周平の『コトノハノハコ』

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小説第5弾『夢の終わりの夜行バス』~第2章~

2015年01月08日 | 小説
「えーと… お客様は… 8のDですね。」

乗務員にそう言われてバスに乗り込み、自分の席である8Dの席を探した。
そして見つけたその席は運転席とは逆サイドのバスの後輪の真上あたりの窓際の席だった。

特に正月でもゴールデンウィークでもお盆休みでもないので席には余裕があって、俺は8Dの席と、その隣の8Cの席の両方を使うことができた。

唯一の荷物である肩掛けのバッグを通路側の8Cの席に置き、俺は窓際の8Dの席に腰をおろした。
夜行バスなのでカーテンは閉まっているが、それをめくると必死に自分の乗るバスを探している人達の姿が見える。

きっとここにいる人達は旅行の帰りだったり、帰省ラッシュ時を避けての帰省だったりで、俺みたいに夢破れて下京する人なんていないのだろう。

だんだんと車内の席が埋まってきた。

ふと横に目をやると、通路を挟んだ8Aと8Bの席に、俺と同い年くらいの男が座っていた。
荷物は俺と同じくらい少なめのようだ。
もしくはトランクに預けているのかもしれない。
たぶん一時的な帰省なのだろう。
俺と同じく実家は岩手なのだろうか?
それともこのバスが途中で停まる仙台なのだろうか?
べつにどっちでも良いはずなのだが妙に気になってしまう。

こいつにも何か夢があるのだろうか?
それは叶っているのだろうか?
まだ叶っていなくてもあきらめずに追いかけていくのだろうか?

しかし数秒後にこいつに対する興味は一切無くなった。

バスの前の席の方から一人の女性がこちらに向かって歩いてきた。

やはり荷物は小さめのハンドバックひとつと少なめだ。

おそらく20代前半、俺よりもいくつか年下であろう女性で、
おもいっきり俺のタイプの女性だった。

その子の容姿を最も分かりやすく説明するならば、秋葉原でも栄でも難波でも博多でもなく、乃木坂といったところだ。

しかし、その子の表情はどこか疲れていて寂しそうでもあった。
まさか俺と同じような事情でこのバスに乗り込んだのだろうか?

彼女はさっきまで俺が興味を示していた男の後ろの席、つまり9Aと9Bの席に腰を下ろした。

隣の男が間違って彼女が座るべき8Aと8Bの席に間違って座っていて、実際には2人の席は逆である事を神に祈った。

しかしこの10年間、一度も神が俺の味方をしてくれた事などなかった事を思い出して、俺は再び窓際のカーテンをめくり上げ、弱いため息を吐いた。

(第3章へ続く)