長嶋有著『ぼくは落ち着きがない』(光文社)読む。
高校の図書室が舞台の学園小説。
図書委員が仕事をサボるので、自主的に図書業務を行なう部活「図書部」の部員たちの話である。
図書室の一角(通常司書の人がいる小部屋)に部員はたむろしている。
してることといえば、下らない会話をしながら、漫画を読んだり、イラストを描いたり、ケータイやゲームをいじったりと、さえない文化系の部室そのままだ。
これで小説が成り立っているから不思議だ。
舞台は、図書室からほぼ動かない。だから、登場人物の学校生活の断片しかわからない。
たぶん教室で居場所のない連中なのだろうが、そういう背景はほとんど語られない。
主人公は、女子学生で、「視点人物」も兼ねているのだが、視点と場所が限定されているぶん、よけいに図書室の「外」が想像される仕組みになっている。
ゆるい話のようで、小説の構造は戦略的だ。
ぼくは、中高生の頃、図書委員を何度かやっていたし、図書室も利用していた方だと思う。
どこか懐かしい気持ちにもなる。
「書棚に立ち入る前に、数字を確認する。手に持った本の背表紙のシールを確認して、書棚を通る順番に並べ替える。
(あ、筒井康隆)これを読んだら、次は当然『七瀬ふたたび』だな。小説の「つ」の棚までいくと、やはり返却された『家族八景』の隣の一冊が抜けている。三部作で、まだ七瀬の活躍を読むことができると知るときの、誰かの高揚を想像する。」
こういう、誰かの静かな高揚を想像する歓びは、図書委員をやったことがある人や書店で働いたことのある人なら、感じたことがあるだろう。
長嶋有は文章が巧い。
硬軟織り交ぜるバランス感覚がいい。
文学的な「神は細部に宿る」式のリアリズムと、ネット文体のオタクっぽいガジェット感が同居している。
「望美はしばしば、本を読む途中で顔をあげてみる。読書はときどき素潜りのようだ。本を読むとき、いつも首を下に向けているから、その上下運動が潜る、浮上するという行為を連想させるのだろう。
だけどもっと大げさな、それこそ水面下と空気のある地上というくらいに隔たったところから戻ってきたような錯覚がある。安心と残念と、純粋な驚きを感じる。」
しれっとこういう文章を書いてしまうところが、長嶋有の巧さだ。
活字を読む楽しみを、十分に味わえる作家だと思う。
版元が光文社ということで、週刊誌「FLASH」の写写丸と、カッパブックスのカッパのマークを小道具で使っているところも心憎い。とくに写写丸はかなりフィーチャーされている。
図書室に馴染みがあった人も、そうでない人にも、オススメしたい小説だ。
高校の図書室が舞台の学園小説。
図書委員が仕事をサボるので、自主的に図書業務を行なう部活「図書部」の部員たちの話である。
図書室の一角(通常司書の人がいる小部屋)に部員はたむろしている。
してることといえば、下らない会話をしながら、漫画を読んだり、イラストを描いたり、ケータイやゲームをいじったりと、さえない文化系の部室そのままだ。
これで小説が成り立っているから不思議だ。
舞台は、図書室からほぼ動かない。だから、登場人物の学校生活の断片しかわからない。
たぶん教室で居場所のない連中なのだろうが、そういう背景はほとんど語られない。
主人公は、女子学生で、「視点人物」も兼ねているのだが、視点と場所が限定されているぶん、よけいに図書室の「外」が想像される仕組みになっている。
ゆるい話のようで、小説の構造は戦略的だ。
ぼくは、中高生の頃、図書委員を何度かやっていたし、図書室も利用していた方だと思う。
どこか懐かしい気持ちにもなる。
「書棚に立ち入る前に、数字を確認する。手に持った本の背表紙のシールを確認して、書棚を通る順番に並べ替える。
(あ、筒井康隆)これを読んだら、次は当然『七瀬ふたたび』だな。小説の「つ」の棚までいくと、やはり返却された『家族八景』の隣の一冊が抜けている。三部作で、まだ七瀬の活躍を読むことができると知るときの、誰かの高揚を想像する。」
こういう、誰かの静かな高揚を想像する歓びは、図書委員をやったことがある人や書店で働いたことのある人なら、感じたことがあるだろう。
長嶋有は文章が巧い。
硬軟織り交ぜるバランス感覚がいい。
文学的な「神は細部に宿る」式のリアリズムと、ネット文体のオタクっぽいガジェット感が同居している。
「望美はしばしば、本を読む途中で顔をあげてみる。読書はときどき素潜りのようだ。本を読むとき、いつも首を下に向けているから、その上下運動が潜る、浮上するという行為を連想させるのだろう。
だけどもっと大げさな、それこそ水面下と空気のある地上というくらいに隔たったところから戻ってきたような錯覚がある。安心と残念と、純粋な驚きを感じる。」
しれっとこういう文章を書いてしまうところが、長嶋有の巧さだ。
活字を読む楽しみを、十分に味わえる作家だと思う。
版元が光文社ということで、週刊誌「FLASH」の写写丸と、カッパブックスのカッパのマークを小道具で使っているところも心憎い。とくに写写丸はかなりフィーチャーされている。
図書室に馴染みがあった人も、そうでない人にも、オススメしたい小説だ。