開腹して壊死した小腸を見つけた瞬間、正直な気持ち「ああよかった」と思ったのである。普通に考えれば人の病気をみつけて「よかった」というのは倫理に反する。しかし正直な気持ち開腹手術に踏み切って、その判断が正しかったのであるからそう思わざるを得ない。手術のタイミングとしてはもっと早いに越したことはない。しかしここに至るまでにはものすごい労力と綿密な観察と、かなりの精神的な重圧感があった。もちろん受け持ち患者はこの人一人ではなく、毎日がいつもの勤務に終始するのである。この患者さん一人にかかりきりになるわけにはいかない。その中での緊急手術の判断なのである。来院直後から症状も検査所見もすべて陽性である腹膜炎患者の診療は難しくはない。しかしこの患者さんのように、症状や検査所見では判断できない腹膜炎患者さんを今まで何十人も経験した。その都度、冷や汗もかいたし、落胆し自責の念にかられたこともある。