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ロイス・タンノイ

タンノイによるホイジンガ的ジャズの考察でございます。

野鳥

2022年05月10日 | 花鳥風月雪女


昔、お世話になっていた寮で彼はブランデーを手に、
ガモフやアシモフやマルコムXを社会に出てまもない当方に話してくれた。
人はみな、こころに宇宙を持っている。
ガモフ氏とは天文物理学者で、我々が暮している宇宙に年齢が有り、
原子背景放射の色温度を測れば過去と未来の寿命がわかる、
と言ったような気がするが、またアシモフ氏とは
科学者兼小説家でロボット工学の先駆者。
マルコムX氏は黒人公民権運動家で、
「ニーチェ、カント、ショーペンハウアー全て読んだがどうも彼らは、
さして重要でない議論に無駄をしている 」 と言った。
では、一足飛びにフェーズが移動し、当方の母屋の、
庭や二階から観察する野鳥世界は、黒沢橋と新国道橋の
一角に納まって季節のうつろいを見せている。
ここで観察した移動物体を、13枚の組写真にしてみた。
子供の時、太陽を我慢して一分間肉眼で見ると、光球が七色に変色していた。
飛行機雲はマイルド煙草の広告が、やはり優れている。
白鳥は列になってシベリアから飛んで来るらしいが、
最近疫病が言われ息を止めて上空を見る。
モズは肉食で獲物を木の刺に射し貯蔵する、メスのみが抱卵する。
ピーヒョロヒョロと鳴くトビは、高空を円を描いているが、
人間のアブラゲを攫うこともあるという。
ハヤブサは小鳥を狙う肉食で、空の一点に止まって、
急降下の時速は380キロを出す。
ヤマドリは柿本人麻呂の歌に、 「あしびきの山鳥の尾のしだり尾の
ながながし夜をひとりかも寝む」 とある。
オナガはカラスの仲間で集団行動し、鳴き声も多彩。
ヘリコプタは滑走路がいらない。
ドイツ人が飛行体を実現し、アメリカに亡命したロシア人
シコルスキー博士が実用化した。
ツバメはカラスを避けて民家に巣を造る?
ヒヨドリは人に馴れツバキの蜜や青虫などを食べる。
まれに集団になると農作物を荒らす。
カラスは、手強い。
ヒバリは、大伴家持が万葉集に 『うらうらに照れる春日に雲雀上がり
心悲しも独りし思へば 』 と詠んだ。
オニヤンマは、あのスズメバチを捕まえて食事する。
ウグイスはオスが啼いて縄張りを守り、メスがヒナを育てる。
カモは集団で水辺に生活しているわけがある。
セキレイは尾羽根を上下にゆらし、クモや昆虫を食する。
ホトトギスは目の周りに黄色の輪をもち、トッキョキヨカキョクと啼く。
平安時代、夜に厠に行くと闇に鳴き声がして怪しまれた。
スズメは、子供の時、庭に米を撒いて籠をかぶせ捕まえたが、
捕まえたあとが面倒だ。
ツグミは口をつぐんでいるが、野生姿に見栄えが有る。
シジュウカラは黒い帽子を被って庭に立ち入ってくる。
カケスは雑食で周囲の擬音を真似て啼くこともある器用な鳥。
雁は月の夜に鉤形の隊列で飛び、伊豆沼でも見るが禁猟。
キジは付近の河川敷に住み、繁殖期にかん高い鳴き声がよく聴こえる。
ヤマバトはデデッポッポと啼いて、羽根模様が美しい。
アオバズクは夜行性の敏捷な猛禽。
遠くの森でホーホーと鳴き声がする。
これらの観察に双眼鏡はニコンの12X36を使い、
手持ちで視界がグラグラする限界。
ほかに野生の熊も、早朝に山から磐井川を降りてきた噂があったが、
それを見たときは危ない。
タンノイは良い音であるが、このようなものが周囲に生息している。
蝶鳥の 浮つき立つや 花の雲
2013.6.6

花の風

2022年03月28日 | 花鳥風月雪女


夏近し その口たばへ 花の風

一番町より、夏をつげるはがきが届いた。

庭で植栽の茂りを眺めているとき、
やはりことしもアゲハ蝶が、
テーブルの上をひらひらと横切った。
ウエス・モンゴメリーの「エアジン」は
携帯ラジオから流れている。
2012.8.2
ロシアのスメルシュのヨットに乗ってみたい。

新年鳥瞰

2022年03月06日 | 花鳥風月雪女


新年の山道を縫って343街道を走ると、
最大の難所にさしかかった谷底から、
車のライトを遮った影が
崖の上の林に消えた。
一面銀世界の白闇に、
うちわのような羽根を広げた鳥は、フクロウである。
しばらく車を止めて様子を見ていると、
5分ほどして、もういちど身を翻して飛んでみせた。
343のミネルバのフクロウは、夜中に飛ぶ。
竹駒橋を右に折れると高田、大船渡まで20キロほどであるが、
この道を反対の左方向に40キロ向かうと、
柳田国男の『遠野物語』の世界がある。
2012.1.1

クリスマス・イヴの客

2021年11月26日 | 花鳥風月雪女


店が寒いので断ろうとする当方の気配を遮るように、
電話のむこうの女性は、「ぜひ!」と言っている。
クリスマス・イヴに一人で現れて、ピンク色のブーツの紐をほどくと、
名古屋近郊のふるさとのことを、海と山に近い雪の降るところで、
寒さには慣れているそうである。
タンノイ・スピーカーの並ぶ部屋の景色を喜んで、
しばらく耳を傾けたN嬢であるが、
ジャズにそうとう溺れているのかそれとも、
いっとき流行った亀甲占いであろうか?
「ジャズ・ピアノを少々やります 」
あくまで控えめにつぶやくと、自分の始まりは世良ユズルと、
ラムゼイ・ルイスに惹かれ、
喫茶『いーぐる』も
『キャンディ』も
『メグ』も知っており、鳴っているレコードの
ジャケットを裏返しワルター・ノリスの名前を見ると、
あぁ一緒にやったことがあるとつぶやいた。
Monteroseの『STRAiGHT AHEAD』をすごい良い音だと喜んでいたが、
どうにも不思議な音がするらしく、パーカーと、マイルスと、
ロリンズとコルトレーンを聴きたいと言っている。
そういうことをめんどうに思った当方は、特別にバックヤードに招いて、
好きなものを選ぶようにいうと、ハンプトン・ホースの、
ワニのジャケットをなつかしそうに笑いしばらく何事か思い出していたようだが、
彼女はふるさとに帰るとき、持っていたレコードを処分したのである。
五杯目の珈琲を注文しようとするN嬢に言った。
――うちは同じ人に二杯以上出さないので、四杯呑んだのはあなたが初めてだが、
ところで、現在のあなたに自分の行動を制約しているなにか、が有る?
彼女はいささか真剣な表情になってしばらく考えていた。
「もしそういうものがあれば、この時期、ここに一人で居るはずはない 」
とのお言葉である。
喜ぶべきかそうでないのか、世界の謎であるが。
今回の一人旅は、所用のついでがあったそうで、
一関に来ることを友達にいうと周囲は「うらやましい 」と言ったらしい。
タンノイで鳴るチャーリー・パーカーを、まったく想像もしなかった別人と言い、
ロリンズ、マイルスと聴き進むうちに、彼女なりに到達した。
「いままで知っている音とは違うが、たぶん低音の不安定さの効果がとてもおもしろい」
遊んでいたN嬢は、やがてイヴの夜の街に一歩踏み出しながら言った。
「なにか、キツネにつままれたようです 」
2009.12/24

フルトヴェングラー

2021年05月26日 | 花鳥風月雪女


同じ職場にあっても、都会で働く人の、もう一つの日常はさまざまだ。
ポマードの髪にメガネをかけ、学者風にゆっくり話す彼は、
あるときはカメラマンらしかった。
いろいろな撮影依頼が舞い込むという、分野はどのようなものか。
「いやー、怒られました」
仕事の休憩時間に、テーブルの向かいで静かに彼は言った。
なに?
「ホテルに案内して、私がカメラを準備したら、
「何するつもり! 」
と怒るんですが、いけませんでしたか、というか...」
........。
林野庁方面の仕事ばかりではなかったのか。
頼まれると断れない性格の、いま、どのような被写体を追いかけているのか、
知りたいものである。
1937年のフルトヴェングラーは、
大河のように流れる深刻な時代の緊張と熱気をはらんで、
五番は音質もまずまずのスタジオ録音だ。
2008.1/8

The Broadway Bit

2021年03月16日 | 花鳥風月雪女


『矢追純一』を久しぶりに見た。
テレビ画面に大橋巨泉と登場したとき、彼は若かったが、
いまは貫禄をもって、
「これは間違いなくUFOですね」
と、権威であられる。
或る番組で、
「矢追さんご自身は、UFOを見たことが有るのですか?」
女性に素朴に問われて、グッと詰まったところがとても良かった。
当方がUFOを見たのは、彼の特番をテレビで見てからだが、
「夢の中」のことである。
なぜか8才くらいの自分が、裏木戸を通って道端に出ると、
二軒となりの池の側にそびえる大木の上空に起こっている
奇妙な異変に気がついた。
夕刻の暗くなり始めた空に、星よりも大きく黒い光る物体があり、
やがて何百という輝くUFOが空を覆って、赤い空を等間隔に、
ゆっくり飛行してゆくのが恐ろしかった。
この世の終わりの始まりと思った。
もし身近に『未確認飛行物体』を見れば、人生観は変わってしまう
といわれているが、良いタンノイの音を聴いたときも、それはある。
徒然なるままに未確認音響物体にしびれる或る日、
水戸のT氏がおみえになって、川向うにて、
『The Broadway Bit』のオリジナル盤を聴いたそうである。
十万両はくだらないといわれている盤である。
「一曲目の『Its All Right with Me』があまりに良かったので、
一万両を奮発して手に入れました」
高価な円盤を撃墜されたお話のてんまつをうかがった。
2007.7/1


春は、あけぼの

2021年03月07日 | 花鳥風月雪女


春は、あけぼの。
ようやく白くなりゆく山ぎわ、少し明りて、
紫立ちたる雲の、細くたなびきたる。
山は、小暗山、鹿背山、御笠山。
木の暗山、入立の山。
忘れずの山、末の松山、方去り山こそ、
「いかならむ」と、をかしけれ。
五幡山、帰山、後頼の山。
朝倉山、「よそに見る」ぞ、をかしき。
大比礼山も、をかし。
臨時の祭の舞人などの、思ひ出でらるるなるべし。
三輪の山、をかし。
手向山、待兼山、玉坂山。
耳成山。    ―― 枕草子一段、十段

一関において、名前の通った山といえば、関山中尊寺。
西行が桜の歌を詠んだ束稲山。
芭蕉の句碑のある蘭梅山。
日本昔話に唯一名の載る観音山。
夜桜に顔を染める釣山。
勇壮な山は室根山。
遠景に見える一番高い山は須川山。
その須川山頂から見える一番高い山は鳥海山である。
2007.4/1
須川湖 Kouji.S 撮影


倭人在帯方東南大海之中

2020年09月26日 | 花鳥風月雪女


横のモノを縦にする。
耳も眼も、横に二つ並んでいる人体において、
縦に二つ並んでいるモノは?
スピーカーも活字文も、横の物を縦にしてみると、
なぜか事情が違ってくる。
ロイス冊子は縦書き印刷で、それを読むと、
憧れの『三国志魏志倭人伝』に、だいぶ近くなっている?
廊下の文机に倭人伝と並べて、珈琲を喫しつつ庭を観るとする。
2006.7/15

ホリー・コール

2020年09月23日 | 花鳥風月雪女


クラシック音楽が守備の客人と、思っていたところ、
ホリー・コールを1枚持ってみえて、
ひさしぶりにモノトーンの独特の歌唱を聴いた。
携帯がプルプルと鳴って、電話の先の相手をねぎらっている。
「車の帰路を気をつけて」
と申されている。
背景でホリーは静かに唄っている。
そのとき、町内の世話役が『灯籠流し』の参加券を持ってきてくださって、
ややや、ホリーの歌声はそこにもマッチしている。
短い夏、涼しげにホリーは唄う。
2006.8/9
Holly Cole、1963年11月、カナダ生まれのジャズ・シンガー。
16歳の時に兄を頼ってボストンに行き、初めて生のジャズと出会う。


2020年09月09日 | 花鳥風月雪女


「いま見えただろ、羽根の下の青いやつ。あれが松風毛だよ」
ふーん、と空を横切る鳩の胴体を見上げてなんとなく解ったような気がした。
子供の時、先輩の鳩の飼い主に「まつかぜけ」とは何か?と尋ねたのである。
六.七羽の鳩がグルグル、高く低く旋回していた。
後年になって、『松風系』と言って、日本有数の鳩の品種の呼称であるとわかった。
「アントワープ系」などと同じである。
東欧に「鳩主はアゴの下が陽に焼ける」という揶揄したフレーズがあるが、
このあいだ毛越寺の傍の道を通ったとき傷ついた鳩を見かけて、
大人しく捕まってくれたので家に持ち帰りダンボールの箱で飼った。
妙な足輪が二つ付いていたので、レース中に鷹に襲われたのかもしれない。
回復を見て足輪にメモを付け堤防に持っていって放すと、
一度物凄い速さで旋回してから、あっというまに消えた。
そのときしばらく空を見上げ、二か月も飼った一瞬の結末に呆然と、
アゴの下を久しぶりに陽に焼いた。
鳩は、電話のない頃、貴重な通信手段で、中世の城郭には鳩小屋がある。
寝るところと、食事の場所を分けて、あるいはつがいの一方を残し帰巣本能を利用した。
地面に降りて啄む鳩はアウトで、寄り道せず一気に巣まで飛翔してこそ鳩である。
十五羽飼った鳩が、地面に降りたりすると、子供心にガックリきた。
いまではどうでもよいが、一直線に消えた鳩は流石だ。
☆近所の電線から山鳩の声。鳩もセミもオスだけが鳴くらしい。
☆アンプをたずねると「えーっと、レシーバーです」と答えた客は宮城のジャズ喫茶。

GYブルース 3

2020年09月01日 | 花鳥風月雪女


昼下がり、やってきたクマさんにY嬢のことを話したら、
「ジャッキーマクリーン」はそっちのけで、イスに斜めに座ってこちらを向くと、
ぜひ自分も温泉に、約束ですよ一緒に。
大喜びに帰っていったが、そのとき、決して最後までいっては粋になりません、
と最後まで逝くことに何事かこだわって気を回すのが妙である。
クマさんやG君と一緒に宴会するのもおよそ誰も思いつかない組み合わせで、
これはそうとうな快挙かもしれない。
宝くじでも当たったら、ぜひ実現させたい。
ところでどうなっているのか、今日夕刻、話題のY嬢が牧場主と登場した。
ホルスタインK氏は芸能プロダクションも兼業されているフランクな人で、
「マヘリア・ジャクソン」のような女性が好みという。
Y嬢は知り合いの詩人の作品をわざわざ持ってきてくれたので本を開くと、
現実をぶっきらぼうに切り取る岩のような言葉が、
「山頭火」のようなイメージで激しく、あるいは溜息のように書かれてあった。
Y嬢はジャズシーンで探せば「ビリー・ホリディ」のジャケットが近い、
といっては正確ではない。
尋ねてもいないのに「わたし、Fカップ」だと言い、
はは、有馬記念の優勝カップ?
「その優勝カップ、見たいね」
と言うとK氏は自分の立場をわきまえてます、とでもいうように、
脇からちょんとY嬢の腕に触り、
「じつは、マネージャーは絶対商品に手を出しません」
とたずねてもいないことをニッコリ言った。
最近、混みいった事情があるらしく、
緊張してジャジーに弾けないのがまた違った一面であるが、
言葉のマジックが独り歩きしているのかもしれない。
このマネージャー、Y譲と会ったのはきょうが初めてだと。
チームを組んで来たな。
2006.2/11


GYブルース 2

2020年08月27日 | 花鳥風月雪女


マクリーンのサクスがそらぞらしく鳴る午後のひとときも、
またジャズだ。
Y嬢の土産のバームクーヘンを摘みながら、
世の成り行きに困惑は隠せない。
それは数日前のことだが、なんと、彼女も負けずに
仲間の女性を連れて白昼堂々とROYCEにやってきたのである。
「こんにちは」
そう言って創る笑顔は、あらゆる前提を溶解させる魔力を秘めて手強い。
人をそう疑うものではないと、いにしえの教えにあるけれど。
女将の様子から、どうやら当方の電撃訪問を、
警戒したであろう事は想像に堅くない。
「Yちゃん、知らなかったの?」
連れの女性も気を利かせて、当方のかわりに尋ねると、
「ウン、東京に行っていて家に帰ってなかったから...」
Y嬢は、知らなかったことにしたい、らしかった。
自分の魅力につられて当方が追いかけてきたか、
それとも何かを調べに来たのか、文句を言いに来たのか
考えた事だろうけれど、混み入った事情は、わかるまい。
連れのG君に関心を示し、こんどG君も一緒に温泉に...と、
フランクな提案があったのにはすこし泣けて笑った。
そのうえ、同伴の女性の魅力をそれとなくうったえて、
はたして当方の趣味?が、誰でも良いのか、自分の魅力が本物か、
さりげなく束ねた髪の縁をマッキントッシュの
金文字のごとく縁取って、答えを待っている。
今年の川柳の入賞作は、
「疑えばきりがない世に住んでいる」
である。
するとその時、同伴の女性の携帯電話が鳴って、
「Yちゃんごめんね。Yちゃん御免ね」
と繰り返しつつ御二人はお帰りになったのでありました。
話の正確を期すLPジャケットで報告しようと探すのだが、
本人や周囲のあらぬ怒りをかって、閉店か。
2006.2/8


櫻花の客

2020年08月24日 | 花鳥風月雪女


「コーヒーを飲めますか?」
婦人はRoyceに入ってきた。
―― ジャズを聴く店ですよ。
念を押すと、子供がジャズが好きで経験がある、
大丈夫だからと窓際の椅子に座った。
子供といっても成人で、仕事の転勤で一緒に一関にやってきたご婦人だが、
生まれた家の庭に、親が大切にしていた大きな桜の樹があった。
引越しの整理で庭の手入れのついでに何本かの樹も間引きしてもらった。
台所にいた婦人は胸騒ぎを感じた。
庭に出てみると、残しておくはずの大切な桜の木も切り倒されていた。
張り切って働いていた職人達は、なぜ婦人が
桜の樹に手を当てて涙を流しているのか戸惑っていた。
花のついた一枝をまだ花瓶に生けているというので、
挿し木にしたら生きるのではないかと申し上げたら嬉しそうだった。
一関に越してきた婦人は、磐井川の堤防を散歩していて稲の苗を拾った。
家に帰って花瓶に活けたら成長して稲穂が膨らんだ。
ある静かな晩に突然パチン!と金属のような鋭い音がして、
穂のはじける音でしたと「森田たま」のエッセイのようである。
「和太鼓の音は嫌いではありませんが、敲いている姿を見るのは
苦しそうで好きではありません」
静と動の美を締めくくって、お帰りになった。
2006.10/3


室根山と白山廃寺跡

2019年09月22日 | 花鳥風月雪女


時は今だな、と一関から東に室根山を見に車を走らせたのであるが、
てっぺんに雲がかかっていた。
山容の凄さは真近に寄って良くわかり、せっかくなので、一句、昔話を作る。
「仙人がきょうもぶらぶら空をうかんでいると、
この辺りでいちばん高い須川山と、次に高い室根山が現れた。
そこをゴム紐で結び、中ほどの一関大橋で掴んで、十分力を蓄えると、
一気にびゅーっと岩手山に向かって飛んでいった。
すると、北上川が二つに割れたあたりの白山神社の麓まで来た時、
鹿どもが走り廻って遊んでいるのが目に留まった。
紐も弾力がおちてきたので、きょうはこのあたりで昼飯にしよう。
地上に降りて、これこれ尋ねるが、おやしろの土台石に使う大きな石を見せてくれ。
鹿たちが、珍しい黒い大きな石が取れる崖に案内すると、
仙人は、その石を3尺ばかりの形にちぎって、ひょいひょい30も麓に並べ、
お釈迦様に聞こえるように、大きな声で呪文を唱えた。
そのうえ、鹿どもの背中に長いささらを付けて勇壮な踊りを教えた。
これでよし、と昼飯に出かけ、楊枝を咥えながら、さきほどのところに戻ってみると、
二つの塔と丈六の仏像の納まる立派な堂宇が、あっというまに並んでいて、
鹿踊りが輪になって、祭り囃を舞っていたそうじゃ。
いまも北上市の白山廃寺の跡に行くと、畑の外れに、仙人がちぎった大石がいくつも残っている。」
おしまい。
2017.10/5
一筆啓上 火の用心 子供泣かすな 馬肥やせ