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ロイス・タンノイ

タンノイによるホイジンガ的ジャズの考察でございます。

MCカートリッジ

2022年07月25日 | オーディオのお話


左は拝領の品、
右は最初に購入したムービング・コイルの国産品
中央はデンマーク・オルトフォンSPU-A型
先端のダイヤモンドチップはエジソンが発明した竹針や鉄針が発展した。
これら 『カートリッジ 』 は、まだ多数が、世界各地の金庫にしまわれて、
次の出番をうかがっている。
針の音をまともに聴こうとするあまり
数百万両投じて回転する機器を室内に置いた人もいる。
良い音のカートリッジは、針交換しない。
稲妻や 闇の方行く 五位の声
2013.10.3
恵比寿顔の人間を初めて見た

TEAC-R720

2022年05月20日 | オーディオのお話


2トラック38センチテープの音が、眼の醒めるような音である。
5分間だけダビングしてくださると、
「おわり 」 と、つれない。
初対面では仕方がないが、家に持ち帰って再生してみると
4T19でも、良い音であった。
すぐ同じ演奏のレコードを買ってみたが、
断然テープのほうが瑞々しい。
あのとき使われた『TEAC-R720』の機械が、
ナマの演奏よりも素晴らしいといってはおかしいが
それがオーディオというもの。
Y氏とは30年以上会っていないが、
覆面して、
ロイスに来ておられたようだ。
2013.9.8

コルビジェ庵のスペンドール

2022年03月17日 | オーディオのお話


さらにウイング効果を考察すると、
スペンドールの人気の初期型については、
モデルチェンジの現行タイプが在るが、
旧型をもとめ茶室に運び入れるのも、
道具立てに笑う求道の衆のてすさびである。
タンノイⅢLZでもスペンドールBCⅢでもよいが、
有名なアルテックウイングに合体させ、
オールラウンドの再生をめざせば、いかなるや。
写真は、発売前から話題沸騰の新型のようであるが、
めざすところは、圧倒的重低音と、静けさを湛えたホールトーンに、
立体的な前後の奥行きで鳴る迫真の音像、
といえばもは夢物語の世界であろうか。
六畳の茶室にて、時間の経つのもわすれふと気がつくと、
そとの庭にふきのとうがみえ、梅のかおりがする春が。
コンビニ弁当を買い、車の屋根を畳んで
343街道を走ってみたくなる。
抽出しのシャトリュースをおくった昔に
漢詩の返書は、春の夜のこと。
三嘆葡萄酒加餐 サンタンスブドウシュノカサン
玄妙仙薬倍養運 ゲンミョウノセンヤクマスマスヨウウン
春余幾許甘美刻 シュンヨイクバクゾカンビノトキ
半夜芍薬一輪宴 ハンヤシャクヤクイチリンノエン
2012.3.6
余震が数日中にあると教えている。
祭時の橋が壊れたようにまた人間のこしらえた
機械や何かが壊れるのか。
一関は震度5でしたが、迫の皆さん震度6で大変でしたね。

遥かなるパラゴン

2021年11月25日 | オーディオのお話


どうも、と入ってきた客人は東パラゴン氏である。
古川N氏の周到な調整によって変身した音のことは
風の便りにうかがっていたが、満足感はどぅなのか?
ソファに座った姿が自信に満ちて大きいところが、
相当なジャズの音を浴びているとすぐわかった。
あくまでパラゴンに拘って追求している境地を、
ご自身の言葉で伺うのも楽しい。
――お宅で現在鳴っている音よりさらに良い音を、
たまには思い浮かべることがありますか?
「そういわれてみると、低音がもうちょっと緊まってもよいかと思いますが、
部屋の造りと関係しているのかもわかりません」
グワッとタンノイのボリュームをあげておいて、尋ねた。
――お宅でふだん鳴っている音量は、これより大きいですか?
「いや、ここまでは出しません。マイルスのトランペットの音色が、
あんなに良いとは、いままで、知りませんでした 」
お~ ... 核心にズバリと迫った一言である。
プリが520でパワーが275と伺っていたが、SPUの昇圧はなにか?
「これがよいから、と送られてきたレビンソンですが、
今回驚いたのはMITのスピーカー・ケーブルでした」
アメリカ製で3メートル30万両であるというので、
当方の必要な10メートルに当てて、すぐ現実感が解った。
けしからん。
高価で効果があるなら、だれもプラチナ線の
ダイヤモンド縒りを試みているはずだが、ケーブル構造は
繋いでみないと相性がまったくわからない。
東パラゴン氏の追求する音を、古川N氏はどのように予測されたのか、
どうも東京のかかりつけの納入業者という人に、ひそかにコンタクトして
デスカッションし、これまでとこれからを互いに研究しあった形跡がある。
それも、本人には内緒で。
こうしていろいろな御仁の試された経験が、ひとつの発句となる
ジャズの道であったが、当方はスタン・ゲッツの『オ・グランジ・アモール』
を聴きながら、ひそかに、
東山御殿の奥の間に鎮座しているという荘厳なパラゴンを、
タンノイのむこうに思い浮かべた。
2009.12/20

N氏のリポート

2021年09月23日 | オーディオのお話


古川N氏はその朝、颯爽と姿を見せて、
1枚のレポートを差し出すと申された。
「こちらの名を汚さないように、一生懸命調整してまいりました」
???
そういえば、『V-12』の客人から質問されたガラード・プレーヤーの調整に、
過日拝聴したN氏の執念の防振構造を見て「適任ではないのか」
お話した御二人の間で進展があったようである。
『カーネギーホールのブルーベック』を聴きながらレポートをみるうちに判明した。
風邪薬をもらいにいった病院で、CTスキャンから心臓マッサージまで受けている。
遠征したN氏は多くの計測機材を持ち込み、剛腕のサポーターと二人がかりで
徹底的な分析をされたようである。
たしか『V-12』の客人は、普段は他人を診察する人である。
捕捉のコメントが有った。
「オーディオ器機をお宅に納入した業者は、利潤のためというより
看板にかけて最高の商品を蒐集して納めた形跡があります」
感想を述べているN氏の眼力が認めた業者とは、どこの何者か。
「聴かせていただいたCDは、問題なく良い音でパラゴンから鳴って
感心しましたが、レコードの再生音がCDを下回っては意味がないと思いまして、
そこをクリアーするところまで詰めてみました」
恐るべきN氏であるが、
「広大なお庭が広がっている邸宅で大変気持ちよく、眼の保養になりました」
微笑んだ一分の隙もないN氏であったから、
当方は自分の一坪の庭を脳裡に浮かべ、ひとまず一緒に笑った。
ブルーベックの演奏は、スウィングしているのか、いないのか?
以前から演奏のジャズ的賛否を二分している。
2009.7/2


迫SA氏の第2室

2021年09月22日 | オーディオのお話


迫SA氏の第2室の写真も、これから鳴る音楽の悦楽を、
堅く約束している奥床しいたたずまいてある。
はたして訪問した者がどの部屋に通されるか、
一定の法則があるだろうか。
4号線を仙台に向かって、将監トンネルに入るための車線を
左に取ると、一本の隘路は空中になだらかなアーチをつくって、
ほの暗いトンネルに吸いこまれて行く。
SA氏の部屋に入るには、ただコースを取っただけでは、難しい。
某氏のオーディオ・ルームのように、隣室で御茶をもてなされつつ、
ついに装置と対面できなかった他流試合お断りの家もあった。
話として楽しいけれど、避けたいものである。
アルテック605の美音を思い出していると、めずらしく沼S氏が登場された。
修理のおわって一部回路変更されたROYCEの『845アンプ』の偵察に、
嗅覚鋭く馳せ参じたのである。
是枝アンプや、東独の励磁スピーカーなど多彩な遍歴の氏は、
抜群の聴取力と知識で一刀両断迫ってくるので、
目まいをおぼえることもあるが、最初の一言はこんな風だ。
「この音は、さきほど電源をいれたばかり...とか?」
当方は、パイプを指に遊んで聞こえないふりをしていたが、
過日テレビ放映されたジャズ番組での感銘などを聞くあいだに、
『Farmers Market Barbecue』も骨格をみせてきた。
そこで沼S氏がご持参の、ケルテス・デッカ盤『新世界』を聴いてみた。
目玉の飛び出るような大枚を投じて入手の貴重盤のいきさつもおもしろいが、
ティンパニーからトライアングルから、さまざまの音の総和が、
分離と集合をくりかえし、壁面いっぱいにしばらく広がっていく。
やがて終章を迎えると、
「うむ、このレコードからこのような音は、いまだ聴いたことがありません」
あっさり態度を変え、SA氏のあみだした管球回路の選択を分析するように、
遠眼を凝らしてアンプを見ている姿があった。
「前段の300Bはともかく、整流管は何を使っているのでしょう 」
「あっ、やっぱりムラードのGZ-37 」
痛痒な表情をされ、なかなか手に入らない名球なんですよ、
これまでの音の全てが、この球にあったかのような説得ある解説が述べられる。
費用はいらないと申されて...まさかそういうわけにもね。
沼S氏に告げると、あっけにとられたような顔である。
845アンプを改造のSA氏は、工作について蘊蓄の一言もないばかりか、
ROYCEで鳴り出した初めての音出しに、当方の反応を待って、
横顔をただ心配そうに窺っていた日のSA氏が懐かしく思い出された。
沼S氏は言う。
「わたしの部屋の装置も、必要なときには足の裏にびりびりっときますよ 」
笑って符丁を申されて、刀を納め戻っていった。
いつかお訪ねして励磁のフルレンジが8個並んでいるという、
未踏の装置を聴きたいものである。
2009.6/16


古川N氏のJBL

2021年09月21日 | オーディオのお話


写真を見て、音を想像できる人は世に大勢いる。
ところが、この装置はダイアフラムの修正や位相合わせ
が繰り返された効果なのか、瑞々しい音像が聴こえて驚いた。
一方で、ジャズの場合、歪みも音楽であるとして、
大向こうは一筋縄ではないけれど、N氏は当然
マーク・レビンソンの傾向も精査され、
かの有名な『川向う』にも足を運ばれて、
そのうえメーカーにてアンプの設計に携わった技術を効果的に投入し、
御自分の好みを極限まで追求された。
結果、N氏の指向する瑞々しい音像が林立して鳴り響いているのであった。
当方のグリーン・オニオンカップと刀を合わせたかのように、
眼の前に置かれた1脚3万円の珈琲カップの深い色にゾクッとしたとき、
デューク・エリントンの強烈な演奏が眼前に展開されて、
キックドラムの最も低い重低音がドスッ! と鳴った。
そのとき、充分な厚みの木の床からはじめて足の裏にびびびっと来るのが、
にくらしいほど計算された効果だ。
これしきのことで、タンノイは驚いてカップを落としてはならぬ、か。
孫悟空は觔斗雲に乗って不老不死の音を求め、
地の果てに聳えていたのはお釈迦様の手のひらであるが、
N氏を遮る手のひらは、はたして。
2009.6/10

歌枕古川N氏を訪ねる

2021年09月21日 | オーディオのお話


古川N氏の邸宅を訪問することが出来た。
迎えの車を出しますと言われたが、小説の世界では
スペクターやブロフェルドの接近もあるのが世の中である。
独自のプログラムで一関を出発すると、途中、
最近防衛省とネーミングされた特殊車両二台が、当方の車にぴったり着いた。
バック・ミラーでながめると、バズーカ砲のようなものにシートを被せ、
迷彩服の隊員はなにやらニコニコ嬉しそうだ。
信号が青になったときアクセルをいっぱいに吹かし回避させてもらった。
むかし入隊したチバくん、もし偉くなっていたら、緊急返電してちょうだい。
さて、N氏が四年前に御自分でデザインされた邸宅は、
いま闇夜に浮かんでいる。
オーディオ以外のご要望は初めてですと喜ばれて、
建物の内部も気さくに案内してくださった。
ご夫人が挨拶にみえたので、当方は、
宜しくお願いしますとこうべを垂れた。
すると、何かお願いしてしまったのであろうか、しばらくして
二階の和室に招かれ筋違いにカットされた座卓に、大好物のものが。
陶器が床の間に幾つも並んでいるのは、ご夫人の趣味である。
オーディオについての感想をうかがうと、
「前の家では、あまりの音量で天井からいろいろなものが落ちてきました」
ニコニコとお話になるのが当方には救いである。
隣りに、オーディオ・アンプのための各種測定器やパソコンの
置かれた個室があり、N氏の並ならぬ力量をうかがわせている。
N氏は昔の会社で一時的に眼をいため、サングラスをかけて
勤務していたそうであるから、さぞ職場でも異彩を放っていたに違いない。
神妙で奥の深い人物N氏は、サングラスが似合って、
当方には優しく接してくださるのがありがたい。
オーディオは、そもそも人である。
2009.6/9

SA氏の新装置 1

2021年09月21日 | オーディオのお話


昔、SA氏に話した。
誰も造ったことの無いような凄いアンプを、
いつか、造ってみませんか。
それがどんなアンプか当方は知らない。
SA氏のアイデアを傾けた、それの実現が楽しみである。
ところで、故障したアンプの修理に先日迫区にあるSA城を訪問し、
新しく置かれた装置を初めて聴いた。
全容を眺めた最初、思わず両の耳に綿を詰める用心も、
念のため考えたが、センスと情熱の結晶は聴くものに深く感銘を与える。
用心は全くの杞憂で、ブルー・ノートのサウンドは易々とあっけなく、
あるときは優しささえ漂わせて眼前に展開され、おもわず、
鳴らしているのはどのアンプですか、と尋ねた。
幾つも並んでいるアンプのどの音なのか、知りたいものである。
SA氏は、小型のアンプでも、これほどの威力を聴かせる
高能率のスピーカーであると、知らせたかったのか、
出来上がった写真を見て、その時の音を思い出した。

当方の故障アンプは、まもなく整備されて届けられたが、
SA氏が、牛のようにのんびりした言葉で申される。
「ウー、出来上がりましたが、うまくいったと思います」
電話のむこうで話した様子から、当方はなんとなく良い結果を思った。
間もなく登場したSA氏と出来ばえをタンノイで聴いて、
永い間、故障のまま待機していた845アンプが、以前とさま変わりしたことを知った。
SA氏が去った後、しばらく眼前の音について考えたのだが、
念のため管球のサイズをモノサシで計ってみると、
845管の前段に挿っていたのはやっぱり4本の300Bそのものであった。
すると直熱管のほうが良いのではないかナ、と漠然とつぶやいていたことは、
このことであったのか。
これまで、845管が良いとか、いや300Bが、と悩ませていた、
捨てがたい微妙な音の個性は、
紫の上と夕顔を二人並べた相乗効果が聴こえているのか、
源氏物語の世界をしばらく楽しもう。
どのような再生音が良いと追求して、何年か経った後に
『あれは良かった』と忘れられない音が、やはり宜い。
さらに未知の音像世界を考えるとき、
高度に完成された眼前に展開する凄まじい演奏音像はそれとして、
林立する演奏音像の隙間に、ふとあたかも向こうの景色が
見えるようなことがあるとしたら、
そして、演奏者の背後にまわって動きが見えるような錯覚が聴こえたら、
それも慶賀なことである。
オーディオの七大難問は、まだ人知れず探されている。
言葉だけでは漠然としているが、今回の改造で、
名人の技倆の未来にそういうことも考える。
2009.6/7

迫SA氏の修理ピットに遠征

2021年09月20日 | オーディオのお話


天気のよい休日に『ディア・ジョン・C』を鳴らして、
修理の845アンプを積んだ車は4号線を南に向かった。
アルテック宮殿、迫SA氏の修理ピットを目指したこの日、
迫区に入るルートは四本あって、ドン・ペリニョンをJ・ボンドが嗜んでいる
『007 Goldfinger』の、ゴルフ勝負のあと、熔かした金塊で
組み立てた車を運転してヨーロッパの工場に密輸する
コースと同じ雰囲気そっくりの道がある。
左側に森、右側に田園風景のひろがるコースは、
スメルシュが金塊を熔かす工場を隠し持つアスファルトのどかな道に、
それらしい建物もおあつらえに見え満足であるが、
前方に怪しい車が停車しているな。
追い抜くと、背後から全速で追いかけてくるのがミラーに映る。
そういえば、前回の仙台遠征の四号線も天気は良かったが、
前方の大型四駆がスピードを加速したり戻したり軽快な足を見せ、
運転席に、濃紺のツールドフランスの格好をしたドライバーが座っている。
「あれぇ? AK氏に似ているなあ 」
つぶやくと、聞こえたかのように運転者はソワソワはじめ、バックミラーを見たり、
アポロキャップに手をやったり動作が活発になった。
このように、森羅万象を想像しながら安全運転すれば、
居眠り防止になるが、前日の深夜の走行では、前方にやっと車も無くヨシ!
このへんでエンジンに活を入れてやるかとアクセルを踏んだとたん、
前方の暗闇に電光表示板が点灯しているのが見る間に大きくなって
『スピードに注意』 とあった。 へんなの
さて、ところで訪ねた迫SA氏は、唐の都から3年で帰郷すると、
すかさずオーディオ・ルームを増築され、アルテック605など
傑作装置に新境地を見せていることが噂になっていた。
期待と興奮に思わず武者震いし、新しいタイヤで快調なプレイリーは、
とうとう迫川の橋を越えて記憶の建物の横に停車した。
SA氏のご母堂が盆栽の手を休めて、
「先程から待っていますよ」
と言葉をかけてくださった。
聴かされた605バックロードなど音像の佇まいはすばらしい。
アルテックにしてはしっとりした奥行きを感じさせ、
運転のハンドルを握っていた手が解れるころ、SA氏は、言う。
「これでいいかな、としばらく聴いていたのですが、何日もすると、
音の壁がドーッと迫ってくる例の大型装置がなつかしくなりまして」
次の部屋に珈琲を用意してあると言われるが、
どうやら奥の部屋の方が謁見の間であった。
そこにA-7を横位置に四台並べた4組のウーハーがあり、
ダブルスロートのセクトラルホーンとスーパーツイータが乗っている、
日本海軍の空母信濃といった豪壮さを漂わせている。
カウント・ベイシー・ビッグ・バンドも、左右に分離する奥行きが、
見事な音像であった。
駆動しているアンプを探すと、大工さんの弁当缶サイズに
2ワット出力の管を挿したようなものを示し、
「これです」
思うにSA氏としては、研ぎ澄ませた名刀の切れ味の全て見せるではなく、
ハラハラと空中を落下する懐紙をちょっと横に払って見ましたがどうでしょう。
そのあと、思いがけない話を聞いた。
一方のアルテックの牙城、N氏の装置をSA氏は先日のこと早くも訪ね、
奥の院に鎮座している噂の轟音を全身で浴びてこられたそうである。
N氏にしても厳美の仙境で翼を広げている怪鳥『ウエスタン16A』を、
聴取に行かれたことを申されていたので、
さーて、
一国一城の割拠している群雄の遠征が、
人生をかけた装置の鳴りに、
はたして 。
2009.6/2


WE-16Aホーンの風聞

2021年09月17日 | オーディオのお話


当方が県境にある金成宿の運転教習スクールを選んだのは、
たまたま家の前に募集の車が停まったからであるが、
好人物であった証に、実技試験のやり直しでカチンときたとき、
ヘッヘッとやってきては無料券をくれた。
どこで見ているのか。
「これまで本当に? 車免許を持たなかったのですか 」
彼は訝しげに当方を見たが、全員が車の所有を目指したら
江戸の町は手狭でまずい。
そのために交通機関は発達し、車は乗せてもらうものになっている。
金成の路上教習は、森の新緑のつらなる田舎道が
ババリア街道のように風光明媚で、
フィトンチットの満ちた練習指定コースをしばらく堪能した。
ブレーキをかけるときクラッチも一緒に踏む当方に、
隣りに居て注視しているタダ券の教官は気が付いて、
「あれェ? ハハーン....」
公道から農道に車を入れ一直線に伸びる無人の道で彼は言った。
「さあ、アクセルを踏んでスピードを上げてみてください 」
ビューンと車は飛んで行く。
「クラッチを踏んで! 」
車は、一瞬ふわっとスピードがあがった。
「ほーら、どうです。 クラッチを切るとかえってスピードが出るんですよ 」
それは、動力理論的に納得がいかなかったが、事実だからしかたがない。
午後になって家に戻るとマンガの轟先生そっくりの人を訪ね、
車の教習に宮城に行ったことを話した。
轟先生は、うどんをどんぶりからちゅるっと1本吸いこむと、
鼻の上までそれは跳ね上がったのを見た。
子供の時、高熱を出すとオートバイで往診に来て注射をうってくださった恐怖の人であるが、
こちらの話しにふんふんと笑っている。
金成というからには、むかし金が採掘されてその名が残ったのでしょうか?
問うと、轟先生は言った。
「金なら磐井川でも採れて、磐井橋の下の高校のあるカーブのところにも
砂金は溜まっているから、昔は、採る人がいたね 」
そういえば磐井川に沿って、金ばかりではなくさまざまのオーディオ装置が
うなりを上げているが、先日登場した客人が、おもしろいことを言った。
「れいの雑誌で、ウエスターンの16Aホーンが売りに出ましたが、
70万両とあるので、誰かと見ると、厳美のあの御仁です 」
磐井川上流に鎮座している怪鳥のようなWE-16Aホーンは、
つとに高名でいるが、思えばみょうに安い値段で、
壊れてしまった処分かと心配した。
「そうでしょう。花泉のK氏に電話を入れ確かめると、
700万の誤植と聞きました、とのことでした 」
それには一瞬、タンノイのサウンドも変調したように轟いたが、
どうやら売りに出すというよりは、存在を誇示したのか、
と感想は一致したのである。
2009.5/22

アルテック・マルチシステム

2021年07月23日 | オーディオのお話


秋の空に、飛行雲が航跡を引いている下を、
金田アンプの御仁は現れた。
蝶ネクタイの似合いそうな紳士は、永年
アルテック3チャンネル・マルチシステムを研究し、
スーパー・ウーハーまで備え、理想のバッハの探求に余念のない人である。
席について、タンノイの音を褒めると、
「この三曲目を、ちょっとお願いします 」
取り出されたCDは、難解な選曲だ。
しばらく傾聴されていたが、ROYCEの建築構造に質問があって、
こんな言葉を話している。
「先日の地震で自宅の壁にひびが走りまして、このさい予定外に
余らせたコンクリートを、オーディオ・ルームの床に流しこんでもらいました」
大蔵省にポーカー・フェィスのまま、ぬかりなく、事は運ばれたらしい。
また、真空管の型番があれこれ話に出るので、
アンプは最近真空管ですか? とお尋ねした。
「ええ、まあ...」
パワーアンプ六台も真空管で? .....
踵を接した六台のアンプの灯火がもれる室内に、スピーカー群が並び、
いまにも音の出る瞬間の緊迫した空気をタンノイの向こうに想像した。
おそれ多くも真空管マルチ・チャンネルである。
「毎日、音が空中を飛び交っている最中ですが、それがはたして....
指標になるバランスを参考に、こちらに車を走らせて来ました 」
マルチ・システムを追求する人々は、寡黙にしていながら
底引き網の成果を目指している。
何をか覚悟してスタートラインについた長距離ランナーのごとく、
いつか到達する理想の音が心に鳴っているのか。
2008.10/5
リーフェンシュタールのオリンピアに対抗して、北斎、写楽、若沖にメガホン。

トーレンス226

2021年07月17日 | オーディオのお話


カートリッジに『SPU-A』を使うことは、タンノイと管球アンプにとって、
音楽の旅の羅針盤が方向を決めたことになる。
SPU-Aに丁度よいアームというのが難しいが、
デザインとバランスで、いまのところ『RF-297』である。
だいぶまえオルトフォン・ジャパンに電話して、RF-297を購入したい
というと「そのようなアームは知らない」との返事であった。
EMTの放送局用プレーヤーに、デンマーク・オルトフォン社が製造したアームが、
いまでは幻の名器といわれ簡単には手に入らなくなった。
このアームは全長40センチあって大型のプレーヤーでなければセットできない。
わざわざ場所を取る大型プレーヤーにしてまで使いたくなるのは、
SPU-Aのローコンプライアンスに理由があることは誰でも知っている。
重いアームによって、ふてぶてしい低音が出るので、一度使うと手放せなくなる。
アームのオフセット角と距離に問題があるけれど、黙って使うのがツウである。
震度6の地震の深夜、針がバウンドしてタンノイが呻いている。
やむをえず、アームをピボットにもどして再生を止めた。
長い地震振動のあいだ、我々にすることはいっぱいあるが、
優先順位で最初にプレーヤーである。
次にアンプの電源を落とす。
そしてロイヤル様に走りよって、上の貴重品が落ちないように支える。
この時間が長く、本当はあぶない。
横ゆれが酷いなら、逃げるのであるが、
タンノイを放置して逃げるという判断がむずかしい。
揺れがおさまって、ひび割れのない茶室の壁に安堵する。
日本に住むということは、そういう気分だ。
地震がおさまって、世の中、早くも皆眠りについていたようだ。
2008.7/25


直立猿人

2021年05月15日 | オーディオのお話


タンノイヨークを『ラックスSQ-38FD』で鳴らしたことがあって、
クラシック音楽ならそこでやめておけばよかったと後々思う円熟の世界が聴こえた。
マランツ#7のパネルにそっくりの飽きの来ないデザインとあいまって、
プリとメインのワンパッケージされた芸術品である。
ところが目黒に、ヨークをマッキントッシュで鳴らすジャズ喫茶があり、
なるほどねえという圧倒的にグラマラスな音がするのを聴いた。
一旦踏み出せば、パイオニアのM-4(A級トランジスタ)や
マッキンC-26(トランジスタ)などを御迎えして、
良いけれどなにかが足りないと思わせたのは38FDの音の記憶である。
ウエスギアンプとオースチンTVAによって、やっと38FDを越える音楽がきこえ、
そんなことは翌日に気がついてもよかったのに、何年もかかったのがわからない。
聴くところの音楽がいろいろでLPの音質もさまざまで、
一瀉千里の見通しがきかなかったのである。
ある深夜、アパートの廊下を引きずる不気味な音に驚いて首を突き出すと、
それはチバ君だった。
「ちょっとこれから、星を見るから」
なにやら大きな箱の一方を両手で曳いて言うのでついていった。
階段をゴトンゴトンと落とし、碑文谷の月夜の路上に天体望遠鏡を組み上げると、
土星の輪というものを見た。
そのときはじめて、チバ君の何かが見えた気がした。
「一緒に食べよう」
アンパンを買って来たりするおもしろい人だった。
ドーナツ盤の『直立猿人』を聴いたのはその頃で、
ミンガスを、何か言ってみたかったが言葉が出なかった。
2007.11/19


ALC・ラボラトリー

2020年12月20日 | オーディオのお話


いよいよ主人という人物が電話口のむこうに現れて、
当方の趣を察すると、ウインチェスターに弾を込めるようなひと呼吸をおき、
真空管やコンデンサーにまつわる蘊蓄がしだいに熱を帯び、
話は、たしかな技術を誇示している。
タンノイのための『デバイディング・ネットワーク』の広告を見て。
もし、これを繋いでタンノイが豹変し、凄い音で鳴ったら....
と、思うものである。
こちらが、どうやら感心していると察するや、
こんどは音と音楽にまつわるボギャブラリーが機関銃のように
受話器から聞こえてくる。
ティボーのバイオリンは、弦のつややかさと胴鳴りの、
コルトーのピアノがうんぬん..
この話芸はどこで終わるのか。
相手は受話器の下側に語りかけ続けながら、じつは、
ちゃんと上の穴からこちらを覗いているかのように、
マイルスがどうのと切れ目無く立板に水、礼賛の言葉は続く。
「いちど、聴いてご覧なさい」
ということで、そのデバイダーは送られて来た。
が、たぶん音楽はデバイダーが鳴らすのではないだろう。
ゆえにタンノイが好みの音であれば、悪かろうはずがない。
もっと関心があったのは、その試聴室で鳴っている音楽だが、
ぜひいつかと思いながら、まだ果たせない。
2007.1/15