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タッカの夢 ~VOICE~ 2013

シンガーソングライター タッカ の夢路日記
ユメこえショップ オーナーの日記
ユメこえ農園 オーナーの日記

「僕たちの手紙」最終回

2008-11-09 15:22:16 | 僕たちの手紙
間もなく、優子のリハビリが始まった。
そして、僕は、職場に退職覚悟で、長期休暇をもらった。
病院に寝泊りで、優子のリハビリに付き添った。
「よし、時間の穴埋めをするぞ」
優子は、ただ、一点を見つめている事が多く、手も足も不自由で、そして、時々暴れた。そんな時、僕は、優子を思いきり抱きしめた。
すると、優子は、落ち着いた。
何だか、どんな事でも、受け入れることが出来る自分がいた。
リハビリ室に行くのを、優子は、嫌がった。
そんな時は、抱きかかえて、二人で、リハビリ室に向かった。
「こんなに、軽かったんだな。」とからかうと。何だか、優子が笑ったような表情になるのが、たまらなく嬉しかった。
歩行練習も、ゴールは、僕の腕の中。先生達も笑って許してくれていた。

一度だけ、病院を離れた時があった。
優子の暴れ方は、かなりひどかったらしい。ベットを這い出し、車椅子に座れずに、はって、廊下に出たらしい。僕が着いた時には、ひどい状態だった。僕は、ひたすら、あやまった。

リハビリは、2ヶ月を過ぎ、優子の状態もかなり良くなった。

僕の長期休暇も残り少なくなってきた。
窓の外は、ふわふわとした綿雪が、舞っていた。
「優子、今日は、何の日かわかる」
「わからない」
「クリスマス」
「・・・」
「クリスマスだよ。」
「ふうん」
「祥子。ミノル。俺。わかるか」僕は、写真を優子に時々見せた。
「何となく、わかる」
「祥子と、ミノルに手紙書かないか」
「書けない」
「いんだよ。俺が書くから」
「何て」
僕は、レターセットを用意した。
「よし、まず、祥子の手紙から行こう。優子、一年後位だったら、今より、良くなっていると思うんだ、又、4人で会ってみるのも、いんじゃないか。どうだ。」
「うん」
「まず、始めに、意識が回復しました。ご心配おかけしましただな」
「探してもらったんだよ。ずっと迷ってて、ヒロを探してたんだよ」
「・・・そうだったな」
優子は、感情のコントロールがうまく出来ず、すぐに泣き出すようになっていた。
「ゴメン。優子、ゴメンネ」

祥子とミノルに手紙を出した。
「手紙」
優子が、夢から覚めたよ。
まだ、会える状態では、ないけど、今、リハビリを一生懸命頑張っている。そして、ほとんどの記憶が、今、ばらばらの状態で、どこまで、戻るかもわからないとの事です。
でもさ、1年経ったら、優子もだいぶ、良くなっていると思うんだ。
一年後のクリスマスに、4人で会いましょう。再会の日にしましょう。
その時に、それぞれが、手紙を書いて、持ってきてほしいんだ。
手紙のテーマは、「自分の事を探して欲しい人」
        ヒロより

ここまで、書いて、僕は、優子を見た。
「優子。右手だして」
優子は、きょとんとしている。僕は、優子の手をやさしくひっぱりペンを持たせた。
「優子、僕は、ずっと、優子のそばにいてもいいかい」
「うん」といって、また、顔をくしゃくしゃにさせた。
「私は、ヒロがいるから、大丈夫だよ」
「もちろんさ」
僕は、優子の手を手紙にあてた。

わたしは ヒロが いる から だいじょうぶ だよ  ゆうこ


「優子、寒くなる前にさ、着込んで、散歩に行かないか。夜はケーキで乾杯」
「うれしい」
優子に、セーターを着せた。小さな胸に手が触れた。優子を見ると、目を閉じて微笑んでいた。やさしい気持ちになれた。
車椅子に乗せ、ひざ掛けをして、表に出た。
ホワイトクリスマス。

車椅子をゆっくりと押す僕。
優子の白い息が綿雪にまじってゆく。
「淋しい」優子が、そうささやいた。
「どうした」
「ヒロが見えないと淋しいよ」
優子は、僕の首にしがみついてきた。
僕は、優子を抱き上げた。
笑顔になった。
「ヒロ、ありがとう」
「どうした。」
「あの、海の中での約束。果たしてくれた」
「思い出したのか」
「探してくれたんだね」
「キスして」
「今度は、消えるなよ」
「あれは、夢の中だったから」
「泣いて、目をさましたんだぞ」
優子の、唇が僕に届いた。触れる瞬間に、綿雪が迷い込んだ。天使のいたずら。
僕たちへのクリスマスプレゼント
僕たちは、ずっと、ずっと、はげしくキスを続けた。


「あとがき」
一年後のクリスマス。4人で再会を果たします。それぞれの手紙の中で祥子とミノルがお互いの気持ちを確かめ合う事が出来ました。
優子の記憶がどこまで、戻ったのかは、ヒロも、確認は、していません。確認する必要もなかったからです。
読んでくださったみなさん。この場を借りて、ありがとうを伝えます。



「僕たちの手紙」23話

2008-11-08 22:38:29 | 僕たちの手紙
僕は、手の中の手紙を、しばらく、じっと眺めていた。
僕は、手の甲を優子の白い首筋にあてた。伝わってくる、優子のノック。
「優子、読ませてもらいます。」
周りの景色が、セピア色に変わっていく感じがした。手紙をあけて、時の空気を胸いっぱいに吸い込んだ。カサカサと音をたてて、開く、手紙と共に、僕の心が、優子の心へと、今、届いた。
不思議な感覚だった。寝ているような。ふわふわと、気持ちがいい。
今、開かれた手紙と、優子が重なり合って見えている。

ヒロへ。
砂浜を、駆けてくるヒロの姿を思い出しています。
まっすぐ、私を、目指して来た、ヒロ。
海の中で、触れた、ヒロの手。
思わず、握っていた。
私になれた、瞬間だったような・・・。やっぱり、そこんとこは、よくわからない。
何よりも、祥子が、ヒロとミノルが大事なのは、変わらないから。
バラバラになったら、私を探してくれる。
つい、言ってしまった。
少しの後悔。でも本心です。
ヒロは、もちろんと言ってくれたけど、後悔していませんか?
この先、4人で会うことが無くなった時。
本当に、私の事を探してほしいです。

バーカ 何書いてんだ 私
ヒロ ヒロ ヒロ ヒロ ヒロ ヒロ 大好き 大好き すき

最後の大好きの文字が段々と、大きくなっていて、最後には、ボールペンでグチャグチャの線が書かれてあった。未完結の手紙、ここまで、書いて、優子は手紙を出すことをためらい、やめたのだ。
でも、そんな、途中で、書くのをやめた手紙からは、溢れるほどの優子の想いが伝わってきた。
僕は、もう一度、手紙を読み返す。
ヒロへ。

 僕の目の焦点が、手紙の文字からズレて、手紙の文字がボヤケタ。

焦点は、次第に、その奥にいる、優子に、ゆっくりと合ってゆく。
僕の心臓が、強く、音をたててドックンと動いた。

ささやくような、声が、僕の耳を捉えた。
「夢の中の人だ」

ドアが・・
開いた・・・

「僕たちの手紙」22話

2008-11-08 22:36:25 | 僕たちの手紙
「優子、雪だぞ。二人の雪の思い出って何かあったか。無いな。行動はいつも4人だったものな。」
病室の窓から、見える松の樹に、スズメが体を震わせて雪をほろっていた。
「かわいいな。優子。音楽聴くかい。」
僕は、ベット横の棚からMDを取り出し、優子の白い耳にイヤホンをあてた。雪のような冷たさに、イヤホンを落としてしまった。襟元に滑り落ちたイヤホンを拾い上げる時に手の甲を優子の白い首筋につけてみた。温かかった。やわらかかった。そして、脈打っていた。優しくドアをノックするように、僕は、優子の心のノックを目を閉じ、しばらく感じていた。
MDからは、スピッツの楓が流れていた。僕は、イヤホンを白い耳にあてた。
悲しい歌だけど、やさしいメロディーに、何だか、とても、心が静かになった。
僕は、看護婦から言われた言葉を、思い返していた。
優子は、このまま、意識が戻る事は、恐らく無いでしょうと。内臓の機能の低下も見られ、望みは、低いとの事。ただ、あなたの可能な限り、時間の許す限り、言葉を、かけ続けてあげてと言われた。僕は、毎日、通うことを決めた。
僕は、ここで、優子を探す。

その時、後ろから声がした。「誰だ」
僕は、驚いて、立ち上がり、声の主の方を向いた。・・・ご両親だ。
「はじめま、いや。あの、おし、おひさしぶりです。」完全に舞い上がっていた。
「ヒロくん、じゃない。」
「あ、はい」
「お父さん、ヒロくんよ」
お父様の、厳しくそむけている横顔に、気まずさが込み上げていた。
「ヒロくん。祥子ちゃんから聞いたの」
「はい」
「優子、よかったわね。ヒロくんと再会したんだ。音楽聴かせてもらってたんだね。」
「ミノルは、ここに来るのか」お父様のきつい憎しみに満ちた声が僕に突き刺さった。
「・・・」何て言ったらいいんだ。
「お父さん、いいかげんにして。5年前に、終わった話なの、祥子ちゃんと、きちんと、約束した話でしょう。ほじくり返して、変わるものではないのよ。」
「ミノルも知りました。」
「ここには、顔を出すなと、伝えてくれ。」
「あ、はい」
「ヒロくん、ゴメンね。お父さん、少し、外に出てて」
疲れきった、大きな背中が、部屋から、静かに消えていった。
「私も、帰ります」
「ヒロくん。ちょっと待っていて。このまま、優子のそばに、時間の許す限り、声をかけてあげて、私からの、お願い。」
看護婦と同じ言葉に、胸が締めつけられた。お母様は、やさしい笑顔で、優子の頬をなでていた。
「優子、よかったね。ヒロくんと再会出来たんだ。手紙、母さんが変わりに渡してもいいかい。」
「えっ」僕の、言葉に反応せずに、お母様は、優子に語りかけ続けた。
「優子、今日ね、久しぶりに、あなたの、荷物、片付けていたの、そしたらね。本の、中からね。ぽとりと、手紙が落ちてきたの。ゴメンね。お母さん読んじゃった」急に、声が、うわずり両手で、顔を覆っていた。
「ヒロくんに、あてた、ラブレター。お母さん、読んじゃった。優子、よかったね。よかった。だって、ヒロくん、来てくれてた。優子。お母さんから、代わりに、ヒロくんに手紙、渡しておくね。はいどうぞ。優子からの手紙、受け取って上げて。」
言葉にならないまま、僕は、手紙を受け取った。
「優子の前で、読んであげて」
お母様は、席を立ち、僕の肩に一度手を置いて、ゆっくりと病室から出て行った。

「僕たちの手紙」21話

2008-11-08 22:35:40 | 僕たちの手紙
雪の降る中じぶんの部屋に戻ったのはもう0:00を回っていた。 
ミノルは今日の出来事を思い返しながらまだ眠れずにいた。ゴミ箱はビールの空き缶でいっぱいになっていた。
眠れないのは 優子の姿が目に焼き付いて離れないから・・
それでも毛布もかけずにいつのまにか夢を見ていた。
過ぎた遠いあの日の4人の夢だった。 
夢の中で優子が微笑んでいた。それはまるで霞のようにゆらゆらと揺れてミノルとヒロのそばまで漂うように近づいてきた。
近くで見るとぼんやりしていた姿がはっきりとしてきた。
まぎれもなく優子だった。
ぼくたちにそっと笑いかけて、ヒロが「優子」・・と声をだしたとたんに真っ白な粉雪が解けるように消えてしまった。
優子は消える間際にかすれた声で
「ヒロ・・ありがとうさがしてくれて・・・」
ミノルとヒロは顔を見合せて「今のきこえたよな?」
「うんたしかに・・・」
そこで夢から覚めてしまった。
あまりにも真っ白で透明な優子だった。
目を覚ますとミノルは泣いていた。
・・・何故だ・・優子・・・・・

「僕たちの手紙」20話

2008-11-08 22:34:42 | 僕たちの手紙
こんな雪の中を祥子と手をつないで歩いている自分が不思議だった。
二人の足は知らず知らずに4人の遠い思い出の場所を巡っていた。いくつかのエピソードを思い出しては笑いあったりして急にせつなさがこみあげてきては互いに手を握る力を強くした。
終電が近くなり祥子とは駅で別れた。別れ際に「また4人で会えるひがくるといいね」
「楽しかったよねあの頃は」 
ふいに祥子の顔が歪んで見えた。ミノルの眼には涙があふれていた。 
一度だけ祥子を強く抱き締めた。
「じゃまた きっと会えるさ。あの時と同じ4人でね」
そこまで言うのが精一杯だった声をあげて泣きそうなのを
ぐっとこらえてミノルはホームへと降りて行った。

「僕たちの手紙」19話

2008-11-08 22:33:32 | 僕たちの手紙
積もり始めた雪の中にミノルは涙でぬれた顔をうずめてみたひんやりとした冷たさのすぐあとからなぜか頬のあたりがぽわんと暖かくなる気がした優子の温度だとミノルはおもった そうおもいながら雪に顔をうずめたままミノルはつぶやいた「優子・・「おれは何度おまえに助けられたんだろう・・」「ねえだいじょうぶ?」
「うん」そろそろ行こうか二人は暖かな距離をとってゆっくりと歩き出した
「明日起きたらきっと真っ白だねぇ」祥子がぽつりとつぶやいた肩の雪を落して
ミノルは祥子の手をつよく握って歩き出した

「僕たちの手紙」18話

2008-11-08 22:33:10 | 僕たちの手紙
「ミノル」
・・・
「ミノル」
一瞬立ち止まったミノルだったが、また、とぼとぼと歩き始めた。よく冷えた秋の夜、ネオンの交差点で呼ぶ祥子の声は、ミノルに届きはしない。千鳥足のミノル。何をするかわからない状態の心の赤信号が、点滅しているのがわかった。
「ミノル。帰るよ」
・・・
ミノルは歩道橋の階段を登り始めた。肩を震わせている。すすり泣いているのが、背中から伝わってきた。
「ミノル」祥子の声も、青ざめていた。ミノルの袖口をつかむのが精一杯のつながりだった。ミノルの表情は、もう、この世界にいなかった。
・・・私は、どうしたらいいの、ヒロ。たすけて。おねがい。
ミノルは、階段を登りきった。
週末の交差点の車の交通量は恐怖感を倍増させた。ミノルの為の条件がそろっているように感じた。
ミノルは、向きを変えて、手摺の方に近づいた。
「ミノルお願い。やめよう。」
信号が青に変わる
車がゆっくりと動き出す。
車達は徐々に速度を上げてゆく。ミノルの為に。
祥子は、必死にミノルの背中にしがみつく。
・・・早く信号、変わって、お願い。
「ミノル、やめて」
ミノルの目は、少し先のダンプトラックを捕らえた。
手摺に足がかかった。

「ねえ。ミノル。」
「ミノル」
「ミノル」私の声に、誰かの声が重なった。優子の声がかぶったような、そんな気がした。
ミノルが振り返った。私の顔の横をすり抜け。私の後ろにある何かを見ている。
ミノルの口が、ゴメンと動いた。目を閉じてその場に座り込んだ。そして、ゆっくりと顔を上げて、今度は、真っ直ぐ祥子を見た。
「ごめんなさい。祥子」
祥子は、ミノルを抱きしめた。ありがとう優子、ミノルを助けてくれてありがとう。
二人の頬に冷たいものがあたった。
「雪かな」
祥子は、首を振った。優子だよ
優子ありがとう。

「僕たちの手紙」17話

2008-11-08 22:32:48 | 僕たちの手紙
そこにはたくさんの透明なチューブでつながれた優子の姿があった。
名前を呼んでも反応がない。
ヒロの中で思い出と後悔が滝のようにあふれてきた。 
優子はぼんやりと窓の外を眺めているだけだった。 
ヒロは「優子 約束どおり探しに来たよ」と耳元で囁いた。
そっと、チューブにつながれた優子の手を握ってみた。

 もう一度「探したんだよ」と言ってみた時 
優子の手がかすかに握り返してきたような気がした。

「ありがとう」「優子」また明日来るねと優子の髪に触れてヒロは病室を後にした。

翌日看護婦から聞かされた事実はヒロの希望を打ち砕きそうになった
帰り道でヒロは涙が止まらなかった

「僕たちの手紙」16話

2008-11-08 22:32:26 | 僕たちの手紙
ヒロは無機質なリノリウムの廊下を優子の病室に向かっていた。心臓は壊れそうに激しくでたらめなビートを刻んでいた。この病棟に来るまでどれほど悩んだことか気持は駆けつけたいのにどうしてもその姿を見る勇気がでなかった。ようやく自分を奮い立たせて病院の門を潜ってきた。ナースステーションで聞いた番号の部屋を見つけた。 6人ぐらいの病室だった。
 ヒロは扉の前で動けずにしばらく考えていた。
 とにかく来てみたけどぼくにいったいなにができるだろうか?
 どのぐらいそこに立っていただろうか。
 気がつくと隣に看護婦が立っていた。ちょっとうろたえた。 きっとびっくりしていないふりをしているようにみえただろうとおもった。
「どなたのおみまいですか?」
・・・あ・・いえだいじょうぶです。看護婦はクスッと笑って 
「さあ一緒に中へ入りましょうか」 
「え?」ヒロは逃げ出したいと思った背中にはびっしょり汗をかいていた 

「僕たちの手紙」15話

2008-11-08 22:30:12 | 僕たちの手紙
「回想」
二十歳だったかな。この頃は、夏の暑い日は、4人で、よく海に出かけていた。
優子は、白が本当に良く似合う女の子だった。水着の上に、必ず白のTシャツを着ていた。それが、とても似合っていた。
そして、周りに、気づかいすぎるほどの優子。
約束。
約束。
暑い、日だったのを覚えている。4人で、ジャンケンして、ミノルと祥子が、冷たいものを買いに行く事になったんだよな。
急に気まずくなったのは、僕の一方的な、心配だったのだと思う。
そんな、僕に気付いた優子は、立ち上がって波打ち際の方へ歩いていった。
僕は、その背中を、ずっと目で追っていた。
キラキラ輝く波と、一緒になって、消えてしまいやしないかと心配になって、見失わないように、見つめていた。優子の背中。
愛おしい背中。
優子は、胸の辺りまで、海の中に進むと、くるりと、僕の方へと向きを変えた。
「ヒロ」
そう言って、手を振る優子がいた。
「ヒロ」
そう言って、急に、見えなくなったんだ。
優子。
僕は、海に向かって、全速力で走っていた。
懸命に、優子の居た辺りを目指しクロールしていた。
優子。
「ヒロ」
息を弾ませている僕に、優子は驚いていた様子だった。
潜っていたんだ。
「気持ちよかった・・・。ゴメン。ビックリした」
「ゴメン。急に消えるから」
どんどん、優子の表情の温度が下がっていくのを感じた。
海の中で、手が触れた。
ドキドキした。触れたと思ったとたん、優子は僕の手を握り締めていた。
「どうして、4人なんだろう」
いつもと、様子の違う優子に、僕はとまどった。
どうして、4人なんだろう。優子どうしたんだ。
手は、離れた。海の中で、遠ざかる優子の手、僕は、追いかける勇気も無かった。

優子は静かに、話始めた。
「ヒロ。4人が、バラバラになったらさ。ヒロは、誰かを探すかな」
「・・・」
「ヒロ。私を、・・・くれるかな」
優子の、言葉に混じって、遠くで、ボーッと汽笛が鳴った。
・・・くれるかな。
旨く、聞き取れなかった。
僕は「もちろんだよ」
「本当。約束だよ。」そう言って、海面から、優子の小指が顔を出した。僕は、小指をからませる。
・・・くれるかな。
もちろんだよ。

「ねえ ヒロは あの時の約束おぼえてる?」
5年前の、出来事。優子の質問。
「ゴメン。」
嘘をついてしまっていた。僕。

ヒロ、私を、探してくれるかな。
汽笛に、かき消された言葉。「探して」。

優子。今、これから、探しに行くよ。
ミノルと、会って、話しをして、僕は、探しにいくよ。

君との約束。

「ヒロ。4人が、バラバラになったらさ。ヒロは、誰かを探すかな」
「・・・」
「ヒロ。私を、捜してくれるかな」
「もちろんだよ」

優子。待っていてね。
もうすぐ、行くから。