われた。雪の原っぱから助けてくれたのは、その医者の娘で年恰好がジュンと同じころのミヒョンと呼ばれる可愛い子であった。

ミヒョンの父親は、診療に当たっていた王族が亡くなったことから罪に問われて、娘共々流刑を受けチョクソにいたのである。ミヒョンは、ジュンが語る鬱積した胸の内を何の隔てなく聞いてくれるので、すぐ仲良しになった。

ある時、村が女真族の襲撃に逢い、ジュンとミヒョンは捕縛され奴隷市に連れて行かれる。途中ミヒョンは気を失い、雪の山中で置き去りにされる。一方、ジュンは、縄を解いて逃げ、来た道を引返すと、雪中で亡くなっているミヒョンを見出す。

ジュンは、“ミヒョンを助けることができなかった”ことを非常に悔み、それがトラウマとなっていて、ミヒョンと似た境遇にあるダヒに対して“何とか助けたい、力になりたい”との強い思いに駆られているのである。

ハニヤンに着いて、ダヒは、父親の嫌疑が晴れて身分がヤンバンに回復したことを知る。そこで旧知人の宅を訪ねるべくジュン親子とは別れる。ジュン親子は、「身分が回復したダヒと行動を共にすることはできない」と、別れの置き手紙をしてサヌムに向かう。

ダヒは、ヤンテと共にやっとサヌムでのジュンらの住まいを探し当てる。ジュンと母親は、“身分が違う”と、ジュンとダヒの交際に断固反対するが、結局ジュンとダヒは結婚する。

結婚後のダヒは、不平不満を一言いうでもなく、いかなる環境も厭わず、また周りからの誹謗中傷も一向に気にすることなく、ひたすらジュンの医者としての成功を念じてよく働きます。過労が祟って、流産も経験する。

このようなダヒが、一度だけ‘恨み節’を訴えたことがあった。ただし“怨み”の一言も発することなく、夫の帰りを待つ気持ちを、漢詩を贈ることで伝えたのです。その漢詩は李白の「玉階怨」でした(本稿末尾参照)。

なお“玉階”とは大理石の階段のことで宮殿の後宮を暗示しています。後宮には何百人もの女性が暮らしていたようです。その中で天子の寵愛を受けるのはごく限られた人々であり、多くは憂いのうちに日々を送ったことでしょう。後宮の女性たちの憂愁を主題にした詩を「玉階怨」と言うようです。

ジュンは内医院で働いており、働き詰めで帰宅が叶わず、着替えを届けなければならないことがよくあった。そんなある日、タオルに上記漢詩の刺繍を施し、着替えとともに風呂敷に包んで届けます。そのタオルを一番上に置き、刺繍がすぐ目に入るようにして。

さて、身分の違うジュンとダヒの結婚は違法であり、もし露見すれば両人ともに罰せられます。しかし医者として内医院に入り、王族の診療に携わる御医となるならば、例え卑賎の身であれ、ヤンバンの身分に昇格することが認められるのです。

ジュン家族共通の胸に秘めた無言の悲願は、ジュンが御医に昇進することなのです。悲願成就のためには、やはり家族、中でも妻の心使いが第一でしょう。ダヒの的確な助言を得て、ドラマが大きく変わるエピソードを一つ紹介します。

ドジが明への出張で長期留守の間に、彼の母親が原因不明の難病に罹り、町の医者は匙を投げる。偶然その治療にジュンが当たる。この母親は、かねて「ドジの出世の邪魔者」と忌み嫌うジュンを見て激高し、病は却って重くなる。

その折、ダヒは、ジュンに「何としても心を尽くして治療に当たって」と促す。仕方なく、枕辺での治療には内医院の医女に当たらせ、ジュンは屋外で待機し、内の様子を伺いながら指図することで治療を進めた。一方、ダヒは、この母親好物の‘カキ粥’を用意して届け、体力の回復・増強に努める。

やがて病は完治した。この母親は、回復後間もなくジュン宅を訪ねてお礼を述べるが、何ともぎこちない。時経て、改めて感謝の意を丁重に述べるとともに、「実家の土地に戻り、余生を送ることにします」と告げた。心の整理がついたのでしょう。その折の表情は、かつての顔つきとは打って変わり、晴れやかであった。

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玉階怨      玉階怨(ギョクカイエン)   李白
玉階生白露  玉階(ギョクカイ) 白露(ハクロ)を生じ
夜久侵羅襪  夜(ヨル)久(ヒサ)しくして羅襪(ラベツ)を侵(オカ)す
却下水晶簾  却下(キャッカ)す 水晶の簾(スダレ)
玲瓏望秋月  玲瓏(レイロウ) 秋月を望む

[註]  羅:絹;襪:靴下;玲瓏:玉のように輝くさま

<現代訳>
(立って待つ)玉の階段に露が降りる。
夜更けて、絹の靴下に(夜露が)忍び込む。
(部屋に入り) 水晶のすだれを下し、(あまりに耐えがたい月光を遮る)。
(水晶を通して) なお冴えわたる秋の月に見入る。
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