Nice One!! @goo

観たい映画だけしか観てません。今忙しいんでいろいろ放置

【フランス映画祭2014】『ジェロニモ -愛と灼熱のリズム』 (2014) / フランス

2014-06-29 | 洋画(さ行)


原題: Geronimo
監督: トニー・ガトリフ
出演: セリーヌ・サレット、ラシッド・ユセフ、ダヴィッド・ミュルジア

【フランス映画祭2014】『ジェロニモ -愛と灼熱のリズム』ページはこちら。




30歳の女性ジェロニモは、南フランスの町で、問題のある少年少女の指導をしている。ある日、家族から結婚を強制されそうになったトルコ系の16歳の少女ニルは、ジプシーの恋人ラッキーの元へと逃れる。ふたりの駆け落ちは、それぞれの家族を対立させ、地区を巻き込んだ争いに発展する。ニルはダンサーの兄からの攻撃を恐れて姿を隠す。ジェロニモは、この地域の少年少女の指導に携わっている立場から、何とか事態を収拾させ不毛な争いを止めようと力を尽くすが...。(フランス映画祭公式サイトより)


冒頭からの、流れるような急展開に圧倒される。そしてその理由が少しづつ解明されていく。背景にあるのは異文化間の対立と、地域に貢献しているジェロニモという女性。
ジェロニモが住む南仏の街でも少年少女の非行は悩みの種で、彼女は根気よく指導をしている。従って街の人々にとっては彼女の存在はかなり重要でもあり、そして重宝するものでもあった。この話のように民族間の対立があった場合、どちらの若者たちの実態を知り尽くしているジェロニモは当然として頼りにされる。仲介役を買って出たわけじゃないのに、気が付くと彼らの抗争に巻き込まれてしまっている。

本作を紹介するにあたり「ロミオとジュリエット」「ウエストサイド物語」という2本の映画名が使われてはいる。確かに対立構造だったり音楽シーンが多いなど共通点もあるだろう。しかしそのまますっぽり当てはめてしまうのもどうだろうか。
単に家と家の対立ではなく背景に文化の相違がある。ニルはトルコ系ということでイスラム圏の思想に生きているので、メンツをつぶされたニルの家族は当然としてラッキー側に血の報復を迫る文化がある。加えてフランスでは若者たちが心理的にも社会的にも不安定な状況に置かれており、そこに習慣や名誉のために闘う状況になったために更に暴力的になる。こうしていろいろな要素に縛られ、身動きできなくなっていく人々が世界にどれだけいるのだろうか。彼らはプライドのために無駄に傷を負い、命を散らしていくが、トニー・ガトリフ監督はそんな彼らに対して温かい眼差しを向けている。未来が見えない時代に自己の存在もわからなくなり、状況が苦しいときに何か大義名分を探してきて闘うのが慣例のようになっている。そこに文化の違いが重なって争いが絶えない時代、渦中にある人たちに対して寛大になってほしいと監督は語っている。

本作のポイントは何と言っても音楽で、監督はこの作品を作るにあたり「暴力が賞賛されてまうことを避けたいので、暴力シーンの代わりに音楽を使った」そうだ。どうしても映画で対立と言えばバイオレンスに走りがちで、またバイオレンスで売ろうと思えばいくらでも作れるのにそれをしない。闘いの代わりにダンスバトルにする、ナイフ、電柱を叩いて音を作る。リズムを聞きながら演技をするなど劇中には「音」があふれている。暴力を生の形で見せたくなかったが暴力を無視することもできない、考えた上での作風が映像にリズムを生み、テンポよく物語が運ばれていっている。

監督曰く「ジェロニモはカタロニア地方、自主独立地域の出身という設定」だそうで、これも何者をも恐れずに正義に向かって突き進む彼女の性格を裏付けている。誰からも必要とされ、自己犠牲も厭わないジェロニモはまるで聖母マリアのような慈愛を感じさせている。暴力を使わないで2つの民族グループをどうにかしたい、暴力を嫌って毅然と対話で解決しようとする彼女の姿勢は深く印象を残す。「暴力を止めようと思えばそこで止まる」という監督の力強いメッセージがそのまま体現されたような、パワフルで意義深い作品だった。


★★★★ 4/5点






最新の画像もっと見る

post a comment