てるてる坊主の赤帽子は、予想通り飛ばされていた。
今朝は、普通のてるてる坊主が、僕のベランダに風に揺れていた。
今日は、早めの出勤にしよう。雪が、予想以上に降り積もった。
僕は、部屋を出た。
車には、こんもりと雪が乗っかっている。
雪を払う手が、一瞬にしてコチコチだ。
吐く息も、真っ白。雪雲がようやく薄くなり、太陽の輪郭が現れはじめていた。
アパートの入り口が開く音がしたので、目をやった。
向かいの親子だ。ここに引っ越してきて、初めて見るような気がする。
お母さんは、折りたたんだ車椅子を広げて、女の子を誘導していた。
足元が、少しふら付いているようだ。
障害を抱えているのかな。
でも、二人とも、とてもいい笑顔で話をしている。
何となく、僕のほうを見て、笑って挨拶をしてくれたように感じたので、僕も頭を下げた。
でも、違うかもしれない。
女の子の手には、リボンのついた袋が抱えられていた。
お母さんは、女の子に、赤いひざ掛けを、かけて、この寒空に備えていた。手袋と、帽子。
お母さんは、車椅子の後ろに回り、ゆっくりと押し始めた。
大丈夫だろうか。どこまで行くのだろう。
声をかけたい気持ちに駆られたが、勇気がなかった。でも、お母さんは、しっかりと、車椅子を押して、歩き始めた。
寒い、向かい風が、女の子に当たっていた。
お母さんは、心配そうに、時々、女の子の顔を覗き込み声をかけていた。
僕は、自分の車の雪を払い終え、車のドアを開けた。
時を重ねた 思い出の 数々を
ラララー ララララー
ラララ ララララー ラララー
僕は、自分の耳を疑った。
「僕の、歌だ」
女の子の、やさしい歌声にのって、僕の歌が聴こえてきた。
僕は、車に乗り込もうとするのを止め、親子を振り返った。
女の子が、泣き顔で僕のほうを見ている。
どうしたの。
痛みをこらえる、歪んだ泣き顔だった。
僕は、車のドアを閉めて、親子の方へ歩いた。
女の子は、包み紙から中の物を出した。
赤い帽子のてるてる坊主。
つながった。
僕の中で全てが、つながった。
「僕に任せて」心で叫んだ。
僕は、女の子に駆け寄った。
「大丈夫」
「すみません。やっぱり無理だったみたい。」
「救急車呼びますか」
「いえ、家に戻って、薬飲んで、温かくしていれば、落ち着いてくると思います。学校の前の・・・」
「わかってます。」
「えっ」
「後は、僕に、任せて。早く家に、戻って」
僕は、女の子から、プレゼントを預かった。
手紙に綾子と書かれていた。
「アヤちゃん」
なんだか、急に、涙が溢れてきた。小さかったマミコと重なった。
僕も、小さな頃の自分に戻っていた。
僕は、プレゼントを抱えて、学校の前の赤い帽子のてるてる坊主を目指し、走った。
時を重ねた 思い出の 数々を
今更のように 眺めてみる
掛け違えた ボタンのように
ずれたままの 今の僕
アヤちゃんが、僕の歌を歌って、呼びかけてくれた。
アヤちゃんが、僕に想いをたくしてくれた。
僕の歌を歌ってくれた。
やさしい 笑顔なんて いらないから
その声を この手のひらの上に、のせて下さい。
左に曲がると、学校の前が見えた。
マロニエの樹と、赤い帽子のてるてる坊主と、男の子が、遠い昔の僕の写真のように目に写った。
男の子は、寒さをこらえて、アヤちゃんを待っていた。
僕は、息をきらせながら、男の子の前で、足を止めた。そして、プレゼントを渡した。
「アヤちゃん。無理だった。でも、頑張ったんだよ。ゆっくりと向かっていたんだ、君のもとまで、ほんの少しだったけど、距離を縮めたんだよ。僕は、同じアパートの住民。たまたま側にいて、代わりに、このプレゼントを渡してほしいと頼まれたんだ。」
「ありがとうございます」
「じゃあね」
今朝は、普通のてるてる坊主が、僕のベランダに風に揺れていた。
今日は、早めの出勤にしよう。雪が、予想以上に降り積もった。
僕は、部屋を出た。
車には、こんもりと雪が乗っかっている。
雪を払う手が、一瞬にしてコチコチだ。
吐く息も、真っ白。雪雲がようやく薄くなり、太陽の輪郭が現れはじめていた。
アパートの入り口が開く音がしたので、目をやった。
向かいの親子だ。ここに引っ越してきて、初めて見るような気がする。
お母さんは、折りたたんだ車椅子を広げて、女の子を誘導していた。
足元が、少しふら付いているようだ。
障害を抱えているのかな。
でも、二人とも、とてもいい笑顔で話をしている。
何となく、僕のほうを見て、笑って挨拶をしてくれたように感じたので、僕も頭を下げた。
でも、違うかもしれない。
女の子の手には、リボンのついた袋が抱えられていた。
お母さんは、女の子に、赤いひざ掛けを、かけて、この寒空に備えていた。手袋と、帽子。
お母さんは、車椅子の後ろに回り、ゆっくりと押し始めた。
大丈夫だろうか。どこまで行くのだろう。
声をかけたい気持ちに駆られたが、勇気がなかった。でも、お母さんは、しっかりと、車椅子を押して、歩き始めた。
寒い、向かい風が、女の子に当たっていた。
お母さんは、心配そうに、時々、女の子の顔を覗き込み声をかけていた。
僕は、自分の車の雪を払い終え、車のドアを開けた。
時を重ねた 思い出の 数々を
ラララー ララララー
ラララ ララララー ラララー
僕は、自分の耳を疑った。
「僕の、歌だ」
女の子の、やさしい歌声にのって、僕の歌が聴こえてきた。
僕は、車に乗り込もうとするのを止め、親子を振り返った。
女の子が、泣き顔で僕のほうを見ている。
どうしたの。
痛みをこらえる、歪んだ泣き顔だった。
僕は、車のドアを閉めて、親子の方へ歩いた。
女の子は、包み紙から中の物を出した。
赤い帽子のてるてる坊主。
つながった。
僕の中で全てが、つながった。
「僕に任せて」心で叫んだ。
僕は、女の子に駆け寄った。
「大丈夫」
「すみません。やっぱり無理だったみたい。」
「救急車呼びますか」
「いえ、家に戻って、薬飲んで、温かくしていれば、落ち着いてくると思います。学校の前の・・・」
「わかってます。」
「えっ」
「後は、僕に、任せて。早く家に、戻って」
僕は、女の子から、プレゼントを預かった。
手紙に綾子と書かれていた。
「アヤちゃん」
なんだか、急に、涙が溢れてきた。小さかったマミコと重なった。
僕も、小さな頃の自分に戻っていた。
僕は、プレゼントを抱えて、学校の前の赤い帽子のてるてる坊主を目指し、走った。
時を重ねた 思い出の 数々を
今更のように 眺めてみる
掛け違えた ボタンのように
ずれたままの 今の僕
アヤちゃんが、僕の歌を歌って、呼びかけてくれた。
アヤちゃんが、僕に想いをたくしてくれた。
僕の歌を歌ってくれた。
やさしい 笑顔なんて いらないから
その声を この手のひらの上に、のせて下さい。
左に曲がると、学校の前が見えた。
マロニエの樹と、赤い帽子のてるてる坊主と、男の子が、遠い昔の僕の写真のように目に写った。
男の子は、寒さをこらえて、アヤちゃんを待っていた。
僕は、息をきらせながら、男の子の前で、足を止めた。そして、プレゼントを渡した。
「アヤちゃん。無理だった。でも、頑張ったんだよ。ゆっくりと向かっていたんだ、君のもとまで、ほんの少しだったけど、距離を縮めたんだよ。僕は、同じアパートの住民。たまたま側にいて、代わりに、このプレゼントを渡してほしいと頼まれたんだ。」
「ありがとうございます」
「じゃあね」
言葉で絶対励ましたりしない。
彼女の行動が全てを語り
私のやる気を引き出し
いつも元気にしてくれる。
もう一人、思い出しました。
私が一時的に車椅子に乗っていたとき
操作の仕方がヘタでヘタで
右往左往していると
同年代の車椅子の女の子が
「車椅子初心者を見ていたら
黙っていられなくて」と
私の車椅子を片手ですいすい操作してくれました。
自分の車椅子を片手で操作しながら。
「明日きっと腕が筋肉痛になっているよ」と
彼女は笑いました。
ケンジみたいな人たち。
アヤちゃんの「いつもギターを聞かせてくれて
ありがとう」の表現が
粋ですね。
すてきな人たち。