「観念したらどや? どんだけ時間稼いでもうちは諦めへんでぇ?」
右ポケットを手で塞ぐ俺に、明日香は両手をワキワキさせて見せた。
そのうちあの薄く開いた口から先が割れた舌がチロチロ出てくるんじゃなかろうか?
「いいや。家まで保てばお前が諦めるかどうかなんて関係なくなるさ。俺だってあきらめんぞ」
右ポケットを手で塞ぐというのは、そこにブツがあると教えているようなものだ。
だがこいつ相手ならそんなことどうでもいい。
何故ならこいつは、何処にあるか解らないのなら適当かつ乱暴に探し始めるからだ。
実際、先程も左ポケットにいきなり手を突っ込まれた。
なら携帯の在り処をを教えたほうがむしろ安全というものだ。
下手したら服を脱がされることだってあり得るからな。
「にっひっひっひっひ……」
歩き続ける足以外が膠着した状態で、明日香は追い詰めたと言わんばかりに不気味に笑む。
だがこの余裕は見せかけだ。明日香はポケットを塞ぐ俺の手をどうにかしなければならず、
対して俺は現状を維持していればいいだけ。つまり現在、有利なのは俺なのだからな。
「んっふっふっふっふ……」
それを頭の中ではっきりと理解した時、俺にも余裕が生まれ、自然に笑いがこみ上げる。
……だが油断はしない。痺れを切らした明日香が、
力任せに俺の手をどかそうとすることだって充分に考えられるのだ。
その状態のまま更に二分くらいが経過しただろうか? 俺と明日香に動きは未だになし。
このまま俺の勝ちか、なんて頭にふと浮かんだその時!
「今やぁ春菜ちゃん!」
「なっ!?」
しまった伏兵か! 俺はとっさに後ろを振り返った! ……が。
「へ?」
その呼ばれた本人は、特に距離を詰めて来るでもなくぽかんとしていた。
それに並んだ他二人も岩白と同じく、何が起こったのかよく解らないと言った表情。
そこまで確認して俺はやっと気付く! 謀られたのだ!
「てめええぇぇぇっ!」
「はっはああぁぁぁ!」
俺は手をポケットに急行させる! が、仕掛けた本人のほうが初動が早いのは自明だった!
何故後ろを向いた時に手を動かしてしまったのか……!
そして決着の瞬間――五人全員の足が止まる。
俺の手が抑えていたのはポケットではなく……ポケットに侵入した明日香の腕だった。
「油断したなぁ明。うちがその油断に気付かんとでも思たか?」
「くっ……そぉ……」
こいつの特技のことは知っていた。だが、こんな使い方をしてくるなんて……
「じゃ、見せてもらおか。明のけーたい」
もはや篭める力のない俺の手から、明日香の腕がするりと抜け出す。
その手には黒くて四角い……紛れもない、俺の携帯が握られていた。
「ん? これは……」
本来なら真っ黒のはずのそれは、しかし黒くない箇所がある。
そう、そここそがこの一戦の発端、俺が隠したかった禁断の長方形。
「あー、これやな? 明が携帯渡したがらんかった理由て」
「…………」
肯定も否定も、最早なんの意味も成さないだろう。故の沈黙。それこそが敗者の印。
「へー、よう出来てるやん。なんやいっつものあんたらみたいやな。
カメラの前で演技しとったんか? センちゃん笑顔上手いなぁ」
「…………?」
想像と反応が違う。弄られるどころか、感心されてる? どういうことだ?
「ま、ええわ。プロフィールは……あったあった」
予想外の展開に戸惑うが、
明日香はそんなことお構いなしに右手で俺の、左手で自分の携帯を器用に操作する。
「ほい。終わったで」
「あ、ああ……」
あっけなく携帯を返され、何か不完全燃焼な感じで一件落着。……いいのかこれで?
「ねえ明日香さん。日永君の携帯、どうなってたの?」
戦闘中、多少距離をとっていた三人が近づいてきて、
岩白が代表のような形で明日香に尋ねた。
「ああ、明とセンちゃんが仲ようプリントされとったわ。
相変わらず幸せ全開やったでぇ? にゃっはっは!」
「あ。明さん、あれやっぱり貼ったんですね? 見つかっちゃいましたね~。えへへ」
馬鹿笑いと照れ笑い、その両方が俺に向けられた。釈然としないけど……まあいいか。
「私にも見せてもらえない? 面白そうだし」
「え、あ、ああ……」
明日香にあまり突っ込まれなかったので、なんとなく見せてもいいかなという気分だった。
「あら、なかなかいいじゃない。見てよ今日香さん」
「わあ、センちゃん可愛いなぁ。……明くん、ちょっと悪そう……かな?」
その結果、控えめながらも突っ込まれた。しかも今日香に。いろいろと予想外だ……
「か、可愛いだなんてそんな……」
照れ臭そうにもじもじするセン。……結局、俺だけは弄られる側なんだな。
右ポケットを手で塞ぐ俺に、明日香は両手をワキワキさせて見せた。
そのうちあの薄く開いた口から先が割れた舌がチロチロ出てくるんじゃなかろうか?
「いいや。家まで保てばお前が諦めるかどうかなんて関係なくなるさ。俺だってあきらめんぞ」
右ポケットを手で塞ぐというのは、そこにブツがあると教えているようなものだ。
だがこいつ相手ならそんなことどうでもいい。
何故ならこいつは、何処にあるか解らないのなら適当かつ乱暴に探し始めるからだ。
実際、先程も左ポケットにいきなり手を突っ込まれた。
なら携帯の在り処をを教えたほうがむしろ安全というものだ。
下手したら服を脱がされることだってあり得るからな。
「にっひっひっひっひ……」
歩き続ける足以外が膠着した状態で、明日香は追い詰めたと言わんばかりに不気味に笑む。
だがこの余裕は見せかけだ。明日香はポケットを塞ぐ俺の手をどうにかしなければならず、
対して俺は現状を維持していればいいだけ。つまり現在、有利なのは俺なのだからな。
「んっふっふっふっふ……」
それを頭の中ではっきりと理解した時、俺にも余裕が生まれ、自然に笑いがこみ上げる。
……だが油断はしない。痺れを切らした明日香が、
力任せに俺の手をどかそうとすることだって充分に考えられるのだ。
その状態のまま更に二分くらいが経過しただろうか? 俺と明日香に動きは未だになし。
このまま俺の勝ちか、なんて頭にふと浮かんだその時!
「今やぁ春菜ちゃん!」
「なっ!?」
しまった伏兵か! 俺はとっさに後ろを振り返った! ……が。
「へ?」
その呼ばれた本人は、特に距離を詰めて来るでもなくぽかんとしていた。
それに並んだ他二人も岩白と同じく、何が起こったのかよく解らないと言った表情。
そこまで確認して俺はやっと気付く! 謀られたのだ!
「てめええぇぇぇっ!」
「はっはああぁぁぁ!」
俺は手をポケットに急行させる! が、仕掛けた本人のほうが初動が早いのは自明だった!
何故後ろを向いた時に手を動かしてしまったのか……!
そして決着の瞬間――五人全員の足が止まる。
俺の手が抑えていたのはポケットではなく……ポケットに侵入した明日香の腕だった。
「油断したなぁ明。うちがその油断に気付かんとでも思たか?」
「くっ……そぉ……」
こいつの特技のことは知っていた。だが、こんな使い方をしてくるなんて……
「じゃ、見せてもらおか。明のけーたい」
もはや篭める力のない俺の手から、明日香の腕がするりと抜け出す。
その手には黒くて四角い……紛れもない、俺の携帯が握られていた。
「ん? これは……」
本来なら真っ黒のはずのそれは、しかし黒くない箇所がある。
そう、そここそがこの一戦の発端、俺が隠したかった禁断の長方形。
「あー、これやな? 明が携帯渡したがらんかった理由て」
「…………」
肯定も否定も、最早なんの意味も成さないだろう。故の沈黙。それこそが敗者の印。
「へー、よう出来てるやん。なんやいっつものあんたらみたいやな。
カメラの前で演技しとったんか? センちゃん笑顔上手いなぁ」
「…………?」
想像と反応が違う。弄られるどころか、感心されてる? どういうことだ?
「ま、ええわ。プロフィールは……あったあった」
予想外の展開に戸惑うが、
明日香はそんなことお構いなしに右手で俺の、左手で自分の携帯を器用に操作する。
「ほい。終わったで」
「あ、ああ……」
あっけなく携帯を返され、何か不完全燃焼な感じで一件落着。……いいのかこれで?
「ねえ明日香さん。日永君の携帯、どうなってたの?」
戦闘中、多少距離をとっていた三人が近づいてきて、
岩白が代表のような形で明日香に尋ねた。
「ああ、明とセンちゃんが仲ようプリントされとったわ。
相変わらず幸せ全開やったでぇ? にゃっはっは!」
「あ。明さん、あれやっぱり貼ったんですね? 見つかっちゃいましたね~。えへへ」
馬鹿笑いと照れ笑い、その両方が俺に向けられた。釈然としないけど……まあいいか。
「私にも見せてもらえない? 面白そうだし」
「え、あ、ああ……」
明日香にあまり突っ込まれなかったので、なんとなく見せてもいいかなという気分だった。
「あら、なかなかいいじゃない。見てよ今日香さん」
「わあ、センちゃん可愛いなぁ。……明くん、ちょっと悪そう……かな?」
その結果、控えめながらも突っ込まれた。しかも今日香に。いろいろと予想外だ……
「か、可愛いだなんてそんな……」
照れ臭そうにもじもじするセン。……結局、俺だけは弄られる側なんだな。
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