「こうしてると腕と足が動かないことなんて忘れちゃいそうです」
顔を離して目を開くと、
ホントに全く気にならないといった感じににっこり微笑んだ顔がこちらに向けられていた。
「動かす必要なんてないからな。
客観的に言うならベッドの上で座ってじっとしてるだけだし」
「もう時間がないってことも忘れられたらいいんですけどね」
「それは……」
俺は返事に詰まってしまった。
こういう時に何か安心させてやれるような言葉を思いつけない甲斐性のなさが腹立たしい。
「なんて、冗談ですよ。ちょっと明さんを困らせてみたくなっただけです」
「……アホ」
正直、そう言ってくれてほっとした。それがまた情けなくて、ついつい腕に力が入る。
冗談で済む筈がないのだ。時間がないのは現実だ。
だから多分、冗談とは言ってるけど完全な冗談でもなくて。
「ごめんな」
そう思うと、謝罪の言葉が口から勝手に漏れた。
「ん? 何がですか?」
センが不思議そうに尋ねてくるが、俺にもよく解らなかった。だから、
「よく解らんけど、なんかごめん」
「じゃあよく解らないけど、こっちこそごめんなさい」
「……なんでそうなる?」
「うーん、『よく解らないけど』なんて理由で明さんを落ち込ませちゃったからですかね?」
「なんだそれ」
思わずクスッと噴き出してしまう。するとセンも同じ顔。
「変ですよね? だから、わたしも明さんも謝ることなんかないんです。
そんなことする暇があったら笑っててくださいっ」
「了解」
ありがとう。って言ったらまた同じ流れになりそうだから黙っとこう。
それから暫く、二人揃ってただくっついたまま何もしない。
喋るでもなく、今以上に触れ合うでもなく。
でもそれだけで充分だった。
恥ずかしい話もっとこう、慌てていろいろするものかと思ってたけど……不思議なもんだ。
「明さん」
それでもいったん声を聞くと、もっと聞きたいと思ってしまう。ますます不思議だ。
「なんだ?」
「春菜さんに電話かけてもらっていいですか?」
「ああ、解った」
さすがにもう家に着いてるだろうしな。
「お別れ」したとは言え、あいつだって心配だろうし。
ポケットから携帯を取り出して岩白にかけ、センの耳にあてがう。
「…………あ、わたしです。センです。………はい、体はなんとも……
……ええ、すぐ傍に居ますよ。あれからずっと一緒に居ます」
「おい」
「………あ、聞こえました? えへへ、怒られちゃいました。
………大丈夫ですよ。怒ってるの口だけですから」
「…………」
「あ。今溜息つかれちゃいました。………あはは、そうですね。それじゃあ代わります」
代わるったって携帯持ってるの俺なんだけどね。ま、いいか。俺が出ればいいんだな?
携帯をセンから離して自分を指差すとセンが頷いたので、そうであると把握する。
「代わったぞ」
『なーにしてたのかなー。ずっと一緒に居たんだよねー?』
「何もしてねえよ。と言うか何してると思ったんだ?」
『言わせないでよもー。セクハラよ?』
「アホか」
『ま、いいわ。その様子なら本当にまだ大丈夫そうね』
それから先は、岩白の声が小さくなった。
それですぐにあの話だろうと感付き、センから僅かながら距離を取る。
意味ないくらい僅かだけど。
『で、あの話なんだけど、その時が来たら頑張ってね。
こっちはいつも通りで全く問題ないからさ』
「解った。あ、ちょっと待ってな」
携帯とセンを交互に指差すとセンが頷いたので、
「センに代わるから」
もう一度携帯をセンの耳へ。
「……あ、あのですね、
その時が来てから電話をかける余裕があるかどうか解らないので……はい。
だから多分、これが本当に最後になると思います。
……………あ、いえその、わたしもなんで気にしないでください……」
会話から判断するに、岩白は泣いてしまっているのだろう。……こちら側と同じく。
顔を離して目を開くと、
ホントに全く気にならないといった感じににっこり微笑んだ顔がこちらに向けられていた。
「動かす必要なんてないからな。
客観的に言うならベッドの上で座ってじっとしてるだけだし」
「もう時間がないってことも忘れられたらいいんですけどね」
「それは……」
俺は返事に詰まってしまった。
こういう時に何か安心させてやれるような言葉を思いつけない甲斐性のなさが腹立たしい。
「なんて、冗談ですよ。ちょっと明さんを困らせてみたくなっただけです」
「……アホ」
正直、そう言ってくれてほっとした。それがまた情けなくて、ついつい腕に力が入る。
冗談で済む筈がないのだ。時間がないのは現実だ。
だから多分、冗談とは言ってるけど完全な冗談でもなくて。
「ごめんな」
そう思うと、謝罪の言葉が口から勝手に漏れた。
「ん? 何がですか?」
センが不思議そうに尋ねてくるが、俺にもよく解らなかった。だから、
「よく解らんけど、なんかごめん」
「じゃあよく解らないけど、こっちこそごめんなさい」
「……なんでそうなる?」
「うーん、『よく解らないけど』なんて理由で明さんを落ち込ませちゃったからですかね?」
「なんだそれ」
思わずクスッと噴き出してしまう。するとセンも同じ顔。
「変ですよね? だから、わたしも明さんも謝ることなんかないんです。
そんなことする暇があったら笑っててくださいっ」
「了解」
ありがとう。って言ったらまた同じ流れになりそうだから黙っとこう。
それから暫く、二人揃ってただくっついたまま何もしない。
喋るでもなく、今以上に触れ合うでもなく。
でもそれだけで充分だった。
恥ずかしい話もっとこう、慌てていろいろするものかと思ってたけど……不思議なもんだ。
「明さん」
それでもいったん声を聞くと、もっと聞きたいと思ってしまう。ますます不思議だ。
「なんだ?」
「春菜さんに電話かけてもらっていいですか?」
「ああ、解った」
さすがにもう家に着いてるだろうしな。
「お別れ」したとは言え、あいつだって心配だろうし。
ポケットから携帯を取り出して岩白にかけ、センの耳にあてがう。
「…………あ、わたしです。センです。………はい、体はなんとも……
……ええ、すぐ傍に居ますよ。あれからずっと一緒に居ます」
「おい」
「………あ、聞こえました? えへへ、怒られちゃいました。
………大丈夫ですよ。怒ってるの口だけですから」
「…………」
「あ。今溜息つかれちゃいました。………あはは、そうですね。それじゃあ代わります」
代わるったって携帯持ってるの俺なんだけどね。ま、いいか。俺が出ればいいんだな?
携帯をセンから離して自分を指差すとセンが頷いたので、そうであると把握する。
「代わったぞ」
『なーにしてたのかなー。ずっと一緒に居たんだよねー?』
「何もしてねえよ。と言うか何してると思ったんだ?」
『言わせないでよもー。セクハラよ?』
「アホか」
『ま、いいわ。その様子なら本当にまだ大丈夫そうね』
それから先は、岩白の声が小さくなった。
それですぐにあの話だろうと感付き、センから僅かながら距離を取る。
意味ないくらい僅かだけど。
『で、あの話なんだけど、その時が来たら頑張ってね。
こっちはいつも通りで全く問題ないからさ』
「解った。あ、ちょっと待ってな」
携帯とセンを交互に指差すとセンが頷いたので、
「センに代わるから」
もう一度携帯をセンの耳へ。
「……あ、あのですね、
その時が来てから電話をかける余裕があるかどうか解らないので……はい。
だから多分、これが本当に最後になると思います。
……………あ、いえその、わたしもなんで気にしないでください……」
会話から判断するに、岩白は泣いてしまっているのだろう。……こちら側と同じく。
毎日の楽しみの一つです。。
なんとなく察してる方も居るかもしれませんが
もうそろそろ終わりなんです。この話。
終わっても次の話はもうかなり書き上げてあるんですけどね。
この話でいう十七話分くらい。
なので、この話が終わってもよろしくしてやってください。
次に「あの話」ですが、まだ秘密です。
今後の展開、乞う後期待ってことで。