烏鷺鳩(うろく)

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ケツァルコアトルスの切手:ベキア島(セントヴィンセント及びグレナディーン諸島)

2018-09-12 | 切手


うっすらと桃色に染まった大空を、巨大な翼竜の群れが飛んでいる。大きく広げた翼をゆっくりと羽ばたかせている。あるいは風に乗って悠々と滑空していたかもしれない。
こころなしか下の方を向いているから、夕暮れ時、巣へと戻るところなのだろうか。
現在発見されている翼竜の中でも、最大級のサイズであったと考えられている、ケツァルコアトルスである。
キリン位の大きさがあったとされているので、その大きさの翼竜が何羽も群れて空を飛んでいたら、地上の動物たちも思わず空を見上げるほどの迫力だったのではなかろうか。


発行したのはカリブ海に浮かぶ島国、「セントヴィンセント及びグレナディーン諸島」の中の一つ、「ベキア島」である。幾つもの島からなる国であるが、その一つの島、「ベキア島」の名義で1984年から切手が発行されている。
発行年は書いていないから、古くて1984年ということになる。


ところで、この「ケツァルコアトルス」、翼竜であって恐竜ではない。空飛ぶ爬虫類である。
翼竜と言えば「プテラノドン」が有名である。翼竜は大きく分けて、プテラノドンの仲間と、ランフォリンクスの仲間に分かれる。プテラノドンの仲間はしっぽが短いかもしくはない。ランフォリンクスの仲間はしっぽが長いのである。頭が丸っこくて短いのも特徴だ。勿論これはざっくりとした見分け方である。ケツァルコアトルスはプテラノドンの仲間になる。
この、ケツァルコアトルスについて、化石の発見場所や名前の由来について詳しく書かれていたので引用したい。



アメリカにあるビッグ・ベンド国立公園。テキサス州とメキシコの国境に広がるこの公園にあるのがジャヴェリナ累層だ。この地層は白亜紀の終わり、7000万年前に堆積した。ここから見つかる化石は巨大ワニやアンキロサウルス、あるいは南半球からわたってきた竜脚類アラモサウルスなどだ。そして1975年に翼竜の上腕骨が見つかった。形は1500万年前に栄えたプテラノドンに似ている。しかしこの翼竜の上腕骨は長さが55センチもあった。最大級のプテラノドンのほぼ2倍である。最大級のプテラノドンの翼が7メートルであったことを考えると、この翼竜は14メートルあったということだろうか?

この翼竜の化石にはケツァルコアトルスという名前がつけられた。この名はメキシコにかつて栄えたアステカ帝国の神ケツァルコアトルに由来する。神ケツァルコアトルの名はケツァール(羽毛)と、コアトル(蛇)の2語をあわせたもの。すなわちこの神の名は羽毛を持つ蛇という意味である。空飛ぶ大爬虫類ケツァルコアトルスにふさわしい名前だろう。ちなみに翼竜ケツァルコアトルスの語尾がトルスになっているのは、神ケツァルコアトルの語尾トル(tl)にusがついたからである。これは名前をラテン語化した結果だ。ラテン語はローマ人が使っていた言葉だから、メキシコの神の名をローマ風にしたと思えばよい。例えば初代ローマ皇帝アウグストゥスも語尾はusである。

ケツァルコアトルスの化石は少ないが、見つかった化石や類縁種から考えると、プテラノドンとは体型がずいぶん違っていたようだ。海を飛ぶプテラノドンがアホウドリのように細長い翼を持っていたのと対照的に、ケツァルコアトルスの翼はむしろ太短い翼だった。だから翼の幅は14メートルもない、多分10メートルぐらいだと考えられている。これはちょうど人間が使うハンググライダーの大きさである。翼をたたんで地上に降り立てば、方までの高さが2メートル、首の長さ2メートル。もしも首を直立させれば高さ4メートル。現在のキリンに迫る身長だ。

もちろん体重は全然違う。キリンの体重は1~2トンあるが、ケツァルコアトルスの体重は妥当なところで200キロぐらいだったらしい。つまりキリンの5分の1から10分の1だ。ケツァルコアトルスとキリンを比較してこんなにでかいんだと強調する比較図があるが、あれは安易にふかしすぎである。(『大人の恐竜図鑑』p.222)


というわけで、キリンほどでかくはなかったかもしれないが、それでも結構な大きさだったということだ。


翼を広げて10メートルの空飛ぶ巨大生物、ケツァルコアトルス。
この切手では、その巨大な翼竜の群れを一枚の小型シートに描いている。そのスケール感というか、小さなシートに巨大翼竜を何羽も描いたところが、なんとういうか素敵なのである。ちょっとうまく言い表せないけれど、小型切手シートという限られた小さな世界に、素晴らしく広大な風景を描き込んだ、このベキア島の郵政のセンスがとっても素敵だと思ったのである。



【参考文献・サイト】
・ウィキペディア「ベキア島 」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%99%E3%82%AD%E3%82%A2%E5%B3%B6 
・『大人の恐竜図鑑』北村雄一 著(ちくま新書、2018年3月10日)