韓リフの過疎日記

経済学者田中秀臣のサブカルチャー、備忘録のための日記。韓リフとは「韓流好きなリフレ派」の略称。

アイドルグループ“嵐”の経済学

2015-02-12 23:16:08 | Weblog
 『電気と工事』二月号に掲載されたものの草稿。嵐の2014年のライブ興収などについてはこの草稿を書いたあとに報道などで最新のものが公表されてたが、以下では修正はしていないのでよろしくお願いします。

嵐の経済学

田中秀臣

 嵐といえば、男性五人(大野智、櫻井翔、相葉雅紀、二宮和也、松本潤)からなるジャニーズ事務所所属のアイドルグループのことだ。嵐はいまや日本を代表するアイドルとして名実ともに芸能界で君臨している。年末のNHK紅白歌合戦の司会を何年にもわたり務め、テレビ・映画・音楽などを中心に、15年以上に及ぶ芸歴の中でその人気は衰えることを知らない。
 嵐の経済効果もすさまじいの一言だ。2015年にデビュー15周年を記念したハワイツアー(彼らのデビュー記者会見はハワイだった)の経済効果はわずか数日で約22億円と現地の新聞で伝えられた。しかしこれは嵐の経済効果のごく一部にしかすぎない。
 年間でどのくらい彼らは稼ぎ出しているのだろうか? 以下では、1)ライブ収益、2)グッズ販売、3)嵐ファンクラブの会費収入、4)CD、DVDなどの売り上げ、などを推計して、その経済効果の全貌にせまってみよう。
 まずライブの収益から見てみよう。世界的な潮流だが、音楽CDの売り上げが漸次低下する中で、ライブを中心にした収益モデルが音楽系のアーティストたちの基本になっている。嵐もまたライブ活動に力をいれている。例えば、2013年の日本国内でライブを行った音楽系のアーティストたちのランキングでは、嵐は約78万人を動員して第四位だった(日本経済新聞社調べ)。ちなみに1位はEXILE(112万動員)、二位と五位には東方神起とBIGBANGのK-POP勢、そして三位には同じジャニーズ事務所の関ジャニ∞が並んで激しく競っている。嵐のチケットの平均価格は9000円で、人気を反映して価格は上昇傾向にある。デビュー15周年を記念する2014年のライブの動員数は前年を大きく上回り約84万人。先の価格を単純に掛け算すると約76億円になる。
 嵐はグッズ販売にも力をいれている(これは他のアイドルもそうだ)。ライブ会場では、メダルブローチ、嵐メンバーの写真、会場限定販売のパンフレット、ファンライト(団扇に色つき電球をしこんだもの)、Tシャツ、ポーチ、オリジナルUSBなど多様だ。多くのファンたちがその場でしか手に入らないグッズに殺到する。その混み具合によって開演時間まで左右される場合もあるほどだ。一般に業界の経験則では、ライブのチケット代金の7割ほどをグッズ購入するという。この経験則を適用すると、先の76億円の7割52億円がグッズ収入として推計できる。
 さらに注目すべきなのは、嵐の衰えることのない人気の中核を担う、ファンクラブの存在だ。運営はジャニーズ事務所の系列企業が行っている。このファンクラブの特徴については後でまた見ておくが、ここではその会費収入を推計しいておきたい。現時点で入会金1000円、年会費4000円である。このファンクラブでは、“プラチナカード”と化している嵐のライブチケットを優先して購入することができる。ただし会員番号が2014年末現在で170万台であるため、会員であっても入手は難しい。だが、会員ではなく一般販売はさらに絶望的に入手が困難なので、嵐のコアなファン層はほとんどファンクラブに入っているものと推定される。ただし170万人すべてが現存する会員とはいえない。幽霊会員などがいると考えられるので、少なく見積もってライブに来た延べ人数の80万人ほどが年会費を支払っているしよう。これだけでも32億円の収入になる。
 先に世界的にCDの売り上げが低下していると書いたが、嵐の場合はその例外になっている。また日本の他のアイドルと比べてもユニークな立ち位置になっている。たとえば、いまのアイドルモデルの典型であるAKB48と比較してみよう。AKB48はCDにさまざまなイベントの参加券やまた彼女たちの人気を計る「総選挙」の投票券がついている。簡単にいうと熱心なファンは同じCDを複数枚買うインセンティブが存在する。AKB48だけでなく、いまのアイドルは同じメイン曲のCDを3~5種類作成することが多い。ところが嵐の場合は、シングルでもアルバムでも通常盤と初回限定盤のツーパタンしかださない。なかには何枚も買うファンもいるかもしれないが、AKB48のように同じものを複数枚買わせる仕組みはない。それにもかかわらず、その売り上げはシングルでもアルバムでも60~70万枚台を安定的に推移している。また嵐の毎年行うツアーを記録したDVDも同じく70万位を売り上げている。2015年の総売り上げはざっと100億円近い。
 1)~4)まででざっと260億円になる。しかもこれが全貌ではない。嵐を利用したCM・広告料収入、書籍や雑誌での収入、テレビなどメディアへの出演料などが残されている。これらは不明は数字が多いが全部いれると300億円をはるかに上回ることが予想される。重要なのは、この収益水準が、嵐がデビューしてから15年、成長することはあれ衰えることがないことに特徴がある。その理由はなんだろうか?
 まずファンクラブを核にした「年輪モデル」が機能していることだ。年輪モデルというのは、日本ではアニメやマンガ市場でも観察されるが、若いうちに嵐のファンになった人たちが年を経てもほとんど抜け落ちることなくファンで居続ける。さらにより若い層もファンとして取り込んでいき、あたかも木の年輪が形成されるように時とともに巨大化していくモデルのことを指す。これを可能にしている要素のひとつは、「卒業のないアイドル」というものだ。アイドルは若いときがピークであり、20代前半を過ぎれば大概はアイドルとして終わる、というのが1970年代から90年代頃までの男女問わないアイドルのイメージだった。ところがいまのアイドルは違う。ジャニーズ事務所の男性アイドルの多くは中年になっても「アイドル」として活躍を続けている。メンバーの平均年齢が30代前半の嵐の場合は、先行モデルとしてSMAPやTOKIO、V6など40代前半から30代後半でも人気を保っている同じ事務所の“先輩”アイドルが存在している。つまりは年齢を重ねてもアイドルでいられるノウハウを所属事務所が経験知として蓄積しているということだ。
 嵐の経済システムは、構造的にはジャニーズ事務所を中心にしたいくつのも分業化したその企業グループによって支えられている。評論家の速水健朗は「ジャニーズのディズニー化」と形容したが、確かにジャニーズ系のアイドルの肖像権、原盤権の管理は徹底している。ネットショップでは嵐のメンバーの画像をみることは極めて難しい。このような厳格な管理は、同グループの多肢に分かれた企業群によって担われている。音楽著作権、ファンクラブ運営、CM・広告制作、グッズ販売、コンサート主催、各アイドルグループごとのコンテンツ管理などだ。
 嵐の強みはこの「嵐という商品」を独占的に販売できるジャニーズの企業集団の力に大きく依存しているとみなしていいだろう。
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