ロビンソン本を読む

本とデザイン。読んだ本、読んでいない本、素敵なデザインの本。

バタフライハンター

2019-02-13 20:03:34 | 読書
クリス・バラード『バタフライハンター』


 読み終わると、不思議に旅から帰ってきたような気分になった。


 この本は旅行記ではないが、アメリカ各地を、さまざまな人たちに会いに行く記録。

 タイトルのバタフライハンターのような、聞き慣れない職業の人たちに。

 仕事とは何か、天職とはどういうものかと疑問をぶつけながら。

 表紙を見て、ファンタジー的な要素を含む仕事なのだろうと想像したけれど、そうではなくて、厳しい現実を体験した話が並ぶ。


 仕事の選択には、さまざまな事柄を考慮しなくてはならないが、根底にあるのは、単純にその仕事が好きかどうかだろう。

 プラスとマイナスの両面があるなかで、ややプラスだから続けているという程度では、短い人生、もったいないかもしれない。

 
 表紙は、落ち着きがあってバランスがいい。

 好きなことを仕事にするというのが、かなわぬ夢ではなく、すぐ手の届くところにあるように感じさせてくれる。


 装丁はクラフト・エヴィング商會。(2015)

いま見てはいけない

2019-02-10 20:21:42 | 読書
ダフネ・デュ・モーリア『いま見てはいけない』





 創元推理文庫から出ているデュ・モーリア傑作集の1冊。

 この本と同じフォーマットのカバーを使った、『人形』という傑作集もある。

 クラシカルで上品な雰囲気だ。


 『いま見てはいけない』に収録されている5作品は、どれも具体的な年代の記述は見当たらない。

 1989年に81歳で亡くなっている作家なので、活動時期を考えると、だいぶ前の作品といえる。

 しかし、物語の展開、その描写に古めかしさはなく、人物の魅力に引き込まれてしまう。

 デュ・モーリアの小説はサスペンス、ホラー、ミステリーのようなものだと思っていた。

 そのような要素はあるけれど、深くて多彩。


 傑作集はほかに『鳥』がある。

 これはイラストを大きく扱ったカバーだ。

 将来、この本もデザインが統一されるのだろうか。


 イラストは浅野信二氏、デザインは柳川貴代氏。(2019)

グローバライズ

2019-02-06 19:33:56 | 読書
木下古栗『グローバライズ』





 長大で一見支離滅裂な台詞、漢字だらけの文章、それらを、言葉のひとつひとつを丹念に読ませてしまう迫力、技量。

 一歩先に、突然広がる巨大な落とし穴。

 胸が悪くなるような世界。

 12の短編集。

 最初の一編を読んでからは、期待と警戒心で、一行一行をどきどきしながら慎重に読み進めた。


 この凄さ、表紙からは窺い知れない。どちらかというと端正だ。

 一番目立っているのは本の真ん中、オレンジ色の「GLO」。背から表4にかけて「BARISE」。

 Gの背景に見えるのは、女性の髪なのか。

 左から右へ、心地よい風が吹いているように見える。

 爽やかな世界を想像させる。

 すべての短編を読んでしまったあとでさえも。


 デザインは鈴木成一デザイン室。装画は岡本裕希子氏。(2016)



生成不純文学

2019-02-04 19:26:45 | 読書
木下古栗『生成不純文学』





 サイン本と書かれ、ビニールに包まれた本を購入した。

 見返しに、マジックで描かれた栗のイラスト。

 大きな目と突き出した口が加わり顔になっている。

 その下にシャチハタで「古木」と「栗下」が2組押されていて、横に読むと「古栗」「木下」になる。

 ふざけたサインだなあと思いつつも、著者の素顔がほんの少し見えた気もした。


 この作家の小説には翻弄される。

 口からでまかせ、大ぼら吹きの、いい加減な野郎なのに、いっしょにいると楽しい。そんな気分とでもいうか。

 表紙は、とてもおとなしく、きれいだ。

 タイトル、著書名は明朝で、中央に小さくシロクマの写真。

 この作家のことを知らなければ、「文学」というタイトルから、きわめて「普通」の小説を想像するだろう。

 それで、なぜシロクマなのか。

 いろいろ考えた。

 地球の温暖化と関係ある?


 装丁は坂川栄治氏+鳴田小夜子氏。(2017)








人間界の諸相

2019-02-01 22:28:45 | 読書
木下古栗『人間界の諸相』





 カバーに描かれたイラストの黄色と青色、帯のピンク。

 漫画雑誌の紙を連想させる。

 集英社だったら『週刊少年ジャンプ』。

 しかし、内容は少年向けではない。18禁だ。

 あられもない格好が随所に表れる。

 ときには局部が大写しされる。もちろん文字だけの世界。

 文章は、読む者の頭の中で、言葉にできない映像を生み出す。

 イメージが膨らみ、激しさを増していく。

 なに勝手にいやらしいことを考えているんだよと、著者がほくそ笑んでいるようだ。

 ひょっとして、カバーのイラストの女性は裸なのか?

 あわてて帯を外してみる。

 なんだ服を着ているのか。


 装画は愛☆まどんな、装丁は柴田尚吾氏。(2019)