烏鷺鳩(うろく)

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恐竜のほっぺ

2018-06-03 | 切手


恐竜の体のうち化石に残るものというのは、骨、角、爪、歯などの固い部分だけである。まれに羽が残った物があったりして、それはそれで大発見なのである。生物の体の主に内側にある物から、全体像を復元する。
他に、「印象化石」というのが存在する。皮膚や足跡など、いわばスタンプを押した跡が鉱物と置換されて固い石として残るケースである。
皮膚自体が特別固かった、固い鱗や角質で鎧のようになっていた、というのでない限り化石に残ることは極めて少ないから、恐竜たちがどんなお肌をしていたのかは想像するしかないのだ。


残された骨の化石から、皮膚や筋肉がどのように付いていたのかを想像して復元するのは結構大変だが、その恐竜復元図の変遷の一つに面白い部位がある。
ほっぺである。
私はほっぺの存在については、それをふくらませて不満を表示したりする以外、何か特別な役割があるとは正直考えたこともなかった。
が、食いしん坊に「ほっぺ」は必要なのである。

どういうことかと言うと、「咀嚼」する生き物には必ず「ほっぺ」があるということなのだ。
もしほっぺが無くて咀嚼、つまり「もぐもぐ」するとどうなるか。せっかくの美味しい物はぼろぼろと口の外へ流れ出てしまうのだ。
「ほっぺ」は食物を咀嚼する植物食恐竜に必要なパーツなのである。

それでは、恐竜のほっぺについて見てみよう。

鳥盤類(Ornithischia)の特徴として特筆すべき点のひとつは、多かれ少なかれ、すべての鳥盤類が食物を咀嚼したということである。われわれヒトを含め、多くの哺乳類の仲間が咀嚼をおこなうことはご存じの通りだが、実は脊椎動物のほとんどは咀嚼することができないという事実を知ると驚かれるかもしれない。咀嚼をしない脊椎動物は、食物に単純にかみついているだけなのだ。(『恐竜学入門』p.69)

アンキロサウリア類の例をとって「咀嚼」と「頬」の関係についての説明がある。

食物が口に入った後、それを飲み込むまでにどうのような処理をしていたかについては、まだよくわかっていない。ステゴサウリア類(剣竜類)やパキケファロサウリア類と同様に、ノドサウリダエ類とアンキロサウリダエ類のもっていた三角形の歯は小さく、特別複雑な形をしていない。また、咀嚼を得意とする動物と異なり、隙間なく歯が並ぶようなことはない。しかし、歯に残された摩耗痕から、彼らがすりつぶしをおこなっていたことが示唆される。さらに、アンキロサウリア類の仲間は長くて器用な舌をもっていたようだ(彼らののどには大きな舌骨があり、舌の基部を支えていた)。さらに、二次口蓋も発達しており、咀嚼と呼吸が同時にできるようになっていた。もっといえば、歯列が頬の内側深く入り込んだ場所に並んでいたことから、頬がよく発達していて、かんでいる食物が口からこぼれ落ちるのを防いでいたと考えられる。顎の骨そのものは比較的大きくて堅牢であった(ただし、咀嚼のための筋の付着領域が発達していたというわけではない)。実際、アンキロサウリア類の仲間の多くは、歯の形態や配置は別として、顎の特徴から、彼らがよく咀嚼して物を食べていたことが伺えるのである。(『恐竜学入門』p.92)

歯が発達していないのに頬が発達しているという矛盾点については、その肥大化した腹部がポイントであるとも述べられている。お腹の中で食物を発酵させ、消化させていたのだ。




1965年~1993年頃の切手を例に出してみた。この頃(1990年代)の植物食恐竜は、よく見るとほっぺが無い。顎に生えている歯が奥歯の方まで見えるくらい、なんというか、口が裂けて描かれているのである。ブラキオサウルスやイグアノドン、トリケラトプスなんかも、口が裂けてワニか大型のトカゲを思わせる顔である。

これがいつの頃からか、ほっぺが付いて、ちょっとおちょぼ口っぽく描かれるようになったのだ。



特にサンマリノとタンザニアのイグアノドンの切手と、福井のイグアノドン(実はフクイサウルス※「日本初の恐竜切手」の回参照)を比べて頂きたい。
以前は恐竜の姿というのは、現生の爬虫類、特にワニを参考に描かれるということが多かったようだ。そう考えると、恐竜全般=ワニの仲間とされた時期の復元図に「ほっぺ」が描かれていないのにはうなずける。
最近は、恐竜の食生活についても色々なことが分かってきたから、そういった研究成果も復元図に反映されてきている。




私は食べ物をほおばりすぎてほっぺを噛むことが時々ある。恐竜たちも自分のほっぺを噛んでしまうことがあったのかなあ、とか、ふと考えてしまうのである。



【参考文献】
・『恐竜学入門』 Fastovsky, Weishampel 著、真鍋真 監訳、藤原慎一・松本涼子 訳 (東京化学同人、2015年1月30日)

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