24日イヴ。会場は、家族連れや、カップル達で、賑わっていた。昨日降った雪が、銀色に、会場を演出していた。白い息、恋人達の笑い声、色とりどりのマフラー、手袋が会場の飾りとなってクリスマスを演出していた。そして、マイクスタンドにかけられた、赤い帽子のてるてる坊主。僕は、会場を行き来する人たちに、BGMの演出をスタートした。通りのレンガ倉庫の角辺りに、アヤちゃんとお母さんが、いる。ちょうど、風をさける事が出来そうなスペースだ。アヤちゃんの車椅子にも、赤い帽子のてるてる坊主が揺れていた。僕のスタンドのてるてる坊主とどんなお話をしているのだろう。
マミコは、まだいない。
僕は、又、1曲、心を込め演奏に集中した。
ポケットの中はいつも
虹のかけらを詰め込んでいた
だれにもわからない宝物でいっぱい
心配だからいつも手をつないでいたんだ
何のあてもなく
ただ明日ばかりを信じていた
二人で寄り添うことで
全てのもの見ようとしていた
見える気がした
間奏の合間に、アヤちゃんの姿に僕は、目をやった。
その隣に、もう一つの、赤い帽子のてるてる坊主が揺れていた。
マミコだ。
奇跡が起きた
アヤちゃんの隣に、マミコ家族が立っていた。マミコとアヤちゃんが、笑って話を交わしている。赤い帽子のてるてる坊主が、三人をつなげている。
「みなさん、ありがとうございます。足を止めて聴いて下さっている方もいて、寒い中本当にありがとうございました。あっという間の時間でした。たくさんの奇跡をもらいました。最後の曲です。クリスマスデイ」
花びらのような雪が掌で
溶けて消えたまるで 僕らの恋のように
はかない その雪のつめたさで 街のざわめきに
気がついた
そうだ今日はクリスマスデイ
はかない雪みたいに消えた
あなたは今日を誰と過ごすのか
手をつなぐのは僕じゃない
そうだ今日はクリスマスデイ
歌いながら、アヤちゃんが、調子を崩していくのがわかった、お腹を押さえはじめていた。
「だめかも」そういって、不調をお母さんに訴えているのがわかった。無理しないで、アヤちゃん。そう、願うと、アヤちゃんは、僕を見て笑って、手を振っていた。何も、いんだよ。君のおかげで、マミコとつながったよ。こうして、出会っているよ。
きらめくダイヤのような雪の舞う中
街中の幸せたちを
何も見なくてすむように
僕は目をつむって 走りぬける
サイレントナイト
アヤちゃんは、マミコに話しかけている。痛みをこらえた顔で、マミコに手を差し伸べた。マミコは、笑顔でその手を取った。僕の思いがほとばしったのを感じた、何かがはじけとんだ。目の前の、マミコとアヤちゃんがまあるいオレンジ色の輝きに包まれていた。次の瞬間、マミコが、力を失い膝をついていた。隣で、ご主人と息子がマミコに寄りそっていた。天使の羽が、舞い降りてきた。その数は、だんだんと多くなっていった。アヤちゃんは、痛みをこらえ、会場を去っていった。何がおきてるのかわからず、僕は、魂の声で歌い続けた。
たぶん別の場所で この降る雪を見てる
あなたを想いながら 僕はひとり歩こう
寒くなれば あのカフェでチョコレートを
飲んで温まろう
降る雪が
二人で過ごした時間を
隠してくれる
今日はクリスマスデイ
きらめくダイヤのような雪の舞う中
街中の幸せたちを
何も見なくてすむように
僕は目をつむって走り抜ける
サイレントナイト
僕は、ぽつんと立った、マミコに近づいていった。何故か、楽器を急いで片付け終え、会場を見ると、そこには、マミコが一人ぽつんと立っていた。僕は、近づいていった。
「一人か」
「うん。二人の時間をくれた。」
「これは、奇跡だよね」と、僕。
「うん。」と、マミコ。
「さっき、倒れてたよな。大丈夫か」
「私は、大丈夫。アヤちゃんが大丈夫かなと思って」
「どの位時間あるんだ」
「30分くらいかな。函館駅で待ち合わせ」
マミコと僕は、手をつないでいた。
「歩こう。時間が無い」とマミコ。マミコは、残された時間を何に使うべきか、吟味しそれに、向かって行動しているようだった。時間がものすごい勢いで、回り始めた。高鳴る鼓動がカウントダウンの時を刻んでいた。人気のない小路を、曲がる。暗さが僕とマミコを包んだ。街の音も消えた。突然、マミコが話し始めた
「アヤちゃんの手を取ったの。針のような突き刺す熱さが、手から伝わってきたの、その、熱さは、体全体を駆け巡った。激しい痛みと共に、その痛みが、私の体の外へ追いやったの。まだ、体の中が熱いわ、ケンジ、もう、我慢できない」
そういって、マミコは、僕に唇を寄せてきた。頬を伝う涙、マミコのコロンが鼻を伝い心に染み渡った。僕の手は、マミコの髪を撫でる。指と指の間に髪を絡ませる。マミコの首の温度を確かめる。互いの唇は離れる事はない。僕の手は、マミコの腰へと下がる。時々もれる吐息。マミコの手は、僕のセーターの下を伝う。弾け飛ぶ心臓のリズムに触れている。そして、その手は、ゆっくりと下がっていった。唇は、互いを求め合い離れる事は無かった。僕の手は、マミコの胸の温度とつながっていた。柔らかな、真っ白であろう温度と僕の手が、一つになっていた。そんな時間は、掌に落ちて消える雪のように、一瞬に溶けて、過ぎ去っていった。マミコの手が僕の手を押さえた。
唇が離れた。ゆっくりと、距離が出来ていった。
「ありがとう。ケンジ」
僕と、マミコは、手を差し出した。
つながる手と手。
出来なかった、小さな僕と、マミコの、サヨウナラの握手。
4半世紀の時を越えて、交わした、握手。
「もう、サヨナラか」と僕
「そう、永遠のサヨナラかも」
「俺は、マミコが病気に勝つことを信じているよ」と僕
「私も、家族の為にもそう願う」
もう、マミコの笑顔は、家族への笑顔に変わっていた。
「永遠の、奇跡がくれた、二人だけの、特別な、素敵過ぎる思い出。ヒ・ミ・ツ」とマミコ
「うん」
「サヨウナラ」
「サヨウナラ」
僕等は、タクシー乗り場まで、手をつないで歩いた。互いの手に、赤い帽子のてるてる坊主が揺れていた。いよいよ、ほんとうのサヨナラが近づいてきた。
マミコの乗るタクシーが前方に見えた、互いの手を握る手に、力が入っていた。無言のサヨウナラが伝わってきた。
マミコが足を止める。
「ケンジ、アヤちゃんと仲良くね。まっすぐの、赤い糸が見えました。当たるのよ。コックリさんコックリさん。ケンジの好きな人は・・・やーめた。へへっ」
「何だよ。言えよ」
「幸せにね」
「マミコもね」
「私、生きるよ。この奇跡に感謝。さよなら」
「さよなら」
タクシーのドアが開き、マミコは乗り込んだ
窓が開く
涙が頬を伝う。僕も、もう、声が出ない。もう一度、抱きしめたいと言いたいのに、声にならない。もう一度、逢いたいと言いたいのに、声にならない。
「ケンジ、本当にステキな歌だった。お互いの幸せにメリークリスマス」
過ぎていく、タクシー。
イヴに起きた奇跡。
マミコは、まだいない。
僕は、又、1曲、心を込め演奏に集中した。
ポケットの中はいつも
虹のかけらを詰め込んでいた
だれにもわからない宝物でいっぱい
心配だからいつも手をつないでいたんだ
何のあてもなく
ただ明日ばかりを信じていた
二人で寄り添うことで
全てのもの見ようとしていた
見える気がした
間奏の合間に、アヤちゃんの姿に僕は、目をやった。
その隣に、もう一つの、赤い帽子のてるてる坊主が揺れていた。
マミコだ。
奇跡が起きた
アヤちゃんの隣に、マミコ家族が立っていた。マミコとアヤちゃんが、笑って話を交わしている。赤い帽子のてるてる坊主が、三人をつなげている。
「みなさん、ありがとうございます。足を止めて聴いて下さっている方もいて、寒い中本当にありがとうございました。あっという間の時間でした。たくさんの奇跡をもらいました。最後の曲です。クリスマスデイ」
花びらのような雪が掌で
溶けて消えたまるで 僕らの恋のように
はかない その雪のつめたさで 街のざわめきに
気がついた
そうだ今日はクリスマスデイ
はかない雪みたいに消えた
あなたは今日を誰と過ごすのか
手をつなぐのは僕じゃない
そうだ今日はクリスマスデイ
歌いながら、アヤちゃんが、調子を崩していくのがわかった、お腹を押さえはじめていた。
「だめかも」そういって、不調をお母さんに訴えているのがわかった。無理しないで、アヤちゃん。そう、願うと、アヤちゃんは、僕を見て笑って、手を振っていた。何も、いんだよ。君のおかげで、マミコとつながったよ。こうして、出会っているよ。
きらめくダイヤのような雪の舞う中
街中の幸せたちを
何も見なくてすむように
僕は目をつむって 走りぬける
サイレントナイト
アヤちゃんは、マミコに話しかけている。痛みをこらえた顔で、マミコに手を差し伸べた。マミコは、笑顔でその手を取った。僕の思いがほとばしったのを感じた、何かがはじけとんだ。目の前の、マミコとアヤちゃんがまあるいオレンジ色の輝きに包まれていた。次の瞬間、マミコが、力を失い膝をついていた。隣で、ご主人と息子がマミコに寄りそっていた。天使の羽が、舞い降りてきた。その数は、だんだんと多くなっていった。アヤちゃんは、痛みをこらえ、会場を去っていった。何がおきてるのかわからず、僕は、魂の声で歌い続けた。
たぶん別の場所で この降る雪を見てる
あなたを想いながら 僕はひとり歩こう
寒くなれば あのカフェでチョコレートを
飲んで温まろう
降る雪が
二人で過ごした時間を
隠してくれる
今日はクリスマスデイ
きらめくダイヤのような雪の舞う中
街中の幸せたちを
何も見なくてすむように
僕は目をつむって走り抜ける
サイレントナイト
僕は、ぽつんと立った、マミコに近づいていった。何故か、楽器を急いで片付け終え、会場を見ると、そこには、マミコが一人ぽつんと立っていた。僕は、近づいていった。
「一人か」
「うん。二人の時間をくれた。」
「これは、奇跡だよね」と、僕。
「うん。」と、マミコ。
「さっき、倒れてたよな。大丈夫か」
「私は、大丈夫。アヤちゃんが大丈夫かなと思って」
「どの位時間あるんだ」
「30分くらいかな。函館駅で待ち合わせ」
マミコと僕は、手をつないでいた。
「歩こう。時間が無い」とマミコ。マミコは、残された時間を何に使うべきか、吟味しそれに、向かって行動しているようだった。時間がものすごい勢いで、回り始めた。高鳴る鼓動がカウントダウンの時を刻んでいた。人気のない小路を、曲がる。暗さが僕とマミコを包んだ。街の音も消えた。突然、マミコが話し始めた
「アヤちゃんの手を取ったの。針のような突き刺す熱さが、手から伝わってきたの、その、熱さは、体全体を駆け巡った。激しい痛みと共に、その痛みが、私の体の外へ追いやったの。まだ、体の中が熱いわ、ケンジ、もう、我慢できない」
そういって、マミコは、僕に唇を寄せてきた。頬を伝う涙、マミコのコロンが鼻を伝い心に染み渡った。僕の手は、マミコの髪を撫でる。指と指の間に髪を絡ませる。マミコの首の温度を確かめる。互いの唇は離れる事はない。僕の手は、マミコの腰へと下がる。時々もれる吐息。マミコの手は、僕のセーターの下を伝う。弾け飛ぶ心臓のリズムに触れている。そして、その手は、ゆっくりと下がっていった。唇は、互いを求め合い離れる事は無かった。僕の手は、マミコの胸の温度とつながっていた。柔らかな、真っ白であろう温度と僕の手が、一つになっていた。そんな時間は、掌に落ちて消える雪のように、一瞬に溶けて、過ぎ去っていった。マミコの手が僕の手を押さえた。
唇が離れた。ゆっくりと、距離が出来ていった。
「ありがとう。ケンジ」
僕と、マミコは、手を差し出した。
つながる手と手。
出来なかった、小さな僕と、マミコの、サヨウナラの握手。
4半世紀の時を越えて、交わした、握手。
「もう、サヨナラか」と僕
「そう、永遠のサヨナラかも」
「俺は、マミコが病気に勝つことを信じているよ」と僕
「私も、家族の為にもそう願う」
もう、マミコの笑顔は、家族への笑顔に変わっていた。
「永遠の、奇跡がくれた、二人だけの、特別な、素敵過ぎる思い出。ヒ・ミ・ツ」とマミコ
「うん」
「サヨウナラ」
「サヨウナラ」
僕等は、タクシー乗り場まで、手をつないで歩いた。互いの手に、赤い帽子のてるてる坊主が揺れていた。いよいよ、ほんとうのサヨナラが近づいてきた。
マミコの乗るタクシーが前方に見えた、互いの手を握る手に、力が入っていた。無言のサヨウナラが伝わってきた。
マミコが足を止める。
「ケンジ、アヤちゃんと仲良くね。まっすぐの、赤い糸が見えました。当たるのよ。コックリさんコックリさん。ケンジの好きな人は・・・やーめた。へへっ」
「何だよ。言えよ」
「幸せにね」
「マミコもね」
「私、生きるよ。この奇跡に感謝。さよなら」
「さよなら」
タクシーのドアが開き、マミコは乗り込んだ
窓が開く
涙が頬を伝う。僕も、もう、声が出ない。もう一度、抱きしめたいと言いたいのに、声にならない。もう一度、逢いたいと言いたいのに、声にならない。
「ケンジ、本当にステキな歌だった。お互いの幸せにメリークリスマス」
過ぎていく、タクシー。
イヴに起きた奇跡。
お付き合いさせていただいてありがとうございます
マミコやアヤちゃんが完治したのかどうか不明で
ありがとうございます!!
オレンジ色の光や天使たち。
似たようなモノは私もたまに見ます。
あるんですよね、あるんですよね、そーゆーの。
マミコが「生きる」と決意したのは
本当に良かったです。
「生きる」と決意したら生きられるのかも知れなくて。
本当に構成力が素晴らしい。。。
昔からいつも不思議に思っていたのが
新聞の連載小説の作者の力や
小説を書ききることの出来る人の力です。
何故、ちゃんと短い文章で
続きを期待させることが出来るのか、
マラソンのような作業を持続できる体力はどこから来るのか。
昨晩夜中に「あ!最終回だ!」と
喜んで読みました。
何故かすぐには感想を書けませんでした。
多くを含んだ作品だと思います。
本当に多くが含まれている。
じわじわ来ます。
あとしばらく経ったら、また
かみ締めるように感想が出てくるんだろうなぁ。
次回作も期待しています。
メリークリスマス