第三章 治験の怖さ
そんな生活が半年続いた。
夜中にトイレに立てばフラフラで足元がおぼつかない。
暗い中、体が落ち着くまで柱につかまりながら耐える。
それを見た妻はすごく心配をすることになるんだ。
大丈夫だとも言えず、フラフラだとも言えず、暗闇に立ち尽くすしかなかった。
今思えば長いようなそうでないような、その間の記憶もふらついているようだ。
その半年間の間も診察は月一回あった。
どう?と聞かれても答えようがない。
人並みに副作用があり苦しんでいます、と言えばよいのか?
もっと楽になる方法はないのかと聞けば良いのか?
治験の薬なのに、前例もないのに、何を聞いて何を答えれば良いと言うのだ。
いや、言えばよかったのだろうと思う。
そうすれば、もっと楽だったのかもしれない。
そうすれば、もっと違うやり方があったのかもしれない。
そうすれば、そうすれば・・。
治験における投与には途方もない忍耐と理解が必要だとは思っていたが、
どこまでの忍耐とどこまでの理解が必要なのかはわかっていなかった。
それが怖さであり、治験なのだと思う。
途中でやめることになったらどうなってしまうのだろう?
やめることになったら見放される。そんな恐怖を感じることもあった。
ドクターに何かを言うべきか、聞くに留めるか、どちらが正しいかなんて誰にもわからないことだ。
ただ、それが現実だということだけははっきりしている。