玄関を出ると、ピンと張りつめた冷たい強い風が、体の中を駆け巡った。ジャンバーのチャックを上まで上げて、車へと向かった。今日は、午後から雪が降るらしい。
「どうか、降りませんように。タイヤ交換まだしていないんです」と独り言を心の中でつぶやきながら、天に祈った。そして、車の中に乗り込み、職場へと走らせた。駐車場を出て、しばらく走り左に曲がる時に、土手のところの枯れた雑草の上に、ちょこんと落ちているものに、気持ちを奪われた。自然に、ブレーキを踏んでいた。
「何だろう」助手席の窓を開けると、落し物と目が合ってしまった。
「てるてる坊主」こんな、時期に・・・。でも、ただのてるてる坊主ではなかった。帽子をかぶっていた。赤い帽子。サンタさん・・・。今朝のひど過ぎるほどの強い突風で、どこからか飛ばされてきたんだろうな。僕は、車を降りて、その赤い帽子のてるてる坊主を拾い上げた。周りを見渡すと、似たようなアパートばかりが立ち並んでいて、どこから飛んできたか検討もつかなかった。僕は、ため息をついて、てるてる坊主に付いた土汚れと、枯れた雑草をはらい、助手席に置いて、再び車に乗り込んだ。
「命びろいしたね。どこから、飛ばされてきたんだい。どんな願いが込められているんだい。さて、持ち主は誰だろう。」
職場へ向かう海岸線は、完全にグレー色に染まり、いつ雪が舞い降りてもおかしくない、海の色と空の色だった。大森浜は、しけていた。
職場に着くと、まだ、誰も来ていなかった。今日は、ストーブがいるな。僕は、裏口のカギを開け、中に入り、ストーブをつけ、机のパソコンを立上げ、また、車に戻った。
「寒いぞー」助手席の赤い帽子のてるてる坊主を見て、さてどうしようかと考えていた。帰ったら、自分の部屋のベランダの目立つところに、ガッチリと結びつけよう。
「そして、持ち主を待ちますか」何故か、そう考えていた。僕は、車のエンジンを止めて職場へと入った。
まずは、メールチェック。
「小松ケンジ様。お久しぶりです。」僕は、メールを開いた。
「小松様の職場へのメールをお許し下さい。久しぶりです。福井マミコです。憶えていますでしょうか。」胸の中がふわふわと、温かくなっているのを感じていた。
「先日、母から、新聞の切り抜きが送られてきて。ビックリしました。頑張っているのですね。さすが、変わってないんだと思いました。嬉しかった。こんな、形で、小松様と出会えるなんて。四半世紀ぶりの再会に驚いています。私は、結婚して、今は東京です。」
僕は、ドキドキして、興奮気味の震える指で、マミコのメールを僕の自宅のパソコンへと転送した。そして、職場のメールは削除した。
昨日、外での、子供達のやり取りが、思い出されて、胸を熱いものが、込み上げてきた。マミコとの想い出の映像が、8ミリ映像のようなイメージで、閉じたまぶたのスクリーンに映し出されていた。
こっくりさん。こっくりさん。ケンジの好きな人は誰ですか。
ス ズ キ ミ キ
そうなんだ。本当。
・・・
ねえ。本当。ミキ軽いよ。ケンジには合わないよ。
・・・お前のも教えろよ
こっくりさん。こっくりさん。わたしの好きな人は誰ですか。
コ マ ツ ケ ン ジ
・・・こっくりさん。こっくりさん。お帰り下さい。
本当に動いたのだろうか。10円玉の上で、僕の人差し指と、マミコの人差し指が触れていた。後にも先にも、マミコに触れたのは、あの日の、この人差し指だけだった。
ほんのりと、人差し指が熱を帯びていた。
「どうか、降りませんように。タイヤ交換まだしていないんです」と独り言を心の中でつぶやきながら、天に祈った。そして、車の中に乗り込み、職場へと走らせた。駐車場を出て、しばらく走り左に曲がる時に、土手のところの枯れた雑草の上に、ちょこんと落ちているものに、気持ちを奪われた。自然に、ブレーキを踏んでいた。
「何だろう」助手席の窓を開けると、落し物と目が合ってしまった。
「てるてる坊主」こんな、時期に・・・。でも、ただのてるてる坊主ではなかった。帽子をかぶっていた。赤い帽子。サンタさん・・・。今朝のひど過ぎるほどの強い突風で、どこからか飛ばされてきたんだろうな。僕は、車を降りて、その赤い帽子のてるてる坊主を拾い上げた。周りを見渡すと、似たようなアパートばかりが立ち並んでいて、どこから飛んできたか検討もつかなかった。僕は、ため息をついて、てるてる坊主に付いた土汚れと、枯れた雑草をはらい、助手席に置いて、再び車に乗り込んだ。
「命びろいしたね。どこから、飛ばされてきたんだい。どんな願いが込められているんだい。さて、持ち主は誰だろう。」
職場へ向かう海岸線は、完全にグレー色に染まり、いつ雪が舞い降りてもおかしくない、海の色と空の色だった。大森浜は、しけていた。
職場に着くと、まだ、誰も来ていなかった。今日は、ストーブがいるな。僕は、裏口のカギを開け、中に入り、ストーブをつけ、机のパソコンを立上げ、また、車に戻った。
「寒いぞー」助手席の赤い帽子のてるてる坊主を見て、さてどうしようかと考えていた。帰ったら、自分の部屋のベランダの目立つところに、ガッチリと結びつけよう。
「そして、持ち主を待ちますか」何故か、そう考えていた。僕は、車のエンジンを止めて職場へと入った。
まずは、メールチェック。
「小松ケンジ様。お久しぶりです。」僕は、メールを開いた。
「小松様の職場へのメールをお許し下さい。久しぶりです。福井マミコです。憶えていますでしょうか。」胸の中がふわふわと、温かくなっているのを感じていた。
「先日、母から、新聞の切り抜きが送られてきて。ビックリしました。頑張っているのですね。さすが、変わってないんだと思いました。嬉しかった。こんな、形で、小松様と出会えるなんて。四半世紀ぶりの再会に驚いています。私は、結婚して、今は東京です。」
僕は、ドキドキして、興奮気味の震える指で、マミコのメールを僕の自宅のパソコンへと転送した。そして、職場のメールは削除した。
昨日、外での、子供達のやり取りが、思い出されて、胸を熱いものが、込み上げてきた。マミコとの想い出の映像が、8ミリ映像のようなイメージで、閉じたまぶたのスクリーンに映し出されていた。
こっくりさん。こっくりさん。ケンジの好きな人は誰ですか。
ス ズ キ ミ キ
そうなんだ。本当。
・・・
ねえ。本当。ミキ軽いよ。ケンジには合わないよ。
・・・お前のも教えろよ
こっくりさん。こっくりさん。わたしの好きな人は誰ですか。
コ マ ツ ケ ン ジ
・・・こっくりさん。こっくりさん。お帰り下さい。
本当に動いたのだろうか。10円玉の上で、僕の人差し指と、マミコの人差し指が触れていた。後にも先にも、マミコに触れたのは、あの日の、この人差し指だけだった。
ほんのりと、人差し指が熱を帯びていた。
主人公が、落とし主を探そうと思う、その、こまやかな気持ちが好きです。
お二人の作品の大好きなところは、登場人物がみんな、感受性が豊かなところです。
大人の話しでもあり、絵本みたいでもあり。
りぼんをいつも、見てくれていてありがとう。
そして、昨日のコメントは本当に、気持ちが楽になりました。ありがとう。