goo blog サービス終了のお知らせ 

ロイス・タンノイ

タンノイによるホイジンガ的ジャズの考察でございます。

眼でも楽しめるジャズ

2019年03月05日 | オーディオのお話


LPレコードを聴く人は、
脳裏にジャケット写真が焼き付いている。
ユカに並べていると、そこから音楽が聴こえるのは錯覚だが
レコードを見たことも触ったこともない人もおり
なかには無断でかってにひっくりかえすひともいる。
「スイングジャーナル、廃刊したわけではなく
休んでいるだけです」
みな言っている。
「きょうは、やっていない」
と言って、温泉に行ったのは、どう。
2013.9/6


ウエスタン16A

2019年02月23日 | オーディオのお話


タンノイ装置を充分享楽したオーディオ愛好家が、
個人でいよいよ一気に狙うのはこのスピーカーである。
むかしアメリカの映画館の銀幕裏にあったスピ-カーで、
ウエスタン16Aという。
なぜこのような業務用のものが、個人の部屋に必要なのか?
それは、船でいえばタイタニック、戦車でいえばキングタイガー、
車で言えばランボルギーニ、作家で言えば芥川龍之介、ワインで言えば。
本当に音楽に埋没するには、このようなスピーカーが良く、
聴くというより、文字どうり音楽の中に入っていく装置である。
だが、このスピーカーを満足に鳴らすためには、非情な工夫がいり、
オーケストラの弦の繊細な透明感を得るために部屋の構造から考えねばならない。
これまで聴いたあらゆる音楽、ベートーヴェンでもマイルスでも、
忘我の境地に誘われる異次元の音像が聴こえるように、
ウエスタンエレクトリックは技術を見せる。
アンプの真空管1本でも人道法的にサイフが痺れるわけである。
いちどこのスピーカーを聴いて、
これはだめだ、と思うか、これはいけると思うか、
ウエスタン16Aは、笑っている。
数学的に矛盾はなくとも情で納得できなければまだ真実ではない
と岡潔は言ったが、いかにもオーディオも夢で、見ているだけで楽しい。
2013.4/13

『ウエストレイク』

2019年02月21日 | オーディオのお話


プルプルと卓上の電話機が振動し、S先生の声である。
地下にしつらえた音響室でオーディオ装置の4セットを自在に操って、
『ウエストレイク』を永年楽しんで居られる御仁である。
ジャズLPのコレクションを堪能する光景が浮かび、その後のご様子を尋ねてみた。
――オーディオにお変わりはありませんか?
「あれから二つほど手に入れたスピーカーがありまして、
KEFの小型が新しく出ましてね」
おやおや、小型にまで触手がのびているらしい?
ところで、とお話は展開した。
「知人が鳴らすJBLの音を聴かれた著名な先生が、すばらしい!
と申されたそうで、決心がついて一方のタンノイを処分されたそうです」
けしからん、と当方は思う。
「ところが、それから音がおかしくなってしまったらしいのです」
タンノイとJBLはセットの音響と、茶室のお話であった。
青くても あるべきものを 唐辛子
2013.3/22

サラ・ボーン

2019年02月14日 | オーディオのお話


『2年ぶりに、六甲の山の麓の自宅で、さみだれとアジサイの季節を迎えています。
夜のとばりの下りる頃、そっとアンプの灯を入れて、
サラの歌声に耳を傾けるひとときがまちどうしいこのごろになりました』
上杉氏は、マニア垂涎の高名な『上杉アンプ』を愛好者に販売しながら、
タンノイのサウンドをご自身謳歌されていたが、
あるとき雑誌に以下の告知をされたのを読んだ。
「上杉研究所のアンプを所有されているかたは、
製造番号のご連絡をお待ちしています。
創立10周年を機に、全国に渡った当社アンプの
所在を把握しようと思い立ちました」
勇躍当方はペンを取って『U・BROS-1』の申告をした、
1週間後に返書があった。
「受け付けました。あなたの所有アンプは転売品です」
もうちょっと、色よい返事を期待していたのになあ。
永久保証も、こうなっては壊れては大変と、
なんとなく電気を通す機会も減ったような気がする。
そのとき書かれたご本人直筆のような、わずかな一行を
しみじみ眺めると、字の太さやインクの色から『モンブラン』と思った。
タンノイサウンドの、さまざまに聴こえるサラ・ボーンの歌声は、
マイク無しに本人のそばで聴く実際はどのようなものか、
あこがれをさえ抱かせて鳴る。
彼女の、七色の虹の声といわれるオクターブに広大な声量や、
野太い低音に支えられた妙なる絹摩れの裏声まで、
巷はそれを『ザ・シンガー』、『女王』と賞賛したものである。
そのものズバリを、迫真のナマのように聴きたいと考えれば、
アンプやカートリッジや、どのオーディオ装置の選択があるであろう。
あるとき、不思議なご縁で当方の前に登場した客人、
千葉のS氏はこともなげに言った。
「サラ・ボーンのことは、以前わたしがアメリカに渡ったとき、
ワシントンのクラブのかぶりつきでツバキを浴びながら聴きました」
「!」
当方は、そのとき表情には出さなかったが、気分は複雑で、
もはや結果のわかってしまったボクシング試合に感じるとは意外?
それでなんとなく、しばらくサラを聴かなかったのが、みょうである。
以後、千葉のS氏を大先生と尊称したが、
なぜならこの御仁は、またこうも言っている。
「オリジナル・ブルーノートを多数コレクションしている多くの
著名人を回って、めちゃくちゃ触らせてもらいましたが、
程度の良い盤を揃えて蒐めるのは困難とわかりました」
サラ・ボーンの七色の声の再現は、
当方の前にいまもって無窮に立ちはだかる山である。
するとあるとき、葛飾のオートグラフ氏から薄い小包が届き、
封を開く内側からベスト盤と高名な『アフター・アワーズ』が現れた。
いま先生は、オートグラフによってサラを聴いている。
音楽が時代を映す鏡であると思ったのは、
聴いた曲から忽然と光景が浮かぶようになったころである。
2012.10/25


コルビジェ庵のスペンドール

2019年02月04日 | オーディオのお話


さらにウイング効果を考察すると
スペンドールの人気の初期型について、
モデルチェンジの現行タイプが在るが、あえて旧型をもとめ
茶室に運び入れるのも、道具立てに笑う求道のてすさびである。
タンノイⅢLZでもスペンドールBCⅢでもよいが、
有名なアルテックウイングに合体させ、オールラウンドの再生を
めざせば、いかなるや。
写真は、発売前から話題沸騰の新型のようであるが、めざすところは、
圧倒的重低音と、静けさを湛えたホールトーンに、
立体的な前後の奥行きで鳴る迫真の音像。
といえばもはや夢物語の世界であろうか。
六畳の茶室にて、時間の経つのもわすれふと気がつくと、
そとの庭にふきのとうの芽かみえ、梅のかおりがする春が。
コンビニ弁当を買い、車の屋根を畳んで343街道を走ってみたくなる。
抽出しのシャトリュースをおくった昔に
漢詩の送られて届いたのは、春の夜のこと。
三嘆葡萄酒加餐 サンタンスブドウシュノカサン
玄妙仙薬倍養運 ゲンミョウノセンヤクマスマスヨウウン
春余幾許甘美刻 シュンヨイクバクゾカンビノトキ
半夜芍薬一輪宴 ハンヤシャクヤクイチリンノエン
2012.3/6



ウイング効果

2019年02月04日 | オーディオのお話


『マーラーの千人』を、サントリーホール無人の客席にて
ただ一人ライブ鑑賞する。
幻想生活を夜な夜な楽しく、趣味のオーディオ人は取り組んでいる。
以前、オーケストラ最前列に本当に居眠りした失敗から、
髷を結った五十万石の大名の品格胆力なければ、
ひとりサントリーホールで鑑賞できるものではない。
都電が走っていた時代に五味康祐氏の取り組んだ、気宇壮大
オーディオのタンノイ・オートグラフをうらやましく想像したものである。
さきごろそれが都の施設にて再び整備され、
抽選でご開帳がおこなわれたという。
天候の緩んだ冬の日、水戸藩から4人の来客があった。
運転の人以外は、水戸街道と奥州街道を、
ビールと音楽談義に花を咲かせ一気に北進された。
あたらしく加わった御仲間は、ラックスのCL-35Ⅱによって長い間
音楽を楽しまれていることを慎重に、話される。
当方は38FDで、留まってしまったが。
「先日、五味さんの例の装置を、聴いてきました」
――いかがでしたか
「わたしも同じような装置を持っていますが、やはり、
オートグラフは期待どうりの良い音でした」
――アンプはマッキントッシュの275でしたか。
「そうです。その日はオーケストラではなく小編成でしたが、
すばらしい音で、整備に費やした関係者の努力が充実したものであったようです」
五味さんは、ジャズをお聴きにならなかったので、
弦楽編成とピアノ、声楽などに傾注した装置のはずである。
プリアンプの12AX7球は○○を挿して有るのでは?などと
さまざまに一刀齋の音を想像し飽きなかった。
オート・グラフを部屋の左右に設置して、ホールのような静寂と音圧体感を
得ようとすると、室内の広さはどのくらいを要するのだろうか。
吹き飛ばされそうなオーケストラの迫力も、工夫しだいで
茶室のタンノイといえども不可能ではなかろうと考え、小柄なスペンドールや
ⅢLZによって、地の底から湧くような重低音を体感したいものである。
そこで雄大な音像を得るウイング構造を頑丈な板で造り、
ウオールナットの塗装をして衝立バッフルの効果、オーケストラはいかに。
2012.3/4


スペンドールBC-Ⅱ

2019年02月02日 | オーディオのお話


タンノイと同じ英国で造られたスペンドールBC-Ⅱは、
タンノイと違った繊細で香気の音を聴かせている。
昔、等々力のK氏と、世田谷太子堂のN氏の部屋で聴いて、
どちらも非常に興味深い音がした。
タンノイの大型装置とは輪郭が違って、ものたりないと思えば
Ⅲ型にするのかもしれないが、エンクロージャを大きくしウーハーユニットを加えたもので、
やはりⅡ型の音像の延長であり、コントラストが期待の骨太にはならない。
だが、スペンドールの音には、弦のユニゾンやジャズの静かな立体感にゾクッとさせられる。
たまにタンノイを休ませて、隣室でコーヒーでも喫しながら
スペンドールを聴いていると、つい聴耳をたてていたりする。
サランネットをつけて聴くと、スペンドールは一層芳醇に鳴っているが、
クオードとマークレビンソンアンプで鳴らせば、
一瞬心臓の停まるような、良い音であった。
茶室の道具立てを、昔の人もひねってみたりするのは、
降り積もった雪かきのあとの世の習いである。
古河から、ヤマハ1000Mをトライオードで鳴らす客人が登場して、
ダイナコのスピーカーを導入されたところ、
右のウーハーユニットがどうも動いていないと申されている。
すこしも騒がず鳴らしている情景を、当方は、楽しく想像した。
2012.2/1


遥かなるパラゴン

2018年12月05日 | オーディオのお話


どうも、と入ってきたお客は東パラゴン氏である。
古川N氏の周到な調整によって変身した其の音のことは、
風の便りにうかがっていたが、満足感はどぅなのか?
ソファに座った姿の、自信に満ちて大きいところが、
相当なジャズの音を浴びているとすぐわかった。
あくまでパラゴンに拘って追求している境地を、
ご本人の言葉で伺うのも楽しい。
――お宅で現在鳴っている音よりさらに良い音を、
たまには思い浮かべることがありますか?
「そういわれてみると、低音がもうちょっと緊まってもよいかと思いますが、
部屋の造りと関係しているのかもわかりません」
グワッとタンノイのボリュームをあげておいて、尋ねた。
――お宅でふだん鳴っている音量は、これより大きいですか?
「いや、ここまでは出しません。マイルスのトランペットの音色が、
あんなに良いとは、いままで、知りませんでした」
お~…核心にズバリと迫った一言である。
プリが520でパワーが275と伺っていたが、SPUの昇圧はなにか?
「これがよいから、と送られてきたレビンソンですが、
今回驚いたのはMITのスピーカー・ケーブルでした」
アメリカ製で3メートル30万両であるというので、当方の必要な10メートルに当てて、
すぐその現実感が解った。けしからん。
高価で効果があるなら、だれもプラチナ線のダイヤモンド縒りを試みているはずだが、
ケーブル構造は繋いでみないと相性がまったくわからない。
この東パラゴン氏の追求する音を、古川N氏はどのように予測されたのか、
どうも東京のかかりつけの納入業者という人に、ひそかにコンタクトして
デスカッションし、これまでとこれからを互いに研究しあった形跡がある。
それも、本人には内緒で。
こうしていろいろな御仁の試された経験が、ひとつの発句となるジャズの道であったが、
当方はスタン・ゲッツの『オ・グランジ・アモール』を聴きながら、ひそかに、
東山御殿の奥の間に鎮座しているという荘厳なパラゴンを、
タンノイのむこうに思い浮かべた。
2009.12/20


仏跳音

2018年12月03日 | オーディオのお話


さきほど現像プリントから戻ってきたTANNOYの写真。
『仏跳墻』という中国料理は、あまりの香りの良さに、
外を通った和尚さんさえ思わず塀を飛び越えて来たという。
タンノイも、甘い音も辛い音も謂れをそなえ、
あるときは破鐘のように、
また柳に風のように、
駆動アンプによってはあっさりと姿を変えて、
地の深くにどこまでもくぐり、
宇宙のはるか銀河を飛んでいく、
そういう仏跳音をめざすのがおもしろい。
いつも姿形の変わる、きょうのタンノイの音を写真で想像してみる。
2009.12/8

スウェーデン『スタンペン・ジャズクラブ』

2018年11月30日 | オーディオのお話


「営業にレコードだけでは、操作にくたびれるでしょ」
大先生の深遠なる配慮によって、大昔に頂戴した折角のCDも、
あれからほとんど聴いたことがない。
タンノイでオーディオ的に聴いて、どうも感動が記憶に残らないというか、
当方の再生器機のお粗末さのゆえ、存在を忘れてしまうCDの山であった。
ところで、ふとしたおりに聴いたポーンショップ・シリーズの音場がなつかしく、
再び指定席に座ってしまうのはなぜか。
このようなことは昔パチンコを研究していた頃の、
ピッとゾロ目に揃った甘美な誘惑と、似ていなくもないか。
北欧人のあっさりとしたスイングの、ジャズ的センスに感じ入ったこともあるが、
76年の12月7日の『ジャズ・クラブ、スタンペン』における客席の微妙なリアリティと、
潤いのある音色は、めったに聴いたことがない。
ケースの小さな活字を虫メガネで拝読すると、
ノイマンU-47、
スチューダーミキサー、
ナグラⅣS高性能アナログテープレコーダー
とクレジットがり、三十年も昔のメートル原器を、この文明発展の世にいまさらであるが、
冷蔵庫に仕舞った吟醸酒に呼ばれているようなあと味が惹いている。
冷寒の迫りつつある街道の枯葉を散らして、
秋田の二万枚長者殿とランサー101氏が、高級車を駆って登場された。
さっそく話題におたづねすると、
「これはレコードでも手に入れることができます」
ジローラモ氏は博識だ。
ランサー101氏のことは、ジャズについて見識の深いところを最近、
ぼちぼち解ってきたが、先輩のまえに立ち位置を心得て、
めったに言辞をスイングさせないのも、またジャズなのかと思われる。
2009.11/12

N氏のレポート

2018年11月18日 | オーディオのお話


古川N氏は朝、颯爽と姿を見せて、1枚のレポートを差し出すと申された。
「こちらの名を汚さないように、一生懸命調整してまいりました」
・・・?
『カーネギーホールのブルーベック』を聴きながら、レポートを拝読するうち、
風邪薬をもらいにいった病院でCTスキャンをはじめ心臓マッサージまで受けている
ような『V-12』の客の表情が浮かんだが、剛腕のサポーターと二人がかりで遠征したN氏は、
多くの計測機材を持ち込み徹底的な分析が一瞬のうちにおこなわれている。
「このお宅にオーディオ器機を納入した業者は、利潤より、
看板にかけて最高の商品を蒐集して納めた形跡があります」
N氏の眼力が認めた業者とはどこの何者か。
「聴かせていただいたCDは、問題なく良い音でパラゴンから鳴って感心しましたが、
レコードの再生音がCDを下回っては意味がないと思いまして、
そこをクリアーするところまで詰めてみました」
このように恐るべきN氏であるが、
「広大なお庭が広がっている邸宅で大変気持ちよく、良い眼の保養になりました」
と微笑んだ一分の隙もないN氏であった。
当方は、ロイスの一坪の庭を脳裡に浮かべて、ひとまず一緒に笑った。
ブルーベックの演奏は、スウィングしているのか、していないのか?
賛否が二分しているのは、ジャズの命題となっている思考の  である。
2009.7/2

迫SA氏の第2室

2018年11月16日 | オーディオのお話


迫SA氏の第2室の写真も、これからそこで鳴る音楽の悦楽を、
堅く約束しているかのようなたたずまいてあるが、
訪問者がどの部屋に通されるか、一定の法則があるだろうか?
4号線を仙台に向かって、将監トンネルに入るための車線を左に取ると、
一本道は空中になだらかなアーチをつくってほの暗いトンネルに吸いこまれて行く。
が、SA氏の部屋に入るには、コースを取っただけでは、難しい。
さる家の伝聞であるが、
オーディオ・ルーム隣室で御茶をもてなされるも、ついに装置と対面できなかった、
他流試合お断りもあったようなお話は楽しいけれど、避けたいものである。
アルテック605の美音を思い出していると、めずらしく沼S氏が登場された。
修理のおわって一部回路変更されたROYCEの『845アンプ』の偵察に、
嗅覚鋭く馳せ参じたのである。
是枝アンプや、東独の励磁スピーカーなど多彩な遍歴の氏は、
抜群の聴取力と知識で一刀両断迫ってくるので目まいをおぼえることもあるが、
その最初の一言はこんな風だ。
「この音は、さきほど電源をいれたばかり…とか?」
当方は、パイプを指に遊んで聞こえないふりをしていたが、
過日テレビ放映されたジャズ番組での感銘などを聞くあいだに、
『Farmers Market Barbecue』も音のかたちをみせてきた。
そこで沼S氏がご持参の、ケルテス・デッカ盤『新世界』を聴いてみた。
目玉の飛び出るような大枚を投じて入手の貴重盤のいきさつもおもしろいが、
ティンパニーからトライアングルから、さまざまの音の総和が分離と集合をくりかえし、
壁面いっぱいにしばらく広がって終章を迎えると、
「うむ、このレコードからこのような音は、いまだ聴いたことがありません」
あっさり態度を変え、SA氏のあみだした管球回路の選択を分析するように、
遠眼を凝らしてアンプを見ている姿があった。
前段の300Bはともかく、整流管は何を使っているのでしょうとの質問に、
はじめて調べると「あっ、やっぱりムラードのGZ-37」と痛痒な表情をされ、
これは、なかなか手に入らない名球なんですよ、とこれまでの音の全てが、
この球にあったかのような説得ある解説が述べられる。
そういえば、費用はいらないと申されて…
まさかそういうわけにも、と沼S氏に告げると、あっけにとられたような顔である。
845アンプを改造のSA氏は、工作について蘊蓄の一言もないばかりか、
ROYCEで鳴り出した初めての音出しに、当方の反応を待って、
横顔をただ心配そうに窺っていたあの日のSA氏のことが懐かしく思い出された。
「わたしの部屋の装置も、必要なときには足の裏にびりびりっときますよ」
沼S氏は笑って符丁を申されて、刀を納め戻っていったが、いつかお訪ねして、
励磁のフルレンジが8個並んでいるという未踏の装置を聴きたいものである。
2009.6/16

SA氏の新装置1

2018年11月14日 | オーディオのお話


昔、SA氏と話した。
誰も造ったことの無いような凄いアンプを、いつか、造ってみませんか。
それがどんなアンプか当方は知らない。
SA氏のアイデアを傾けた、それの実現が楽しみである。
故障したアンプの修理に先日迫区にあるSA城を訪問し、
新しく置かれている装置を初めて聴いた。
全容を眺めた最初、思わず両の耳に綿を詰める用心も、念のため考えたが、
センスと情熱の結晶は聴くものに深く感銘を与える。
用心は全く杞憂で、ブルー・ノートのサウンドは易々とあっけなく、
あるときは優しささえ漂わせて眼前に展開され、おもわず、
鳴らしているのはどのアンプですか、と尋ねた。
幾つも並んでいるアンプのどれか、知りたいものである。
SA氏は、小型アンプでも、威力を聴かせる高能率のスピーカーであると、
知らせたかったのか、出来上がった写真を見て、その時の音を思い出した。
当方の故障アンプは、まもなく整備されて届けられたが、SA氏が、
牛のようにのんびりした言葉で「ウー、出来上がりましたが、うまくいったと思います」
電話のむこうの様子から、なんとなく良い結果を思った。
SA氏と聴いて、永い間、故障のまま待機していた845アンプが、さま変わりした。
SA氏が立ち去った後に、しばらく眼前の音について考えたのだが、
念のため管球のサイズをモノサシで計ってみると、845管の前段に挿っていたのは、
やっぱり4本の300Bそのものであった。
すると直熱管のほうが良いのではないかナ、と漠然とつぶやいていたことは、
このことであったのか。
これまで、845管が良いとか、いや300Bが、と悩ませていた微妙な音の個性は、
紫の上と夕顔を二人並べた相乗効果が聴こえているのか、
源氏物語の世界をしばらく楽しもう。
どのような再生音が良いと追求して、何年か経った後に、
『あれは良かった』と忘れられない音が、やはり宜い。
さらに未知の音像世界を考えるとき、
高度に完成された眼前に展開する凄まじい演奏音像はそれとして、
林立する演奏音像の隙間に、ふとあたかも向こうの景色が見えるようなことがあるとしたら、
演奏者の背後にまわって動きが見えるような錯覚が聴こえたら、それも慶賀なことである。
オーディオの七大難問は、まだ人知れず研究されている。
言葉だけでは漠然としているが、今回の改造で、名人の技倆の未来にそういうことも考える。
2009.6/7

大唐から帰国したSA氏

2018年11月02日 | オーディオのお話


迫のSA氏は、ROYCEの『845アンプ』を改造してのち、
単身、唐の都に渡っていった。
時々に、風の便りは有ったが、あの御仁は、言葉の解らない國でどうして暮らしているか、
技術をこわれて腕におぼえがあるとはいえ、なまじの志ではない。
唐の都に遠征しいつか三年も経ったが、そのまま彼の地の人になってしまった
平安朝の偉人もいる。
ところがこの春、ひょっこりROYCEに現れると、さっそく845アンプの前に立ち、
積もる話も脇に置いて、
「この前段の、GEC、KT-88は、取りつく部品とミスマッチです」
と言った。
それまでのEL-34と交換して挿してみたKT-88は、
タンノイの世界を描く845管の音を一変させ、嬉しがらせてくれたそれなのに、
或る日、無情にも壊れたのである。
迫のSA氏の申されるには、
「いま我が家に、これまで鳴らしていたものよりさらに大きいアルテック・システムと、
JBLの大型マルチ・システムも並んでいますが…
この845アンプを直す時間をつくって待っていますから」
ほほう。ショウ・ルームに新しく入れた、これまでよりさらに大きなシステムとは、
どのようなものか。
天井に取りつけた2個の空飛ぶ円盤のような76センチウーハーを憶えているが、
さらなるものが、いまはあるというのか。
「かの地で、いろいろ真空管を採集してきましたから、
それもいずれ、音にしてみたいと思います」
それだけ申されると、車に待たせていたご婦人と、さっそうと帰っていった。
温泉の帰路に立ち寄られたので、湯冷めは禁物である。
アルテックの大型装置といえば、先日の来客の『A-5アルテック装置』のことが思いうかび、
写真をSA氏に紹介したが、はたしてそれぞれどういうジャズ世界を提示して、
マイルスやコルトレーンがどうなるのか。当方の見立てによれば、
どちらの御仁も、静かなること林のごとく、疾きこと風のごとしバチバチッ!
と写真から火花が散ったか、すでに両者の間に、見えない音響世界の鍔鳴りをきかせ、
どちらも経験の積んだ大音量の自作派で、ブルー・ノートの名場面が浮かんでは消え、
居ても立ってもいられないとはこのことである。
2009.4/18

N氏のアルテック

2018年10月25日 | オーディオのお話


牙城のN氏は、これまでのお話でおおよそ想像はあったが、
写真は全容を正確に伝えるので、心得のある人は具体的な音像について
思い描くことができるであろう。
「むかし仙台のお座敷で、何十万かする三味線の演奏を聴いたことがありますが、
このタンノイ・ロイヤルの『竹山』は、あのときの音です」
N氏は、御自分のJBLの高域に多少の違和感を感じ、
しばらく写真のアルテックのほうを鳴らしておられたそうで、
余韻のある音も嫌いではないという。
オーディオの世界では、ピテカントロプス以来の系図をたどるようにして、
タンノイかJBLかアルテックか、圭脈の枝分かれにさしかかるが、
厳密に楽しもうと部屋を3つ造って廊下を枝分かれにしている人もいる。
ところで水沢の『パラゴン』を聴かれましたか?
「聴いてきました」
八方に感度を広げ、たいていの音は耳におさめているN氏であった。
むずかしいことを言わずに音楽を楽しみましようと、
バッハ・ホールの遠征の話をきこうとしながら、当方はオーディオ雑誌を手に持った。
装置によって、音楽の感動が変わるのは本当だろうか?
2009.1/18