ドイツに着いたばかりの頃は、シュールレアリズムにものすごく影響されていた。まだ大学にアトリエをもらってなかったから、自分が生活している部屋で絵を描いていた。寝るのも食べるのも、絵を描くのを同じ部屋。ドイツの美大の受験用の絵を描いていたから、かなり、精神的にもきつかった。シュールレアリズムに影響されていたわりには、私の絵はどちらかと言うと表現主義のような感じだったと思う。時間があれば、自分の絵を美大の教授の所へ持って行って、批評してもらった。涙を流して帰って来たことが多かった。「ちょっとぐらい素描ができるくらいで、画家になれると思ったら大間違いだ。」その言葉が、今でも胸に突き刺さったままになっている。
その頃の話。
夢の中で、よく、知らない場所へ行っていた。必ずと言っていいほど、金縛りにあった。金縛りにあったことのある人ならわかってくれるけど、しっかりと物が見えている。その間に、どこかへ行ってしまう。幽体離脱状態。時間も越えてしまうらしく、行った先は日中のことが多かった。殆どの人に、私は見えていなかったようだけど、一度はっきり覚えているのが、ヨーロッパの街の中心になるマーケットが開かれる場所で、手で染色をした衣類を売っていたおじさんに、私がはっきり見えていたこと。しかも、会話をしたこと。
次の日、染料を買いに行って、自分でTシャツとか染めてたんです。それを売ることで、多少の収入を得ることができた。
当時は、自分が夢の中にいるのか、現実なのか、よくわかってなかったのかも。アトリエと寝室を同じにすると、精神障害を起こす芸術家が多いから、必ず分けるようにって言う忠告はされていたのだけど。
デュッセルドルフに引っ越して、大学にアトリエをもらって、ようやくそういう夢は見なくなった。あれ以来、金縛りにもあってないし、幽体離脱の夢も見なくなった。
成長すると、見えなくなるものが多いって、本当のことなのかもしれない。