周平の『コトノハノハコ』

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小説第5弾『夢の終わりの夜行バス』~第3章~

2015年01月15日 | 小説
どうやらこのバスを予約していた人達全員がバスに乗り込み席に着いたようだ。
恒例の乗務員の何言ってるんだか聞き取れないアナウンスが流れる。
おそらく途中で2回ほど、どこかのサービスエリアに止まりますよ的な事を言っている。

やがてバスがゆっくりと動き出した。

もう後戻りはできない。いや、ある意味これが後戻りなのかもしれない。

俺の夢は終わったのだ。

いや、もうそんな事はどうでも良い。
今は斜め後ろの席に座っている女の子が気になって仕方ない。
しかし、横ならともかく斜め後ろなんて見ていたら明らかに怪しすぎる。

バスが走り出してから間もなくして高速道路に入ったらしく、同時に車内が消灯された。

もう真っ暗で真横の男も、斜め後ろの女の子も、俺の明るい未来も見えない。

次に車内が少しでも明るくなるとすれば、どこかのサービスエリアに止まる時だろう。
そこまでの辛抱だ。

それに、サービスエリアでバスから降りれば、あの女の子に話しかけられるチャンスがあるかもしれない。

その時間まで少し眠ろうかと思ったが、本当に夢をあきらめて下京する事に対する「後ろめたさ」のようなものと、斜め後ろの席の女の子が気になって仕方ない「後ろ見たさ」と、このままサービスエリアに止まった事に気付かずに寝続けてしまったらどうしよう?という恐怖でなかなか眠れなかった。

暇つぶしにカーテンをチラッとめくると、高速道路のオレンジの電灯が早いスピードでいくつも横切っていく。
この10年間、東京で経験した色んな出来事がそれに重なる。

幾度の挫折、幾度の失恋、幾度のバイトの面接、幾度の不採用、幾度の家賃滞納、幾度の大家からの催促…

「夢はあきらめなければ必ず叶う」

高校の時の担任が言ってくれたこの言葉は嘘だったんだ。
いや、違う。
俺は今あきらめた。だから叶わずに終わるんだ。
一体何年間あきらめなければ夢は叶ったのだろう?

15年? それとも20年? まさか30年?

それは高校の担任も、東京で出会った人達も、Yah●●!知恵袋も結局教えてはくれなかった。

それまでとバスの動きが明らかに変わった。

どうやら1回目の休憩となるサービスエリアに到着したようだ。
勝負の時だ。
きっとこの10年の間にも何度もあったはずの。

俺はカバンの中でぬるくなってしまったコーラの残りを一気に飲み干した。

(第4章へ続く)